後継者が事業を引き継ぐとき、損益計算書や貸借対照表で財務状況の「表」側は理解していても、どのように決算書類が作成されるのかという「裏」側を見ることは少ないでしょう。そして、いざ事業を承継を開始した時に経理の「裏」側の蓋を開け問題が山積みであることに気づきます。
なぜ経理の問題が次世代まで残り続けるのか。
次世代に問題を継承しないために何をすべきか。
今回は、承継される経理の問題について考えていきます。
経理の問題は後回しにされる
これはある経営者と経理コンサルタントである私の会話です。
私「突然ですが… 『経理の問題』について、何か対策を講じていますか?」
経営者「いいや、対策をしていないよ。」
私「では、『経理の問題』について考えたことはありますか?」
経営者「考えたことはあるが、その他に考えるべき課題があるから… そっちの経営課題に集中している。」
(結局、経理の問題はすっと後回しに…)
このように『経理の問題』は、その他の経営課題と比較すると相対的に優先順位が低くなりがちです。さらに日々経理業務が稼働していることから手が付けにくく、問題が生じていても後回しにされているのが現状です。そのため、事業承継後に経理の負の遺産が見つかるこことも少なくありません。
後回しにされる『経理の問題』ですが、実は根が深く放っておくと重大な問題を引き起こし、解決するために多大な時間とコストと労力を費やすことになりかねません。経理の課題は、慢性的なものが多いため集中したい経営課題に取り組むことができなくなってしまうこともあります。
例えば「経理の引継」の準備をしないまま急に経理担当者が退職した場合、経理担当者が一時的に不在になったり、他部署の従業員が担当することで重大なミスをしてしまうこともありえます。
重大な事故が起きる前に先ず最初にすべきこと、それは『経理の問題』について知っておくことです。
経理の問題を紐とく
経理の問題は「分からない」から先送りにすることになるので、予め経理の問題を理解しておくことが大切です。経理の問題は大きく以下のカテゴリに分けることができます。
・ヒト
・業務
経理担当者、経営者が悩んでいる問題をいくつかご紹介いたします。
経理で起こっている問題とは(経営者が感じていること)
ヒトについて
- 採用できない
- 担当者が定着しない
- 教育できない、教育の方法がわからない
- 経理担当者多すぎる又は少なすぎる
- 引継が上手くいかない
- 急な退職に対応できない
業務について
- 試算表の精度があがらない
- 試算表が出来上がるのは2ヵ月後…
- 誰も必要としない書類が今も作成され続けている
- ムダな作業が多い
- 他部署との連携がうまくいかない
- ブラックボックス化している
- IT化がすすまない
悩み続ける理由は症状のみにフォーカスしているから
経理の問題は今に始まったではありません。にもかかわらず同じ経理の問題で何十年も悩み続けているのはなぜでしょうか。
それは、症状にフォーカスし対処してきたから。症状にのみ対処するだけではいずれ問題が再発してしまいます。病気を治療するには、原因を突き止める必要があるのと同様に『経理の問題』も原因をあきらかにして対処する必要があるのです。
経理の問題解決でやってはいけないこと
一つの症状にフォーカスして対処する
経理業務は全ての部署の数字を集約し会計データに落とし込みます。そのため、一つの症状を対処した場合、違う業務に影響を及ぼすことが多々あります。経理業務の改善を行う場合より大きな視点をもって対策を検討しなければいけません。
効率の改善を目標にしIT化を進める
経理業務は専門性や会社独自のルール、閉鎖的な環境の影響によりアナログな業務が数多く残っています。そのため、昨今のクラウドツールの普及によりIT化を図るのが容易です。
しかし、容易であるからといってIT化を無理におし進めるとITを利用する経理担当者が対応できなくなることが起こってしまいます。また、効率化を重視するだけでは経理の質をおとしかねません。
業務改善を社内の担当者に任せる
経理部門だけではなく、会社全体を視野に入れ業務改善を検討する必要があります。専門知識がない、または調整業務をスムーズに行うことができない場合、業務改善プロジェクトを進めることはできません。
他部門とコミュニケーションを円滑にとることができ、かつ専門的な知識を有する適任者がいない場合は、業務改善を外部に委託したほうが結果的にコストをおさえることができます
効果的な経理の問題解決のために必要な4つのポイント
効率化よりも見える化
経理の問題解決において効率化することは重要です。しかし効率化した結果、本来解決したい事が解決できていないのであれば本末転倒。まずは、業務を見える化させ問題を明確にすると同時にボトルネックとなっているポイントを見つけ出します。
部分最適ではく全体最適の考え方を浸透させる
経理の問題は、ヒトと業務の問題がそれぞれ独立しているのではなく関連性を持っており、また同じカテゴリ内でも相互に影響を及ぼします。そのため、業務改善を行ったときにある部署では非効率だと感じることがありますが会社全体で見た場合は高い改善効果があるといったことがしばし起こるもの。
つまり、部分最適ではなく全体最適の考え方を必要とするため社内で十分に共通の認識を持たせる必要があります。
継続性
一時的に業務を改善できたとしても、担当者が変わったり業務が増えた場合に以前と同じ経理の状態になることも少なくありません。ヒトや業務に関して状況が変わっても常に最適に状態を維持できるようする必要があります。そのためには経理担当者の意識改革は必要であり、さらに改善を個人に依存するのではなく仕組みや外部のリソースを柔軟に活用して解決することが重要です。
やめることから考える
「作業スピードをあげたい」と考えていませんか?ECRS(改善の4原則)でもあげられるようにまず考えるべきは「業務をなくすこと」です。必要のない業務の対策に時間と労力を費やす必要はありません。
-ECRSの原則-
①Eliminate(排除)
②Combine(結合と分離)
③Rearrange(入替えと代替)
④Simplify(簡素化)
まとめ
経理の問題を次世代に継承しないために、経理の本質的な課題を理解し、適切に対処することが必要です。経理の問題が顕在化する前に日々「経理の環境を整える」ことができれば経理の問題が顕在化するのを防ぎ、本来集中すべき経営課題に取り組むことができるでしょう。
(提供:税理士法人M&Tグループ)