近年、企業の休廃業・解散の件数が増加傾向にあるといわれている。しかし経営者が事業を廃業する理由は、なにも「赤字経営だから」という理由ばかりではない。廃業とは、なんらかの理由によって事業をやめることを意味する。経営状態が悪化して企業が倒産の手続きをすることも廃業の一つといえるだろう。しかしなかには、企業の経営が黒字でも廃業を選ぶケースがあるのだ。

中小企業の経営者が廃業を選ぶ理由には、どのようなものがあるのだろうか。本記事では、廃業の意味や方法、廃業を回避する方法について解説する。

目次

  1. 廃業の意味や倒産・閉店との違い
    1. 廃業する際の手続き
  2. 近年は休廃業・解散の件数が増加傾向
    1. 近年における中小企業の休廃業の動向
    2. 経営者が廃業を選ぶ理由
  3. 廃業を回避する方法
    1. 従業員等自社企業の生え抜きへの承継
    2. 経営改善・事業再生
    3. 第三者承継・M&A
  4. 将来を考えて幅広い選択肢を
廃業とは? 倒産との違いや廃業を回避する方法についてわかりやすく解説
(画像=ELUTAS/stock.adobe.com)

✉️経営、事業承継・M&Aの無料相談はこちらから

廃業の意味や倒産・閉店との違い

事業をやめるという点では「倒産」「閉店」も廃業の一つといえるが、意味がそれぞれに異なる。最初に「廃業」「倒産」「閉店」の意味の違いについ確認しておこう。

廃業する際の手続き

「廃業」とは、企業の経営者や個人事業主が何らかの理由によって事業を自主的にやめることを意味する。「廃業」と並んでよく使われる言葉に「休業」「閉店」「破産」「倒産」「解散」「清算」などといった言葉があるが、意味はそれぞれに異なるため、注意したい。

・休業:事業を一時的に休止すること
法人の場合、何らかの事情があって事業継続が困難となった場合には、法人を解散しなくても休業の手続きを行うことで法人登記を残したまま一時的に事業活動を休止することができる。休業であれば業再開の目途がたったときに新たに法人を設立しなくとも再開が可能だ。

休業中は、所得が発生しないため、法人税や事業税などの納税負担を少なくできることもあり、休業の手続きをするケースは少なくない。

・閉店:店舗を閉鎖し運営をやめること
店舗数が1店舗だけの企業であれば店舗を閉鎖すれば廃業といえる。しかし複数の店舗を経営している企業の場合は、一部の店舗を閉鎖したからといっても廃業にはならない。事業縮小や事業転換などで店舗を閉店することはよくあることだ。事業継続のために店舗閉店を選ぶこともあるため、必ずしも閉店が廃業となるとは限らない。

・破産:破産法の手続きよって企業または個人の財産を処分・換金し、債権者に弁済・配当すること
破産手続きによって所有する財産がすべて処分され、換価された金銭は負債の弁済に充てられる。残った金銭があれば債権者に配当し、その後当該企業は消滅する。債権者に配当しても弁済しきれなかった債務は免責されるため、破産手続き終了後は債務を弁済する必要がない。

・倒産:借金返済や取引先への支払いができず、会社がつぶれること
法律用語として正式なものではないが、一般的に企業の資金繰りが悪化して借金返済や取引先への支払いが困難な状態となり、会社がつぶれてしまうことを意味する言葉として使われる。方法としては、私的整理や法的整理による方法があるが、債務の支払いが滞ったまま会社がつぶれることになるため、債権者や取引先に損害を与えてしまう。

・解散:会社を清算して消滅させるための手続き開始のこと
会社法第471条には、以下の解散理由が定められている。

  • 定款に定めた存続期間の満了や解散事由の発生
  • 株主総会の決議
  • 合併による会社の消滅
  • 破産手続開始決定
  • 裁判所の解散命令
  • 休眠会社のみなし解散

資金繰り悪化や業績悪化、後継者不在などを理由として解散する場合には、破産手続開始決定や株主総会決議が解散理由となる。

・清算:会社に残った資産と負債を処分する法的な手続きのこと
資産負債は、清算人が処分する。清算人は経営者や弁護士がなるのが一般的だが、定款で事前に定めた者や株主総会決議により選任された者がない場合は、清算開始による会社解散時の取締役が清算人に就任する。清算人が取引先や従業員との契約を解除し、債権回収や債務弁済などの手続きを行う。

清算の方法には、会社の債務をすべて支払うことができる場合の通常清算のほかに債務を完済できない場合の特別清算の方法がある。

✉️経営、事業承継・M&Aの無料相談はこちらから

近年は休廃業・解散の件数が増加傾向

近年、企業の休廃業・解散の件数が増加傾向にあるといわれている。企業の休廃業・解散の件数の推移をデータから確認してみよう。

近年における中小企業の休廃業の動向

中小企業庁が2023年4月に公表した「2023年版中小企業白書」にある株式会社東京商工リサーチの「2022年『休廃業・解散企業』動向調査」によると、2022年の休廃業・解散件数は4万9,625件で前年比約11.8%の増加となっている。

同じく株式会社帝国データバンクの「全国企業『休廃業・解散』動向調査(2022年)」では、2022年休廃業・解散件数は5万3,426件で前年比約 2.3%の減少となっている。株式会社東京商工リサーチと株式会社帝国データバンクのデータに差が見られるが、休廃業・解散件数が高水準で推移していることには変わりはない。

「2023年版中小企業白書」にある株式会社東京商工リサーチ「全国企業倒産状況」では、2022年の倒産件数は6,428件となっており、休廃業・解散件数は倒産件数の7倍以上の高水準で推移していることがわかる。同じく中小企業白書にある株式会社帝国データバンクの「全国企業『後継者不在率』動向調査(2022年)」によると後継者不在率は、2017年の66.5%をピークに減少傾向にある。

2022年では57.2%と調査を開始した2011年以降、初めて60%を下回った。しかし休廃業・解散企業の半数以上が黒字経営であったデータもあり、後継者不在が廃業を選ぶ大きな要因となっていることが考えられる。

経営者が廃業を選ぶ理由

経営者が廃業を選ぶ主な理由は、以下の3つが考えられる。

  • 後継者不在
  • 財務内容の悪化による経営不安
  • 資金繰り悪化による倒産懸念

・1.後継者不在
中小企業の事業承継は、親族内承継が多い傾向だ。しかし企業経営のリスクを恐れて息子など経営者の親族が後継者となることを希望しないこともある。なかには、後継者が見つからないことを理由に廃業を余儀なくされている企業もある。経営状態が悪い企業であれば、経営者のなかには「親族に同じ苦労をかけたくない」と考える者もいるだろう。

経営者の親族に事業承継するのであれば、後継者育成のために候補者に業務経験を積ませることが必要だ。また自社の社員から後継者を選ぶのであれば社内・社外への周知、経営参加など経営者としての経験を積ませることが重要となる。いずれにしても早い段階から後継者候補を決めて、後継者育成をしていかなければならない。

・2.財務内容の悪化による経営不安
経営状態の悪化により赤字体質の経営が続くと企業の財務上の負債が資産を上回り、債務超過に陥る可能性がある。企業の財務状況が債務超過となれば、金融機関から融資を受けることが困難となるだろう。資金調達に支障が生じるため、経営状態が不安定となる。経営状態が不安定な企業の後継者となるには、相当な覚悟が必要だ。

・3.資金繰り悪化による倒産懸念
資金繰りは、企業経営上最も優先すべきことの一つだ。資金繰り悪化により取引先への支払いや金融機関への返済が困難となれば、倒産の危険性が高まる。注意すべき点は、黒字経営の企業でも資金ショートを起こすと「黒字倒産」に陥ることがありえることだ。資金繰りの悪化は、売上発生から売上代金の回収までサイト、つまり現金の回収までに時間がかかることが原因となって発生する。

そのため企業は、黒字経営でも資金繰りの悪化によって倒産することがある点は押さえておきたい。資金繰り悪化の兆候があれば、取引条件を見直し、早急に資金繰りの改善に取り組むことが必要となる。

✉️経営、事業承継・M&Aの無料相談はこちらから

廃業を回避する方法

後継者不在を理由に廃業をする企業が多いが、廃業を回避する方法も検討すべきだ。廃業を回避する方法には、主に以下の3つが考えられる。

  • 従業員等自社企業の生え抜きへの承継
  • 経営改善・事業再生
  • 第三者承継・M&A

従業員等自社企業の生え抜きへの承継

事業承継は、なにも親族内承継だけではない。自社の役員や従業員などから有能な候補者を選び事業を承継することも可能である。自社企業の生え抜きなど従業員から後継者を選べば、業務に熟知しており、社内の混乱を避けることができるだろう。生え抜きであっても経営者としての経験を積ませることは必要だ。

しかし社内・社外への対応、業務の専門的な知識の有無という点では、社内の人物を後継者にするのが最も適している。

経営改善・事業再生

企業が経営難の場合は、経営改善・事業再生を図ることが必要だ。赤字体質ならば「収益力の強化」、資金繰り悪化であれば「取引先との取引条件の見直し」などで資金繰りの改善を図り、経営を安定させることが重要となる。自社努力を尽くしても経営改善が困難な場合は、金融機関での返済条件の緩和や債務減免などの支援を受ける方法も選択肢の一つだ。

また赤字部門の事業を事業譲渡で売却して売却益を黒字事業の拡大に充てるなど、M&Aによる一部事業譲渡により経営を効率化し、改善を図る方法もある。

第三者承継・M&A

M&Aによって第三者の企業に事業承継する方法は、近年中小企業においても増加している。後継者不在により廃業する企業が多いなかで、中小企業においてもM&Aの成功事例は多い。M&Aを選ぶメリットは、株式譲渡などによる売却益によって現経営者に金銭が残ることが挙げられる。相手企業(買い手)にとっても後継者教育が不要になったり比較的短期間で事業承継ができたりするなどメリットは多い。

また後継者不在が問題なだけで事業経営自体が順調であれば、売手側に良い条件で交渉することが可能となる。買い手にとっても事業を承継しただけで利益を生み出してくれる企業の価値は高く、黒字企業であるほど魅力的な企業に映るだろう。そのためM&Aで提示される金額も高額になりやすいといわれている。

✉️経営、事業承継・M&Aの無料相談はこちらから

将来を考えて幅広い選択肢を

経営者が廃業を選ぶ理由には、後継者不在、財務内容の悪化による経営不安、資金繰り悪化による倒産懸念などさまざまなことが考えられる。廃業を回避するには、自社の問題点を把握・分析し、状況に合った方法を選択し、早い段階で手を打たなければならない。将来的な経営の見通しが厳しい企業は、経営が悪化する前に廃業の選択をすることも一つの方法である。

倒産とは異なり必ずしも悪い結果ばかりではない。早期に対処することで、経営者の手元に資産を残すことも可能となるため、幅広い選択肢を持っておくとよいだろう。

✉️経営、事業承継・M&Aの無料相談はこちらから

加治 直樹
著:加治 直樹
特定社会保険労務士。1級ファイナンシャル・プランニング技能士。銀行に20年以上勤務。融資及び営業の責任者として不動産融資から住宅ローンの審査、資産運用や年金相談まで幅広く相談業務を行う。退職後、かじ社会保険労務士事務所を設立。現在は労働基準監督署で企業の労務相談や個人の労働相談を受けつつ、セミナー講師など幅広く活動中。中小企業の決算書の財務内容のアドバイス、資金調達における銀行対応までできるコンサルタントを目指す。法人個人を問わず対応可能であり、会社と従業員双方にとって良い職場をつくり、ともに成長したいと考える。
無料会員登録はこちら