仕事の進め方をアナログからデジタルに大転換。経営者の積極姿勢がベテラン従業員を牽引 静岡水工(静岡県)

目次

  1. 社会基盤を支える水処理装置の販売、設置で事業を拡大
  2. 装置の構造を熟知したエンジニアが営業も担当
  3. 事業拡大には、デジタル化を避けて通れない。デジタル機器を一気に導入。変えるリスクより、変えないリスクの方が大きいと判断
  4. 図面、データ、カタログをデジタル保存して共有化
  5. 手間が減ることで業務が円滑に
  6. ICTを積極的に活用する従業員は事務作業の時間が半分から3分の1に
  7. 実際に使いながらICTの習熟を図る
  8. 営業会議を使ってデジタル化推進&活用の意見を出し合う
  9. リアルとデジタルのいいとこ取りで営業活動
制作協力
産経ニュース エディトリアルチーム
産経新聞公式サイト「産経ニュース」のエディトリアルチームが制作協力。経営者やビジネスパーソンの皆様に、ビジネスの成長に役立つ情報やヒントをお伝えしてまいります。

静岡県静岡市の静岡水工株式会社が、ICT導入の明確な方針を掲げる経営者の下で仕事の進め方をアナログからデジタルに大転換している。経営者自らが積極的にICTを活用する姿勢を示すことで、50代以上のベテランが半数を占める従業員の意識を業務のデジタル化に振り向けている。(TOP写真:クラウドサービスや証憑(しょうひょう)書類のデジタル化を進めている静岡水工)

社会基盤を支える水処理装置の販売、設置で事業を拡大

純水を精製する水処理装置は、食品、飲料、医薬品や半導体の製造に欠かせない製品だ。静岡県静岡市に本社を置く静岡水工株式会社は、半世紀以上にわたって静岡県を事業領域に水処理装置の販売、設置、メンテナンスに取り組んできた。

カートリッジ型やキャビネット型の標準タイプから逆浸透膜式装置、超純水装置といった中型タイプ、排水処理装置まで幅広く対応し、水処理薬品類の販売も行っている。純水を必要とする工場を持つ企業や病院など長期にわたって契約している取引先が多く、水処理装置に対する需要が高まっていることもあって事業は順調に拡大している。

装置の構造を熟知したエンジニアが営業も担当

水処理装置が性能をいかんなく発揮する鍵となるのが販売した後の運転管理、保守、メンテナンスといったアフターサービスだ。静岡水工のエンジニアたちは、水処理装置の構造や流体力学を熟知した上で、取引先との窓口としての営業活動もこなしている。約40年にわたって現場の一線で活躍した実績を持つ鈴木聰代表取締役もその一人だ。「中小企業はスピードが命です。技術と営業を兼任しているからこそ、お客様の要望に迅速かつ確実に対応することができます。お客様の水についての困りごとをすべて解決したいという思いで事業に取り組んでいます」と鈴木社長は明るい表情で語った。

仕事の進め方をアナログからデジタルに大転換。経営者の積極姿勢がベテラン従業員を牽引 静岡水工(静岡県)
「お客様の水についての困りごとをすべて解決したい」と語る鈴木聰社長

事業拡大には、デジタル化を避けて通れない。デジタル機器を一気に導入。変えるリスクより、変えないリスクの方が大きいと判断

鈴木社長は2019年の就任以来、事業の拡大を図るにあたり、仕事が忙しくなる従業員の負担を軽減する方法について頭を悩ませていた。その結果、導き出した答えが仕事の進め方をアナログからデジタルに一気に転換することだった。50代以上が従業員の半分以上を占めていることもあって、ICTやデジタル機器をうまく使いこなせるか不安はあったが、変えるリスクよりも変えないリスクの方が大きいと判断した。

仕事の進め方をアナログからデジタルに大転換。経営者の積極姿勢がベテラン従業員を牽引 静岡水工(静岡県)
静岡水工のオフィスの様子

「私自身も含めデジタルに詳しくない年配の社員は、従来のアナログ式の方がストレスなく仕事ができるのは確かです。しかし、社会全体でデジタル化の流れが加速する中で、アナログ式のまま仕事をしていてはいずれ行き詰まるのは目に見えています。トップとして方針を明確にする責任があると考え、デジタル化に舵を切ることを決断しました」と鈴木社長は振り返る。

図面、データ、カタログをデジタル保存して共有化

2022年春に、社外から社内の資料にアクセスすることを可能にするクラウドストレージサービス、Web会議システム、取引の証拠となる証憑(しょうひょう)書類のデジタル保存サービスなどのICTを一挙に導入した。従業員の意見を聞きながら自社の業務の進め方に合うように調整し、試行期間を設けた上で2022年9月から本格的な活用を開始。同時に社外で仕事がしやすいようにデスクトップパソコンをノートパソコンに切り替えて従業員に配布した。

クラウドストレージには装置の図面、過去の見積もりのデータ、装置のカタログなど様々な資料を収容し、アクセス権限を設定する一部を除いて従業員全員で共有できるようにした。「社内で一番デジタルが苦手そうに見える私が率先してICTを活用する意思表示をすることで、ベテラン従業員の意識を変えていきました」と鈴木社長。

手間が減ることで業務が円滑に

クラウドストレージサービス活用の効果は数ヶ月で早速現れた。以前は取引先に装置の設置やメンテナンスに出向いた際に、現場で当初想定していなかった図面が必要になった場合、一度本社に戻って出直さなければならなかった。現在はノートパソコンからクラウドストレージに保存している資料にアクセスできるので、その場で対応することが可能になった。

訪問先で新しい装置の説明をする際も顧客の要望を聞いた上で、ノートパソコンでカタログのデータを呼び出して見てもらうことができるので、大量の資料を持ち運びする必要もなくなった。本社で勤務する従業員も現場からの電話での問い合わせが減って作業中の手が止まる回数が減ったことで、以前より円滑に事務処理ができるようになったという。

仕事の進め方をアナログからデジタルに大転換。経営者の積極姿勢がベテラン従業員を牽引 静岡水工(静岡県)
水処理関連の備品などが並ぶ静岡水工の倉庫の様子

ICTを積極的に活用する従業員は事務作業の時間が半分から3分の1に

紙文書で回覧してハンコで承認していた見積、発注、請求などの業務もデジタル化によって電子決裁が可能になった。「私自身が電子決裁の恩恵を最も受けているように思います。以前は営業などで社外に出ている間は承認作業ができず、会社に戻ってからまとめて処理していました。電子決裁にしたことで社外にいても空いた時間にその都度処理できるようになり、仕事がスムーズに回るようになりました。積極的にICTを活用する従業員は、以前の半分から3分の1程度の時間で事務作業を処理できるようになりました」と鈴木社長は話した。

2023年の1月から3月は物価高の影響を受けた価格の改定を取引先に説明しなければならなかったこともあって例年以上に仕事が立て込んでいたが、業務の効率化が進んでいたおかげで大きな負担を感じることなく乗り切ることができたという。

実際に使いながらICTの習熟を図る

ICTを導入してすぐに使いこなすことができない従業員がいることは最初から想定していたので、長い目で見るようにしている。「長い間なじんでいた仕事の進め方が変わることに不安を感じる気持ちは、私自身が一番よくわかります。上手に活用している従業員を参考に、実際に使いながら慣れていってくれればと思っています。必ずうまく使えるようになれると信じています」と鈴木社長。従業員がストレスを感じることなくICTを活用できる環境を整えていきたいという。

鈴木社長はICTが経営に必要な会社の全体像を把握する上でも非常に役立っていると実感している。業務効率化によって生まれた時間は、会社全体で取引先とのコミュニケーションや新規事業の考案といった人間だからこそできる創造的な仕事に振り向けていきたいという。

営業会議を使ってデジタル化推進&活用の意見を出し合う

会社全体のデジタル化推進については、月1回の営業会議で、ICTを積極的に活用している従業員を中心に全員で意見を出し合って方針を決めるようにしている。今後、従業員が1週間に1回提出している業務報告書も紙からデジタルに切り替える方針だ。社内文書のデジタル化を進めることでペーパーレス化を進め、検索機能を活用して必要な資料を探す時間も短縮していきたいという。

リアルとデジタルのいいとこ取りで営業活動

業務のデジタル化を進める一方、対面で相手の顔を見て行う営業スタイルもこれまで通り重視していく。「事前の簡単な打ち合わせなどにオンラインを活用して、訪問した時のコミュニケーションをより一層深掘りできるようにしたいですね。リアルな営業活動とWeb会議システムをバランスよく使って、双方のいいとこ取りをしていくつもりです」と鈴木社長は話した。

仕事の進め方をアナログからデジタルに大転換。経営者の積極姿勢がベテラン従業員を牽引 静岡水工(静岡県)
静岡水工の本社前の看板

「少しずつ歯車がうまく回り始めていますが、ICTの活用はようやくスタートラインに立った状態で、まだまだこれからと思っています。業務のデジタル化が会社全体に浸透していけばさらに相乗効果を生み出せるはずです。中小企業だからこそ、変化をもたらすDXに取り組む意義は大きいと思っています」と話す鈴木社長。外部の専門家に意見を聞いて更なる新しいICTの導入も検討していきたいという。

近年、静岡水工は若手の採用に力を入れている。しっかりとしたマニュアルを作ってICTを活用することで、効果的に知識や技術を継承していきたいという。「中小企業が若い人材に注目してもらう上でも、ICTを活用する姿勢を打ち出すことは重要と考えています。 次の世代にしっかりとバトンを渡して、長い間継続していく会社にしていきたい」と鈴木社長はその視線を未来に向けている。

仕事の進め方をアナログからデジタルに大転換。経営者の積極姿勢がベテラン従業員を牽引 静岡水工(静岡県)
静岡水工の本社の外観

ベテラン従業員が多い中で着実にICTの活用を進める静岡水工の取り組みは、中小企業のデジタル化を推進する上でのモデルケースの一つになるはずだ。

企業概要

会社名静岡水工株式会社
本社静岡県静岡市駿河区敷地1丁目26番8号
HPhttps://www.shizuoka-suiko.co.jp
電話054-237-6001
設立1971年9月
従業員数13人
事業内容水処理機器、水処理薬品の卸売、設備工事、保守サービス