資金調達を検討している中小企業オーナーが今すぐ実践できる対処法をご紹介しよう。どのような時に資金調達すべきなのか。だれに相談すればいいのか。また、自転車操業的なやりくりをしないために考えておくべきことは──?
慶應義塾大学の研究・教育・産学連携活動をサポートするSFCフォーラム事務局長で、自ら投資ファンドのマネージャーも務める廣川克也氏は、かつて三井住友銀行で融資推進を担当した経験から資金調達を成功させるポイントが5つあるという。
資金調達手段の多様化
資金調達の鍵は企画力
日本では今、かつてないほどに事業資金を調達しやすい環境が整いつつあるという。その背景には、この20年間でより活発になった投資活動がある。また、事業の成長を見込めるような「前向きな資金」に融資したいと考える金融機関が、新しい融資制度を次々と編み出し、企業オーナーにとってお金を借りやすい状況を作り出している。
しかし、このような状況においても多くの地方企業が資金調達に苦労している。せっかく素晴らしい技術を持っていたり、地方文化の担い手になっていたりしても、それらを活かす発想力や発想をかたちにする企画力が不十分なため、資金調達を断念せざるを得ないケースが多いのだ。
手段の多様化と目的の明確化
日本において、この20年ほど投資家が活発に活動していた時期はなかった。それと同時に金融機関の融資制度も多様になり、企業による資金調達手段は増え続けている。
例えば、クラウドファンディング(crowd=群衆、funding=資金調達をかけ合わせた用語で、多くの人による少額の資金を集めることを指す)と呼ばれる資金集めがインターネットを介して使いやすくなってきていることが挙げられる。また、人材や機材のマッチングも増えており、工場が休みの間は別の企業に生産ラインを貸し出したり、美容院が休みの日にフリーランスの理容師に場所を提供したりする事例もある。
こうした広義での資金調達手段が広がってきている中、それらについての知識をつけることは企業オーナーの選択肢を増やすことに繋がる。そしていざ資金調達をする上で最も重要なのは、調達の目的と計画を前もって整理しておくことである。
明確な目的を持ち、事前にしっかりと計画しておけば、数多ある資金調達の手段の中から最適なものを選び出し、資金調達を成功させる確率を高めることができる。
資金調達を成功させるポイント
その①:目的
何のためにどのぐらいの資金を調達したいのか。
まずは目的がはっきりしていることが、出発点として非常に重要だ。運転資金でも、賞与資金でも、設備投資の資金でも、何のために資金が必要なのかがわからなければ、銀行も審査しようがないので融資を躊躇してしまう。
調達した資金で人を雇うのか、増産体制を整えるのか。目的がはっきりしていて、その目的を達成するために今後どのような行動を取るべきなのかを事前に計画しておけば、返済の見通しが立つので融資や投資が集まりやすくなる。
その②:計画
資金を調達してから一年先ぐらいまでは、目的達成のためにどうお金を使い、借りたお金をどう返済していくのかを計画しておくのが理想的だ。
例えば、3ヵ月以内に1億円を調達し、人を雇いたい企業オーナーがいるとしよう。では、具体的にどんな人を雇いたいのか? 仮に営業職を雇うとして、企業周りを得意とする人が必要なのだろうか、それとも省庁周りなのか。さらに、その人を雇うことでどれほど営業成績が向上するのかも見積もっておく必要がある。借りたお金を返すためには、売上を上げて利益を出さなければならないからだ。
開発投資で生産ラインを増やしたとしたら、そのラインを増やしたことによるコストと生産性のバランスを見積もった上で、売上がどれだけ上がれば利益が出るのかをあらかじめ計算しておく。そうすることで、導入してから利益が出るまでのタイムラグを把握できる。現実的なスケジュール下で毎月の返済をスタートでき、資金繰りも安定する。
逆に、まったく計画性がないままに銀行に融資の申請をして、仮に融資を受けられたとしても、費用投資対効果がはっきり分からないままコストをかけることになるので資金繰りが不安定になりかねない。
その③:銀行員を教育する
資金調達を成功させるために、まずは目的を持ち、それを遂行するための計画が必要だということをご理解いただけたと思う。さらに次のステップとして、その計画が計画通りに進むことを銀行、または投資家にきちんと示さなければならない。そこで重要になってくるのが銀行員との対話である。
クライアントとの対話は銀行員の義務でもあるし、企業オーナー側からもぜひ積極的に対話の機会を作っていただきたいのだ。その際、オーナーあるいは経理部長に意識してもらいたいのが、銀行員に事業をより理解してもらうための成長を促すような教育、ないしは指導である。
銀行員を指導、というと違和感があるかもしれない。
例えば、会社がユニークな技術を持つに至った研究開発経緯や、なぜいまが勝負のタイミングで融資が必要なのかをしっかりと理解してもらうことが重要だ。工場見学をしてもらうのも良いし、どのように作られ、どのように売られていくのかを全部見てもらう方がいい。
また、できれば業界紙や関連書籍を読んでもらうようにし、それらを通じてその会社がいかに評価されているか、そして業界全体の需要がどうなのかなど知識をつけてもらうことでより良い関係を築いていける。
理解を深め合うには時間がかかるし、大変な労力を要するのだが、勉強してもらうことで、例えば生産ラインを一本増やすことでなぜ売り上げが上がるのかを銀行員もすぐに理解できるようになるだろう。計画書に並んでいる数字を見ただけではわからない、その会社の計画の確からしさを理解してもらえるようになるのだから双方のメリットは大きい。
実のところ、銀行は融資をしなければ儲からないので、「できるだけ融資したい」というのが本音だ。そのためには単に融資するだけではなく、企業オーナーの困りごとに対して銀行が持っているリソースを使って解決方法を提案し、そこから発生する資金ニーズに対して融資をするソリューション営業も行なっている。だから、企業オーナーはもっと銀行員に相談していいし、もっと頼りにしていいのだ。
その④:支援者を頼る
あなたのまわりには、銀行員以外にも支援者がいるはずだ。投資家や株主、さまざまな地域の関係者かもしれない。ファミリービジネスを営んでいる場合は家族や親族かもしれない。これらの支援者と連携することで、コーディネートスキルを培うことができる。
「コーディネートスキル」とは、幅広い視野を持ちながら人と人、または人とビジネスを結びつけたり、新しいビジネスチャンスに繋げたりする能力のことだ。企業オーナー自らがいろいろな場所に出向き、さまざまな人と出会い、多様な機会に触れることで事業を拡大していくことにつなげられたら一番いいのだが、コーディネートスキルは経営者に必要なスキルとは別物だ。だから経営者は経営者だけができることに集中し、支援者にコーディネートのほうを任せてもいい。
例えば、クラウドファンディングにありがちな「テクノロジープッシュ型」と言われるやり方で、我が社の技術はこんなにすばらしいのだから絶対に買ってくれるはず、といくら念を押したところでなかなかうまくいかないだろう。一方で、我が社の技術を使うことによって世の中の課題がこのように解決され、みんながハッピーになれますから是非応援してください、とアピールしたらどうだろう? それはやっぱり解決したい、その技術があれば自分の地域も良くなりそう、などと受け手にイメージしやすくなり、共感してもらいやすくなる。
このストーリー作りも、支援者のコーディネートスキルを頼っていい。クラウドファンディングとはお客さん集めであり、仲間集めなので、共感してくれる人がたくさん集まれば集まるほどその商品は売れるし、資金調達の成功確率も高まるだろう。支援者のサポートを受けながら、いかに共感を呼ぶストーリーを上手に作り上げられるかどうかが鍵となってくる。
また、資金繰りに関しても支援者からのアドバイスを頼っていい。例えば資金調達したいとして、今すぐに1億円が本当に必要なのか? 3ヵ月後に 3000万、さらに半年後に 5000万あれば十分キャッシュも足りるのではないか? あるいは全額を出資で賄うとハードルが高いし、資本政策がきついので、半分は融資で調達したらスムーズにいくのではないか?
このように、目的と計画に合わせて資金調達手段をうまくミックスするように支援者がアドバイスできれば、調達の成功確率も高まるし、事業の成功確率も高まる。
支援者とうまく連携していくには、一緒に共通の体験を持つような学びの機会や、情報と意見交換の機会を頻繁に設けることが重要だ。いろんなことをオープンにして、情報のやり取りを心がけることで、濃密なコミュニティがだんだんできて上がっていくと思う。
その⑤:早めに相談
最後に、銀行員や投資家に対して言いにくいとは思うが、悪いニュースこそできるだけ早く伝えることも大事だ。
いいニュースは後回しでもいい。だが、悪いニュースは言ってもらわないと本当に分からないし、行き詰まってから相談に来られても時間がないので打ち手が限られてしまう。
計画の精度が高ければ、計画に比べて現状がどうなっているかがより具体的に見えてくるのはもちろんのことだ。「なんとなく」ではなく、今の事態が深刻なのか、それともちょっとした計算違いなのかを判断できなければそもそも手の打ちようがない。
当初の計画に対し、実績値が3〜4ヵ月も足りない状況が続いたとしよう。このペースで行けば半年は持つけど、 10 ヵ月後には危ないと気づいた時点で銀行員に共有しておけば、事態が深刻になるはるか手前で方向修正できる可能性が高まる。銀行員も融資を潰したくないから、では営業と広報を頑張りましょうとか、ここの経費を削減できませんか、などといろいろな対策を提案してくれるはずだ。
1から 10 まですべて細かいこと報告する必要はない。だが、金融機関の関係者や株主にちゃんと報告することで、解決手段が見つかったり、明るい兆しが見えてきたりすることもある。銀行員や投資家もプロだから、いろいろな解決手段を持っている。だからこそ相談するべきだし、頼るべきである。
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文・山田ちとら