相続が起こった途端、財産を巡って対立する家族。
「我が家は家族の仲がいいから大丈夫」「そんなに大した財産もないから何とかなるだろう」
そう考えて油断していたがために、いざ相続が発生した際に残された家族が決裂してしまったケースは後を絶ちません。
相続トラブルが一度深刻化すると、残された家族の生活を脅かすことや、経営していた会社を危機に陥れることさえあります。
しかし、実はそうしてこじれてしまう相続トラブルには、共通点があります。
つまり、あらかじめもめてしまうパターンを把握しておけば、事前に対策を打っておくことも可能なのです。
大切な家族に禍根を残さないためにも、しっかりと対策をしておきましょう。
危険サイン!もめる3つのパターン
専門家が口を揃えて「これはもめそうだ」と事前に察知する、もめる相続の危険なサインというものがあります。
それが以下の3つです。
- 相続財産の中に、分けにくい高額財産がある場合
- 子供同士の意見が食い違う場合
- 親子の意見が食い違う場合
それぞれどうしてもめてしまうのか、そのポイントをパターン別に見ていきましょう。
分けにくい高額財産がある
1つめは、分けにくい高額の相続財産がある場合です。
例えば、銀行預金や有価証券(市場で売却できるもの)は、簡単に現金化することができます。
そのため、高額であっても分割に苦労することはありません。
一方で、分割がしにくい財産の扱いは非常にやっかいです。
分割しにくいからといって一部の相続人の所有とすると不公平になるため、他に同等の価値の財産がない場合には大きくもめてしまいます。
代表例は自宅不動産や、経営している会社の株式です。
この2つは特に深刻なトラブルになる可能性がありますので、詳しく見ていきましょう。
▼自宅にしていた不動産がある
不動産には、特に事前の取り決めがなければ、以下の2通りの相続の仕方があります。
- そのまま相続人全員で共有する
- 売却して、得た代金を相続人で分割する
そのまま相続人全員で共有する場合、相続人が全員で共有するというのは、つまり全員が全員同じように不動産を使用する権利があるということです。
例えば、不動産の持ち主Aさんの妻のBさんが、その家にAさんとずっと住んでいたとします。
Aさんが亡くなった後、他の相続人のCさんと家を共有することになりました。
この場合、Cさんも家を自由に使用することができます。
そうすると、実際に住んでいるBさんに許可なく、Cさんの知人を一時的に住まわせたりすることも可能になってしまうのです。
不動産の性質上これが非常にやっかいで、不動産の使い勝手が悪くなってしまうのです。
また、売却して、得た代金を相続人で分割する場合で問題となるのは、自宅不動産に一部の相続人が住んでいて他に住むところを手配できない、あるいは一部の相続人が売却に強く反対する場合です(家族の思い出が詰まっているため、愛着が強いケースが多い)。
また、下手に売却を急ぐと、資産価値よりも低い価格でしか売却できない場合もあります。
▼経営している会社の株式がある
相続財産の中に、被相続人が経営している会社の株式がある場合は要注意です。
株式は、法律上分割して相続すること自体は可能なのですが、株式特有の問題が起こります。
株式ですから、保有している株式の割合に応じて、配当以外にも会社に対してさまざまな権利が行使できます。
一定の割合を保有していれば、経営に関する決定に影響力を持つことになりますし、一般的に持ち株の割合が過半数を超えると経営の実権までを握ることになります。
そのため、会社経営においては持ち株の割合が非常に重要なのですが、これが相続によって細分化されてしまうと大変なことになります。
決定権を持つ株主がいなくなってしまうと、会社がさまざまな株主の意見に翻弄され、一貫性のある方針を取れなくなってしまいます。
また、相続人の中にその会社の役員や従業員がいる場合は別の問題が起こります。
相続人同士の直接の利害関係が絡んだ末、会社を巻き込んだ争いになってしまう可能性があるのです。
最悪のケースは、意見が対立している相続人同士の持ち株割合が同率の場合です。
お互いへの対立感情も相まって譲歩しないまま、会社は何も意思決定ができなくなってしまいます。
こうなると会社としての基盤が不安定になり、取引先の信用を失い、業績が低迷してしまうことにつながります。
有名企業のお家騒動など、一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。
子供同士の意見が食い違う場合
2つめは、子供の間で溝がある場合です。
相続というのは、起こったそのときの財産だけの話ではありません。
それまでに積み重ねられてきた、被相続人との関係や相続人間の関係によっては、相続を機に複雑な感情として噴出することがあるのです。
例えば、兄弟間で「親父は弟ばかり可愛がってきた」「兄さんは大人になっても何かと母さんに援助してもらっていた」などと、自分の方が損をしてきたという気持ちを持った相続人がいることがあります。
これがとても危険なのです。
相続を引き金に、「あのときもこうだった」と子供時代のことから大人になってからのことまで、さまざまな出来事を引っ張り出しながら兄弟間でもめるケースは非常に多くあります。
長い年月を共に過ごしてきた家族ですから、お互いを攻撃する材料はいくらでもあり、収拾がつかなくなってしまうのです。
また、被相続人の生活のサポート(介護や身の回りの面倒など)を一部の子だけが引き受けてきた場合も非常に危険です。
サポートをしてきた子は当然相応の報いがあるべきだと考えますし、その他の子は、サポートをしていた子が生前被相続人の財産を使い込んでいたのではと疑ったりします。
親が生きているうちから、お互いの子に誤解が生まれないように状況を説明しておき、財産の記録をつけておくなどの気配りも必要です。
そして、子供がそれぞれ独立して家庭を持っている場合にはさらに状況が複雑になります。
子供の配偶者の考えや家庭の経済状況から、すんなりと遺産の分配が進まず、お互いに対立してしまうことは日常茶飯事です。
親子の意見が食い違う場合
3つめは、親子間の溝がある場合です。
子供同士でもそれぞれの感情や都合の違いから対立が起こりやすいのですが、親子間ではさらに根深い問題が出てくることがあります。
親はもう忘れている些細なことでも、子が大人になっても癒えない傷として負っている場合があり、長い間言えずにいる思いを溜め込んだ子は意外と多いものです。
しかも大抵の場合、親は常に子のためを思っているので、自分の言動が実は子を傷つけていることに無自覚なケースが多いのです。
特に昨今は親世代の寿命も長くなり、一方で子世代の所得が伸び悩んでいることから、親の与える影響が長期化している背景もあります。
こうした感情を抱えた子が相続に直面したとき、納得できない気持ちを遺産分割への協力拒否という形でぶつけることにつながります。
または、相続に関して、親にとっては常識だと思っていたことが、子にとっては受け入れられないことだったということもあります。
よく挙がるのが「長男だから」という理由だけで、他の相続人よりも多く遺産を受け継がせようとするケースです。
これまでの家督相続の文化が薄れた今では、兄弟姉妹間で平等に遺産を分割するのが当たり前という認識が根付いているため、長男以外の子が猛反発してもめてしまったりします。
相続とは全く別の問題が原因で、あえて財産の分割方法に同意せずに争い続けるといったケースは往々にして起こりえます。
これまでどんな思いでやってきて、これからどうしていきたいかなど、お子さんと話し合う機会をこまめに持っていくことも、相続対策の一環として非常に意義深いことです。
まとめ
ここまで相続でもめる3つのパターンをみてきました。
相続人同士の関係が一度こじれてしまうと、お互いに協力していくことが難しく、また今後の家族間の絆にも大きな亀裂が入ってしまいます。
自分の残す財産に分割しにくい高額なものはないか、あるとしたらどう相続させるのが一番よいかを事前に考えておきましょう。
また、子供同士の意見が食い違わないように自分が今できることはないか、子供との間で誤解が生まれていそうなことはないか、改めて振り返っておきましょう。
トラブルを起こさない相続を準備しておくことが、財産をどれだけ残すかよりも愛のこもった贈り物になるはずです。(提供:ベンチャーサポート法律事務所)