人手不足で従業員の新規採用に苦労する企業が多いなか、特に「中小企業は採用が難しい」といわれる。しかし中小企業でもまったく手を打てないわけではない。中小企業に人が集まらない理由には、必ず原因があるため、対策を講じることが必要だ。

中小企業で採用が難しいといわれる原因や理由とその対策、採用計画の立て方などについて解説する。

目次

  1. なぜ中小企業の採用が難しいのか
    1. 知名度がほとんどない
    2. 採用のノウハウがない
    3. 自社の特徴・優位性がない
  2. 中小企業が採用で取るべき対策
    1. 企業の特徴をアピールする
    2. ホームページやSNSの情報を充実させる
    3. 採用のノウハウを蓄積する
  3. 採用計画を立てて企業が求める人物像を具体化する
    1. 通常の採用活動(オーディション型の人材採用プロモーション)
    2. スカウト型の人材採用プロモーション
  4. 人材採用のプロモーションを使い分ける
中小企業の採用難はアピール不足だから? 採用計画のポイントを解説
(画像=diy13/stock.adobe.com)

なぜ中小企業の採用が難しいのか

多くの人材会社などで新卒者の就職企業の希望ランキングを見ることができる。しかしその人気ランキングの上位を占めるのは、誰でも知っているような大手企業ばかりだ。中小企業が新卒の従業員を採用するには、地元地域に基盤があり高校や専門学校などでの採用実績があるケースなどと限定され、従業員を新卒で採用するのに苦労する。

中小企業の採用が難しいといわれる主な理由は、以下の3つだ。

  1. 知名度・優位性がない
  2. 採用のノウハウがない
  3. 自社の特徴・優位性がない

知名度がほとんどない

ニュースなどで発表される就職企業の人気ランキングを見ると、上位は上場企業などのテレビCMなどでよく見かける企業ばかりだ。莫大な広告料を必要とするため、中小企業が知名度で大手企業に勝ることはほとんどないだろう。求人サイトで募集しても仕事を探している人は、知名度のある企業や給与などの待遇ばかりに目が行くため、中小企業は探してもらえるかも怪しいとところである。

商品やサービスの販売も同じことがいえるが、知名度があるということは大きなメリットとなる。

採用のノウハウがない

中小企業の場合、友人や知人の紹介に頼った採用に偏るのはやむを得ない一面もある。縁故採用には「広告宣伝に関するコストがかからない」「身もとが確かで採用後の能力面のギャップが少ない」「業務内容とのミスマッチが少ない」などのメリットが挙げられる。

実際に大手企業でも取引先や大学教授などからの推薦を受けて採用したり、自社の社員やOBなどの企業関係者から推薦や紹介があった人物を採用したりする「リファラル採用」を取り入れる企業も少なくない。しかし縁故採用やリファラル採用にもデメリットはある。例えば「紹介者に報酬を支払うと職業安定法に抵触する可能性がある」「他の従業員との公平性、解雇がしにくい」などは、デメリットだ。

また縁故採用やリファラル採用ばかりだと採用に対するノウハウを積み上げることが困難となる。毎年一定数の採用をし、長期的な視点で採用計画を立てていかなければ、人材の能力や年齢層に偏りができて事業を円滑に遂行することが困難になるだろう。

自社の特徴・優位性がない

給与などの待遇や通勤時間などは、仕事を探している人にとって優先すべき労働条件といえる。さらに近年、「福利厚生が充実している」「事業が安定していて倒産などの恐れがない」「魅力的で自分がやりたい業務がある」などを比較して見る人が多い。

中小企業は、大手企業のように知名度で人を集めることは難しいため、何かしらの優位性をアピールすることができなければ、採用は難しい。しかし近年は、働き方改革の意識が浸透していることもあって「有給休暇がとりやすい」「残業が少ない」などもアピールポイントになる。

労働基準法を遵守するのはもちろんのこと、職種や業務内容に合わせて「有給休暇の取得率が高い」「育児休業の取得率が高い」「時間単位年休や半日単位年休が取得できる」「週休3日制が可能」など、企業独自の努力によって休暇・休日・休業制度を充実させるだけでも十分アピールになるだろう。

中小企業が採用で取るべき対策

給与面や福利厚生の待遇、事業設備の点で中小企業が大手企業に立ち向かうのは難しいだろう。しかし「中小企業は採用が難しい」といっても、多くの中小企業で毎年従業員を採用している。採用が難しいといわれる理由が把握できれば対策を立てることも可能だ。

中小企業でも他社に負けない点やアピールできるポイントがあるはずである。それらの優位性を外部に発信することが採用で取るべき対策ともいえるだろう。

企業の特徴をアピールする

中小企業にも長年培ってきた事業のノウハウや独自性がある。自社の特徴や他社に負けない独自性をアピールすることは、中小企業にとって重要だ。例えば、以下のような中小企業ならではの独自性を求人に応募する人へのアピールポイントに変換することができれば、応募者を増やすことが期待できるだろう。

  • 社長や部長の人柄に魅かれた
  • エンジニアが予算内で好きな事業や研究ができる
  • サービスや商品に将来性がある
  • 最先端のスキルが身につく
  • 自分の特技を活かせる など

ホームページやSNSの情報を充実させる

知名度がないといっても企業に興味を持てば、求人に応募する人はホームページやSNSなどをチェックする。特にホームページの求人情報などは「毎年採用実績があれば応募をしてみよう」という気持ちになるかもしれない。何年も採用実績がなく古いデータばかりで更新されていなければ、応募する意欲はなくなってしまうだろう。

常に自社の新しい情報を発信することは、採用に限らず重要なことである。自社で働いている人の業務内容や勤務形態などの情報発信があれば職場の雰囲気など、その企業で働くイメージが湧きやすい。専門性が高く理解するのが困難な技術面ばかりが書かれたホームページを見かけることもあるが、それでは一般の人には理解できない。業務内容は、難解なものよりもわかりやすく書くことが大切である。

採用のノウハウを蓄積する

人事には、経営計画に連動した人材戦略の立案や適正な人員配置、各種部署との調整やトラブルの解決などの普段から行うべき多くの業務がある。さらに従業員を採用するとなれば候補者の管理や面接の調整、候補者への対応、説明会や就職フェアへの参加など多岐にわたる業務が発生する。

採用には、情報発信や採用計画の立案などが必要となり、毎年採用活動をしていなければ、採用のノウハウを積み上げることはできない。特に新卒者の採用は競争率が高く大学卒業の1年以上前から採用活動が始まるため、担当部署を決め、募集広告の作成から候補者への対応、面接・採用試験の段取りや選考基準など採用のノウハウが必要となる。

自社で人事の業務のすべてを管理するのが難しければ、採用をアウトソースする方法も選択肢の一つだ。人材会社に任せられる採用業務の内容には、以下のようなものがある。

  • 採用計画の立案
  • スカウトの送信
  • 求人原稿の作成 など

これらの業務をアウトソースできれば人事の負担を軽減したり効果的な採用活動を展開したりすることが期待できるだろう。企業が求める人材や捻出できる費用によっても異なるが、採用代行サービスを行う企業にアウトソースするのも一つの方法である。

採用計画を立てて企業が求める人物像を具体化する

企業が従業員を募集する際には、どのような人物像を集めるのかを具体的にし、人材採用のプロモーションを使い分けることが重要となる。それには、ただ募集するというのではなく採用計画を立てて戦略的に人材採用を行わなければならない。

通常の採用活動(オーディション型の人材採用プロモーション)

採用広告や採用説明会などを開いて広く従業員を募集し、候補者が応募するのを待つ従来の採用方法がオーディション型の人材採用プロモーションである。採用計画は、企業理念や求める人物像に合った人物を採用するための活動方針、採用スケジュールなどについて細かく決めていくことが必要だ。

応募者のなかから採用者を選考するといっても、新卒者を採用するには1年以上前から計画し、広く募集することが求められる。そのため多くの企業が苦戦しているように応募者を集めるのは、一筋縄ではいかないだろう。

大学の学部や専攻している課程など企業が求める人材は、営業職か技術職によっても異なる点も押さえておきたい。ターゲットとなる人材が異なれば採用計画の段階でアプローチする対象も異なり、選考基準も異なる。

中小企業では、経験者などの即戦力を募集することが多いため、新卒だけではなく中途採用者を募集することも少なくない。オーディション型の人材採用プロモーションは、新卒・中途採用を問わず、広く募集することができるため、経験者を中途採用する際にも有効だ。

しかし多数にアプローチできる半面、応募者への対応や多人数との面接・採用試験の実施など効率性は落ちることになる。特に中小企業では、広告や宣伝にかかる費用や方法が限られるため、企業に特徴がないと応募する人が現れないこともあるため、注意が必要だ。

スカウト型の人材採用プロモーション

新卒採用時におけるリクルーター制度やOB訪問のように、企業から候補者にアプローチする採用方法がスカウト型の人材採用プロモーションである。スカウト型の人材採用プロモーションでは、採用計画で求める人物像を特に重視してピンポイントで対象者を選定していく。

そのため広く募集し自ら応募してくるオーディション型の人材採用プロモーションよりも効率的にアプローチできる。しかし辞退率(対象者から断られる確率)が高い点がデメリットだ。自社に適した人材を探すため、新卒に限らずヘッドハンティングのように有能な人材を引き抜くときにも使われる。

急成長をしている新興企業などでは多く用いられる傾向だ。成功すれば有能な人材を得ることができる半面、労働条件や待遇面はよく検討しなければならない。

スカウト型の人材採用プロモーションでは、宣伝や広告などのコストがかからず、効率性でもオーディション型の人材採用プロモーションよりも優れている。しかし採用担当者の人数にもよるが、窓口は狭く接触できる人数は限られるだろう。

人材採用のプロモーションを使い分ける

中小企業であっても採用時に取るべき対策を取って自社の特徴をアピールできれば、採用は可能である。その際には、採用計画を立てて企業が必要とする人物像を明確にし、人材採用プロモーションを使い分けることが重要だ。

オーディション型の人材採用プロモーションでは、自社に興味を持った人以外は集まりにくいため、「辞退率が低い」というメリットがある。一方、スカウト型の人材採用プロモーションは費用こそあまりかからないが、自社に興味を持っているとは限らないため、辞退率が高い点はデメリットだ。

また採用計画では、自社が求める人物像に必要な条件を絞り込む必要がある。なぜなら新卒採用を重視するのか、中途採用で即戦力を採用するのかによっても求める人物像は異なるからだ。採用計画に必要なのは、自社に必要な人物像に合わせた採用方法を使い分けることである。

急成長する企業では、スカウト型の人材採用プロモーションにより自社に必要な人材をスカウトすることが多い。知名度や技術力がある企業ならオーディション型の人材採用プロモーションにより、広く自社に興味がある人材を集めることが期待できるだろう。

加治 直樹
著:加治 直樹
特定社会保険労務士。1級ファイナンシャル・プランニング技能士。銀行に20年以上勤務。融資及び営業の責任者として不動産融資から住宅ローンの審査、資産運用や年金相談まで幅広く相談業務を行う。退職後、かじ社会保険労務士事務所を設立。現在は労働基準監督署で企業の労務相談や個人の労働相談を受けつつ、セミナー講師など幅広く活動中。中小企業の決算書の財務内容のアドバイス、資金調達における銀行対応までできるコンサルタントを目指す。法人個人を問わず対応可能であり、会社と従業員双方にとって良い職場をつくり、ともに成長したいと考える。
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