最近マーケティングの領域で注目が集まっているABM(アカウント・ベースド・マーケティング)。商品の差別化が難しいと言われる金融業界でも、マーケティングの高度化は注目度の高いテーマです。今回はABMの特徴や、従来から存在する手法との違い・活用するメリットを確認しながら、金融業界におけるABMの活用可能性について考えていきます
目次
「Now in vogue」は、ちょっと気になる世の中のトレンドや、話題の流行語などについて、少しライトな内容でお届けする企画です。
ABMとは
IT技術を使った、企業へのマーケティング手法がABMです。従来の企業へのアプローチ方法との違いも見ていきましょう。
企業単位で適切なマーケットを提供する手法
ABMとは「アカウント・ベースド・マーケティング(Account Based Marketing)」の略です。企業にアプローチするマーケティング手法で、BtoBマーケティングのひとつとされています。有力な取引団体や会社を選定し、それぞれの企業に最適なアプローチをします。
従来のマーケティング手法との違い
従来は「STP(セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング)」が多く使われてきました。顧客を年齢・性別・居住地・世帯といった属性を基準に、何通りかのセグメントに分ける手法で、ターゲットを個人や1つの企業とはみなさずに、グループ化して戦略を立てます。それに対しABMは、STPの基本的なセグメントはあるにせよ、個々のニーズに落とし込んで考えるマーケティング手法です。個別に需要を考え供給していくので、柔軟な対応が可能となります。
ITツールを活用したマーケティング
個別最適化したマーケティングには、ITの力を利用しています。従来のアプローチ方法では打ち合わせやメール、電話などを多用する必要があったため、時間的・空間的な問題で個別対応を柔軟におこなうのは難しいものがありました。収集した大量のデータをどう取り扱うのかという点も問題でした。ABMは情報収集や情報共有を円滑にするためのITツールを活用し、システマチックに活動を進めていけるのです。
ABMのメリット
話題のABMを用いたマーケティングには以下の4つのメリットがあると言われています。
・マーケティングの効率化
・企業に合わせた最適化
・追跡のしやすさ
・営業とマーケティングのスムーズな連携
マーケティングの効率化
ターゲットである対象企業が明確なので、無駄なリソースを省いて資金や人財を必要な箇所に集中でき、マーケティングの効率化につながります。
さらに、WEB上で顧客の行動を可視化できるのがメリット。例えばダウンロードした資料から、どのような分野に興味がある顧客なのかを判断できます。顧客のニーズや思考が明確化され、適切なマーケティングにつながります。幅広いマーケティングをおこなうのではなく、1つの企業に特化してアプローチできるので、このような効果が期待できます。
企業に合わせた最適化
当然のことながら、顧客は多数の企業に向けた情報よりも、個人や自社へ向けられた発信へ興味を持ちます。個々への最適なコンテンツを提供することで好印象を持たれ、良い信頼関係を築くことにつながります。IT技術を活用してそれぞれに適したサービスにカスタマイズすれば、プレミアム感も演出できます。イベントの内容やタイミングなども、顧客に合わせてプログラムを組めるようになります。
追跡のしやすさ
個々に合わせたプログラムを組むので、効果を測定しやすくなります。イベントも個々の企業に合わせるため追跡しやすく、どの程度の訴求効果があったかを明確化することで、結論を導きやすくなります。改善もしやすいため、効率良くマーケティング戦略を立てられます。データの分析結果によりPDCAを回すことで、精度の高いマーケティング施策を思案できます。
営業とマーケティングのスムーズな連携
企業内において、マーケティング部門と営業部門はそれぞれ独立しているケースもよく見受けられます。ABMの活用によって別個になっている2つの部門を連携させることで、さらなる効果を生み出すことが期待できます。
ITを使ってデータを共有することで、顧客である企業に対する理解が深まります。顧客への交渉から収益化までを一連の流れで理解することで、より効果的なマーケティング方法でアプローチできるようになります。各部門だけでなく、会社全体にとっても大きなメリットになると考えられます。
金融業界のマーケティングが抱えている問題
テクノロジーの劇的な進化は、顧客と金融業界の関係に大きな変化をもたらしました。市場の変化によって、金融機関が抱えている3つの問題点を考えてみましょう。
分断されたマーケティングデータ
顧客の選択肢の増加に伴い、行動の多様化が進んでいます。一方でマーケティング担当は、複数のチャネルやイベントなどを通じて顧客を管理しています。データ管理が顧客一人ひとりの行動を辿ったものではなく分断化されているケースでは、効果的な戦略を打ちにくくなります。個々の行動を統合してマーケティング戦略を立てることが難しくなっています。
各部門の孤立状態
部門ごとに顧客のデータを保持し、顧客と接するチャネル同士での連携が取れていないケースもあります。各部門別に活動をおこなうとなると、立ち上げた企画と重複する業務やシステムが既に社内に存在している場合があり非効率です。
顧客に施策を打つ場合、分断化されているデータを統合することに時間を取られ、マーケティングのタイミングを逃してしまう可能性もあります。スキルやノウハウも分散し、効率良くアプローチしにくいのが問題点です。
増加する予算への対応
マーケティング担当は近年予算が増加したことを実感している人が少なくありません。クリエイティブな活動だけでなく、マーケティング全体の利益率や成長率など、成果に対する責任も負う傾向にあります。短期的・長期的なマーケティング戦略を考えながら、データを駆使してアプローチに活用することで、投資の無駄を省く重要性も上がっています。
金融機関におけるABMの活用法
金融業界の問題点を理解してABMを活用すれば、顧客に対して効率の良いマーケティングが実現できるかもしれません。
データ価値の最大化
Googleの研究によると、顧客は事前の情報収集により既に買いたいものを決めているという考え方があります。つまり、事前の情報によって顧客行動が左右されます。特に金融商品はこの影響が大きいと考えられています。消費者は営業担当者と会話をしたり印象をはかったりしながら、購入前に体験談や比較材料を求める傾向が強いと言われているのです。
そこで、顧客の行動データを集め、分析してオンラインチャンネルなどでアプローチし、事前の情報提供で行動をコントロールできるようになると、高いマーケティング効果が期待できるようになるかもしれません。ITを駆使したABMなら、データを活用して顧客理解を深めることで、最適なタイミングで個々に合わせたコンテンツを顧客に提供できます。どのような訴求効果があったのかについても、データでフィードバックします。このようにABMはBtoBだけでなく、BtoCにも十分に活用ができます。
パーソナライズ化された顧客体験の提供
ABMを活用することにより、分断化されたデータをパズルのようにつなぎ合わせることができます。そして、統合したデータから個々のニーズを捉えて顧客体験を提供することで、それぞれの顧客に合ったマーケティングをおこなえるようになります。コンテンツをパーソナライズ化してニーズに合った顧客体験を実現できれば、マーケティングの効率性も高まると考えられます。
顧客起点のデジタルマーケティング
金融商品の場合、オンライン上のみでは成約につながりにくい側面があります。オンラインは顧客との接点となるツールとして使い、クロージングは店舗やオフラインで顧客と対面するような、デジタルとリアルの使い分けも重要になってきます。ABMの活用は、デジタルとリアルの融合にも役立つと言われています。例えば、オンライン上で得たデジタル情報を営業に提供することで、よりパーソナライズ化したセールス活動ができるようになります。
ABMを活用した効率的なマーケティングへ
本来BtoB領域で有効とされていたのがABMですが、ABMの考え方自体は単一の個人顧客に対しても有効なものであり、BtoC領域においても、ABMのアプローチを活用することでマーケティングの効果を上げることが期待できます。デジタル化の進展で顧客の選択肢も広がる中、今後は個々のニーズをとらえて、よりパーソラナイズ化したアプローチを仕掛けていくことが、金融領域においても重要さを増してくると考えられます。ABMの考え方を取り入れてデータ活用を高度化していくことで、より良いマーケティングのが実現できるようになるかもしれません。
※本記事の内容には「Octo Knot」独自の見解が含まれており、執筆者および協力いただいた方が所属する会社・団体の意見を代表するものではありません。