大企業と中小企業とでは、売上減少の要因や仕組みがやや異なる。その点を理解できていないと、安定した経営基盤を作ることは難しい。資金ショートや倒産を迎える前に、中小企業ならではの障害や分析方法、対策の考え方を押さえておこう。

目次

  1. 売上減少はなぜ起こるのか? 取引先に左右されやすい中小企業
  2. 顧客が離れる要因は? 現状維持で競争力がなくなる仕組み
    1. 商品・サービスの知名度が低いと新規顧客は増えない
    2. 既存顧客は「品質・競合・取引先」の変化で離れる
  3. 市場の将来性でも企業の売上は変わる
  4. 売上減少の原因はどう突き止める? 3つのフレームワーク
    1. 1.ロジックツリー
    2. 2.PEST分析
    3. 3.SWOT分析
  5. 何をすれば売上が増えるのか? 原因別の対策
    1. 1.既存顧客の減少:リピート率の向上や新規顧客開拓を目指す
    2. 2.市場の縮小:客単価を上げるための対策を考える
    3. 3.新規顧客が増えない:原因を突き止めてマーケティングを見直す
  6. まずは売上減少の要因を突き止めることから
中小企業の売上の減少はなぜ起こる? 原因別の対策法を解説
(画像=hearty/stock.adobe.com)

売上減少はなぜ起こるのか? 取引先に左右されやすい中小企業

中小企業の売上高は、得意先や固定客などの取引先に左右されることが多い。以下のデータは、日本アプライドリサーチ研究所によるアンケート調査(2016年1月実施)をもとに、小規模事業者における売上高の減少要因をまとめたものである。

中小企業の売上の減少
(参考:中小企業庁「第1部 小規模事業者の動向」)

上記の結果から、半数以上の小規模事業者は取引先の影響を大きく受けることが分かる。中小企業は取引先が限られるため、得意先などが不況や倒産に見舞われると、深刻な売上減少を招くケースもあるようだ。

顧客が離れる要因は? 現状維持で競争力がなくなる仕組み

ヒット商品を開発しても、現状維持を続けるだけでは競争力を失う。消費ニーズや市場環境が変化するにつれて、徐々に顧客が離れてしまうためだ。

ここからは新規顧客と既存顧客に分けて、売上減少の要因や仕組みを解説する。

商品・サービスの知名度が低いと新規顧客は増えない

新規顧客を増やすには、商品・サービスを知ってもらう必要がある。そのため、現状の商品・サービスを提供し続けるだけでは、いくら質が良くても売上は増加しない。

新規顧客を開拓できない要因としては、営業力や販売チャネルの乏しさ、競合の存在などが挙げられる。また、流行に左右されやすい商品・サービスは、ブームが過ぎると潜在客から注目されなくなる。

品質や開発以外の問題を抱えているケースも多いので、まずは新規顧客が増えない理由を分析し、的確なアプローチを目指す必要があるだろう。

既存顧客は「品質・競合・取引先」の変化で離れる

安定した経営基盤を作る上で、一定の売上を見込める既存客は欠かせない存在だ。しかし、長年協働してきた取引先であっても、以下のような事情で自社から離れていくケースがある。

○既存顧客が離れる要因と具体例
品質の劣化:原材料の変更、モチベーションの低下、従業員のスキル低下など
競合の出現:業界大手の進出、コストパフォーマンスが高い競合店など
取引先の都合:景気の悪化、担当者の引越し、病気やケガなど

既存顧客が離れたら、まずは一時的な離脱であるかを確認しなければならない。もし自社側に要因があり、すでに同業他社と取引を始めている場合は、同じように離れていく取引先が増えるためだ。

品質の劣化が要因となっているケースでは、値引きが手っ取り早い対策になる。ただし、客単価が下がると売上減少につながるため、安易な値引きは避けるようにしたい。

市場の将来性でも企業の売上は変わる

営業エリアでの競争力を維持しても、市場の将来性によっては売上高が変動する。例えば、ブームが過ぎ去った影響で顧客が減ると、必然的に売上高は減少していく。

では、企業努力によって競争力が変わると考えた場合、市場と売上高の関係性はどうなるだろうか。業種やビジネスの規模にもよるが、一般的には以下のような動きになると予想される。

中小企業の売上の減少

なお、市場の拡大については、必ずしも売上増加につながるとは限らない。市場が成長すると、ほとんどの分野では新規参入の企業が増えるので、見込み客が増えても相対的な競争力が下がってしまう。

また、市場が縮小した場合についても、競争力がどれくらい向上したかで結果は変わるため、自社のポジションを慎重に見定める必要がある。

売上減少の原因はどう突き止める? 3つのフレームワーク

売上が減少した場合は、早急にその原因を突き止めて対策を立てる必要がある。ここからは原因の突き止め方として、3つのフレームワークを紹介しよう。

1.ロジックツリー

ロジックツリーは、ある現象に対して「なぜ?(Why)」の質問を繰り返し、潜んでいる問題を見える化するフレームワークだ。例えば、売上減少の要因が「既存顧客の減少」と「市場縮小」にある場合は、これらの各要因が「なぜ起きたのか?」をさらに深堀りする。

中小企業の売上の減少

上記は一例であり、さらに原材料の変更などが「なぜ起こったか?」を書き足すと、売上減少の要因を整理しやすくなる。根本的な要因をすべて書き終わったら、内部要因と外部要因に分けて具体的な対策を考えよう。

2.PEST分析

PEST分析は、ある現象の要因を以下に分けて整理するフレームワークだ。

○PEST分析の要素
1.政治的要因(Politics):規制の強化、新たな税制の施行など
2.経済的要因(Economy):インフレやデフレの進行、経済成長率の変化など
3.社会的要因(Society):人口や世帯数の増減、環境に対する意識変化など
4.技術的要因(Technology):イノベーション、特許の取得など

上記の4つに要因を分けると、自社が優先的に取り組むべき分野がわかりやすくなる。また、消費者や社会の変化をまとめることで、将来の市場予測にも役立つだろう。

PEST分析はマーケティング分野でよく使われるため、営業力に課題がある企業は積極的に活用したい。

3.SWOT分析

SWOT分析は、自社の「強み・弱み・機会・脅威」を整理し、現時点でのポジションや事業環境を見定めるフレームワークである。

中小企業の売上の減少

SWOT分析の各要素(強み・弱み・機会・脅威)は、客観的な視点から考える必要がある。従業員や取引先に聞いたり、同業他社を比べたりしながら、まずは4つの要素を整理していこう。

何をすれば売上が増えるのか? 原因別の対策

売上減少の原因を突き止めたら、次は有効な対策を考えなければならない。実際に何をすれば売上が増えるのか、原因別の主な対策を見ていこう。

1.既存顧客の減少:リピート率の向上や新規顧客開拓を目指す

既存顧客の都合により売上が減少した場合は、新たな見込み客を増やすことが先決である。具体的には以下のような施策によって、リピート率の向上や新規顧客開拓を目指したい。

○既存顧客が減少したときの対策例
・製品開発で商品やサービスの品質を高める
・SNSを活用するなど、マーケティングの幅を広げる
・ポイントカードや割引券を発行する
・商品紹介のイベントを開催または参加する

上記はあくまで一例であり、既存顧客が減少する要因もケースによって異なる。そのため、まずはロジックツリーなどで要因を細かく分析し、状況に合わせた対策を考えよう。

2.市場の縮小:客単価を上げるための対策を考える

市場の縮小が続きそうな場合は、客単価を上げるための対策が必要だ。消費ニーズが変化しない限り、新規顧客も既存顧客も減ることが予想されるので、販売量で売上を増やすことは難しい。

具体策としては、以下のような方法が挙げられる。

○市場が縮小したときの対策例
・商品やサービスを値上げする
・複数の商品をパッケージ化し、セット販売をする
・一つの商品が売れるときに、関連商品や新商品をすすめる
・高額商品を認知してもらうイベントを開催する

値上げは最もシンプルな方法だが、商品・サービスの品質が変わらない場合は相対的な競争力を失ってしまう。安易な値上げは企業イメージの悪化にもつながるため、基本的には別の方法を選びたい。

顧客満足度を下げないこと、新たな主力製品を生み出すことを意識しながら対策を考えよう。

3.新規顧客が増えない:原因を突き止めてマーケティングを見直す

新規顧客が増えない要因は、企業によってさまざまである。例えば、競合に見込み客を取られている企業と、非効率な宣伝を行っている企業とでは、別の対策を考えなければならない。

したがって、新規顧客が増えない場合はフレームワークで細かく分析し、具体的な要因に合わせた対策を考えよう。

○新規顧客が増えないときの対策例
競争力が低い場合:製品開発、値下げ、独自のコンセプト設計など
宣伝力が低い場合:SNSの活用、自社サイトの拡充、広告の出稿など
ニーズが変化した場合:新しい製品の開発、既存製品の改善など

新規顧客が増えない企業は、マーケティング面の問題を抱えている場合が多い。現在ではさまざまな販促ツールがあるため、費用対効果が高いものを見定めることから始めてみよう。

まずは売上減少の要因を突き止めることから

要因の分析をしないまま売上減少対策を始めると、非効率な方法を選んでしまうリスクがある。経営状態がかえって悪化する場合もあるので、まずは分析から取り組むことが重要だ。

フレームワークを用いて細かく分析すると、優先課題や目指すべき方向が自然と見えてくる。本記事を参考にしながら、客観的な視点で分析することから始めよう。

著:片山 雄平
1988年生まれのフリーライター兼編集者。2012年からフリーライターとして活動し、2015年には編集者として株式会社YOSCAに参画。金融やビジネス、資産運用系のジャンルを中心に、5,000本以上の執筆・編集経験を持つ。他にも中小企業への取材や他ライターのディレクション等、様々な形でコンテンツ制作に携わっている。
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