企業経営を支える社員を表現する言葉には「人材」が使われるケースが多いが、「人財」という言葉と意図的に使い分けている経営者も少なくない。2つの言葉の違いについて疑問に思う人もいるだろう。

本記事では、人材と人財の言葉の意味の違いを中心に、人材の採用や配置、育成のポイントについて解説する。

目次

  1. 人材は人財、2つの意味の違いとは?
    1. 人材の意味
    2. 人財の意味
    3. 人的資本経営から見た人材とは
  2. 中小企業の人材配置のポイント
    1. 自社の組織課題を明確にする
    2. 社員の強み弱みを分析する
  3. 中小企業が人材を定着させるための育成のポイント
    1. 人材育成方針を決める
    2. スキル不足解消!リスキリングの流れに乗る
  4. 中小企業の人材採用のポイント
    1. 自社に必要な人材を見抜く
    2. 人材募集の入口は複数持つ
  5. 人材を人財にするための心得
  6. 中小企業経営者は社員=財産という意識で採用、育成し、適正に配置しよう
人材とは? 人財として活用するための育成や採用のポイントを解説
(画像=siro46/stock.adobe.com)

人材は人財、2つの意味の違いとは?

「人材」と「人財」という2つの言葉には、どのような意味の違いがあるのだろうか。辞書に示されている意味を軸に、2つの違いと、人的資本経営から見た「人材」の意味を解説する。

人材の意味

「人材」という言葉には、「才能のある人」「役に立つ人」「有能な人物」という意味があり、企業経営においては業務に従事して利益を生み出す「社員」を指すのが一般的だ。

人材と聞くとただの社員と思う経営者は少なくないだろうが、辞書には「有能な人物」と記載されているため、専門的なスキルを持って貢献をする社員も「人材」に含まれる。

人財の意味

「人財」は辞書などで明確に定義されている言葉ではないが、企業にとって財産といえる人物を指す。つまり、収益向上を目的とした事業活動に貢献する優秀な社員などを指すと捉えられるため、「人材」と言葉の意味は大きく変わらない。

ただ、人を「財産」と考えるというニュアンスが、人材という言葉を使う企業に比べて社員を大事にしているというイメージを社内外に与えやすい。

なお、Yahoo!Japanでは、人材育成と支援制度の中で「人財開発企業」であることを目標に掲げており、意図的に「人財」という言葉を用いている。

人的資本経営から見た人材とは

人的資本経営では「人材=資本」と捉えており、人材の価値を最大限に高めることが企業価値の中長期的な成長につながると考えられている。

資本とは、事業活動を行うための元手となる「資金」を指す。採用した人材を適正に配置し、研修や業務内での教育によって育成して価値を高めることが、経営目標の達成や競争力向上の源泉になるという考え方が根底にある。

中小企業の人材配置のポイント

中小企業が人材を「人財」として活用するためには、人材配置への配慮が欠かせない。人財開発につなげるための配置のポイントを2つ紹介する。

自社の組織課題を明確にする

人材配置は基本的により良い成果を生むことを目的として行うため、まずは組織レベルでの課題を明確にしなければならない。

まずは、経営目標に対する各組織の目標到達状況を確認することで、問題を抱えている組織を見出せるだろう。目標達成ができていないということはすでに何らかの問題が発生していると考えられる。達成が困難な理由を深掘りすることで、課題の見立てができる。

一見うまくいっているような組織でも社員の育成や人間関係などについて問題がないとは限らないため、管理職層やリーダー層へのヒアリングは欠かせない。

企業全体として表面化していない課題が潜んでいる可能性は非常に高いので、社員からヒアリングをするための無記名アンケートを定期的に実施するといいだろう。

社員の強み弱みを分析する

組織分析によって組織レベルの課題が明確になった後は、組織に所属する「個人(社員)」レベルでの課題を分析する必要がある。

人材配置では組織課題の解決を優先して、社員個々人の担当業務への適性で機械的に分けるのではなく、強みや弱み、他の社員との相性やバランス感覚などの見極めが大切だ。

人材育成にも関わるが、社員の強みをさらに伸ばすための配置、弱みの部分を克服するための配置など、社員が成長して人財として長期的に活躍できるような配置をするために、目的を持った分析をしなければならない。

人材配置を間違うと人財として活躍してもらうどころか、モチベーションが低下し離職につながる恐れもある。

社員自身にも考えがあるはずなので、小さな組織だからこそ異動や配置転換を行う前に個別面談を行い、お互いが納得できる形で配置を決めるといいだろう。

中小企業が人材を定着させるための育成のポイント

人材の定着には待遇や労働環境の改善、適正な人事評価の実施などによる従業員満足度の向上が必要だが、人材育成も大切な要素だ。人材育成に絞って、定着率を上げるためのポイントを解説する。

人材育成方針を決める

人材育成では、自社の育成方針という大きな枠組みを定めたうえで、社員それぞれに合わせた具体的な育成計画を立てよう。

人材育成方針は、自社にとって理想となる社員のイメージを決め、育成に関する具体的な取り組みや制度内容を示したものである。

まずは、自社の経営理念や将来的な事業目標から活躍し続けられる人財像を明らかにし、育成のベンチマークを設定することから始めるといいだろう。具体的な社員の理想像を決められないならば、ロールモデルとなる社員や管理職を選んで参考にするのが望ましい。

育成の計画は画一的にするのではなく、社員それぞれの特性を分析した上で、目標水準と具体的な育成計画を作成しよう。

スキル不足解消!リスキリングの流れに乗る

変化が激しいデジタル化社会に対応するために、社員のリスキリングにも積極的に取り組もう。

「リスキリング:Reskilling」とは、社員が職場内で求められるスキルの変化に対応していくために、これまでにない新しい知識やスキルの修得を目指すことで、学び直しの意味が強い「リカレント:Recurrent」とは意味が異なる。

企業経営では経営戦略と人材戦略の連動が欠かせない。しかし、DXが推進されているように、急激なデジタル化で求められる人材の要素が変わりつつある。人材育成の方向性も一様ではなくなったため、社員の育成方法も変化していくだろう。

中小企業が、リスキリングを自前の教育プログラムだけで実施するのは難しい。しかし、外部講師の利用、グーグルやマイクロソフトといったデジタル・プラットフォーマーが提供する通信教育など、外部リソースを活用できる。

また、リスキリングは政府も推進しており、社員が新規事業の立ち上げに必要なスキル習得を目的に職業訓練や研修などを利用した際に、受講費や期間中の賃金を一部助成する「人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)」が設立されている。

人工知能チャットボットの登場など、デジタル技術の革新はこれからも続くため、社員が人財として活躍し続けられるように、積極的にリスキリングを利用したスキルアップを促すことが大切だ。

中小企業の人材採用のポイント

人材育成や配置によって人財を育てる前段階として欠かせないのが人材採用だ。人材の活用につながる重要な人材採用のポイントを2つ紹介する。

自社に必要な人材を見抜く

中小企業の人材採用では、自社に必要な人材を見抜くための仕組みづくりが大切だ。

人手不足で悩む中小企業だからこそ、自社とミスマッチな人材を採用するのは育成において最も負担が大きい。特に、経験やスキルは優れていても人柄に難がある人材を採用すると、小さな組織の雰囲気があっという間に瓦解する恐れがある。

自社が必要とする人物像を経営者が明文化し、社内で採用方針を共有した上で、選考試験を実施することが肝要だ。

選考試験では、経営者や採用担当者の採用経験や感覚に頼った主観的な評価基準のみでの判断は避け、SPIのような学力診断と性格適性診断ができるような筆記試験を導入するのがいいだろう。

「筆記試験は当てにならない」と語る経営者や人事担当者は少なくないが、「客観性を担保するためにどう有効に活用するか」といった視点を持つことが大切だ。

人材募集の入口は複数持つ

人材を採用するためには応募者を募るのが大前提なので、応募への入口は複数準備しよう。

中小企業の人材募集方法といえば、ハローワークや就職・転職サイト、自社採用ページなどの利用が一般的だが、それだけでは必要とする人材へのアプローチが弱い。

採用までにかかるトータルコストを考慮した上で、「人材紹介(転職エージェント)」や「ダイレクトリクルーティングサービス」などの外部リソースを利用するのも一つの方法である。

人材紹介は、自社が必要とする人材を人材紹介会社に共有した上で、担当のエージェントにサービス登録者にアプローチしてもらうサービスだ。

ダイレクトリクルーティングは、サービス提供会社のデータベースに登録されている人材に、採用担当者が自らメール送信などでアプローチする採用方法である。

コストを抑えながら自社とマッチ度の高い人材を見つけたいならば、社員に友人や知人を紹介してもらう「リファラル採用」や、SNSを利用した人材募集や直接アプローチするといった方法もある。

人材を人財にするための心得

人材を人財にするためには、経営者が「人財」という言葉の重要性を認識して、積極的に発信していくことが大切だ。

人材と人財は、読み方や本質的な意味は同じで表現の違いに過ぎないが、文字にすると受ける印象が大きく異なる。人材の材は「材料」と捉えられやすく、人に冷たい印象を与えやすい。一方、人財という言葉は「人(社員)を大切にしている」という印象を誰もが持つだろう。

「名は体を表す」という言葉があり、文字には「言霊」が宿っているとも考えられている。経営者が普段から「人財」という言葉を使うことで、社員を大切な財産と捉える意識を持てるようになるだろう。

中小企業経営者は社員=財産という意識で採用、育成し、適正に配置しよう

ビジネスシーンにおいて、「人材」と「人財」はどちらも社員を表す言葉であり、「才能があり役に立つ人」「有能な人物」という意味である。

言葉の意味は同じでも、「人財」という言葉を使う経営者は社内外に社員を大切にしているというイメージを与える。

中小企業という小さい組織だからこそ、経営者は社員を財産という考えを持ち、意識的に「人財」という言葉を使って自身の意識改革を行ってほしい。

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文・隈本稔(経営・キャリアコンサルタント)

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