4月に入り、新しい期になったということで事業計画を新しく作成した方も多いのではないだろうか? ただ、一方で事業計画通りに進捗する事業というのもなかなか存在しないことは、事業責任者を長く務めたことがある方なら共通認識だろう。その理由を解説する。
延岡高校、慶應義塾大学経済学部卒業後、新卒生として米系金融機関であるシティバンク銀行入行。営業職として同期で唯一16ヶ月連続売上目標を達成。 2007年、日本の営業マーケティング活動はもっと効率的にできるという思いから営業支援・コンサルティング事業を展開する株式会社エッジコネクション創業。ワークライフバランスを保ちつつ業績を上げる様々な経営ノウハウを構築、体系化し、多くの経営者が経営に苦しむ状況を変えるべく各種ノウハウをコンサルティング業、各メディア等で発信中。1400社以上支援し、90%以上の現場にて売上アップや残業削減、創業前後の企業支援では80%以上が初年度黒字を達成。東京都中小企業振興公社や宮崎県延岡市商工会議所など各地で講師経験多数。
一般的な事業計画の落とし穴
利益=売上高-経費
当然ながら、上記の計算式は間違いではない。そして、世の中の事業計画書はこの計算式にちなんで作られていることが多い。具体的には、このような形だ。
しかし、一般的に広まっているこの形式で事業計画を作ってしまうと、絵に描いた餅になってしまう可能性が高いのである。
売上はどこからくるのか
一般的な事業計画書では、上から順に、売上高、経費、利益という順に配置される。売上高-経費=利益という計算式、つまりはお金の流れから考えると当たり前のことと思えるだろう。
しかし、時間軸で考えるとどうだろうか。経費の中には、広告費など売上が生まれる前に使われるものもあれば、受注したあとのサービス提供のための人件費もある。
つまり、経費の中には、“売上が発生する前”のものと“売上が発生した後”のものが混在しているのである。
この経費が混在した状態を放置したまま事業計画を書いてしまうと、一番上に突然、売上が記載されることになり、何の苦労もせずに売上が立つかのような事業計画になってしまう。当然、そんな事業は存在しない。
事業はマイナスからスタートする
売上を立てるためには、営業活動を行う必要がある。チラシを配る、広告を出す、営業スタッフを雇用する、テレアポ会社に委託するなどなど、これらすべての活動を行うには、お金がかかるのはおわかりだろう。新規顧客を獲得するにはお金がかかるのだ。
そして、リピーターで毎日忙しいという状況になるまで、新規顧客獲得活動をやめることはできない。
つまり、事業を立ち上げる際の時間軸で考えると、事業計画とは、新規顧客獲得のための経費を「マーケティング投資」として切り出し、マーケティング投資というマイナス項目から計画を立てなければいけないのだ。
計算式に示すと以下のようになる。
-マーケティング投資+売上高-経費=利益
この計算式が本来の事業の姿である。これを事業計画書に反映すると以下のようになる。
事業計画はこのフォーマットで、考えていくべきだ。
マーケティング投資を最初に持ってくることでわかってくること
これまで、マーケティング投資の金額を売上の10%や利益の50%などという形で「なんとなく」決めていたのではないだろうか。
マーケティング投資額が不確定ということは、そこから生まれるであろう売上も不確定となり、まさに悪循環のスタートだ。
これを防ぐために、マーケティング投資からいくらの売上が生まれるのかを以下のようにしっかり考える必要がある。
店舗系ビジネスのマーケティング投資から売上の変換式
マーケティング投資→来店客数が決定
例:50,000円で集客し、500組の来店来店客数に平均単価をかける→売上が決定
例:平均単価2000円の場合、2000円×500組=1,000,000円の売上毎月必要な経費を売上から差し引く
例:売上1,000,000円-経費(給料300,000円+家賃100,000円+光熱費30,000円+その他70,000円)
対面営業型ビジネスのマーケティング投資から売上の変換式
マーケティング投資→商談数が決定
例:15万円で集客し、10件の商談商談数に予想成約率をかける→成約数が決定
例:30%で成約する場合、10件×30%=3件の成約成約数に平均単価をかける→売上が決定
例:平均単価300,000円の場合、300,000円×3件=900,000円の売上毎月必要な経費を売上から差し引く
例:売上900,000円-経費(給料300,000円+家賃100,000円+光熱費30,000円+その他70,000円)
インターネットビジネスのマーケティング投資から売上の変換式
マーケティング投資→アクセス数が決定
例:15万円で集客し、10,000件のアクセスアクセス数に予想成約率をかける→成約数が決定
例:3%で成約する場合、10,000件×3%=300件の成約成約数に平均単価をかける→売上が決定
例:平均単価3,000円の場合、3,000円×300件=900,000円の売上毎月必要な経費を売上から差し引く
例:売上900,000円-経費(給料300,000円+家賃100,000円+光熱費30,000円+その他70,000円)
このような計算式をエクセルなどで組んでおくことをおすすめする。
「新規顧客獲得単価が80円に変わったらどうなるのか?」
「平均単価が1800円だった場合にどうなるのか?」
「広告費を10万円に上げるとどうなるのか?」
このようなシミュレーションを行うことで利益を最大化するにはどうすれば良いかかなり精緻に見通すことができる。
原因究明をするために事業計画はある
とはいえ、ここまで精緻に売上をどのように作っていくのかをシミュレーションしたとしても、その通りにいかないのが事業計画である。しかし、「売上-経費=利益」ではなく、「-マーケティング投資+売上-経費=利益」という計算式を頭に入れておくことで、なぜ計画通りにいかないのかが究明できるようになる。
例えば、店舗系ビジネスで想定通りの売上にいかない場合、
- 新規顧客獲得数が少ない(獲得単価が想定より高い)
- 平均単価が想定より低い
などといったことが予想できる。
「新規顧客獲得単価が実際は150円かかっている。どうすれば改善できるだろう?」
「平均単価が実際は2500円だ。他の項目を改善することで売上アップを狙おう」
精緻なシミュレーションを行っていれば、このように計画のズレを修正していくことができるのである。
事業開業資金の考え方
この事業計画書の考え方は、事業開業資金をより正確に見通せるようになるという効果もある。これまで説明したようなシミュレーションを繰り返し行うと、お金の収支の見通しが正確に出せるようになるはずだ。
その結果として、開業当初はそう簡単に売上が立たないということも見えてくるだろう。まさに下図のような状況だ。
このとき、赤字の4月~8月の合計額が最低限必要な事業開業資金である。なんとなく「いくらあれば足りるだろう」ではなく、どれだけのお金が入ってくるかかなりしつこくシミュレーションをした結果としてはじき出された数字であり信憑性も高い。
以上が、事業計画書の正しい作り方である。新しい事業に取り組む方は是非参考にして、絵に描いた餅になってしまう事業からは卒業してほしい。