中小企業が人材不足を解消するには、採用活動を見直す必要がある。近年ではさまざまなツールが登場したものの、有効活用ができない企業も多いだろう。本記事では中小企業における採用活動の実態や課題、ツールの活用方法を事例とともに解説する。
目次
中小企業の採用活動は難しい? 労働力人口の実態
意外に思うかもしれないが、実は日本の労働力人口(※)は1990年代から増加している。
(※)就業者と完全失業者を合計した人口のこと。
2019年の労働力人口は6,886万人であり、そのうち就業者数は6,724万人だった。しかしその一方で、15歳~64歳の人口は減少しているため、若い労働力が減りシニア人材が増えたと予想できる。
この現象が中小企業の人材不足を引き起こしている一因であり、2016年のデータを見ると小規模事業者ほど採用難であることがうかがえる。
2022年以降、有効求人倍率(※)はほとんどの都道府県で1を超えており、首都圏や大都市から離れるほどその傾向が強い。したがって、特に小規模事業者や地方の中小企業は、業種に関わらず採用難に直面しやすいといえる。
(※)求職者に対する求人数の割合。数値が1を超えると、求人数のほうが多い(=人手不足)ことを意味する。
「採用→早期退職」の悪循環に陥る企業の特徴
慢性的な人材不足に悩む企業は、「採用→早期退職」の悪循環に陥っていることが多い。なぜこのような悪循環になるのか、採用難に直面しやすい企業の特徴を見ていこう。
古い慣習のまま採用活動をしている
採用活動と聞いて、「ハローワーク」を思い浮かべる中小経営者は多いはずだ。しかし、スマートフォンで手軽に職探しができるようになった影響で、ハローワークの利用率は低下している。
そのため、古い慣習のまま採用活動をすると、優秀で若い人材は見つかりづらい。従来の方法が成功することもあるが、数年間続けても効果がでない場合は、新たな方法を模索する必要がある。
採用活動の予算が少ない
採用活動の予算が少ない企業は、求職者にアピールする方法が限られる。将来的には人件費も発生するため、採用コストをとにかく削る企業も見られるが、このような方法では知名度や人気は得られない。
予算が不足している場合は、他分野も含めて無駄な経営コストを削減し、余った資金を採用活動に回す必要があるだろう。
採用担当者が不足している
すでに人材不足に直面している企業は、担当者が不足する影響で採用活動がますます厳しくなる。求人広告の出稿作業や選考書類のチェック、求職者からの問い合わせ対応など、採用活動では多くの労力が必要になるためだ。
採用のコストや労力はいわば自社への投資であり、この投資がなければ採用活動は成り立たない。少数の担当者に任せきりにしている企業、コア事業に人員を集中させている企業は、採用態勢を見直すことから始めよう。
求人広告の掲載だけで安心している
大手の求人誌や求人サイトは、採用活動に役立つツールである。しかし、世の中には膨大な求人情報があるため、特徴や魅力がないと求職者の目には映らない。
掲載した広告が埋もれると、出稿に費やしたコストが無駄になってしまう。内容を見直すことはもちろんだが、出稿先にもこだわる必要がある。
SNSや自社サイトは効果的か? ツールごとの活用方法
近年では採用活動のツールとして、SNSや自社サイトを活用する企業が増えてきた。スマホ世代へのアピールには効果的だが、実はツールによって適した活用方法は異なる。
ここからはツールの種類別に、メリット・デメリットや活用のポイントを解説する。
拡散でアプローチできる『Twitter』
Twitter(ツイッター)は、SNSとしては国内トップクラスのユーザー数であり、10~30代のユーザーが多い。
Twitterは拡散力が高く、話題の投稿はリツイート機能によってあっという間に広がる性質をもつ。その一方で、他ユーザーの投稿に埋もれやすいため、魅力的な投稿を継続することが重要だ。
Twitterは潜在層にもアプローチしやすいが、フォロワーが少ないアカウントは拡散されにくい。良い企業イメージを持ってもらうためにも、特に初期は地道な投稿作業を続ける必要があるだろう。
写真や動画で女性にアプローチしやすい『Instagram』
Instagram(インスタグラム)は、写真や動画の投稿をメインにしたSNSである。訴求力のある投稿を作りやすいため、商品やプロジェクトの宣伝にも多く活用されている。
年齢層は10~30代が中心であり、他のSNSに比べると女性ユーザーが多い。そのため、女性から好まれやすい業界(デザイナーや広報など)や、ダイバーシティ経営に取り組む企業などに向いている。
業務風景や社員の紹介など、Instagramにはさまざまな活用方法がある。ただし、投稿が拡散されるには訴求力が必要になるため、15~60秒の短い動画を作成できるリールなど、特別感を演出する機能も使いこなすことがポイントだ。
公式サイトや自社採用サイト
採用情報をまとめた自社サイトを制作し、求職者に向けて公開する方法も一つの手だ。自社サイトであれば、文字数や投稿できる内容に制限がないため、伝えたい情報を過不足なく書き込める。
一般的には採用情報のほか、オフィスの写真や社員インタビュー、独自の企業文化など、会社の雰囲気を伝えるための情報を盛り込むことが多い。
競合との差別化を図りやすい方法だが、自社サイトは拡散される可能性が低いため、アクセスまでの動線を作らなければならない。つまり、SNSやほかの出稿方法と組み合わせて、より多くのネットユーザーを自ら呼び込む必要がある。
求人広告の出し方にも工夫が必要? 埋もれないためのアプローチ例
SNSや自社サイトを活用する場合は、ウェブの膨大な情報に埋もれない工夫が求められる。他社がどのような工夫をしているのか、以下ではツール別のアプローチ例を紹介しよう。
【SNSのアプローチ例】
・SNS限定の応募フローや採用フローを用意する
・転職関連の投稿に最速でレスをする
・自社のキャラクターが投稿しているような内容にする
【自社サイトのアプローチ例】
・社員ブログを開設し、フランクな内容で関心を惹く
・新しいプロジェクトのプレスリリースを配信する
・スマートフォンで見やすいデザインを心がける
SNSや自社サイトの運営では、他社や他ユーザーとの差別化が重要になる。少しでも目立つために、自社ならではの人材や企業文化を活かした手法を考えよう。
「多様性」や「コンセプト」もポイントに! 中小企業の成功事例
ここからは厚生労働省の「民間求人サイト活用事例集」から、中小企業が参考にしたい事例を紹介する。予算が限られた中小企業でも、工夫次第では採用活動が有利になるため、参考にしながら計画を立てていこう。
【事例1】多様な応募者を集めるための工夫:GRA(宮城県)
宮城県の農業生産法人である『GRA』は、応募者の数を増やすために以下の施策に取り組んだ。
・年齢や実務経験などの条件を緩和
・未経験者でも分かるように、業務内容を簡潔に記載
・1次面接をオンラインで行うことで、応募者の負担を軽減
採用の間口を広げるダイバーシティ経営は、効率的に応募者を増やせる戦略だ。応募者のスキル不足は懸念されるが、同社は2次面接に現場見学をとり入れることで、採用のミスマッチを防いでいる。
【事例2】明確なコンセプトでミスマッチを防止:グリーンデイズ(栃木県)
農産物直売所を運営する『グリーンデイズ』は、明確なコンセプトの設計によって採用活動を成功させている。同社は採用したい人物像として「やる気」と「挑戦する意欲」がある人材を設定し、実務経験を問わない形で求人サイトを活用した。
求人情報については、閲覧者数に対する応募者数(コンバージョン)を意識し、細かい言葉づかいや画像の使い方にも工夫をとり入れた。また、あえて厳しい内容を伝えることで、採用のミスマッチを防いでいる点も参考にしたい部分だ。
【事例3】積極的かつ多角的なアプローチで若い人材を獲得:ミヤモト家具(富山県)
家具の製造やデザインを手がける『ミヤモト家具』は、積極的な採用活動によって20代の人材獲得に成功している。同社は求人サイトのスカウト機能を活用し、求めている人物像に近い求職者にダイレクトメッセージを配信した。
企業イメージの伝え方にも力を入れており、懇親会や店内の写真をアップしたり、経営者自らがブログを運営したりなどの工夫をしている。内容を見定める必要はあるが、積極的かつ多角的なアプローチが成功につながった事例だ。
本格的な採用難を迎える前にアプローチを考えよう
少子高齢化に伴って、若い労働力人口はますます減少すると予想される。中小企業が生き残るには、人材不足で悩まされる前に課題を洗い出し、少しでも早く施策を考えることが重要だ。
SNSや自社サイトも活用しながら、効率的にアプローチする方法を考えていこう。