「リカーリング」というビジネスモデルをご存じだろうか。リカーリングは、継続的に収益を得られるとして昔から実行されている。しかし、その言葉はもちろん意味や仕組みをよく知らない人もいるかもしれない。そこで本記事では、リカーリングがどのような仕組みで、ビジネスに取り入れるうえでどのようなメリット・デメリットがあるか、リカーリングビジネスの事例とともに解説する。
あわせて似たようなビジネスモデルとして近年普及しているサブスク(サブスクリプション)との違いについても紹介していく。
目次
リカーリングの意味とは?簡単に説明
リカーリングとは、一般的な販売業のように商品やサービスを1回ごとに売り切るのではなく、自社の商品やサービスを同じ顧客に継続して利用してもらい、長期的な収益を得るビジネスモデル。「繰り返す」「循環する」という意味のある英語(Recurring=リカーリング)が語源となっている。
例えば、家庭やオフィスに薬箱を備え付け、担当者が定期的に消費状況をチェック、使った分だけ支払いを請求する。消費した薬や期限が短くなったものの補充・交換等をする置き薬のシステムはリカーリングの代表例だ。このように、リカーリングは新しいビジネスモデルではなく、古くから存在しているビジネスモデルである。
リカーリングビジネスの仕組み
リカーリングのビジネスの仕組みをもう少し説明しておこう。リカーリングの種類は、大きく「消耗品販売」「月額性」の2つに分けられる。
・消耗品販売
先に紹介した置き薬のような消耗品販売だ。消耗品販売では、商品がいわばハードとソフトに分別でき、ハードとソフトが一体となることで利用できる製品で取り入られることが多い。例えば、プリンタとインクカートリッジ、印刷機とメンテナンスなどがある。購入したものを使い続けていくためには、継続的な消耗品購入やメンテナンスなどが必要だ。
顧客が消耗品、あるいはメンテナンスを利用した際に売り上げとなり、不定期ではあるが継続的に収益を得られる。
・月額制
月額制のリカーリング。毎月の料金を「基本料金」と「使用料」に分け、使用料は従量制とし消費に応じて請求するスタイルである。電気料金やガス料金、通信料金などが一例だ。使用料部分の金額は、月ごとに上下するが継続、安定して収益を得ることができる。
リカーリングとサブスクの違い
継続的に商品やサービスを提供し、収益を得るビジネスモデルとしては、サブスクの人気も高い。サブスクも同じ事業者から同じ形態の商品・サービスを「繰り返し」購入する点では、リカーリングサービスの一つといえるだろう。しかしサブスクとリカーリングでは、異なる点もいくつかある。その一つが料金システムだ。
一般的にサブスクは、顧客が消費しようがしまいが毎月決まった料金を徴収するサービスである。例えば動画や音楽の配信サービスなどで「1ヵ月#### 本まで視聴可能」といった具合だ。契約種類ごとに月々提供する商品やサービスの個数(回数)に上限を設定しておき、その範囲内なら何本視聴しても(あるいは全く視聴しなくても)毎月一定額の収益が発生する。
一方、リカーリングの場合は最初にある商品・サービスを販売し、その後は顧客の消費状況に応じて収益を得られる仕組みだ。ただし後述するが、リカーリングサービスといいながらサブスクのように毎月固定料金を徴収するものもある。
リカーリングのメリット
ここでは、リカーリングの主な3つのメリットを紹介する。
継続的な収益がある
最も大きなメリットといえるのが、継続的に収益を得られることだ。売り切り型の販売スタイルとは異なり、一つの製品を販売すれば、その製品を利用するために補充品やサービスなどを継続して購入してもらうことができる。顧客にとっても本体機器やプラットフォームごと買い替えるより、補充品を買い続けるほうが安価であることもあり、売り切り型よりも頻繁かつ継続的な収入が見込めるだろう。
事業計画を立てやすい
リカーリング形式の販売で事業計画を立てやすくなるメリットもある。リカーリングビジネスは、売り切り型ビジネスとは異なり、「競合他社への乗り換え」をされにくい。一般的に顧客との関係は、長期にわたる。製品やサービスの種類、消費者の利用頻度などによって異なるが、本体の販売件数や契約者数によって一定期間の補充必要数など将来の収益を予測しやすいのが特長だ。
また契約者数の増減や解約率の推移を測定することで、生産・販売数の拡大や新製品の開発、既存製品の改良などといった事業計画を立てやすい。さらに投資や融資、資金繰りなどといった財務上の判断も行いやすいだろう。
ブランドロイヤリティを高められる
気に入った製品をSNSなどで発信する消費者も多いため、顧客自身が自発的にブランドのアンバサダーやインフルエンサーとなる場合もある。それによってブランドイメージが高まることも期待できるだろう。近年は、エコロジーの観点で好んで補充・交換できるタイプの製品を選ぶ消費者も増加傾向にある。
「本当に必要な分だけ購入すれば良い」という考え方は、サブスクや売り切り型のビジネスに比べて顧客満足を得られやすい。またリカーリングは、製品あたりの収益を長期に分散しやすいことから売り切り型の製品に比べて売値を安価に設定することも可能だろう。つまり消費者にとってエコロジーの面でもエコノミーの面でも良いイメージを持たれやすいというわけだ。
このように、いったん自社製品・ブランドのファンになってもらえれば他の製品でリカーリングビジネスを展開する場合にも好んで選んでもらえる可能性が高まるだろう。
リカーリングのデメリット
リカーリングには、メリットだけでなく以下のような3つのデメリットもある。
売り上げ予測を立てにくい
頻繁、かつ継続的に収益が望めるとはいえ、顧客の利用状況によって次回までの売り上げの時期や数量は変わり、見込みを立てにくい場合がある。このことは、売り切り型のビジネスと同様だが、サブスクに比べると売り上げ予測がしにくい点はデメリットだ。またある程度の売り上げを見込んでいても顧客が競合他社や競合製品に移ってしまい、業績の下方修正を余儀なくされる可能性も考えられる。
このような事態を避けるためには、売り上げ状況を細かく分析し、販促活動や商品・サービスの定期的なリニューアルなどに努めることが大切だ。
損益分岐点に到達しないリスクがある
先に紹介した顧客に対するメリットの裏返しになるが、あらかじめ収益見込みを分散し、低価格で顧客に提供することは投資を回収しきれないリスクにつながりかねない。リカーリングでも売り切り型でも、製品を製造・生産し、販売するには相当の初期投資が求められる。しかしあらかじめ収益見込みを分散するということは、投資の回収期間を長めに設定することになる。
またリカーリングの種類によっては、定期的な梱包・配送費用、製品管理やメンテナンスに伴う人件費など継続的な費用も必要だ。そのため「投資回収期間の壁」は、売り切り型よりもリカーリングのほうが高めになってしまう。回収しきらないうちに顧客が離れてしまうと黒字化は難しい。場合によっては、財務体質が弱まりリカーリングサービス自体を止めなければならなくなる可能性も考えられる。
そうなると継続して利用してくれていた顧客にもダメージを与えることになり、大きな顧客損失リスクとなるだろう。顧客が製品そのもの以外の付加価値を感じてくれるようサービス向上に努め、顧客離れを防ぐ対策が必要だ。
売り上げ管理が煩雑
リカーリングビジネスで従量制の料金体系にしている場合、毎月の請求額の計算や入金管理などが煩雑となる。加えて料金体系・プランが複数あると売り上げ請求にかかる事務は、大きな負荷となるだろう。売り上げ管理が人件費の増加につながるようではデメリットとなりかねないため、売り上げ管理のシステム化やアウトソーシングなど、コスト削減対策も検討が必要だろう。
リカーリングビジネスの事例
冒頭でリカーリングの代表例として古くからある置き薬のビジネスモデルを紹介した。近年でもさまざまな業界でリカーリングビジネスを導入する企業も増えてきている。以下でリカーリングビジネス導入事例をいくつか紹介しよう。
キリン「ホームタップ」
「ホームタップ」は、キリンビールが提供するリカーリングサービスである。専用ビールサーバーを無料でレンタルし、定期的に工場からビールを直送するものだ。専用ビールサーバーを使うことで、自宅にいながらレストランで注文したようなまろやか、かつ心地よい口当たりの生ビールを楽しめる。
料金は月額固定。直送するビールのボトル数や頻度は決まっているため、サブスクのシステムに似ているが、配送をスキップしたり、追加したりできるなど自由度が高い。
メニコン「メルスプラン」
「メルスプラン」は、コンタクトレンズ大手のメニコンが提供している会員制・定額制のコンタクトサービスだ。「まだ使えそう」「もったいない」という理由で決められた使用期間を過ぎた使用や「コンタクトが高い」という理由で低質・低価のコンタクト使用による目への障害を防ぐ目的でリカーリングビジネスモデルとして導入された。
料金は、使用するレンズの種類によって異なるが、いずれも入会金を支払い、その後は定期的に定額料金を支払うシステムだ。なおライフスタイルや視力の変化に応じて、眼科医の判断のもと違うタイプのレンズに交換することも可能。それに伴い月額料金が変更となる場合がある。
パナソニック「ニコボ」
「ニコボ」は、特に何もしてくれないが、一緒にいるだけでちょっとした笑顔にしてくれるというロボットだ。ニコボと「一緒に暮らす」というのが製品コンセプトであり、購入者は本体を購入したあともニコボを成長させるための費用を継続的に支払い続ける。継続費用は、プランごとに定額となっているが、別途ニコボの調子が悪いときの治療費やニコボドッグ費用なども設定。
継続的な収益と不定期の収益をうまく組み合わせている例だ。
貴社のビジネスにリカーリングを導入してみては?
リカーリングは、自社の商品やサービスを同じ顧客に継続して利用してもらい、長期的な収益を得るビジネスモデルだ。消費者にとっては、「必要時に必要な分だけ購入できて利便性が高い」「支出を抑えられる」「ムダがない」「利便性が高い」などのメリットがある。それにより、事業者にとってもブランドイメージの向上につながるなどといったメリットも期待できるだろう。
ただし顧客を長くつなぎ止めるためには、品質以外の付加価値を提供することが求められる。今回紹介した事例を参考に、貴社でもリカーリングサービスを導入してみてはいかがだろうか。