未来のビジネス展開における鍵となる「エイジテック」をご存じだろうか。現在、日本を含む多くの国々で高齢化が進行しており、これに対応する新たなビジネス領域が注目を集めている。その一つが「エイジテック」という分野だ。本記事では、エイジテックの定義、種類、具体的な事例について簡単に解説する。
目次
エイジテックの定義とその意味
高齢者の生活の質を向上させ、高齢化社会が直面する多くの課題に取り組むための技術、それがエイジテックだ。まずは、エイジテックの定義とその重要性について詳しく見ていこう。
エイジテックとは何か?
エイジテックとは「Age(年齢、特に高年齢)」と「Technology(テクノロジー)」を組み合わせた造語だ。具体的には、高齢者や高齢化社会が抱える問題をテクノロジーで解決し、高齢者の生活の質を向上させるための分野を指す。ここでいうテクノロジーには、情報通信技術(ICT)、人工知能(AI)、ロボット工学、バイオテクノロジーなど幅広い技術が含まれる。
エイジテックの適用分野も多岐にわたる。具体的には、医療・健康に関わるヘルスケアテクノロジー(ヘルステック)、高齢者が必要とする介護サービス、生活支援ツール、レジャーや教育を提供する娯楽や教育ツールなどだ。エイジテックには、高齢者の生活を豊かにし、自立を支えるさまざまな分野が含まれる。
エイジテックがなぜ重要なのか?
現代社会では、日本だけでなく世界中で人口高齢化が進行している。これに伴い高齢者の健康管理や生活支援、孤独感の軽減、介護の必要性やその負担の軽減などさまざまな課題が増加している状況だ。このようななかエイジテックは、高齢者の生活の質を向上させ、これらの社会的課題に対する効率的な解決策を提供する可能性を秘めている。
エイジテックの導入により、高齢者が自宅で自立した生活を維持するための支援を受けることが可能だ。さらに遠隔での医療サービスを受けられるようになるなど、生活の質や健康状態を向上させる手段も広がる。家族や介護者の負担軽減、効率的な介護サービスの提供、介護や医療費用の削減といった面でも大きな効果を見込めるだろう。
日本のエイジテックカオスマップ
エイジテックカオスマップとは、エイジテックの領域で活動している企業やオーガニゼーション、サービスを、その特性や分野別にマッピング(地図に描き出す)した図のこと。エイジテックの全体像を理解し、各企業やサービスがどのような分野でどのような活動を行っているのかを知り、市場の動向やトレンドを視覚的に把握するためには、カオスマップを確認するといいだろう。
以下は、ウェルエイジング経済フォーラム事務局が作成した日本のエイジテックカオスマップ2021年版である。
このマップを通じて、高齢者が直面する問題や課題に対する解決策を提供している企業を特定し、新たなビジネスチャンスを見つけることも可能だ。
エイジテックの主要な種類とその特徴
エイジテックは、使用する対象や使用する目的により、さまざまな種類に分けることができる。以下にその主要な種類と特徴について詳しく説明する。
高齢者自身で利用するもの
高齢者自身が直接利用する製品やサービスは、日々の生活の質を向上させるためのツールとして設計されていることが特徴である。この種類の代表的なものは、健康状態を追跡し管理するスマートウォッチやアプリだ。その他、視覚や聴覚を補助するデバイス、オンラインでのコミュニケーションを支援するツール、認知機能のトレーニングを提供するアプリなども含まれる。
これらは、高齢者が自立した生活を続けて健康で充実した生活を送るためのサポートに役立つ。
企業や行政が高齢者に対して利用するもの
この種類には、高齢者の生活の質を向上させるために企業や行政が提供するサービスや製品が含まれる。介護ロボットは高齢者の生活支援や介護者の負担を軽減し、在宅医療サービスは医療機関への移動が困難な高齢者に医療サービスを提供。またAIアシスタントは、行政からの情報提供や生活に関する質問への回答を通じて高齢者の日々の生活を支援する。
高齢者に対して個人で利用するもの
この種類に含まれるエイジテックは、高齢者の家族や友人、ボランティアなどが高齢者をサポートするために利用する製品やサービスだ。これには、例えば高齢者の居場所や健康状態を遠隔で確認できる見守りシステムや介護者同士で情報を共有できるアプリがある。これらのテクノロジーは、高齢者が安全に自立生活を送ることを支援するとともに介護者の負担を軽減する役割を担う。
将来の高齢者が利用するもの
中高年で将来的に高齢者になる人々(プレシニア)を対象としたエイジテックは、この種類に含まれる。例えば健康寿命を延長するための生活改善サービスや健康管理ツールは、プレシニアが利用するエイジテックだ。これらのサービスは、現在の生活習慣を改善し、将来的に健康で充実した高齢生活を送るための支援を提供する。
エイジテックの具体的な事例
理論だけでなく、実際のエイジテックの具体的な事例を見ることで、その多様性と革新性を実感できる。健康管理から金融サービス、自立支援までエイジテックがどのように高齢者の生活を豊かにするのか具体的な事例を通じて確認しよう。
ヘルスケア・ウェルネスの事例
健康とウェルネスは、高齢者にとって重要なテーマだ。エイジテックは、この分野に多く貢献している。例えばFitbitやApple Watchのようなウェアラブルデバイスは、心拍数や睡眠パターンなどの生体情報を収集し、健康管理をサポートしている。またカロリー摂取や運動量を記録する健康管理アプリは、食生活や運動習慣の改善に役立つ。
自立支援の事例
自立支援のエイジテックは、高齢者が自宅で安全かつ快適に生活できるよう支援する。例えばメンタルコミットロボの「PARO(パロ)」のような生活支援ロボットは、認知症の症状緩和やコミュニケーションの促進に貢献。また脳トレアプリは、記憶力を維持し、認知症の予防に役立つ。
シニアリビングの事例
シニアリビングのエイジテックは、高齢者が自宅で安全に生活を続けるための支援を担う。例えばスマートホームシステムは、自動で照明を調節したり温度をコントロールしたりする。在宅医療サービスは、医療機関への移動が困難な高齢者が自宅で医療サービスを受けられるようにするものだ。
介護事業者向けサービスの事例
介護業者向けのエイジテックは、介護スタッフの作業効率を高め、クオリティを維持することに役立つ。例えば介護業務効率化ソフトウェアは、スタッフのスケジューリングや高齢者の健康状態のモニタリングをサポートする。遠隔介護サポートシステムは、高齢者の安全を見守りながら介護スタッフの負担を軽減する。
金融・相続の事例
金融や相続に関するエイジテックは、高齢者が金融商品や相続手続きをスムーズに行えるようサポートする。例えば一般的に使われているインターネットバンキングは、家から出られない高齢者でも振り込みや入出金確認を家にいながら行うことが可能だ。また遺言作成アプリは、高齢者が自分の意志を法的に保護するサポート役をこなす。
仕事の事例
仕事に関するエイジテックは、高齢者の再就職や現役を続けることを支援する。例えばリモートワーク支援ツールは、職場への通勤が困難な高齢者でも仕事を続けられるようにするツールだ。再就職支援サービスは、退職後も仕事を続けたい高齢者に求人情報を提供する。
終末期の事例
終末期のエイジテックは、高齢者が人生の最終段階を快適に過ごす手助けをするツールだ。例えばホスピスケア向けのテクノロジーは、痛みの管理や心のケアをサポートする。遺品整理サービスは、遺族の負担を軽減し、故人を尊重した適切な方法を提供する。
エイジテックをサービスとして提供する企業
エイジテックを提供する企業は、社会の高齢化に対する需要に応えるため、高齢者の生活の質を向上させる多種多様なサービスを開発している。
・米国のスタートアップ企業「GrandPad」
GrandPadは、シニア向けに設計された簡単に使えるタブレットを提供している。タブレットは、テクノロジーに慣れていない高齢者でも簡単に使えるよう、大きなアイコンと簡単なインターフェースなどの工夫が凝らされている。
・日本の「Genequest(ジーンクエスト)」
プレシニア向けのエイジテックを提供する企業だ。国内初の個人向け遺伝子解析サービスを開発。遺伝子検査キットを販売する。将来発病する可能性のある疾患を知り、予防を心がけたいと考えるプレシニアには、まさに利用したいサービスといえるだろう。
これらの企業は、高齢者の生活の質を向上し、自立生活を支えるとともに家族や介護者の負担を軽減するためのエイジテックをどう提供するかを検討するうえで参考になるだろう。
エイジテックの将来的な展望とその可能性
エイジテックの将来的な展望は、非常に明るい。なぜなら世界の人口高齢化は進行中でその解決策として大きな可能性を秘めているからだ。ヘルスケアや生活支援、介護、教育、エンターテイメントなどさまざまな分野でエイジテックは成長を続けるだろう。例えばAIとロボット技術の発展により高齢者の日常生活の支援や介護の質の向上、医療サービスの提供が可能になる。
またバーチャルリアリティ(VR)や拡張現実(AR)の技術は、高齢者のリハビリテーションやレクリエーションに新たな可能性をもたらすことが期待できる。エイジテックの市場は、今後も成長を続け、それに伴い新たなビジネスチャンスも生まれる。しかし同時にテクノロジーの普及と利便性の向上、個人情報の保護、アクセシビリティの確保などの課題もあることを忘れてはならない。
エイジテックサービスに参入する際のポイント
エイジテックサービスに参入する際には、以下のポイントを考慮することが重要だ。第一に考慮すべきことは、高齢者が使いこなせるようなサービスにすること。高齢者にとって使いやすいインターフェースや、高齢者が抱える可能性のある視力や聴力の問題に配慮したデザインが必要となる。製品やサービスの価格をよく検討することも意識したいポイントだろう。
高齢者の収入は限られている場合が多いため、手ごろな価格設定が求められる。さらに介護側の負担も考慮したサービス設計も忘れてはならない。サービスは高齢者だけでなく介護者や家族もサポートすることが重要だ。そのため利用者の状態や必要なケアの情報を簡単に共有できる機能を含めるなど、介護者にとっても便利な設計が求められる。
以上のポイントを考慮すれば、高齢者とその周囲の人々にとって価値あるエイジテックサービスの提供が可能だ。エイジテックは、今後も成長が見込める分野である。エイジテックへの参入を検討する場合は、先行事例を研究し、自社の強みを活かした製品やサービスを創出していこう。