「利益は出ているのに、なぜ預金口座にお金がないのか?」と疑問を抱いたことのある経営者は少なくないだろう。会社を存続させるためには、利益を出すのと同じくらい資金繰りについて知ることが大切だ。資金繰りの知識があれば、資金繰りが悪化した時も迅速に対策を講じられる。

この記事では、資金繰りの意味や悪化した時の改善方法、日頃から資金繰りの悪化を防ぐためにできることを解説する。中小企業の経営者はぜひ参考にしてほしい。

目次

  1. 資金繰りとは?
  2. 資金繰りとキャッシュフローの違い
  3. 資金繰りが厳しく倒産する中小企業は多い
  4. 中小企業の資金繰りが苦しくなる理由と改善方法
    1. 利益を出す
    2. 売掛金や未収金を回収する
    3. 過剰在庫を解消する
    4. 買掛金の支払い期限を延長する
    5. 融資や出資を受ける
  5. 資金繰り改善に役立つ「資金繰り表」の作り方
    1. 1.資金繰り表の項目を決める
    2. 2.実績と予想を入力する
    3. 3.シミュレーションする
  6. 資金繰りを改善して安定した中小企業を目指そう
資金繰りとは? キャッシュフローとの違いや資金繰り表の作り方までわかりやすく解説
(画像=ELUTAS/stock.adobe.com)

資金繰りとは?

資金繰りとは、資金の出入りを管理し、資金がショートしないようやりくりすることをいう。

顧客からの売上の入金や仕入れ先への支払い、従業員への給与支払いなど、会社の通帳では日々資金が出入りしている。このような資金の出入りを管理し、残高不足に陥らないようにするのが資金繰りだ。

ここでの資金は、主に現預金を指す。すぐに解約できない定期預金や簡単に現金化できない事務所の土地建物などの不動産、事業に必要な機械設備などは資産とされ、資金には含めない。

資金繰りとキャッシュフローの違い

資金繰りは「やりくりする」というニュアンスが強く、過去を踏まえて今後どうするかという視点が重視されている。一方キャッシュフローは、過去の資金の流れを確認して分析する際に使われることが多い。

キャッシュフローは「資金の流れ」を意味し、キャッシュフロー計算書は貸借対照表や損益計算書と並ぶ財務三表の1つだ。

資金繰りとキャッシュフローの使用例は次の通りだ。

・今後の資金繰りについて考える必要がある。
・キャッシュフローが悪化した原因は〇〇だ。

資金繰りが厳しく倒産する中小企業は多い

なぜ会社にとって資金繰りが重要なのかというと、資金繰りの悪化は倒産リスクに直結するからだ。

資金繰りの悪化とは、残高不足に陥って支払に追われている状況を指す。資金繰りの悪化を放置すると、取引先への支払いや従業員への給与支払い、金融機関への返済がままならなくなり、会社は倒産してしまう。

会社は赤字だから倒産するのではなく、資金繰りの悪化による現金のショートで倒産する。たとえ赤字が続いても、資金が潤沢にあればすぐに倒産にはいたらない。逆に黒字でも、資金繰りが悪化すれば黒字倒産してしまう。

事業を続けるには利益を出すことが大切だが、会社を存続させるには資金繰りを改善しなければならない。資金繰りは、利益を出すのと同じくらい経営者が意識しておくべき視点といえるだろう。

中小企業の資金繰りが苦しくなる理由と改善方法

利益を出すことは資金繰りの悪化防止につながるが、利益が出ていても苦しくなることがある。続いては、資金繰りが悪化する理由と改善方法を解説していく。

利益を出す

利益が赤字ならば経費が売上を上回っているため、この状況が続けば、当然会社の資金は底を尽きる。早々に赤字を改善し、利益が出るよう事業の見直しを図る必要がある。

赤字の改善には以下の2つのアプローチがある。

・売上を増やす:単価を上げる、数量を増やす
・経費を減らす:原価率を見直す、固定費を圧縮する

何が足枷となって赤字が続いているのか、経営者が分析して早急に改善策を打ち出す必要がある。

売掛金や未収金を回収する

黒字でも、売掛金の入金遅れや回収もれなどで資金繰りが悪化することがある。

特に、顧客が個人ではなく企業の場合、先に商品やサービスを提供して後日入金になるケースが多い。経費の支払いより売上の入金が遅れると資金残高が不足し、最悪の場合支払いができない事態に陥りかねない。

売掛金の入金期限を早めに設定するとともに、回収できていない売掛金をきちんと管理し、回収するまで働きかけることが大切だ。口座振替やカード決済など、決済方法を変更して回収もれを防ぐ方法もある。

過剰在庫を解消する

過剰在庫を持ち、仕入代金を支払ったものの売上にはつながっていないという状況は、早々に解消する必要がある。

過剰在庫になる主な要因には、仕入と販売それぞれに問題があるケースがある。無計画な仕入が過剰在庫につながっているなら、タイミングや量を見直す必要がある。販売計画に問題があり、本来なら売れる商品が在庫として残っているなら見直すことが大切だ。

また、理論上の在庫と実際の在庫に隔たりがあるようなら、仕入を見直したり、ロスを防ぐ工夫をしたりする必要がある。

買掛金の支払い期限を延長する

資金繰りが悪化して支払いがままならないならば、仕入先に相談して買掛金の支払い期限を延長してもらうという方法がある。

しかし、仕入先側が売掛金の回収が遅れて資金繰り悪化にもつながりかねないため、すでに資金繰りが悪化してどうしようもない時の頼みの綱とするべきだろう。

法人向けのクレジットカードを作り、1ヵ月支払いを延長するという方法もある。しかし、当然ながら将来的には支払いをする必要があるため、こちらも一時しのぎの手段といえる。

融資や出資を受ける

資金繰りが悪化した際に、金融機関から融資を受けたり投資家から出資を受けたりするという選択肢もある。

ただ金融機関や投資家も、お金が返ってくる見込みがあるから融資や出資に応じてくれるという点は理解しなければならない。融資や出資を受ける時は、返済計画や将来展望を伝えて納得してもらう必要がある。

出資というと、スタートアップ企業とベンチャーキャピタルの組み合わせをイメージするかもしれないが、最近ではクラウドファンディングを利用し、インターネットを通じて幅広い個人投資家から出資を募る選択肢もある。自社の商品やサービスに根強いファンがいるならば、想像以上の資金が集まる可能性もあるため、試してみる価値があるだろう。

資金繰り改善に役立つ「資金繰り表」の作り方

資金繰りの悪化を防ぎ、悪化した時に早めに手を打つためにも、資金繰り表の存在は欠かせない。資金繰り表は資金繰りの状況を一目で確認できる表のことで、作成すれば現在の資金残高になった理由が見えてくる。

1.資金繰り表の項目を決める

まず、日本政策金融公庫のフォーマットを参考にした資金繰り表の項目を紹介する。項目を決めてエクセルで表を作って経理に入力を頼めば、資金繰り表をいつでも確認できるだろう。

入出金の内容やピックアップしたい項目は会社ごとに異なるため、自社で使いやすいように項目を変更したり追加したりしてかまわない。表を作成する際に重要なのが、理論上の売上や経費ではなく実際の入出金をベースに項目を決めることだ。

資金繰り表の横軸は、決算期にあわせて12ヵ月分作成しておくと分かりやすい。

資金繰り表

2.実績と予想を入力する

項目を作成したら、続いては実績と予想の数値を入力していく。

まず、前月繰越金の欄には、決算書や通帳をもとに現金や預金の残高を入力する。預金をメインで管理したいなら預金だけでもかまわない。

収入や支出の欄は、すでに予定されている分を入力しておき、確定した分は実際の数値に置き換えていく。月末に翌月繰越金を出して実際の現預金残高と一致したら、1列目を「(予定)」から「(実績)」に書き換える。

こうすれば、月初の預金残高がどのような要因で月末の預金残高になったのか、一目で把握できる。翌月繰越金の推移を見れば、資金繰りの悪化にも気づきやすくなるだろう。

また、資金繰りが悪化した時も、収入や支出の項目を確認すれば、どこに要因があるかを把握できる。要因が分かれば、どのようにアプローチすべきか見えてくるはずだ。

3.シミュレーションする

資金繰り表を作って現状把握ができれば、悪化を防いだり改善するためのシミュレーションができるというメリットもある。

例えば売上高について、過去の実績や季節ごとの違いなどを反映させた予想売上高を入力しておけば、資金繰りが悪化しそうな時期をあらかじめ予測できる。

また、資金繰りが悪化して何らかの対策が必要な時に、「買掛金の支払いを1ヵ月遅らせたら」「賞与を昨年より減額したら」といった想定で数値を入力することで、資金繰りの改善が見込めるかどうかをシミュレーションできる。

さらに、資金繰り表で将来の資金繰りを予測できていると、設備投資の予定も立てやすくなるだろう。

資金繰りを改善して安定した中小企業を目指そう

「売上が減っている」「従業員が定着しない」など経営者には多くの悩みがあるが、意外と資金繰りに無頓着なまま経営している経営者も少なくない。日頃から資金繰りを意識していないと、いざ悪化した際にどのような手を打てばいいか迅速な判断ができなくなってしまう。

資金繰りが悪化して会社の存続が危ぶまれる状況に陥る前に、経営が順調な時から資金繰り表を作成し、現状把握と改善に努めることが大切だ。

資金繰り表は、一度項目を決めて従業員に入力を依頼すれば、すぐにでも作成できる。資金繰り表を作って資金の流れを見える化することで、漠然とした将来の不安が解消されるとともに、設備投資などの経営判断も自信を持って下せるようになるだろう。

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文・木崎涼

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