株式併合は、複数の株を統合して発行済株式数を減らすというものです。
本記事では、株式併合の仕組みや目的を整理したうえで、注意点、手続きの流れについて解説します。
株式併合とは?
株式併合とは、複数の株を1株に統合して、発行済株式数を減らす手法です。適正な株価への調整や管理コスト低減などを目的に用いられます。
例えば、現在発行している4,000株の株式について、4株を1株に株式併合すると仮定します。
この場合、4,000株あった発行済株式総数は、4,000株×1/4=1,000株に減少します。
株式数は減少するものの、株主が保有する株式の資産価値には、理論上ほとんど影響は及ばないと考えられています。なぜなら併合後の1株の価値が、併合前の複数株の価値と同等であるため、株主の総資産価値は変わらないためです。
ただし併合比率によっては、端数株や単元未満株式となるケースに注意が必要です。例えば、併合比率が1対5の場合には、5で割り切れない株数が生じます。このような端数株や単元未満株式は、一部の株主の権利を侵す可能性があるため、株主総会の特別決議が必要になります。
株式併合を行う目的
株式併合を行う主な目的として、次の3つが挙げられます。
株式の管理コスト抑制
株式が増えると株主数も増えるため、株主総会の運営や招集通知などの手続きにかかるコストが増大します。株式併合によって株式を減少させることで、株主の数も減るため、株式管理の効率化とコストや負担の軽減に有効な手段として株式併合が用いられるケースがあります。
株価を適正な水準へ調整
株価が下落していると、低位株とみなされやすく、投資判断にネガティブな影響をもたらします。また、東京証券取引所が明示している望ましい投資単位と、自社の株価が大幅に乖離している場合も考えられます。
株式併合は既存の株式の数量を減らし、代わりに単位株数を増やす手法であるため、株式の供給量が減って需要と供給のバランスを改善し、株価を適正な水準に調整することが可能になります。
少数株主対策
株式が分散すると、株主総会の開催や運営が複雑になり、円滑な進行が妨げられるケースが考えられます。また場合によっては、株主総会での決議が取り消されるリスクもあります。
こうした状況が続けば、少数株主の存在が企業の経営に悪影響を及ぼしかねません。株式併合で株式を1つにまとめると、数株の株式は1株未満の株式になります。1株未満の株式は一連の手続きを経て会社が強制的に買い取ることができます。
このように、株式併合を通じて、少数株主による影響を排除し、経営の安定化を図るために用いられる場合があります。
株式併合を行う際の注意点・デメリット
株式併合を行う際の注意点やデメリットは、主に以下の3つです。
株主の権利へ影響を及ぼす可能性がある
株式併合を実行すると、1株未満の株式が発生するケースがあります。当該株式は会社に買い取られるため対価は得られますが、株主としての権利は喪失してしまいます。
市場で購入できる上場企業の株式と異なり、非上場企業の株式を追加で購入することは困難です。つまり、株式併合を行った結果、株主としての権利を失わせたり不平等を生じさせてしまったりする可能性が発生します。
投資単価の上昇により、投資家が参入しにくくなる
前述の通り、株式併合は、株式の価値自体には影響を与えません。
例えば1株10円の株式について、4株を1株に株式併合すると仮定します。当該株式は理論上、株式併合後に1株40円(10円×4株=40円)となるはずです。
このように株式併合を行うと投資単位が上昇するため、下落した株価を適正価額にできる反面、投資単位の上昇により投資家が参入しづらくなることが考えられます。
購入しやすく人気のあった株式でも、株式併合によって高額になることで、売買しづらくなる可能性が生じます。
株式併合を行うプロセス
株式併合を行う主なプロセスについてご紹介します。
株主総会招集の決議
株式併合の実施と株主総会の招集について、取締役会を開催して決議を行う必要があります。
なお、取締役で決議された株主総会の日程によって、以後の手続きに関するスケジュールが決定されます。
株主総会の招集通知・書面等の事前備置き
取締役会で株主総会の招集が決議されたら、株主に対して招集通知を発送します。
取締役会を設置している非公開会社の場合は、株主総会の日の7日前(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)までに、株主に対してその旨を通知しなければなりません(会社法第299条1項)。
また株式併合を行う場合は、株式併合の効力発生日の20日前(端数株が生じない場合は2週間前)までに株主及びその登録株式質権者(株主名簿に載っている質権者)に対し、株主総会で決議する事項について通知する必要があります(会社法第181条1項、会社法第182条の4第3項)。
株主総会の通知と並行して、株主総会の2週間前もしくは株主への通知日の早い方から、株式併合をする旨の事前開示書面を据え置きます。
株主総会の開催・株式併合の決議
株式併合を行う場合は、株主総会での特別決議(議決権の過半数を保有する株主が出席し、そのうち議決権の3分の2以上の賛成を得ること)が必要です。
なお、株主総会では株式併合を行う理由を説明したうえで、以下の項目に関する特別決議が行われます。
- 併合の割合
- 株式併合の効力発生日
- 株式併合を行う株式の種類(種類株式を発行する会社である場合)
- 株式併合後の発行可能総株式数
株主への通知・公告
株主総会での承認を得たら、株主に対して効力発生日の20日前までに、株式併合の目的や内容・端株を買い取る旨やその買い取り価格などを記載した個別通知を行います。
反対株主の株式買取請求
株式併合によって1株未満の端数が生じてしまう場合、株式併合に反対する株主は会社に対して、自分が所有する株式のうち1株に満たない端数を、公正な価格で買い取ることを請求できます(会社法182条の4第1項)。
ただし、株式買取請求権を行使するには、株主総会までに株式併合に反対する旨を会社に通知するとともに、株主総会で株式併合に関する特別決議に反対しなければなりません(会社法182条の4第2項1号)。また株式買取請求は、株式併合の効力発生日の20日前から、効力発生日の前日までの間に行わなければなりません(会社法182条の4第4項)。
効力発生
株主は、株主総会で決議された株式併合の効力発生日をもって、効力発生日前日に所有している株式数に、株主総会で決議した併合の割合を乗じた株式数の株主となります。
なお、株主総会の決議で株式併合後の発行可能総株式数を変更した場合は、効力発生日をもって当該事項に関する定款の変更がなされたものとみなされます。
また株式併合の効力発生後は遅滞なく、必要書類を効力発生日から6ヶ月間本店に備え置くように定められています(会社法第182条の6第2項)。
また、株式併合によって端株が発生した場合の買い取りは、効力発生日以降に行われます。
株式併合の事例
最後に、株式併合が実行された事例をご紹介します。
佐渡汽船による事例(2022年)
佐渡汽船がみちのりホールディングスの子会社になる際、27万株を1株とする株式併合が行われました。佐渡汽船は2021年12月末に約30億円の債務超過の状態にあったため、経営再建を目的としたスクイーズアウトが実現しました。
双日による事例(2021年)
東京証券取引所が示す適正な投資単位へ株価を調整するため、株式併合が実施されました。
双日の株価は2021年4月28日現在で307円、投資単位は30,700 円であり、東京証券取引所の有価証券上場規程において望ましいとされる投資単位の水準である「5万円以上50万円未満」の範囲を大幅に下回っていました。
株主総会の特別決議を経て、株式併合は2021年10月1日に効力発生日を迎えました。
終わりに
株式併合を行えば、適正な株価への調整や管理コストの軽減などが期待できます。
ただし、株式併合のための手続きは複雑であり、場合によっては株主への影響も生じるため、専門家のアドバイスを受けながら慎重に進めることが大切です。
著者
M&Aマガジンは「M&A・事業承継に関する情報を、正しく・わかりやすく発信するメディア」です。中堅・中小企業経営者の課題に寄り添い、価値あるコンテンツをお届けしていきます。