近年、SNSに加えてYouTubeを自社ビジネスに活用する企業が増えている。消費者の情報収集源にしてもらうべく、YouTubeを活用しようと考えている経営者もいるだろう。その一方で、どのようにYouTubeをビジネスにつなげていけばいいかわからなかったり、ノウハウがなかったりするなどさまざまな理由で実行に移せない企業もあるかもしれない。
そこで本記事では、YouTubeをビジネス活用している企業の事例を紹介するとともに、成功のためのポイントを解説する。
目次
企業にとってYouTube活用の必要性が高まっている理由
YouTubeは、いわずと知れたインターネット上で動画を配信・共有・視聴できるサービスだ。パソコンだけでなくスマホやタブレットなどの端末でも見られる利便性と相まって、利用者数および人々がYouTubeに費やす時間は増加傾向にある。しかし単に動画を見て楽しむだけではなく、情報源としてYouTubeを活用する人も多い。
これは、一度視聴した動画と相関性の高い別動画が自動的に表示されるため、ユーザーにとっては情報検索の手間が省けることが理由だ。人々の情報源は、かつてのテレビや新聞、雑誌からネット検索に移行し、現代ではYouTubeとなってきている。企業にとっても自社製品やサービスの広告媒体をYouTubeに移す必要性が高まっているといえるだろう。
YouTube利用の現状
2022年8月に総務省が公表した「令和3年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」によると、年代・性別を問わず多くの人がYouTubeを利用している。具体的に10~40代の利用率は93.2~97.7%、50代が82.5%、60代でも67%となっている。数ある動画共有・配信サービスのなかでも圧倒的な利用率の高さを誇っている。
またYouTubeの視聴に費やす時間も長い。インターネットの利用時間のうちメールの送受信、ブログやウェブサイトの作成・閲覧、SNSの利用、オンラインゲームなどといった利用時間に比べて「動画投稿・共有サービスを見る」が全年代平均で平日(平均43.3分)・休日(平均58.1分)ともに最も長くなっている。
前述したように動画共有・配信サービスのなかでもYouTubeを利用する人が圧倒的に多い。これを踏まえると、現代人は毎日1時間弱の時間をYouTubeの視聴に費やしているといっても過言ではない。利用項目別の利用時間の表からわかるように、多くの人は1日約3時間をパソコンやスマホ画面を見て過ごしている。
仕事や食事、外出、就寝といった他の行動時間を考えると、多くの人の情報収集はYouTubeの視聴時間に集約されているともいえるだろう。
YouTubeと他SNSの違い
もう一つYouTube利用の必要性を高めているのが他のSNSとの違いである。FacebookやInstagram、Twitter、Lineなど数々のSNSで公式アカウントを開設し、情報発信に努めている企業は多い。しかし情報の届きやすさがYouTubeとは大きく異なる。これは、投稿するコンテンツが文字か画像か映像かといった違いもあるが、投稿コンテンツの流れ方も異なっている。
FacebookをはじめSNSの多くは、投稿内容がタイムライン上で流れていくフロー型だ。投稿がシェアされることによって拡散、再拡散されることもあるが、ユーザーがタイミングを逃したり、スルーしたりしてしまえば情報が届きにくい。一方、YouTubeは投稿した動画が蓄積されていくストック型だ。
投稿直後に見られなかったり、投稿から期間が経過していたりしても内容がユーザーの興味関心に合っていれば視聴される。興味を引けば何度も繰り返し再生されるのも特徴だ。
YouTubeをビジネスに活用するメリット
ここまでで多くの企業にとってYouTubeを活用することの必要性をつかめたのではないだろうか。ここからは、あらためてビジネスにYouTubeを利用するメリットを確認しておこう。
自社製品・サービスを知ってもらいやすい
「百聞は一見に如かず」というが、YouTubeは映像であるため、文章や画像だけでは伝えにくい情報を伝えやすい。例えばモノであれば実際に身につけたり、使用したりしている場面を映像で流すことでサイズや質感、使い心地などをイメージしてもらいやすい。
またモノではなくても例えばコンサルティングや教育などといったサービスを提供する場合は、その人の声のトーンや説明の仕方、表情なども含めて親近感を持ってもらえるだろう。
効率よく潜在顧客へアプローチできる
YouTubeは「その動画内容に興味がある人」へ的確に動画をおすすめしてくれる独自のアルゴリズムがある。上述したように全年代を通して87.9%(2021年度)の人がYouTubeを視聴していることから、幅広い層のユーザーへ効率よくアプローチが期待できるだろう。
顧客ニーズを探りやすい
YouTubeには「チャンネルアナリティクス」という機能があり、なかでもトラフィックソースとして「ユーザーがその動画にどのようにアクセスしたか」「どのようなキーワードで検索したか」などがわかる。ニーズの把握に活用できる指標は、他にも多い。また各動画に書かれたコメントを見ることで、視聴者の反応やニーズを知る手がかりとして活用できる。
これにより商品開発・サービス改善などのヒントを得られるだろう。
YouTubeを活用している企業の事例
ここで、すでにチャンネルを解説している企業がどのようにYouTubeを活用しているのか、いくつかの事例をピックアップして見てみよう。
資生堂
資生堂は、2012年3月に企業公式チャンネルを開設。2023年5月13日時点における登録者数は約9万1,300人、再生回数は約1億5,373万回(2023年5月現在)と多い。同社各ブランドのCMや企業広告、ビューティーテクノロジーがメイン。
他にもメイク・スキンケア・キレイの基本といったHOW TOビデオや美容界の著名なプロとのトークショー、同社ビューティーコンサルトによる美容情報、メイクアップ動画など幅広い情報も紹介している。
多くのブランドを持つ同社では、各ブランドのチャンネルも開設し、そのブランド製品に興味関心を持つ特定のユーザーに向けた情報も発信中だ。
任天堂
任天堂が企業公式チャンネルを開設したのは、2013年3月。2023年5月13日現在、約257万人の登録者数を持ち、約13億7,412万回再生されている。ただしこれは、日本市場を対象にしたチャンネルで同社が事業を展開している各国で別途開設しているチャンネルを合わせるとその数は膨大だ。
ゲームは、動きのあるものだけに映像との相性が良い。同社もゲームのCMや新作・アップデートなどの発表、攻略ノウハウなどをYouTube上で数多く紹介している。また芸能人やYouTuberが実際にプレイしている動画も発信。
ゲームをしているときの表情・発言・ジャスチャーなど実際のアクションを見せることでゲームファンの心理をかき立てる仕掛けもしている。
DLE
動画広告のマーケティングサービス提供やスマホアプリの企画開発、映画・TV・ネットメディアの映像コンテンツ制作などを事業とするDLE(株式会社ディー・エル・イー)は、2008年4月に公式チャンネルを開設。2023年5月13日現在の登録者数は約21万6,000人、再生回数は約1億4,793万回となっている。
同社の事業は、BtoBだ。しかし自社が保有する「秘密結社 鷹の爪」「貝社員」などのIP・エンタメコンテンツを使ったアニメ、エンタメプロデュース映像などを投稿。動画を観た企業が動画広告・企画・製作を依頼したくなるような仕掛けとしてYouTubeをうまく活用している。
茨城県
企業ではないが、茨城県も県の魅力を伝える動画サイトとして「いばキラTV」というYouTube公式チャンネルを2006年4月から開設している。2023年5月13日現在の登録者数は約16万1,000人、再生回数は約8,044万回だ。県政情報から観光・グルメ・スポーツ・エンターテインメントまで幅広い切り口で茨城の魅力を映像で発信することで観光誘致に活用。来県者を増やし経済活性化に役立てている。
YouTube活用成功に向けたポイント
単にYouTubeでチャンネルを立ち上げて動画を発信するだけでビジネス発展につながるわけではない。ここでは、YouTubeを活用して成功するためのポイントを紹介する。
コンセプトを明確にする
まずは、コンセプトを明確にすることだ。一般的なマーケティングでも同じだが、以下のような内容に留意しよう。
- チャンネルを通して何を伝えたいのか
- 何を感じてもらいたいのか
- どのようなターゲット層に見てもらいたいか
商品が多岐にわたるなど事業内容によっては、資生堂の例のように製品ごとにチャンネルを分ける方法もある。
動画構成(台本)づくりを入念に行う
台本づくりは、入念に行うことが必要だ。初めて投稿した動画を観てくれるユーザーは、「何らかの悩みや疑問を解決したい」というニーズが潜在的にあり、たまたま動画を見つけて観てくれた場合が多い。その人の持つ疑問の解決策やヒントを動画内で提供できていれば、別の投稿にも興味を持ってもらえるはずだ。
投稿前に自己チェックをする
動画を作成したら投稿前に自己チェックをすることも大切だ。動画の仕上がり具合を見るだけでなく、タイトルやサムネイル(縮小画像)、説明文、ハッシュタグのつけ方などによってもアルゴリズムによる表示が変わってくる。他にも「法令遵守の観点で問題はないか」「YouTubeの利用規約に反していないか」などのチェックも必要だ。これらを総合的にチェックしてから投稿しよう。
投稿後に分析・改善する
投稿した後は、ユーザーの反応をチェックしよう。YouTube Studioのチャンネルアナリティクスでアクセス分析ができる。例えば以下のような内容を分析して改善につなげたい。
- 動画を最後まで観てくれたか
- どの時点で停止したか
- どの部分が繰り返し観られたか
また動画のコメントも必ず目を通しておきたい。なぜなら発信側と視聴側では、考え方が異なることもあるからだ。
YouTube活用時の注意点
最後にYouTubeを活用する際の注意点を紹介する。
再生回数にこだわりすぎない
再生回数を増やすべく次々に動画作成および投稿しようとするとクオリティの低い動画になりやすい。それよりもターゲットとしている層に役立つ情報を提供し、絶対的なファンを獲得するほうが大切だ。そもそも再生回数が伸びるまでにはある程度の時間がかかるものである。再生回数よりもユーザーに有効なコンテンツづくりにこだわろう。
法令遵守を徹底する
先述したように法令遵守を徹底することは必須だ。著作権の問題でトラブルとなることも少なくないため、関係法令や利用規約、著作権に触れていないかについては徹底的にチェックしたい。
ビジネスへの即効性を求めない
動画の内容によっては、視聴することでユーザーの悩みや疑問が解決されてしまう場合もあるだろう。そのため再生回数やファンの数が増えるがビジネスに直結しないこともある。しかし見続けるうちに徐々に自分もその製品やサービスを利用してみたいと考えるようになるケースもあるだろう。長期的な視点でコツコツと継続していくことが大切だ。
まずは1本投稿してみよう
YouTube利用人口の拡大とともに、公式チャンネルを開設して、ビジネス活用する企業も増えている。YouTubeは、音・声・動きで情報提供できる分、文章や画像だけで説明する他のSNSに比べて情報を理解してもらいやすいなどメリットは多い。視聴者から気に入ってもらうためには、いくつかのポイントや注意点を押さえておくことが必要だ。
まずは1本投稿して、ユーザーの反応をうかがってみてはいかがだろうか。