新型コロナによる行動制限による売り上げ低迷や、物価高による仕入れ原価の高騰などの影響を受け、コスト削減に努めている企業経営者は多いだろう。しかしコスト削減がただの支出制限になってはいないだろうか。コスト削減は、企業経営においてどのような意味を示すかを知り、業績改善につなげることが大切だ。

そこで本記事では、コスト削減の意味や目的、具体的な削減方法を実例とあわせて紹介する。

目次

  1. コストとは?
    1. コスト削減の目的とメリット
    2. コストの種類
  2. コスト削減の注意点
  3. コスト削減の取り組みの成功事例
  4. コスト削減の方法
    1. 社内の課題と現状コストの把握
    2. コスト削減の目標設定
    3. コスト削減目標の共有・実行
    4. コスト削減の分析・改善
  5. 【工場・建設業・飲食業】事業現場別コスト削減を進めやすくするIT推進アイデア
    1. 工場(製造業)
    2. 建設業
    3. 飲食業
  6. コスト削減の目的を明確にして業績改善につなげよう
コスト削減とは? 方法や注意点、取り組み事例をわかりやすく解説
(画像=kinako/stock.adobe.com)

コストとは?

コストとは、企業活動に必要な費用である。会社の運営や業務を推進するためには、働いてくれる人や働く場所・設備などが必要だ。また業種によっては、原材料や燃料なども必要になる。他にも必要となるものは多岐にわたるが、これらにかかる費用を総称してコストと呼ぶ。会社を経営している人なら誰でも知っているはずだ。

コスト削減の目的とメリット

景気低迷や業績不振などに見舞われる際、一番にコスト削減を考える経営者も多いだろう。なぜなら売り上げが減少すれば、コストを削減することで収支バランスの崩れを改善できる可能性があるからだ。しかしコスト削減の目的は、本当にそれで良いのだろうか。NPO法人や相互会社など一部例外はあるが、本来企業は利益を得ることを主たる目的として活動するものだ。

前述した通り、コストが企業活動、つまり「利益を得るための活動に必要な費用」であるとすれば、その費用を削ることはコストの必要性に反してしまう。そうであれば効率的に利益を上げて、業績・財務体質を高めることがコスト削減の目的であるはずだ。やみくもに支出を削るのではなく、どのコストをいかに削減するかが重要である。

業務改善などで見直せる部分は見直し、ムダな部分をなくすことが本来のコスト削減だ。その結果として生産性向上や業務効率化といった経営上のメリットを期待できる。

コストの種類

ムダな部分をなくすといっても、そもそも現在の企業活動でどのようなコストが発生していくのか把握しておかなければ効果的なコスト削減にはつながらない。企業活動でかかるコストは、業種や事業内容などによってさまざまだが、ここでは主なコストの種類を挙げていく。

・人件費
給与や賞与、社会保険料、福利厚生費、退職金などである。給与は、各社の賃金規定によって異なるが、基本給や職能給、残業代、通勤手当、家族手当、家賃補助などに細分される。

・製造原価
製造業なら製造原価がかかる。製造原価は、材料費や労務費、減価償却費、消耗品費、外注費などさまざまな費用に細分される。どのような製品をどこからどこまで自社で製造するかなどでも製造原価の内訳が異なる。

・賃料・設備費
オフィスや店舗にかかる費用として賃料や設備費などがある。設備費は、事業を行うために必要な機器導入にかかる費用だ。

・広告宣伝費・販売促進費
製品やサービスの販売に関する費用には、広告宣伝費や販売促進費がある。広告宣伝費は不特定多数の人に対して宣伝する費用。販売促進費は顧客や見込み客に対する試供品やノベルティ、展示会への出店、セール時に掲示するPOPやポスターなど販売に直接的に宣伝活動をするための費用だ。

・採用・教育費など
従業員の採用や教育に関する費用が採用・教育費だ。広い意味では人件費に含まれるが、会計上は分けて考えるのが一般的である。人員募集広告や面接会場を借りる費用なども採用教育費に含まれる。

コスト削減の注意点

業績改善・財務体質強化につなげるために、ムダな費用を見直しコスト削減をするとはいえ、むやみに実行すればよいわけではない。削減するコストの種類や削減の仕方によっては、売り上げ減少など逆効果となるリスクがあるため、注意が必要だ。例えば、コスト削減に伴い製品やサービスの質が低下すると客離れが起こり売り上げにマイナスの影響を与えかねない。

また労働効率が悪くなれば現場レベルで不平不満が生じたり、従業員のモチベーションが低下したりといった可能性も考えられる。現状を改善するためのコスト削減には、多少の痛みが必要になるものだ。しかし現状やコスト削減の必要性を従業員にも理解してもらい、全社一丸となってコスト削減に努める配慮も必要である。

コスト削減の取り組みの成功事例

効果的なコスト削減を行えるよう、コスト削減に取り組み、業務・業績改善に成功している中小企業の事例をいくつか紹介しよう。

・現場に即したITツールの活用で作業時間、人為ミス、コストの削減に成功
金属プレス加工製造業のA社は、生産管理のシステム化により時間あたりの出来高や生産ラインごとの一人あたりの生産性などについて見える化を実施。これにより業務効率の改善が進み、残業手当の縮小につなげた。次いでデジタル化を間接部門にも広げ、単純作業の合理化に着手。具体的には、給与明細を電子化し、従業員のパソコンや携帯端末へ配信した。

これにより1ヵ月あたり半日分の作業時間の短縮に成功。用紙やインク、封筒、のりなどの消耗品費が削減した。同社では、IT化する際に現場の問題点や改善事項を徹底的にヒアリングしている。最終的に現場が何を望んでいるかを意識したことが成功へつながったと振り返っている。

・柔軟な働き方への対応により、優秀な人材定着、通勤手当削減に成功
サービス業のB社は、新規採用・新人育成にかかるコスト面での課題を認識し、既存社員を定着させることに注力した。社員それぞれの事情や要望を考慮し、働きやすい環境づくりに着手。この際、「社員の利益は会社の利益にもつながる」ことを全社員の意識に働きかけ、理解を得ることに注力した。

例えば、社内に乳幼児がいる場合、おむつ替えの一時的な時間ロスや、他の従業員の集中力妨害といったリスクがある。しかし子どもの病気などで急きょ欠勤となった際の業務対応などに比べると当事者を含めた会社全体での利益はより大きい。結果的に採用・育成コストや通勤費などの削減はもちろん、優秀な人材の定着、労働意欲の活性化に成功した。

コスト削減の方法

ここからは、実際にコスト削減を進めていくための方法を説明する。いくつかのステップを踏む必要があるため、手順通りに見ていこう。

社内の課題と現状コストの把握

まずは、社内の課題と現状コストを把握することから始めよう。ムダなコストを把握するには「どのコストがどれだけかかっているのか」について業務別で確認することも大切だ。ただコストは、大きく直接コストと間接コストに分けられる。このうち複数の製品やサービスにまたがる間接コストは、把握しにくい場合が多い。間接コストを把握するには、ABCという方法がある。

ABCとは「Activity Based Costing(活動基準原価計算)」の頭文字を取ったものを指す。製品やサービスごとの間接コストをアクティビティ(活動)単位に分割し、各アクティビティがどれだけ資源を消費するかを「リソース・ドライバー」で設定すればよい。

コスト削減の目標設定

現状コストを把握し削減可能なコストを確認できたあとは、削減目標を設定する。いつまでにどれくらいのコストを削減するのか、できるだけ数値で明確化させるのがポイントだ。目標を数値で提示することで従業員もコスト削減の必要性や進捗状況を理解しやすくなり、モチベーション低下も防ぎやすいだろう。

ただし目標数値が高すぎるとかえってモチベーションが低下しかねないため、注意が必要だ。目標となる数値を設定したあとは、具体的な削減方法や手段についても検討しよう。

コスト削減目標の共有・実行

コスト削減は、経営者側からのトップダウンではなく社内の全員がコスト削減意識を共有するほうが成功しやすい。削減目標およびその方法を社内で共有し実行しよう。このとき、その目標数値設定の根拠や、部署間での公平性を従業員に対してきちんと説明することが大切だ。

コスト削減の分析・改善

コスト削減の実行が始まったあとは、実際にどれくらいのコストを削減できたか期間を設定して進捗の確認・共有を行う。最初に設定した方法で効果が現れない場合には、問題点の分析が必要だ。削減手法や目標設定など改善点を見いだし修正する。コスト削減に成功するには、実行・分析・改善の反復が欠かせない。

【工場・建設業・飲食業】事業現場別コスト削減を進めやすくするIT推進アイデア

効率よくコスト削減をするためには、IT化を推進するのもおすすめだ。ここでは、すぐに取り組みができるようなコスト削減のアイデアを工場(製造業)、建設業、飲食業に分けて紹介していく。

工場(製造業)

工場(製造業)の場合、IT活用により工場内のムダをなくすことができれば、品質維持や作業効率化、生産性向上を図りながらコスト削減を推進しやすい。例えば、実績データ入力には音声認識入力技術の導入、検査仕様書などのデジタル化などで作業時間や場所のムダをなくすことも選択肢の一つだ。

音声認識入力にするとハンズフリーで自動入力され、帳票への手書きやExcel利用の場合に比べて入力や集計作業時間の削減や効率化が図れる。また検査仕様書は、バーコードやQRコードを読み取ることで仕様書が画面に表示されるようなり、管理する手間や保管場所から探して現場まで持ってくる時間の削減につながる。

工場や作業現場が複数に分かれている場合でも共有化しやすくなるため、大幅なコスト削減も期待できるだろう。

建設業

建設業では、業務管理システムの導入によりコスト削減を図りやすくなる。例えば、資料や帳票類をデータにして作業現場で必要な資料などタブレット上で確認できるようにしておけば、現場に持ち出す必要や紛失リスクをなくせるだろう。また保管や管理にかかる手間や印刷費用も削減できる。工程管理など工事に関するすべての情報をIT化してクラウド上で管理するのも効果的だ。

営業・現場・経理など各部門の進捗状況を共有できるため、情報伝達や業務効率の向上も期待できる。また「誰がどの作業をしているのか」といった現場の状況把握がしやすくなるため、作業員の安全・健康面でのリスク回避や労災防止につなげやすい。中長期的な視点からも不要なコスト削減ができそうだ。

飲食業

飲食業では、業務時間や仕入れのムダをなくすことでコスト削減を推進しやすい。そのためには、レジ業務や予約管理、仕入れ管理などのIT化がおすすめだ。すでにキャッシュレス決済を導入している飲食店は多いかもしれない。しかしこれに加えてPOSレジを導入し、レジでのやり取りデータをクラウド上で管理できるようにするとレジ業務の効率化が図れる。

また売り上げデータをパソコンやスマホ上で確認できるため、売り上げ分析もしやすい。加えて、仕入管理システムを導入すれば発注・仕入管理にかかる時間や人員を削減できる。仕入品が自動的にデータで管理されるため、入力の手間やミスを大きく減らすことができるだろう。過去分の発注実績を簡単に確認できるため、過剰発注防止や仕入れコスト削減につなげやすい。

コスト削減の目的を明確にして業績改善につなげよう

原料価格の高騰を背景にコスト削減を要される中小企業経営者は少なくない。しかしコスト削減の本来の目的は、支出を抑制するだけではなく利益の維持・改善をすることだ。やり方を間違えれば、従業員のモチベーション低下や顧客離れなど逆効果を招くリスクも考えられる。まずは、自社の課題とコスト削減目的を明確にして、今回紹介した事例や手順を参考にしながら実現に取り組んで欲しい。

續 恵美子
著:續 恵美子
ファイナンシャルプランナー(CFP®)。生命保険会社で15年働いた後、FPとしての独立を夢みて退職。その矢先に縁あり南フランスに住むことに。夢と仕事とお金の良好な関係を保つことの厳しさを自ら体験。こうした経験をもとに、生きるうえで大切な夢とお金について伝えることをミッションとして、マネー記事の執筆や家計相談などを行う。
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