IT技術の発展に伴い、消費者の購買行動プロセスが変化している。人材不足によって人材確保が難しくなる中で、地方の中小企業でも事業存続のためにデジタル人材の確保が必要不可欠だ。本記事では、中小企業がデジタル人材を確保するためのポイントや人材育成の方法などについて解説する。
目次
デジタル人材とは?
中小企業にとってデジタル人材はなじみがないかもしれないが、そもそもどのような人材で、なぜ必要性が高まっているのだろうか。
デジタル人材の定義
デジタル人材とは、デジタル技術を活用して新たな価値を生み出し、自社事業の存続や成長に貢献する人材のことだ。
デジタル人材の必要性が高まっている背景には、「デジタルトランスフォーメーション:DX」による経営革新が推進されていることがある。
DXは単に、IT技術を活用して業務プロセスの効率化を図るだけでなく、IoTやAI、ビッグデータなどの技術を活用して経営革新につなげることを目標としている。
日本はデジタル競争力が低く、IMDの2022年の調査によると調査対象の63ヵ国中29位と低迷しており、デジタル人材不足は深刻だ。
デジタル人材が中小企業の社内に必要な理由
DX推進といっても、自社には関係ないと思うかもしれない。しかし、市場のグローバル化やIT技術の進歩による消費者の情報収集、購買行動の変化が起きており、中小企業でも事業存続のためにDXに対応していくことが求められている。
人材採用の競合も同じ地方だけではなく全国に拡大しているため、人手不足の中で生産性を向上させるためには業務効率化のためのシステム導入も必要不可欠だ。
デジタル技術の導入や運営については、SIerや外部人材の活用でも対応はできるかもしれない。しかし、外部に委託し続けると社内でのノウハウが蓄積されず、外注コストが継続的にかかって経営を圧迫することになりかねない。
そのため、デジタル人材を新しく採用したり、社内で選定して継続的に育成したりする必要がある。
デジタル人材に求められる3つのスキル
デジタル人材は自社のDX推進に貢献する人材であり、大きく3つのスキルが求められる。
1.ハードスキル
デジタル人材にまず求められるのは、デジタル技術に関する専門的な知識とスキルである。
具体的には、ビッグデータを収集したり分析したりするデータサイエンティスト、システムの実装や保守を行うソフトウェアエンジニア、サイバー攻撃から自社のシステムを守るサイバーセキュリティといった人材が必要だ。
2.ソフトスキル
専門的なスキルを持っていても、自社のDXを促すためのプロジェクトを円滑に進めるためにはソフトスキルが必要だ。
ソフトスキルとはコミュニケーション力や問題解決能力、リーダーシップなど、他者と協調しながら仕事を進めるために欠かせないパーソナルスキルのことである。
3.自社に必要なデジタル技術を選定するスキル
自社がDXを進める上で必要となるデジタル技術の導入や全体設計を行う「ビジネスアーキテクト」としてのスキルも必要だ。
どれだけエンジニアとしてのスキルがあっても、自社の経営革新に直接つながるようなシステムを導入し運用できなければ、DXの意味がない。そのため、自社の中長期の経営目標を理解し、目標実現に必要なデジタル技術の選定能力が求められる。
中小企業でデジタル人材を育成する方法4つ
中小企業が社内でデジタル人材を選定して育成するには、大きく4つの方法がある。
1.デジタルスキルが必要な業務を任せる
デジタルリテラシーが比較的高い社員がいるならば、DXに関連する業務を担当させるという方法がある。
DX推進のシステム導入に際しては、SIerや外部人材などの専門家を利用しつつ社内担当者として育成を目指す社員を関わらせることで、運用方法などDX継続に必要なスキルの修得を促すことができるだろう。
2.外部の研修やセミナーを活用する
デジタル技術について基礎から体系的に学べる研修やセミナーの参加も有効だ。
技術革新に対応できる新しいスキルの習得を目指し、注目されているのが社員の能力開発を進める「リスキリング」である。そのような状況で、デジタル人材の育成に関する外部セミナーも充実してきている。
外部セミナーで学んだことを実際に社内業務で活用してもらえば、習熟度も高まるだろう。
厚生労働省はデジタル人材育成を促進するために、人材開発支援助成金を創設している。スキル修得のための訓練経費などの助成を受けられるので、助成対象の研修やセミナーを選べば育成コストも抑えられる。
3.関連資格の取得をサポートする
社員のデジタル技術関連の資格取得を促すために、積極的にサポートすることも大切だ。
DXに関わる各種資格を取得することは、デジタル技術についての理解を深め、専門的なスキルの習得にも役立つ。そのため、特定の資格取得者に対して報奨金を支払う、対策講座の受講費用一の部を負担するといった支援を行って、社員の自己啓発を支援することも検討しよう。
4.メンター制度の導入により社員を継続的に育成する
デジタル人材の社内育成は、次世代も考慮して継続的に行う必要がある。そのため、デジタル技術をある程度習得した人材や外部から雇用したデジタル人材をメンターにして、次の人材の育成を任せることも大切だ。
そもそも、デジタル人材が1人しかいなければ、社内システムのブラックボックス化が起こり、担当者が退職すればシステムの運用や保守などができなくなる恐れがある。
DXは複数人のチームで行うことを前提にして、技術の共有や後進の育成を継続的に行う体制を構築することが肝要だ。
中小企業がデジタル人材を採用するポイント
デジタル人材を確保するためには、中途採用やITスキルのある新卒社員を採用するといった方法もある。ここでは、デジタル人材を採用するポイントを紹介する。
自社に必要なデジタル人材を明確化する
デジタル人材の採用活動を始める前に、自社が求める人物像を明確にしなければならない。
中長期の経営戦略から目標とする組織を想定し、中途採用ならば必要な経験やスキルを有していることを優先する。新卒採用はポテンシャルも考慮した上で、基本的なITスキルやデジタルリテラシーがある人材を確保することが大切だ。
求人票で必要な人物像を具体的に記載する
人材を募集する際には、デジタル人材やその候補者を採用したいことを求人票に明記することが大切だ。自社が求める人物像や想定している業務内容はもちろん、必要な経験スキルや知識などを具体的に記載しなければならない。
大学や専門学校などへの訪問活動をする
地元採用を重視するならば、デジタル技術と関連が深い大学や専門学校などを訪問し、自社の採用活動についてアピールすることも有効だ。
自社の採用方針などを就職支援担当者に説明した上で、掲示板への求人情報掲載や説明会実施によって、学生の認知度を高めて興味を持ってもらおう。
中途採用ではダイレクトリクルーティングも活用する
中途採用を行う場合は、デジタル人材になり得る候補者に直接アプローチするダイレクトリクルーティングを活用するのもおすすめだ。
ハローワークや求人サイトへの求人情報掲載では、自社が求める人材が求人を閲覧してくれるとは限らない。その点、ダイレクトリクルーティングであれば、サービス会社が保有するデーターベースの中から、自社とマッチ度が高そうな人材に直接スカウト連絡を送ることができる。
もちろん、スカウトすれば必ず採用できるわけではなく、成功報酬など費用がかかるのが一般的なので、トータルコストを考慮してサービスを選択する必要がある。
中小企業がデジタル人材を定着させるためには
デジタル人材の採用や社内育成がうまくいったとしても、社員が離職すれば振り出しに戻ってしまう。ここでは、デジタル人材を定着させるためのポイントを解説する。
働きやすい職場づくりをする
デジタル人材の定着には、働きやすい職場環境の構築が不可欠である。
デジタル人材には専門的なスキルが必要とされるため、業務負荷がかかることが多い。ワークライフバランスに配慮し、長時間労働を防ぐための確実な労働時間の把握、フレックスタイム制やテレワークなどの柔軟な働き方の導入、メンタルヘルスチェック体制の構築など、環境や制度の整備が欠かせない。
また、中小企業に限らず離職理由の上位である「人間関係のトラブル」についても、定期的な面談や無記名の社内アンケートによる情報収集など行い、深刻化する前に対策することが大切だ。
社内評価制度を整備する
デジタル人材のような専門職に対する人事評価制度がないならば、新たに評価制度を導入したり整備したりすることも必要だ。
専門スキルが求められ、業務負荷が大きいにも関わらず、人事評価制度が曖昧で給与待遇に納得いかなければ、デジタル人材に転職を選択される可能性が高い。
そのため、目標管理制度の導入はもちろん、導入済みならば目標達成率による待遇反映のウェイトを高めるなどして、デジタル人材にとって魅力的な人事評価制度を構築する必要がある。
スキルアップの支援を継続的に行う
デジタル人材のモチベーションを高めるためにも、スキルアップの支援は継続的に行わなければならない。
変化の激しいIT技術に関する知識のアップデートはもちろん、社内でのキャリアアップに伴って必要となるマネジメントスキルの向上など、DXに関する統括者として活躍し続けられるような育成サポートが定着率の向上にもつながるだろう。
デジタル人材の確保に向け、経営課題を明確化し継続的に社員の育成をサポートしよう
DXは新規顧客開拓や人手不足解消などのために、地方の中小企業にとっても欠かせなくなりつつある。まずは、自社の経営課題を明確にした上で中長期の経営目標を定め、必要なデジタル人材の人物像を明確にすることが大切だ。
デジタル人材を確保するには外部人材の活用や中途採用が近道ではあるが、自社でノウハウを蓄積するためにも、継続的に社員を育成するサポート体制を並行して整えていくようにしよう。
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文・隈本稔(経営・キャリアコンサルタント)