スマートフォンの普及やコロナ禍における顧客とのコミュニケーションのあり方が見直されている中、金融業界においても顧客体験を向上させるため、AR・VR・MR技術を用いたサービスの提供に期待が高まっています。この記事では、AR・VR・MRでできることや主な活用シーン、それぞれの違いについて整理してみました。また、国内外の金融機関におけるAR・VR・MRの活用事例についても紹介します。
目次
「Now in vogue」は、ちょっと気になる世の中のトレンドや、話題の流行語などについて、少しライトな内容でお届けする企画です。
ARとは?
ARとは「Augmented Reality(拡張現実)」の略で、実際の映像に現実には存在しないものを見せる技術です。ここでは、ARでできることとタイプ別の活用シーンについて見ていきましょう。
ARでできること
ARは、スマホなどのカメラで映し出された実際の映像にCG画像や動画を合成し、仮想のものを持ってくることで、現実世界に新しい空間をつくり出します。話題になったのが、ゲームアプリの「ポケモンGO」です。現実世界にポケモンがいるように表示され、捕まえることができます。また、家具大手IKEAのアプリでは、商品を実際部屋に置いたかのような体験もでき、お部屋に家具のサイズやイメージが合うか、確認できるようになりました。
ARの主なタイプと活用シーン
ARは認識方法などにより、主に次の3タイプに分けられます。
- ロケーションベースAR:GPSによって位置情報を取得し、ARコンテンツを表示します。カーナビや観光情報アプリなどに活用されています。
- ビジョンベースAR:特定のマーカー、またはイラストや製品などの画像を認識して、ARコンテンツを表示させることが可能です。広告や商品プロモーションなどに活用できます。
- SLAM(スラム:Simultaneously Localization and Mapping):カメラに映し出される映像をもとに、自己位置を推定し、周辺地図を作成できます。
VRとは?
VRとは「Virtual Reality」の略で、「仮想現実」と訳されたり、そのままバーチャルリアリティという言葉で使われたりします。VRは存在しない仮想の世界を体験できる技術です。VRでできることとタイプ別の活用シーンについて見ていきましょう。
VRでできること
VR専用のゴーグルを装着すると、視界が360度別の世界に覆われ、まるでその空間にいるかのような感覚を得られます。例えば、宇宙遊泳や有名地への観光などの仮想体験ができます。近年では、リモコン操作でモノを動かしたり、映像内を移動できたりなど、よりリアルな体験が得られるようになりました。ゲームや音楽ライブなどエンターテイメントの利用が多いですが、不動産業・教育・医療などさまざまな業界で活用が広がっています。
最近では、FacebookがVR空間の中でアバターの姿となり、ミーティングができるサービス「Horizon Workrooms」を2021年8月に発表しました。まるで同じ空間にいるような感覚になるため、よりスムーズに仕事ができるのではないでしょうか。
VRの主なタイプと活用シーン
VRは、主に「視聴型」と「参加型」のタイプがあります。
・視聴型:流れている3D映像を見ます。どこにいても同じ環境で授業や研修を受けられる教育事業、遠隔地から治療や手術を支援できる医療事業などに活用されています。
・参加型:映像内を自由に動き回ったり、映像の中のものを触って動かしたりすることが可能です。VRゲームを始め、現地まで行かなくても体験ができる観光業や住宅販売などにも活用されています。
MRとは?
MRは「Mixed Reality」の略で、「複合現実」と訳され、ARとVRをさらに進化させた技術です。次にMRでできることや代表的な活用シーンについて見ていきましょう。
MRでできること
MRデバイスを装着することで、現実世界を3次元空間としてデジタル情報化し表示できます。その空間に架空のオブジェクトをホログラムとして投影し、それに直接触れたり、操作したりすることも可能です。
例えば、「Microsoft HoloLens」では、ヘッドセットを装着すれば、自宅や会議室などどこにいても高解像度のホログラムが投影でき、そのホログラムを回転・拡大・分解することができます。複数人でホログラムを囲みながら、コミュニケーション・議論・検討などをすることも可能です。
MRの活用シーン
MRの活用は、5Gの普及後さらに増加すると思われます。さまざまなシーンで活用が期待されていますが、ここでは2つの例を見てみましょう。
・活用シーン1:設計や試作品の立体的なホログラムを表示し、完成イメージや動作を共有しながら打ち合わせができます。建設業や製造業などでの活用が期待されています。
・活用シーン2:メーカーのコールセンターのオペレーターがMRデバイスを装着し、製品のホログラムを手で操作したり、確認したりしながら消費者に回答することができます。
【AR・VR・MR・XR】それぞれの違いは?
XRは「eXtended Reality」の略語で、AR・VR・MRなどの技術の総称です。ここでは、ARとVRの違い、ARとMRの違いを見ていきましょう。
VRとARの違い
VR | AR |
---|---|
・100パーセント仮想の世界 ・360度仮想世界に覆われるので、その世界への没入体験ができる | ・現実世界の中に仮想のデジタル情報がプラスされて見える |
VRは、100パーセント仮想の世界が見えています。一方、ARは現実世界の中に仮想のデジタル情報がプラスされて見える技術です。それぞれ、ユーザーの目の前に表示される景色が異なります。また、VRは360度仮想世界に覆われるので、その世界への没入体験ができますが、ARにはその体験ができないのも違いの1つと言えるでしょう。
ARとMRの違い
AR | MR |
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・デジタルオブジェは投影表示されるだけで、触ることはできない | ・デジタルオブジェに触れたり、操作したりできる |
ARは、現実世界に仮想のデジタル情報を表示できる点では同じです。しかし、MRのように実際にそのデジタルオブジェに触ったり、操作したりはできません。MRでは、そのデジタルオブジェにうしろから回り込んで見ることも可能です。ARとMRには、空間内に投影されたオブジェクトが三次元で把握ができるかどうかの違いがあります。
金融×XR:海外の活用事例
海外では、金融機関でも顧客体験や利便性の向上のために、積極的にXRを取り入れています。ここでは、海外の金融×XRの活用事例を紹介します。
AR:DESJARDINS BANK(カナダ)
カナダのDESJARDINS BANKは、金融商品説明にAR技術を活用しています。アプリを起動したスマホをターゲットイメージにかざすと、説明の表示や動画を見ることができます。金融商品の営業を対面ではなく、ARを活用している事例の1つです。
AR:Capital One(アメリカ)
アメリカ大手の金融機関Capital Oneは、同社の自動車ローンアプリ「Auto Navitator」でAR活用を行っています。ユーザーが年齢や収入をアプリに入力すれば仮審査が行われ、自宅から近いCapital One提携の自動車ディーラーの在庫情報が検索できます。実車して気に入った車の写真をスキャンすれば、頭金からローンの支払いプランまで提示される仕組みです。自動車購入からローンの申し込みまでをスムーズに行うことができます。
VR:DBS BANK(シンガポール)
シンガポールのDBS BANKは、香港で住宅仲介業者と提携し、住宅ローン関連サービスを展開しています。顧客はスマホ向けのアプリ「DBS Home360」を利用して、興味のある物件を内覧できます。さらには、アプリ内で住宅ローンの審査・試算・契約まで完結。住宅選びの段階で銀行ローンが組め、スムースに顧客の囲い込みができます。
MR:Citigroup(アメリカ)
アメリカのCitigroupは、「Microsoft HoloLens」を活用した株式取引システムを発表しています。このシステムでは、最新の株価情報や取引データーが、一目でわかるように視界全体に情報が配置されます。ジェスチャーや声で操作や銘柄の検索なども可能です。
これらの事例は、VRやARが無くてもリモートでできるのではと疑問に思うかもしれません。しかし、VRは没入感が高いため共感をもって耳を傾けやすく、さらに肌感覚として理解しやすい特徴があります。その結果、社内で活用する場合では、従業員の教育効果が高まったり、現場での作業がしやすくなったりといったメリットがあります。また、顧客対応に活用した場合、お客様からの好評につながるといった効果も期待できるでしょう。
金融×XR:国内の活用事例
国内の銀行では、商品販売へ結び付けた活用事例はまだ見られませんが、名刺のAR化や行員のVR研修などの活用が見られるようです。また、証券会社などではXRを活用していました。ここでは、国内銀行のARと証券会社のVRの活用事例を紹介します。
AR:琉球銀行
琉球銀行では、年賀状や名刺やポスターなどにAR技術を活用しています。「りゅうぎんAR」アプリを年賀状・名刺・ポスターにかざすと、頭取がスマホの画面上に現れ、新年挨拶やメッセージを伝えるというユーモアな活用事例です。年賀状やポスター、名刺のデザインを変更することなく、ARを活用して分かりやすくユーモラスに伝えることができます。これらは、先述したカナダの銀行例に類似している事例です。
VR:GMOクリック証券
GMOクリック証券は、既に終了してしまいましたが、VR技術をFXトレードにいち早く取り入れたスマホアプリ「GMO-FXVRトレード」をリリースしていました。このアプリを起動し、対応のVRゴーグルを装着すると、仮想空間にディーリングルームが映ります。為替チャートの拡大や縮小、通貨ペアの選択が可能です。たくさんの画面を並べて大量の情報を処理しなければならないディーリングといった場面ではとても有効な使い方でしょう。また、発注ボタンを3秒間見つめれば新規注文が実行されるなど、目線を動かすだけで取引をすることもできます。
XRの活用によってさまざまな可能性がうまれる
金融に限らない話ですが、リモートで融資の専門家が対応する、バーチャルセミナーと称して著名コンサルタントが仮想空間で講演するといった利用者接点でのXR活用も可能です。また、金融機関の従業員向けに従来ビデオで行われていた教育や研修をXRに置き換えることもできます。不動産査定では、経験の浅い従業員が現場でVR装置を装着し、リモートで経験豊かな専門家がアドバイスや査定をするといった使い方もできるでしょう。
金融×AR・VRで顧客体験の向上へ
スマートフォンの普及やコロナの影響もあり、リモートでのコミュニケーションのニーズが高まっています。XRの技術をさまざまなシーンで活用すれば、表現力豊かなコミュニケーションが図れます。今後、金融業界においても、XRによる顧客体験の向上と利便性の高いサービス提供の広がりが期待できそうですね。
※本記事の内容には「Octo Knot」独自の見解が含まれており、執筆者および協力いただいた方が所属する会社・団体の意見を代表するものではありません。