相続放棄申述書,書き方,提出方法
(写真=ベンチャーサポート法律事務所編集部)

近親者が亡くなった場合、その亡くなった方(被相続人)と一定の関係にある人は、被相続人が有していた財産を相続により承継することになります(民法896条)。

しかし、相続人といえども、相続を強制されるわけではありません。

相続人はその意思で相続を放棄することができます。

本稿では、相続人が相続を放棄する場合の手続きについて、相続放棄申述書の書き方を含めてみていきます。

1. 相続放棄とは

1-1. 相続放棄の概要

相続放棄とは、民法第900条および第901条によって相続人となるもの(法定相続人)が、相続開始後に、自らの意思で相続をしないことを表明することをいいます。

なお、相続が開始する前に、相続をあらかじめ放棄することはできません。

仮に相続人間でそのような合意をしたとしてもそれは無効です。

1-2. 相続放棄の仕方

相続開始後、相続人が何もせずに放置していた場合、相続開始を知った日から3か月を経過した時点で、単純承認をしたものとみなされます(民法第915条、第921条第2号)。

これを法定単純承認といいます。

単純承認がなされると、相続人は、被相続人が有していた一切の権利・義務(債務なども含めて)を承継することになります。

相続人が相続を放棄するには、単に、相続を放棄する旨を他の相続人や債権者などに通知するなどしただけでは不十分です。

法律の定める手続きをとる必要があります。

具体的には、相続を放棄するためには、相続開始を知ったときから3か月以内にその旨を家庭裁判所に申述しなければなりません(民法第938条)。

この相続放棄の申述は、相続放棄申述書を家庭裁判所に提出する方法で行うことになります。

1-3. 相続放棄の効果

ここで、相続放棄をした場合の効果について確認しておきます。

相続放棄をした場合、その放棄をした人は、はじめから相続人にはならなかったものとされます(民法第939条)。

その結果、被相続人が負担していた借金などの債務を承継することはありません。

つまり、被相続人が多額の債務を負担していた場合などには、相続放棄をすることが有効となります。

しかし、一方で、そもそも相続人にはならなかったことになるため、被相続人が有していた財産も承継することはできないことになります。

この点はしっかり認識しておく必要があります。

また、相続放棄をした人がいる場合、次順位の相続人が相続人となる場合があります。

たとえば、被相続人に子供が一人しかいなかった場合、その子供が相続を放棄すると、第1順位の相続人がいないことになるため、第2順位の相続人である直系尊属や、第3順位の相続人である兄弟姉妹が相続人となります。

その結果、これらの次順位以降の相続人が思わぬ債務を負担することになるといった場合も生じかねません。

したがって、相続放棄をする場合には、他の共同相続人や、自身が相続放棄をした結果として、相続人となる次順位以降の相続人にもきちんと連絡をするなどの対応をとっておくことが好ましいといえるでしょう。

2. 相続放棄申述書とは

相続放棄申述書とは、既に述べたとおり、相続放棄を家庭裁判所に申述するための書類です。

この申述書自体は、裁判所がホームページで公表していますので、ダウンロードして使用すればいいでしょう。

参考:裁判所ホームページ「相続放棄申述書

3. 相続放棄申述書の書き方

3-1. 相続放棄申述書の書き方のサンプル

相続放棄申述書の記入例についても、裁判所のホームページで公表しています。

参考:裁判所裁判所ホームページ「記入例 成年者の場合

   裁判所裁判所ホームページ「記入例 未成年者の場合

基本的には、これらの記載例を参考にして必要事項を記入していけば作成できるはずです。

以下では、記載例からはわかりにくい点を中心に、個々の記入欄における注意点をみていきます。

3-2. 家庭裁判所名

左上の家庭裁判所の記載欄には、申述書を提出する家庭裁判所を記載します。

これは、自身の居住地を管轄する家庭裁判所ではなく、被相続人が亡くなったときに居住していた住所地を管轄する家庭裁判所となります。

3-3. 申述人の記名押印

申述人の記載欄には、その者が成年者の場合には、本人の氏名を記載して、本人の印鑑を押印します。

この場合の印鑑は実印である必要はありません。

通常の認め印で結構です。

もちろん実印を押印してはいけないというわけではありません。

また、相続人が未成年者の場合には、ここには未成年者の氏名でではなく、親権者などの法定代理人の氏名を記載し、法定代理人の印鑑を押印します。

具体的な表示方法は、以下のような表示となります。

●●●●(未成年者の名前)の法定代理人
▲▲▲▲(法定代理人の名前)   印

3-4. 添付書類

ここには既に「戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本(全部事項証明書)」と「被相続人の住民票除票又は戸籍附票」が表示されていますので、それを準備して、□の中にレ点を記入します。

なお、「戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本(全部事項証明書)」は、相続放棄をする相続人の戸籍謄本がまず必要になります。

その他に、被相続人の戸籍謄本も必要です。

更に、相続放棄をする相続人が、配偶者または第1順位の相続人(被相続人の子供)以外の人の場合(具体的には、被相続人の直系尊属、兄弟姉妹の場合)には、更に、被相続人の出生から亡くなるまでの全ての戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍、更に、先順位の相続人がいないことを確認する為の戸籍謄本までもそろえる必要があります。

それらを集めた上で、その合計通数を「合計  通」の欄に記入します。

また、被相続人の住民票除票又は戸籍附票は、被相続人が亡くなった時点でどこに住んでいたかを確認する為に添付が必要となります。

既に亡くなっている以上、住民登録は抹消されているはずですので、住民票の除票を取得して提出することになります。

3-5. 申述人

相続放棄をする相続人の本籍(国籍)、住所・電話番号、氏名、生年月日・年齢、職業、被相続人との関係を記載します。

相続放棄をする相続人が未成年者の場合も、法定代理人ではなく、未成年者本人に関する情報を記載します。

その場合、職業欄は、「小学生」とか「中学生」といった記載でかまいません、 住所、電話番号は、裁判所からの連絡が取れる連絡先を記載する必要があります。

したがって、住民票上の住所と、実際に住んでいる場所が異なる場合には、実際に住んでいる場所の住所を記載することになります。

3-6. 法定代理人等

法定代理人等の欄は、相続放棄をする相続人が成年者である場合、または、成年被後見人等である場合を除き、基本的に記載する必要はありません。

ここの記載が必要なのは、相続放棄をする相続人が未成年者の場合と、成年被後見人の場合です。

その場合には親権者また後見人の住所・電話番号、氏名を記入することになります。

氏名欄が2つありますが、これは、相続人が未成年者で、その親が婚姻中は父母が共同して親権を行使することとなるため、父母それぞれの氏名を書くことになります。

なお、被相続人の配偶者とその未成年の子供が相続人となる場合において、未成年者の相続人が相続を放棄する場合に、その母親である被相続人の配偶者は、未成年の子供とともに自身も相続放棄をする場合には、未成年の子供の法定代理人として相続放棄を行うことができますが、自身は相続放棄を行わず、未成年の子供のみが相続放棄をする場合には、母親は未成年の子供の法定代理人にはなれません。

この場合は利益相反に該当するためです。

この場合には、未成年の子供について、特別代理人の選任を申し立てて、その特別代理人を法定代理人としてこの欄に記載することになります。

3-7. 被相続人

被相続人の本籍、亡くなったときの住所、亡くなったときの職業、氏名、亡くなった日を記載します。

被相続人の亡くなったときの住所は、住民票上の住所を記載します。

従って、添付書類である被相続人の住民票除票に記載された住所を記載することになります。

また、死亡日は相続が開始した日の基準となり、相続放棄等ができる熟慮期間の起算点となりますので、死亡日として届けられた日を戸籍や住民票除票で記載し、正確に記載する必要があります。

3-8. 申述の趣旨

ここは、家庭裁判所の所定の書式では、はじめから「相続の放棄をする。」と記載済みですので、そのままでかまいません。

3-9. 申述の理由

「相続開始を知った日」とは、自分が相続人となる相続開始と知った日という意味です。

通常の配偶者や子供が相続放棄をする場合は、「1.被相続人死亡の当日」か「2.死亡の通知を受けた日」になると思われます。

他だ、先順位の相続人がいて、その相続人が相続を放棄したことによって自らが相続人となった場合には「3.先順位者の相続放棄を知った日」が該当することになるでしょう。

「放棄の理由」については、該当する番号に○印をつけます。

該当する者がない場合には「6.その他」に○印をつけて、具体的な理由を記載します。

「相続財産の概要」は、被相続人が亡くなった時点で有していた財産の概要を記載します。

プラスの財産だけでなく、借金などの負債も記入します。

相続人が全て相続放棄をした場合などには、被相続人の財産を相続財産法人として清算する必要が生じるため、相続財産の概要をはあくしておく必要があります。

4. 相続放棄の手続き

4-1. 相続放棄申述書の提出手続き

▼提出先

相続放棄の申述は、被相続人が亡くなった時の住所地を管轄する家庭裁判所に対して行います。

相続放棄をする相続人の住所地を管轄する家庭裁判所ではありませんので注意が必要です。

▼費用

相続放棄の手続きには800円の手数料がかかります。

これは800円の収入印紙を相続放棄申述書に貼付する形で納めることになります。

なお、この印紙には消印は押してはいけません。

この点は注意が必要です。

その他に連絡用の郵便切手が必要になります。

この金額については各家庭裁判所によって異なる場合がありますので、最終的には申述を行う家庭裁判所に確認する必要があります。

ちなみに、東京家庭裁判所の場合には、従来は「82円切手4枚、10円切手4枚」の合計368円分でした。

ただ、10月1日の消費税増税により郵便料金も変更となっているため、変わっている可能性もあります。

ちなみに千葉家庭裁判所では「84円切手3枚」の合計252円とされています。

▼提出方法

家庭裁判所への提出方法は、持参して窓口で提出する方法でも、郵送で送付する方法でもかまいません。

相続人の住所地と、被相続人の住所地が離れている場合など、提出先の家庭裁判所が遠方である場合には、郵送での対応とならざるを得ないでしょう。

一方、被相続人と相続人が同居していた場合など、提出先が近くにある場合には、窓口で直接提出した方が、その場で不備が無いかのチェックをしてもらえる可能性があり、その場で対応できるなどのメリットもあるかもしれません。

提出する書類は、相続放棄申述書(800円の収入印紙貼付済み)、連絡用郵便切手、添付書類として相続人の戸籍謄本、被相続人の戸籍謄本(詳細は2(4)記載の通り)、被相続人の住民票除票です。

4-2. 相続放棄申述書提出後の流れ

▼照会書の送付

相続放棄申述書を提出すると、家庭裁判所から本当に本人の意思で相続放棄をしたのかを確認するための状況確認書類(照会書)が送られてきます。

照会書の詳細は、各家庭裁判所によって異なりますが、主に、以下の点について確認する内容です。

 ・被相続人の死亡を知った時期
 ・相続放棄申述の申立は本人で行ったのか、他人に依頼したのか
 ・相続放棄の意思確認
 ・相続放棄をする理由
 ・相続財産の処分等をしていないかの確認

▼回答書の提出

照会書に対して、正確に回答内容を記載し、署名したうえで、家庭裁判所に回答書を返送する必要があります。

この回答書を返送して初めて家庭裁判所で相続放棄について審理されることになります。

その審理によって問題がないと判断されると、相続放棄の申述が受理されることになります。

▼相続放棄申述受理通知書の発行

相続放棄の申述が受理されると、家庭裁判所から「相続放棄申述受理通知書」が発行されます。

これによって、相続放棄の手続きは一応終了ということになります。

▼相続放棄受理証明書の申請

相続放棄申述受理通知書とは別に、「相続放棄受理証明書」という書類があります。

これは相続放棄をした場合に必ず発行されるものではなく、相続放棄をした相続人等が別途申請することによって発行される、相続放棄の申述が受理された旨の証明書です。

これは、債権者などに対して、自身が相続を放棄したことを証明する為に利用されます。

場合によっては債権者からその提出を求められる場合もありますので、必要に応じて取得する必要があります。

相続放棄をする理由は様々だと思われますが、その主たる理由の一つは、被相続人の債務を免れるためであることが多いでしょう。

その場合には、受理証明書を債権者に対して呈示する必要があると思われますので、相続放棄受理証明書の取得までを一連の流れとして考えておくといいでしょう。

相続放棄受理証明書の申請は、相続放棄の申述をした家庭裁判所に対して、所定の申請書を提出して行うことにあります。

申請手数料は1通につき150円で、収入印紙を申請書に貼付する方法で納めます。

この申請は、家庭裁判所の窓口で申請することも、郵送で申請することもできます。

郵送で申請する場合は、返信用の封筒(切手貼付済み)を同封する必要があります。

また、本人以外の者が申請する場合(郵送申請で申請人の氏名・住所が異なる場合)には、戸籍謄本などで本人との関係を証明する必要があります。

一方、窓口での申請の場合には身分証明書等による本人確認がなされます。

5. まとめ

以上、相続放棄の手続きの概要を確認するとともに、相続放棄申述書の具体的な記載方法、更には、相続放棄申述書を提出した後の相続放棄受理までの手続きについて確認してきました。

相続放棄申述書の作成自体は所定の書式に必要事項を記入するだけですので、それほど難しいことではありません。

ただ、熟慮期間である相続開始から3か月を経過してしまった場合などには、事情説明等をする必要性が生じますので、そのようなイレギュラーな場合については、弁護士等の専門家に相談することをおすすめします。(提供:ベンチャーサポート法律事務所