ビジネスの成長を考えたとき、販売ルートを広げていくことは重要な位置づけとなる。「何を売るか」「どこで売るか」この二つの要素なくして、ビジネスは語れない。また、「何を」「どこで」を適切に紐づけることがビジネスを成功に導く上での大きな一歩となる。
どんなに良いサービスや商品を開発しても、販路を得て購入者へと届けていかなければビジネスは成り立たない。自社商品の新たな販売先を見つける「販路拡大・開拓」は、最近ではメーカーに限らず、C2Cにおいても重要となってきている。
そうした中、インターネットの普及にともない、販路拡大の手法が多様化。手軽に実践できるものも増えてきている。その分、あらゆる手法のなかで、いかに商品の性質やターゲットに合わせ、自社に合った手法を選べるかがカギとなる。
今回は、主に中小企業や個人経営者向けの販路拡大・開拓について、具体的にどういった戦略が自社に合っているのかを見極めるポイントを概説したい。まずは販路拡大に関する基礎知識を踏まえ、具体的な事例の紹介とともに販路拡大の戦略の立て方について網羅的に伝えていく。
目次
「販路拡大」とはなにか、なぜ必要なのか
「利益を増やすためには、とにかく販路を増やさなければ」といった固定観念にとらわれている人はいないだろうか。
ベンチャーなど新規ビジネスの場合は、もちろんまずは販路を獲得しなければならない。しかし、既存ビジネスの場合、販路を拡大するには、それだけのコストも必要であることから、「本当に販路拡大が必要なのか」というも考えなくてはならない。
特に中小企業の場合、やみくもに販路拡大を図った結果、販路拡大にかけた資金の大きさによる赤字やキャッシュが間に合わないなどの理由により黒字倒産といったことも想定される。また、自社商品が相場より安価で取引されている場合、販路拡大というよりは、価格の適正化によって戦略的に利益を上げていくことを考えた方が得策だろう。
利益のためにも既存ビジネスの販路拡大には慎重になる必要がある。そこを見極めるにはまず、市場調査によって自社商品の市場での位置づけを把握するという点が手始めのポイントだ。
おさえておきたい販路拡大の基本手順3ステップ
市場調査の結果を分析してみると、自社の立ち位置を再認識できるだけではなく、進むべき道や潜在マーケットが見えてくる。見えてきたニーズ次第では、いわゆる「マーケットイン」の考え方に切り替えて“ニーズを汲んだ商品・サービスにアップデートする”という策もあるだろう。
方向性が定まったら、費用対効果を加味し、どの施策が自社にとって最善であるかを見定める。これが効率的かつ効果的に販路拡大を成功させる重要なコツだ。
1.マーケティングの4Pをおさえる
「言うは易し」とはよく言うが、市場調査と一言で言ってもなかなか有益な分析結果を得るのは難しい。そんなとき、マーケティングミックス(4P)という考え方を知っていると効率が良いだろう。マーケティングの4Pとは、「Product(商品)/Price(価格)/Promotion(プロモー ション)/Place(流通)」のことを指す。
これらを組み合わせることで、マーケットでの位置づけを分析でき、販路拡大に生かすことができる。ここで重要なのは売り手ではなく買い手の視点になり、サービスの本質や価格などを見つめなおすことだ。
2.市場リサーチ・ターゲットの設定
市場調査では、既存の販売状況をリサーチし、どのような販路で、どのような人が購入するのかを把握していく。「まさかここに」というような意外性のあるマーケットを見つけることができるかもしれない。
例えば、富士フィルムが化粧品分野へ参入した事例のように、他業界へ販路を開拓するためには関連分野のみならず一見関連性がないと思える分野においても積極的に市場調査に取り組むんで見ると良いだろう。
特にITが普及した現代、消費者のトレンドはめまぐるしく変化している。想像もつかなかった市場セグメントでの需要が、突然発生することもあるだろう。
3.最適な販路を選択する
「やってみなきゃわからないから、とにかく全部やってみよう!」と、戦略もなしに手当たり次第に実践するのは、コストがかかるだけではなく、あまりに非効率といえる。あれこれと中途半端に手を出しては、正確な効果測定もできないだろう。
数ある手法の中から自社に合ったものを選び抜くことは難しいように思えるが、市場調査からきちんと段階を踏めば自ずと販路拡大のアイデアが見えてくる。これが、販売戦略の面白さであり醍醐味だ。
販路拡大における3種類の「チャネル」とは?
販路拡大においては、3つの「チャネル」を理解しておく必要がある。「チャネル」とは、商品やサービスが実際に消費者の手元に届くまでの流通経路のことで、これらを複合的に組み合わせて施策を検討するのが一般的だ。
1.コミュニケーションチャネル
商品やサービスを消費者に認知してもらい、「欲しい」と感じさせるまでの経路を「コミュニケーションチャネル」という。テレビCMなどのマスメディア広告や看板の設置など、消費者に商品の存在や魅力を知ってもらうことが主な目的となる。
2.流通チャネル
商品を、実際に消費者に届けるための経路を「流通チャネル」と呼ぶ。物流業者や卸業者、小売業などの手配がこれにあたる。
3.販売チャネル
実際に商品を消費者に購入してもらうための経路を「販売チャネル」という。小売店などの販売店の確保やECサイトの開設などがこれにあたり、近年ではポップアップストアの流行など販売チャネルの在り方も多様化している。
B2CとB2Bでは販路拡大の戦略が異なる?
B2C企業の場合
B2C企業が自社商品の認知度を上げたいとき、従来のマス広告やDMのほかにも、ネットショップやホームページなどITツールの利用が有効だ。特に近年、SNSの拡散効果による影響は大きく、拡散を狙ったキャンペーンなど、消費者に身近なITツールを駆使したセールスプロモーションに力を入れる企業も多い。
B2B企業の場合
一方で、法人相手に販路を拡大したい場合には、既存顧客からの紹介というのが今もなお一般的だ。しかしながら、取引先からの紹介は、どうしても同分野での販売チャネルに偏りがちであるため、いかに他分野に視野を広げ、自発的に取り組んでいけるかが他社との差別化にもつながる。
販路拡大でインターネットを使った5つの事例
ここからは、実際の事例を含めながら販路拡大の具体的な手法を紹介する。まずはインターネットを使ったIT的手法から紹介したい。
1.ECモールへの出店
最近では、実店舗で買えるものでもその場では買わず、「ネットで価格を下調べしてから一番安いショップで買う」という人も増えている。ネットショップは実店舗がなくても商売ができるため、コストをかけずに販路を得やすいメリットがあるほか、消費者の自由度も高いのが魅力だ。
「Amazon」「楽天市場」「Yahoo!ショッピング」といった大手ECモールへの出店をする場合、出店費用はかかるものの、信頼が得やすく、集客力があることが強みだろう。ネットでの販路拡大を検討する際には大手ECの仕組みを理解しておいて損はない。
2.自社ECサイトの作成
前述のような大手ECモールに出店する場合、出店手数料などのコストがかかるのがデメリットだ。自社のECサイトなら、規制を気にすることなく自由に販路を模索することができる。
最近ではWixやShopifyなどといった、プログラミングの専門知識がなくても手軽にショッピングサイトを構築できるCMSも増えている。一方で、自作サイトのデメリットとして、集客力の弱さがある。競合が多い商品ほど自社ECサイトで利益を上げていくのは難しい。
ただし、専門性の高い商品はその限りでない。自社サイトの独自性を売りに、消費者がファンとして定着しやすいからだ。
事例を挙げると、カニやホタテなど北海道の海鮮食品を販売する「最北の海鮮市場」は、もともと利益の7割を大手ECモールから販売していた。しかし、きめ細かい顧客サービスに尽力し顧客満足度を高めることを目的にモールからは全撤退、その後は自社サイトで利益を出し続けている。
3.ブログ、メルマガ、HPによる情報発信
ブログやメルマガで売りたい商品と関連度の高い内容を発信し、「欲しい」と思わせるように教育的に売り込むという手法もある。
まずホームページを見てくれた人の中から確度の高い顧客だけをピックアップするために、「メルマガ登録」「無料で〇〇をプレゼント」など、興味のある人が手軽にアクションできる仕掛けをつくる。これを「ダイレクトレスポンスマーケティング」と呼ぶ。
見込み客を一旦メルマガに誘導したら、いきなり商品を売り込むのではなく、だんだんと「欲しい」と思わせるように誘導することで、より成約率を高めることができるだろう。この手法に興味がある人は「プロダクトローンチ」についても理解を深めるとよいだろう。
4.SNSによる情報発信
近年普及しているSNSは、販路拡大にあたって画期的なツールだ。というのも、今やGoogleやYahoo!のサーチエンジンではなく、「InstagramやTwitterなどのSNSでまず検索をかける」という人が増えているからだ。
例えば、新商品の発売情報を発信したい場合、自社のホームページに掲載すると同時に、SNSにもアップする。「広告っぽくない」という利点もあり、拡散経路をたどることで意外な販路が見えてくるだろう。
また、SNSマーケティングの肝となるのは「いかに消費者を楽しませられるか」である。例えば、「ポッキー」がTwitterでツイート企画を実施し、「24時間に最もツイートされたブランド」として世界記録を樹立した。これを各メディアがニュースとして取り上げることで、広告費を使わずに販路を拡大した。消費者を楽しませながら販路を拡大するという最強のコスパ事例である。
このように、特にB2C企業がSNSを活用するケースでは、コストに左右されず、アイデア次第で爆発的な販路拡大を狙うことができる。
5.伸びる動画コンテンツの市場
最近では、動画を使ったマーケティング市場に注目が集まっている。YouTubeのような動画共有サイトをはじめ、「ウェビナー」「ビデオ会議」など、これまでオフラインだった営業活動などがすべてオンライン化しつつある。
例えば、YouTubeを使って販路拡大を狙う場合、自社で動画を作成するほかにも、他社の動画に広告を出稿したり、著名なユーチューバーに自社商品を紹介してもらったりといった方法がある。
グーグルジャパンの調査によると、YouTubeの世界での月間ログイン視聴者数は19億人で、日本ではおよそ6,200万人。さらに、ネット利用者の8割がYouTubeを視聴しているというデータも発表。今後間違いなく一層大きな市場となることが予測される。
販路拡大で知っておきたい「On2Off」戦略とは
インターネットを活用した販路拡大を狙うならば、「On2Off」という戦略を知っておくと便利だ。「On2Off(O2O)」は「Online to Offline」の略で、ネット検索などから、実店舗などの“オフライン”へ行動を促すWebマーケティングのひとつだ。地図アプリを通じて、積極的に店舗の認知を促すことも同施策のひとつといえよう。
ほかにも、WEBクーポンを使うために店舗へ足を運ぶなど、その情報を通じて消費者が利益を得られるパターンも多い。
O2Oのメリットは、効果測定がしやすい点である。オンラインマーケティングの多くは、その効果を測定するために、アクセス解析など専門的なITの知識が必要になるケースも多い。O2Oでは実店舗に客が持参したWebクーポンの枚数を数えればいいだけだ。ITに精通していなくとも施策の効果を把握するのは容易に可能だ。
1.見込み客向けのセミナー開催
価格を理由に購入を迷いがちな高額商品などは、安価でセミナーを開催することで新規販路を得られることがある。
「興味はあるけど購入に踏み切れない」という人がセミナーに集まるため、登壇者の手腕次第で購買につなげやすい。
2.展示会への出展
展示会や見本市は、各販売チャネルに直結する人脈を得られる機会となり、商談が前提のため、販路拡大に持っていきやすい。ただし、競合他社が同じように出展するため、いかに自社の優位性を伝えられる展示をつくるかが重要なポイントだ。また、ブースに訪れた人をデータ化し、その後のフォローも忘れてはならない。
3.ダイレクトメール
ダイレクトメールの開封率を上げるテクニックはさまざまだが、最近では紙のダイレクトメールにQRコードを入れて、誰がいつ興味をもったかをデータ化できるタイプのものも出てきている。
凝れば凝るほどコストはかかるが、メール時代でも根強いニーズを誇るダイレクトメール市場の最新動向を探ってみるのも面白いかもしれない。
販路拡大を完全オフラインで行う3つの事例
1.雑誌・新聞への記事掲載
専門誌で自社の紹介記事や広告を載せ、ニッチな分野の見込み客である読者に認知してもらうことで販路拡大を狙う方法もある。IT広告の普及にともなって掲載コストが高めに感じられるのがネックだが、「信頼を買う」と考えれば投資の価値があるかもしれない。
2.飛び込み営業・テレアポ
「飛び込み営業なんて言葉自体がもう古い」「いまどき時代遅れだ」と感じる人も多いだろう。しかし、ITツールになじみのない年代は「顔が見える付き合い」に価値を感じる場合も多々ある。
“営業”という字面になると抵抗を感じがちだが、特に小さな町工場や個人商店などを相手にする場合、一度会うだけで “困ったときに思い出してくれる”存在になれることがある。肩肘張らず、「この人の役に立とう」と心がけることで、信頼関係のもと新たな販路を生み出せるかもしれない。
ちなみに、初対面の相手に営業をかけることが苦手な人は、ぜひ「BANT条件」をヒアリングするように意識すると良い。「BANT条件」とは、「Budget(予算)」「Authority(決裁権)」「Needs(必要性)」「Timeframe(導入時期)」のことを指し、これはB2BでもB2Cでも生かせるノウハウである。交渉時に相手の確度を見極めるためにも、知っておきたい手法だ。
3.コミュニティへの参加
ビジネスコミュニティへ参加することで販路を拡大する方法もある。例えば、世界的に有名な組織「BNI」では、世界最大規模の異業種交流を目的としている。メンバー同士の信頼を深めるとともに、ビジネススキルの向上を図りながら相互にビジネスを発展させることが期待できるだろう。
販路拡大には他社や行政のサービスを活用しよう
販路拡大を支援する助成金や行政サービス
各自治体や行政では、中小企業向けに販路拡大の支援を行っている。例えば、東京都産業労働局や日本政策金融公庫では、販路拡大にかかわる経費の一部を助成するなど、国内外での販路拡大に関する相談を受け付けている。
また、都内に限らず、地方の公益財団法人でも中小企業による地域産業振興を目的として助成金などの支援を展開している。有益な行政のサービスをチェックすることも販路拡大の一助となるだろう。
コンサルティングサービスの活用
どうしても行き詰まってしまうようであれば、プロの経営コンサルタントに相談するのもひとつだ。コンサルタントを交えることにより、販路を拡大させることだけではなく、先々のマーケティング戦略までアドバイスをもらうことができる。特に海外マーケットに販路を拡大したい場合、コンサルタントは必須ともいえるだろう。
これからは海外マーケットにも注目
景気の停滞や人口の減少などによって国内市場の規模が縮小されていくなか、海外マーケットをいかに積極的に展開していけるかがこれまで以上に重要となってきている。
インド全体で5割の販売シェアを誇る自動車メーカーのスズキは、他社より10年以上も早くインド進出を果たしている。素人から見れば、よほど先を見据えていたのだろうと考えるが、同社の鈴木会長は「先見の明なんてない。本当は我々だって大手と同じように先進国に進出したかったが、先進国の中で小さなクルマを造ってほしいと言ってくれる国はどこもなく、行くところがないから仕方なくインドに行ったんだ。」と語っている。(出典:日経ものづくり-suzukiのスズキ社長の講演より抜粋)
インフラも整わない当時のインドで自動車産業を起こすことは、並大抵の苦労ではなかったはずだ。しかしながら、小型車という強みを生かした潜在ニーズを捉え、海外展開を諦めなかった“スズキ”の視点は見事というより他にない。、困難さえもユーモアに変えてしまう鈴木社長、多くの経営者に対して成功にしかるべき姿勢や希望を与えてくれるのではないだろうか。
海外進出には、言葉の壁や文化の違い、通関など多くのハードルが伴う。だからこそ、広い世界を見渡せば、いまだ眠る大きな潜在市場に出会えるかもしれないのだ。