2019年10月1日から、消費税の税率が10%に引き上げられました。
これと同時に、軽減税率制度と経過措置も導入されています。
この2つは増税による負担と混乱の軽減のための制度で、それぞれに品目や期間が定められています。
今回の消費税の引き上げは一律に行われるものではないため、軽減税率の対象になる品目や経過措置の期間などを正しく理解していないと、正確な経理作業が行えません。
消費税増税の軽減税率や経過措置について徹底解説します。
消費税率10%へ
2019年10月1日から、いよいよ消費税が10%になりました。
本来は2015年10月に引き上げられる予定でしたが、経済状況などを考慮して、まず1年間先送りされました。
1年後、新興国経済の落ち込みなどを考慮して、再度2年半延期されました。
現在の経済状況から、今回の増税が行われることとなりました。
そもそもなぜ増税?
そもそも、なぜ政府は2度延期してまで増税をしたがったのでしょうか。
それは、社会保障費の財源確保のためです。
少子高齢化が進む日本では、社会保険料などの財源が不足する一方で、介護費用などの社会保険費の支出は増え続けています。
しかし法人税や社会保険料を値上げしたのでは、現役世代への負担がますます増え、不景気におちいるおそれがあります。
そこで、幅広い世代があらゆるサービスによって負担する消費税を上げ、負担を分配しながら税収を増やそうと考えたのです。
消費税増税によって増えた財源は、子育て支援などの社会保険事業に主に充てられる予定と発表されています。
軽減税率
消費税の増税の影響は、すべての層におよびます。
誰もが買い物をしますし、日常必要な物やサービスがすべて消費税の対象だからです。
そのため一律に消費税を10%にしたのでは、高所得者層にくらべて低所得者層の負担の方が大きくなってしまいます。
たとえば、月の食費が税込3万2,400円の家族がいたとします。
消費税が10%になると同じ食事内容でも月に税込み3万3,000円が必要となり、これまでは2,400円で済んだ消費税負担がプラス600円の3,000円になります。
600円あればシャケの切り身を3切れ買うことができますから、軽く1日分の3人の夕食が税金でなくなるということになります。
月の食費が6万円の家族にとっての600円はたいしたことないかもしれませんが、3万円の家族には結構な負担です。
このように低所得者ほど、消費税の増税によって税金が家計に占める割合が高くなってしまいます。
これを「逆進性」といいますが、これを防ぐため、軽減税率が導入されることになりました。
「日々の生活において幅広い消費者が消費・利活用しているものに係る消費税負担を軽減する」という考え方に基づき、特定の品目には軽減税率として8%が適用されます。
軽減税率の対象品目
軽減税率の対象になる品目は、大きく2つです。
・飲食料品のうち酒類・外食を除くもの ・週に2回以上発行される新聞(定期購読契約に基づくもの) |
飲食料品はすべての人が必要とし、必ず買うものです。
そのため軽減税率の対象として、負担が大きくならないようにしています。
ただし酒類や外食はいわゆるぜいたく品なので、軽減税率の対象にはなりません。
週に2回以上発行される新聞も、多くの人が必要としているもののため、軽減税率の対象になっています。
特に「外食」は細かくわけて定義されるため、少しややこしいです。
詳しくみていきましょう。
軽減税率の対象にならない「外食」ってなに?
外食にあたれば10%、あたらなければ飲食料品として8%になるのですが、この判断は結構細かく決められています。
簡単にいうと、「持ち帰り(テイクアウト)は軽減税率で8%、店内で食べるなら10%」です。
たとえば、ファストフード店で500円のセットを買ったとします。
ドライブスルーやテイクアウトを選ぶと、消費税は8%ですみます。
しかし、お店の中で食べていこうと思うと、10%の消費税を支払わなくてはいけません。
同じ物を買ったとしても、持って帰るか食べて帰るかで税金が違ってくるのです。
ほかのお店でも同じで、スーパーの総菜を買って帰るのは8%ですが、店内のイートインコーナーで食べると10%になる場合があります。
たいやきを買って食べ歩くなら8%ですが、フードコートに座って食べると10%かかります。
学校や老人ホームの給食は8%ですが、ケータリングや出張料理だと10%です。
うどん屋に天ぷらうどんの出前を頼むと8%ですが、お店に行って食べると10%払わなくてはいけません。
▼外食の税率まとめ
軽減税率8%(外食にあたらない) | 10%(外食にあたる) | |
---|---|---|
牛丼屋ハンバーガショップ など | テイクアウトする | 店内で飲食する |
コンビニスーパーマーケット など | 総菜やお弁当を買って帰る | イートインコーナーで食べる (店内での飲食を前提として、トレーなどで提供された場合) |
屋台フードコート など | 食べ歩きする (イスやテーブルなどの飲食設備がない場合) |
フードコートなど飲食設備で飲食する |
給食ケータリング出張料理 など | 学校や老人ホームで給食として提供する | ケータリングや出張料理として提供する |
そば・うどん屋ピザ屋 など | 出前・宅配 | 店内で飲食する |
このように、外食にあたるかどうかは少し言葉遊び的なところもあり、慣れるまでは混乱しそうです。
テイクアウトと言って注文してから店内にこっそり座って食べたらどうなるのかなど、問題も起きそうな予感もします。
基本的には「テイクアウトなら8%、お店で食べるなら10%」と覚えておきましょう。
経過措置
2019年10月1日をむかえても、一部の取引には増税前の税率である8%がしばらく適用されます。
この経過措置は消費税率の切り替えをスムーズに行うためのもので、経過措置の対象の取引かどうか注意が必要です。
たとえば2019年9月30日に消費税8%の価格で本を予約して10月1日に購入した場合、商品を受け取る時期とお金を支払う時期にズレが生じてしまいます。
そのような場合に消費税の処理やややこしくならないよう、経過措置の適用をうけて8%のまま計算することができるのです。
経過措置の対象品目
経過措置の対象になるのは次の10品目です。
それぞれに適用される経過措置が異なるため、注意してください。
▼旅客運賃等
2019年10月1日以降に行う旅客運賃、映画・演劇・競馬場・競輪場・美術館・遊園地等への入場料金のうち、2014年4月1日から2019年9月30日までに領収しているものは8%のままとなります。
こうした入場料金は早めに予約していること多く、実際に入場するのは増税後でも支払いは増税前に済んでいる場合が多いです。
そのため、経過措置の対象となっています。
▼電気料金等
増税前に供給した電気・ガス・水道・電話・灯油に係る料金のうち、2019年10月1日から2019年10月31日までの間に支払うものについては8%のまま計算されます。
9月に使った電気代は10月に支払いますが、使ったのは増税前なのに支払いが増税後だからって10%になるのはなんとなく変ですよね。
そのため経過措置によって、9月分は8%になります。
▼請負工事等
2013年10月1日から2019年3月31日までの間に締結した工事や製造、ソフトウェア等の請負契約のうち2019年10月1日以後に完成品の引き渡しなどを行う場合は、8%の経過措置対象となります。
工事やソフトウェア開発などは請負契約で行われることが多いですが、請負契約では完成品の引き渡しのあとに料金が支払われます。
そのため、増税前に契約していた請負契約については、引き渡しが増税後でも8%のまま計算します。
▼資産の貸付
2013年10月1日から2019年3月31日までの間に締結した資産の貸付契約のうち2019年10月1日以降も引き続き貸付けを行う場合は、経過措置の対象になります。
▼指定役務の提供
指定役務とは簡単に言うとサービスの提供のことで、冠婚葬祭のための施設やサービスの提供を指します。
2013年10月1日から2019年3月31日までの間に締結した役務の提供契約のうち、一定の要件に該当する役務の提供については、8%のままとなります。
たとえば2019年10月以降の結婚式を2019年3月末までに契約していた場合には、この経過措置によって8%の支払いで済みます。
▼予約販売に係る書籍等
2019年4月1日より前に予約し、代金を2019年10月1日より前に支払っている書籍などは、受け取りが2019年10月1日以後であっても8%の消費税です。
ただし、軽減税率の対象になる新聞などは、経過措置の対象になりません。
▼通信販売による取引
通信販売において2019年4月1日よりも前に価格を提示した商品を2019年10月1日よりも前に購入申し込みをし、2019年10月1日より後に実際の販売が行われた場合、8%のままとなります。
たとえば2019年3月に1万円(税込み)のドレスを通信販売会社がサイトにアップし、それを8月に代引宅配で申し込んだとします。
しかし人気商品のため、実際に商品の発送が行われるのは10月中頃になった場合、経過措置によって消費税8%のままの料金で購入できます。
▼有料老人ホームに関する介護サービスの提供
2013年10月1日から2019年3月31日までの間に締結した有料老人ホームへの終身入居契約に基づいて、2019年10月1日前から引き続き入居する場合には、2019年10月1日以降も消費税はそのまま8%で計算します。
▼家電リサイクルの再商品化に関する取引
家電リサイクル法に規定する製造業者等が、特定家庭機器廃棄物の再商品化等の対価を2019年10月1日よりも前に領収している場合は、再商品化等が2019年10月1日以後であっても8%の料金のままとなります。
軽減税率も経過措置も対応が必要
このように、軽減税率も経過措置も詳細に幅広く定められています。
そのため自分には関係ないと思ってもどこかで関わっている可能性が高く、すべての事業者が対応する必要があります。
特に軽減税率制度下では標準税率と軽減税率の2つの税率が混在するため、請求書に書かなくてはならない事項が増えます。
2019年10月1日から2023年9月30日までの間は、今までの「請求書等保存方式」に加えて、区分経理に対応するために「区分記載請求書等保存方式」が導入されます。
これまでの記載事項にプラスして、「軽減税率の対象品目であること」と「税率ごとに区分して合計した対価の額」を追加で記載しなくてはいけません。
さらに2023年10月1日からは「適格請求書等保存方式(インボイス方式)」が導入され、「適格請求書発行事業者の登録番号」と「税率ごとに区分して合計した対価の額および適用税率」も追加で記載が求められます。
まとめ
2019年10月1日から消費税率が10%に引き上げられました。
同時に軽減税率と経過措置も導入され、経理作業はさらにややこしくなっています。
請求書の記載事項も増えるため、すべての事業者が対応しなくてはいけません。
軽減税率とは一部の品目で従来の8%を維持する制度のことで、酒類と外食を除く飲料食品・週2回以上発行される新聞の2品目が対象です。
特に「外食」の定義が細かいので、注意しましょう。(提供:ベンチャーサポート税理士法人)