メディアでたびたびその名があがる「メタバース」。ゲームのイメージが強い一方、実はゲーム以外にも多様なジャンルでメタバースは活用され始めています。 今回は市場規模の拡大が期待されるメタバースの概要や活用方法などを解説します。メタバースは金融業界とも関わりが深くなる可能性が大いにあるので、メタバースについて詳しく学んでみませんか?
目次
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メタバースとは|新たなビジネスチャンスが眠る、3次元仮想空間
メタバースは注目され始めてから間がなく、明確な定義はまだありません。ですが、一般的にはメタバースとは、次のように理解され始めています。
・複数の3次元仮想世界が繋がるネットワークを指す
・そこでは仮想的な分身”アバター”を用いて人々が相互に触れ合い、影響し合うことができる
・社会的なつながりが形成されるがゆえに、新たなビジネスが生まれる
例えば、東京渋谷区公認のプロジェクトであり、渋谷の街を仮想空間内に再現した「バーチャル渋谷」もメタバースの一つです。バーチャル渋谷ではアバターを介して街を散策したり、各種イベントに参加したりできます。
また映画「サマーウォーズ」やバトルロイヤルゲーム「フォートナイト」、3D仮想空間サービス「セカンドライフ」で描かれる仮想空間の世界というとイメージが湧く人もいるのではないでしょうか。
もし「バーチャル渋谷」から、サマーウォーズの舞台である「OZ」に行けたら?フォートナイトでスカイダイブしたらそこが「バーチャル渋谷」だったら?誰もがワクワクする、そんな期待感が、メタバースという言葉にはあり、多くの人が語っています。
それだけに理解が難しい概念になってしまっているのが実情でしょう。
本稿ではメタバースと一緒に語られることが多い、Web3との関係性、金融への期待が生まれる理由に触れながら、いち早く始まったいくつかの事例も紹介し、メタバースを紐解いていきます。
メタバースが注目される3つの理由
2021年10月、米Facebookが社名を「Meta(メタ)」に変更したことをきっかけに、メタバースがよくメディアで取り上げられるようになりました。
ではなぜ、Facebookが社名変更をしてまでメタバースに力を入れる姿勢を示したのか。ここでは世界がメタバースを注目する理由を押さえておきましょう。
ネットワークや情報処理デバイスの進化|メタル回線と3G→光と5G
3Gから5Gへの進化及びスマートフォンなど端末の処理能力の進化がメタバースを人々が楽しく簡単に使える段階へと引き上げています。
逆にこれまでは多くの人が楽しめるメタバースはごく限られていました。例えば、2007年に初期のメタバースとも言える「セカンドライフ」の日本版がリリースされました。当時、初代iPhoneが発売されていましたが、みんなが接続すると3G携帯網は悲鳴をあげていましたね。スマホで動く3Dアプリはまだ影も形もなく、有線インターネットはやっとブロードバンドが普及したばかりの頃です。仮想空間には、まだ性能の高いPCを使わなければログインすらできず、セカンドライフは限られた人しか体験することができませんでした。
つまり、当時は“遅いネットワーク、かつ処理能力の低いデバイスしかないという環境下では、多くのユーザーが満足できるほどのメタバースを提供できなかった”と言えるのです。当時と現在との違いで大事なことは、より進んだ技術が普及し、多くの人が利用可能になったという点です。
3Gから4G(LTE)、4Gから5Gへは、少しずつの進化でしかありませんでしたが、5Gネットワークと今の進んだ技術や端末を利用できる現在は、少なくとも3Gよりははるかに豊かな表現ができるようになりました。気がつけば多くのユーザーのスマホ上で3Dのウマ娘がバリバリ走り回り、ポケモンが派手な技を繰り広げる時代に進化したのです。
ブロックチェーン技術の進化がみつけた新しい役割|Web3
注目を集めるようになってからわずか数年ですが、その存在意義・役割を探し続け、飛躍的な進化を遂げてきたのがブロックチェーン技術です。現在では、分散化や取引、合意形成に役立つ特徴がより際立ってきました。
例えば、昨年来急速に話題になったNFT。NFTとは「非代替性トークン(Non-Fungible Token)」と訳され、ブロックチェーン技術を用いて、デジタルコンテンツの唯一性を証明することができる仕組みのことです。現物と異なりデジタルコンテンツは複製が容易です。しかし、例えば有名アーティストが制作したデジタルアートもNFTを用いることで、“コピー品ではなく有名アーティストが制作した本物”であることを証明し、唯一性を証明することができるようになります。
ではそんなNFTとメタバースとの関係はどうなのか。メタバース内で人が集まり交流が生まれると、そこにさまざまな交換取引(経済活動)が生まれます。例えば、“Aさんが作ったアバターの衣装とBさんが持っているデジタルアートを交換する”なんて取引もあるかもしれません。そんなメタバース内での交換取引活用に期待されているのがNFTなのです。
実際にNFTを活用したゲームの世界では、ゲーム内におけるインセンティブを担保する役割を果たし、大きな注目を集めています。サッカーゲームにその年デビューした選手がシーズン中に大活躍すれば、トレードシーズンには多くのチームオーナーがより高額の移籍金を提示することで、その活躍選手の年棒相場が形成されます。
こうしたデジタル世界での合意形成や価値の交換という新しい役割が「Web3」という言葉で総称されるようになりつつあります。Web3がメタバース内での交換取引という役目を果たす側面は大いにあり、人々は“Web3がメタバースの発展に寄与するのではないか”と注目しているのです。
コロナ禍|リモートコミュニケーション需要の拡大
コロナ禍によるリモートコミュニケーション需要の拡大が、メタバースに注目が集まる大きなきっかけになったことは間違いありません。コロナ禍では不要不急の外出自粛や緊急事態宣言(ロックダウン)が世界中で実施され、会いたい人に直接会えない状況が長らく続いていました。
こうしたFace to Faceなコミュニケーションが制限されるコロナ禍において、人々のなかには、少しでも“リアルにコミュニケーションを取りたい”という需要が生まれたのです。
そして、その需要を満たしてくれる一つのツールこそが、メタバースです。アバターを介して、3D仮想空間内であたかもそこにいるかのような感覚でコミュニケーションを取りたい!そんな需要がデジタル企業の新しいサービスや商品の開発を加速させているのです。3D空間を認識したり操作したりするサービスやデジタルデバイスは、これからも続々と発表されることでしょう。
メタバースと金融への期待|取引=価値交換について
メタバース内でのデジタル商品に限らず、三越伊勢丹やBEAMS(ビームス)のように“リアルな”商品を仮想空間内で販売するケースもあります。Amazonや楽天などを用いたネットショッピングは一般化したと言えるでしょうが、メタバース内でのリアルな商品のショッピングも普及していく可能性は十分考えられます。
さて、経済活動=モノやサービスの売買を行うにあたっては、現実世界の法定通貨・日本円のように価値交換のツールが必要です。現状では日本円をメタバース内で交換できるポイントと交換して、経済活動を行っています(要は、課金をしてゲーム内で使えるポイントと交換してガチャを引く“スマホゲーム”と同じ要領ですね)。
スマホゲーム内取引は、現行の資金決済法に則り、前払式支払手段や資金移動業といった仕組みで保護されています。しかし、暗号資産(暗号通貨)での取引はまだ一部の人に限られており、広く一般の人に知られた手段とは言えません。多くの人が使うようになり、新しく登場してくるメタバースでは、また違った手段や法律が必要になるかもしれませんね。
こうした状況に世界中の管轄当局や中央銀行はもちろん気が付いており、研究を重ねています。今後、より安心して広く一般の人が使いやすいデジタル通貨や、ごく普通の一般の人を保護できる法律が登場してくるでしょう。メタバースの発展とともに、こうした動きにも注目していくことが、必要かつ重要になります。
【企業の実例】メタバースの活用方法
具体的にどのように企業がメタバースをビジネスとして活用しているのか、ここではメタバースの活用方法を見ていきます。
ゲーム|エンターテイメントの可能性拡大
メタバースといったら、ゲームをイメージする人も少なくないでしょう。多くの3Dゲームではカスタマイズを施した自分自身のアバターを使って、複数のプレイヤーと一緒にゲームを楽しむことができます。
例えば、有名なのが、バトルロイヤルゲーム「FORTNITE(フォートナイト)」です。同ゲームではユーザーは、ほかのプレイヤーとチームを組んで相手チームと戦ったり、自分自身で島やゲームを作ったりすることができ、世界中で人気を博しています。FORTNITEの登録者数は全世界で3億5000万人いると言われており、これだけ多くの人が集まる“場”であることから、メタバースの文脈で最も注目されているゲームと言えるでしょう。
FORTNITEは日本でもたくさんの人がプレイしている“場”であることに着目し、シンガーソングライターの米津玄師氏がバーチャルイベントをしたことでも話題になりました。同イベントではFORTNITE内の会場の巨大スクリーンで米津玄師氏の映像が配信される演出があったのです。
想像してみてください。米津玄師氏が歌う巨大スクリーンの前で、数百のアバターが思い思いにはしゃぎまわる姿を。ほかのユーザーと同じ空間でその瞬間の盛り上がりを共有できる・・・そんなエンターテインメントの可能性を広げる力を感じさせますね。
また、米津玄師氏とのコラボは「子供がいつもやっているゲーム内で親の好きなアーティストがライブをやる」「コアなファンがやったことのないゲーム内のライブ情報を知る」など、ゲームとライブの相互集客効果もあったことでしょう。少なくともFORTNITEにとってよい宣伝効果があったことは間違いないですね。
バーチャル商談|円滑なビジネス
メタバース内でバーチャル商談を行えるメタバースは、円滑なビジネスの実現にも寄与します。例えば、トヨタ自動車は、メタバース内にショールームを再現しています。リアルなディーラーの店舗は面積が限られていたり、展示車両数の関係でトヨタの全車種を用意するのは難しいでしょう。仮想空間ならそれも可能になりそうです。トヨタはほかにも、仮想オフィスで開発会議を実施する、といった活用をもしています。
また、米国の銀行大手JPモルガン・チェースはメタバース「ディセントラランド(Decentraland)」に金融機関としてはいち早く仮想店舗を設け、話題になりました。同仮想店舗では専門家に仮想通貨市場について相談をすることができます。このようなメタバース内でのビジネス活動が今後活発化する可能性は十分考えられますね。
【期待の分野】金融業界|リアルとバーチャルをつなぐ経済圏
メタバースは金融業界でも活用されています。
例えば、チャレンジャーバンク※の「Zelf」は、多くのゲーマーが利用するコミュニケーションツール「Discord」を通じて銀行取引サービスを提供しています。同サービスを使えば、例えばユーザーはDiscordから送金・受取ができたり、Discordを使ってゲームアイテムの売買ができます。ユーザーはアイテムをDiscord内で売買しつつ、作戦会議もすることができますね。
日本でも日本銀行の黒田総裁が2022年3月に開催された、フィンテック等に関するシンポジウム「FIN/SUM 2022」において“メタバース”に言及するなど、リアルとバーチャルをつなぐ経済圏としてのメタバースの存在感は日本においてもますます注目を集めることでしょう。
※チャレンジャーバンク:銀行免許を取得し金融サービスを提供する事業者
メタバースに取り組むメリット
メタバースに取り組むことによって、企業はビジネスの可能性を広げることができるのでしょうか?具体的にどのような可能性が生まれるのか。ここではメタバースに取り組むメリットを2点解説します。
ニューノーマルな働き方の確立
メタバースに取り組むことで、リアルなオフィスでの働き方では実現し得なかった、環境にとらわれないニューノーマルな働き方を実現することができます。
リアルなオフィスでは隣に座っている同僚に気軽に声を掛けてちょっとした相談もできましたが、自宅でSlackやZoomを用いて行うリモートワークをする場合はそうはいきません。一方、メタバース内のバーチャルオフィスであれば、同僚のアバターに話し掛けられるなど、リアルなオフィスでのやり取りに近いコミュニケーションができるようになります。
このようにこれまで実現できなかったコミュニケーションを可能にするという意味で、メタバースはニューノーマルな働き方を実現するツールと言えるでしょう。
非現実的な体験を提供できる
メタバースは、ユーザーに非現実的な体験を提供することができます。例えば伊勢丹の仮想都市プラットフォームアプリ「REV WORLDS」では、舞台・仮想新宿にて仮想伊勢丹新宿店が営業しています。同アプリのメタバース内では、東京都三鷹市の小学生がデザインしたファッションを身につけたアバターによるランウエイショーを実施しました。リアルな店舗では利益面から決して実現されない企画と言えるのではないでしょうか。
また伊勢丹側としては、“在庫リスク・流通コストがないために、これまで起用が難しかった若手デザイナーがチャレンジする場としても活用できる”という思惑も企画段階ではあったようです。こうしたメタバースだからこそ実現できる非現実的な体験の提供は、ユーザーとの関係構築にも寄与することでしょう。
メタバースに取り組む注意点
続いて、企業がメタバースに取り組む際に注意すべき点について解説します。
法的リスクが明確ではない
2022年5月時点で、メタバースに関する法整備はこれから着手される段階で、法的リスクが明確ではありません。そのため、今後政府や各省庁の動向や法整備の動きをよくチェックしておくことが重要です。 またメタバースを活用したビジネス展開をするにあたり、現時点で施行されている次のような抵触する恐れのある法律は守る必要があります。
・著作権 ・消費者保護法 ・資金決済に関する法律(とくにプリペイドカードといった前払式支払手段について)など
ビジネス分野で活用した前例が少ない
メタバースは、これからさまざまなビジネスチャンスを生む可能性があります。一方、ビジネスとして活用している企業・事例が少ないのが現状です。メタバースをやろうにも“どこの業者のどのプラットフォームを利用すれば良いのかわからない”という壁にぶつかる可能性は大いにあることでしょう。
前例が少ないのはどうしようもないことです。そのため、自社ユーザーが何を求めているのかを見極めて、需要の高いメタバース関連サービスを提供できるようにより注力することが求められるといえるでしょう。
ただし、見方を変えれば前例が少ない分、成功すれば他社に先駆けて成功事例を作れるということでもありますよね。
メタバースへの社会の期待値と今後
Web3や技術の進化などメタバースが普及する条件が整いつつある現在、メタバースへの期待値は非常に高いと言えます。例えば、JPモルガン・チェースは今後数年間で、メタバースによってもたらされる市場機会は年間収益で1兆ドル(日本円で130兆円)以上になるというレポートも発行しています。(※1)
※1:Opportunities in the metaverse|J.PMorgan
また今後は、メタバースと現実世界がよりリンクする世界になっていく可能性も期待されます。例えば、同窓会の会場としてメタバース内の街・ランドマークが使われるのも面白いでしょう。中学時代に修学旅行でスカイツリーに行った、という方もいるでしょう。メタバース内に構築された仮想東京スカイツリーで、同級生たちと当時の思い出話をしたり、買い物をしながら散策したりするのも楽しそうですね。
同窓会といえば、Facebook。社名変更したMETAはそんな未来を狙っているのではないでしょうか?
こうしたメタバースの普及により発生する、ショッピングやアイテム購入などの経済活動には金融機関の力が欠かせません。メタバースの普及は金融機関の活躍の幅を広げる機会になる可能性は大いにあるのではないでしょうか。
※本記事の内容には「Octo Knot」独自の見解が含まれており、執筆者および協力いただいた方が所属する会社・団体の意見を代表するものではありません。