本稿は、現在のプロレス人気を「市場」の視点から斬ることを目的としている。前稿を読了してからご覧いただきたい。
- 現在のプロレス人気の元となった、とある買収劇(前稿)
- プロレスは、実は「〇〇〇」ビジネスである(前稿)
- これがプロレス市場の構造と市場規模(本稿)
- プロレスブランド-金額には出てこないブランドのポジショニングマップ-(次稿)
- その資料、「Xビジネスショートレポート」(次稿)
3.これがプロレス市場の構造と市場規模
≪市場の定義≫
前稿で解説したカードゲーム等も含んで、まずはプロレス市場とは何かを定義しておきたい。本稿では、プロレス興行のチケット、プロレス団体・選手の関連グッズ(パンフレット、Tシャツ、タオルなど)といった、プロレスのファン活動に消費される費用を市場規模とする。なお、試合会場へ行くための交通費や宿泊費などの間接的な費用は除外している。そして、プロレス市場のメインは興行に関連する事物であり、これを「出荷ベース」で市場規模を算出することが困難なため、「ユーザー消費金額ベース」で表記している。
≪市場の構造≫
話の主役となる主なプロレス団体は、「新日本プロレス」「全日本プロレス」「プロレスリング・ノア」「プロレスリングZERO1」「大日本プロレス」「DDTプロレスリング」「WRESTLE-1」「ドラゴンゲート」「みちのくプロレス」などが存在している。女子プロレス団体としては2018年7月の時点で「アイスリボン」「スターダム」「WAVE」「ワールド女子プロレス・ディアナ」「LLPW」「OZアカデミー」などがある。
プロレス業界は団体を統括する組織が存在しない。そのため団体の全容を把握することはできないが、団体数は小規模のものを含め国内に100以上が存在していると言われている。実態としては新しい団体が立ち上がっては消えていくという状況にある。
プロレス団体の規模や活動形態によって異なるが、各団体の主な事業収入は、なんといってもプロレス興行収入(自主興行に加え、招待されるイベント的な興行も存在する)と、物販(関連グッズ販売など映像コンテンツ含む)である。一定規模以上の団体になると、そこにスポンサー収入や放映権収入(メディアで中継される場合)が加わる。そのほかに所属選手の他団体への出演料、そして近年ビジネスモデル化してきた動画コンテンツの有料会員料、定番のファンクラブ会員費などからなるケースが多い。だが一部の大手・有力団体を除き、収益の確保に苦慮しているプロレス団体が大半である。
首都圏の大会場で催される興行のチケットは、チケット会社経由で販売されることが多い。だが地方で行われる中小規模の興行のチケット販売は、法人顧客への直接営業が不可欠となっているのが現状である。
プロレスファンの典型的な消費スタイルは、年に数回試合を観戦し、会場でパンフレットやタオルなどのグッズやDVDの購入がメインとなる。またプロレス専門雑誌の定期購入、ケーブルテレビのプロレス専門チャンネルや、インターネットで有料配信されているコンテンツを鑑賞する消費型式もある。そしてネットの進化に伴って、選手のブログやフェイスブックによるファンとのコミュニケーションの多様化が進んでいる。そのほか、地上波テレビが減少するなかで、WEB配信の「YouTube」や「ニコニコ動画」のプロレス専門チャンネル、格闘系の有料チャンネル「サムライTV」などのCS放送、BS放送による試合の視聴が活性化している。
≪市場規模≫
●プロレス人気継続により、2017年度も市場が成長
2017年度のプロレス市場規模(最新の詳細データはこちらを参照)は矢野経済研究所推計で、前年度比2.4%増の129億円と算出された。集客規模で他団体を大きく上回る「新日本プロレス」が、ここ数年ビッグマッチと呼ばれる大会での観客動員数を伸ばしており、全体のチケット収入も増加傾向にある。これに引っ張られるように他団体の集客状況も全体的に伸長している。
また、各団体の新規ファンの開拓に向けた取り組みなどが奏功し、従来のコアなファンだけでなく、若年層や女性などのライトなファン層の増加傾向が続いている。従来は30~50代の男性が顧客層の中心であったが、プロレス好きな女子「プ女子」という言葉が定着してきているように、女性や子供、訪日外国人などにもファン層が広がっている。そこからコアなファンにつながるケースも見受けられる。
団体側も、インターネットを活用した情報発信や動画の配信を積極的に行うことで、集客力の向上に努めている。一部で入場料価格の改定による単価の下落や、動画配信によりコアなファン層の来場回数の減少は見られているが、年間の興行数は増加傾向にある。今後も総じて入場料収入やグッズ収入は安定的に推移するものと見込まれる。
2018年度(最新の詳細データはこちらを参照)も引き続き新日本プロレスを中心としたプロレス人気の継続とともに、各団体の取り組みによるファンの定着化が進むと思われ、市場規模は堅調に推移すると予測している。
※プロレス団体は、売上やその内訳を公開している事業者が極めて少ない。またインディーズ団体が無数に存在し、立ち上げ・撤退が常に生じている。これらの状況から、事業者の売上について積算ベースでの市場規模算出はほぼ不可能である。そのため、本項では、業界関係者へのヒアリングや消費者調査を元にして、ユーザー消費金額ベースで市場規模を推計している。
(この稿まだ続く)
(依藤 慎司)
関連資料:
XビジネスショートレポートVol.3 プロレス市場
https://www.yano.co.jp/market_reports/R60201101
2018 クールジャパンマーケット/オタク市場の徹底研究
https://www.yano.co.jp/market_reports/C60109800
関連リンク:
新日本プロレス
https://www.njpw.co.jp/
プロレスリング・ノア
https://www.noah.co.jp/
アイスリボン
http://iceribbon.com/
スターダム
https://wwr-stardom.com/
WAVE
https://pro-w-wave.com/
サムライTV
https://www.samurai-tv.com/