スポーツニュートリション市場
(写真=Angela Aladro mella/Shutterstock.com)

大型スポーツイベントの開催に加え、近年、パーソナルトレーニングや24時間型フィットネスなど、身体づくりへの関心向上と共に注目されているのがスポーツニュートリションである。運動前後などに摂取することで、身体づくりやパフォーマンスの向上、疲労軽減などに役立つスポーツサプリメントに対する注目度が高まっている。

矢野経済研究所の調査において、スポーツサプリメントの市場規模は、2017年度が474億円(前年度対比15.3%増)、内、プロテインが280億円(同16.7%増)であり、市場の約6割を占めている。次いで大きな市場を形成するのがアミノ酸であり、市場規模は133億円(同3.9%増)、全体の約3割の構成を占め、プロテインとアミノ酸で市場の9割を占める。特にプロテインの市場が大きく伸長し、市場全体を牽引している。

スポーツサプリメントの中核であるプロテインは、昔は筋力増強に対するイメージが強く、ボディビルなどの筋肉量・筋肉美を競う層や運動強度の高い層を中心とした限定的なマーケットであったが、スポーツ科学と食品の生理機能の解明が進み、正しいスポーツニュートリションへの知識が浸透したことにより、小学校から大学までの部活生、社会人やプロスポーツなどの選手層など、スポーツ選手の幅広い層がサプリメントを積極的に摂り入れるようになるなど、スポーツ層における利用が広がったことが挙げられる。

さらに、スポーツサプリメントの新たなユーザーとして、ジョギングやランニングなど、中高年齢層等のスポーツ愛好家層が需要層として顕在化しているほか、近年、‘筋トレ’がブームとなっており、SNSの拡大を背景に、若年層を中心として、‘見せる身体’づくりへの関心が高まり、引き締まった身体を目指すボディメイク需要が高まりを見せている。従来のプロテインの主流であった乳由来のホエイプロテインに加え、大豆由来のプロテイン(ソイプロテイン)が引き締まった身体づくりへのサポートとして人気を集めているほか、エンドウ豆由来のプロテイン(ピープロテイン)が徐々に広がりを見せるなど、プロテインのユーザー層が拡大していることが市場拡大の大きな要因である。

身体づくりを中心に摂取されるプロテインのほか、スポーツ選手、愛好家層における、パフォーマンスの向上や疲労回復・軽減などの需要に対して、サプリメントの提案が積極化している。一例として、激しい運動後に免疫力が低下することが研究で確認された点に着目し、アスリートの免疫力向上を目的としたサプリメントが発売されるなど、アスリートなどの運動層にとって必要な栄養素に関する研究の進展とともに、サプリメントの役割も広がっている。この分野では、既存のスポーツサプリメントメーカーのほか、健康食品を販売する食品メーカーや医薬品メーカー、健康食品メーカーにおけるスポーツ向けサプリメントの展開が活発化している。なお、サプリメントの有用性が注目される一方、特に選手を子供に持つ親などは、ドーピングに対する心配が大きく、安心して摂取出来るサプリメントとして、アンチドーピング認証を取得する動きも見られる。

拡大するスポーツサプリメント市場において、販売チャネルにも変化が生じている。従来の主力チャネルは、スポーツ用品を販売する量販店・用品店であったが、近年、通信販売が大きく拡大している。特にプロテインは、運動強度の高い層において、量を多く摂取することから大容量でコストパフォーマンスを求める傾向が強く、価格の比較が容易で大容量のものも自宅まで届く通信販売の利便性が支持され、購入チャネルとしての存在感が増している。さらに、近年増勢傾向にあるドラッグストアがプロテインなどの取り揃えを強化する動きが見られ、郊外のドラッグストアにおいて、部活生を持つ親がプロテインを購入する姿が散見される。さらに、ヘビーユーザーを中心にプロテインパウダーをシェーカーで溶かして飲むのが主流である一方、ライトユーザー層を中心に手軽に摂取できるドリンクタイプのプロテインが人気を博し、コンビニエンスストアや食品スーパーに配荷を拡大し、売上を伸ばす製品が見られる。

さらに、運動層に加え、一般の生活者においても、食事では不足するたんぱく質の補給の重要性が認知され、手軽にたんぱく質を補給出来る食品が拡大している。特に高齢層は、たんぱく質が不足し、筋肉が衰える『フレイル』予防への啓蒙が進む中、厚生労働省が食品摂取基準において、たんぱく質の目標量を引き上げる案を示している。健康長寿への関心が高まる中で、筋力維持の重要性に対する啓蒙も広がっている。場所を選ばずに摂取出来る口栓付きパウチタイプのプロテインゼリーが様々なシーンでのたんぱく質補給の需要を取り込み、幅広い年代層に受け入れられ、売上を伸ばした製品が見られる。

パーソナルトレーニングがブーム的な動きとなり、新規参入が活発化したことで、粗悪なサービスや知識不足のトレーナーなどの問題が指摘し始めており、ブーム的な動きが今後収束する方向に向かうことが予想される一方、上述のように、スポーツ科学とスポーツニュートリション研究の進展が進み、スポーツサプリメントのコアユーザーであるアスリート層におけるスポーツサプリメントの利用拡大と深耕が進むことが予想される。また、若年層から中高年齢層に至るまで、スポーツ・運動、トレーニングを通じた健康的な身体づくりや運動のパフォーマンス向上、運動後のケアなどをサポートするサプリメントの利用拡大が期待される。

さらに、高齢層におけるフレイル予防対策など、幅広い世代におけるたんぱく質補給の必要性に対する認知が広がりにより、今後もプロテイン市場は様々な商品形態や販売チャネルを通じて多くの消費者接点・シーンにおける需要を取り込み、堅調に推移すると予想する。

2019年8月
主席研究員 飯塚 智之