図解 オーナー社長のための 相続の基本と節税
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(本記事は、税理士法人レガシィ [監修]、円満相続を応援する士業の会 [編集協力者]、エッサム [著] の『改訂2版 図解 オーナー社長のための 相続の基本と節税』=あさ出版、2022年8月23日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

資産管理会社を設立するとメリットがある

財産の中に不動産がある人は、「資産管理会社」の設立を検討する価値があります。資産管理会社は一般の企業のように営業活動をする会社と違って、名前のとおり財産を管理する目的で設立するものです。プライベートカンパニーと呼ばれることもあります。

たとえば、マンション・アパート経営をする不動産オーナーは、その収益をそのまま自分の収入として得ます。

このオーナーが資産管理会社を設立し、不動産の名義を法人に変更すると、収益はいったんすべて資産管理会社に入ります。本人はその会社から役員報酬を毎月、受けるかたちです。

資産管理会社を設立してお金の流れを変えるメリットは次のとおりです。

・家族に役員報酬を支払うことができる

資産管理会社を設立すると、家族を会社の役員にして報酬を支払うことができます。オーナー一人だった収入が家族に分散されますから、設立後はオーナーの現預金の増加を抑えることができます。その分、家族名義の現預金が増えるわけです。

オーナーが残す相続財産が減ることになりますから、相続税の負担が軽くなります。

・不動産を資産管理会社の名義にできる

相続人が複数人いると、不動産の分割には苦労することがあります。土地の分筆や金銭代償は手続きが煩雑ですし、共同名義にするにしても将来的に揉め事の火種となりかねません。

一方、不動産の名義を資産管理会社に移転すると、オーナーの死亡後も不動産の名義は資産管理会社のままで変わりません。その不動産の価値は、資産管理会社の株価に影響されますが、不動産よりも株式のほうが分割しやすい財産になりますので、相続人の争いを避けやすくなります。

生前にもメリットがある

資産管理会社資産管理会社を設立すると、相続時だけではなく、生前にもメリットがあります。

・個人の所得税より法人税のほうが税率が低い

個人の所得税の最高税率は45%です(所得金額4000万円以上)。一方で、法人税の税率は23.2%(年800万円超の部分、800万円以下は15 %)。この差は、実に20%以上ともなります。

つまり、所得が多い人ほど、資産管理会社を設立して法人税を支払い、個人の所得税を抑えたほうがよいわけです。

・損益通算の対象が広がる

損益通算とは、その名前のとおり、「損」と「(収)益」を通算することです。たとえば、「アパート経営は儲けが出たけれど、レストラン事業で赤字が出てしまった」という場合、儲けから赤字を差し引くことができます。所得税は通算後の数字で計算しますから、負担が軽くなるわけです。

この損益通算の制度は、個人の所得税にも法人税にもありますが、法人税のほうが対象が広くなっています。個人の所得税の場合、「不動産所得、事業所得、譲渡所得、山林所得」が損益通算の対象です。一方、法人の場合はすべての所得を損益通算できるので、税負担を軽くできるチャンスが多くなっています。

・繰越控除できる年数が長い

繰越控除とは、その年に出た損失を翌年以降に繰り越して、利益と相殺できるしくみです。この繰越控除は、個人の所得税が最長3年であるのに対して、法人は最長10年と長く設定されています。

資産管理会社を設立する際の注意点

基本的に、相続対策で大切なのは十分な時間的余裕を持っておくことです。早く対策を始めるほど、できる対策も多くなります。

これは、資産管理会社を設立する際も同じです。

資産管理会社を設立して、土地建物を法人の名義に移転すると、相続税の課税対象ではなくなります。一方で、資産管理会社の株式を個人が持つと、相続税の課税対象となります。

一般的には、土地建物よりも株式のほうが評価額が下がりますから、この点では相続税対策として有利なのですが、法人設立して間もない間は土地建物より株式のほうが高くなることがあるので注意が必要です。

というのも、新たに設立した法人が土地建物を取得して3年以内は、株式も高く評価されるからです。3年を経過すると土地建物が時価よりも安く評価されるため、株の評価額も下がり、相続税対策になります。

そのため、資産管理会社を設立するには時間をかけることがポイントになります。もしくは、設立時にあらかじめ相続人など子どもに株式を所有させることも考えられます。

また、資産管理会社を設立して、物件の名義をその資産管理会社に移転する際には、「個人が法人に物件を売却する」というかたちになりますから、個人に売買代金を支払うことになります。その代金で個人の現預金が増えるということは、相続財産が増えるということですから、この対策も必要です。

この点からも、時間をかけて、専門家のアドバイスを受けながら対策をする必要があると言えるでしょう。

相続税以外での注意点もある

資産管理会社といっても、登記は一般の会社と同じように行います。通常の法人が負う義務などは、資産管理会社も同様であることに注意が必要です。

代表的なものは、地方税です。個人で賃貸不動産を持っていて赤字になった場合には、所得税や住民税を支払う必要はありません。ところが法人の場合には、赤字でも法人地方税の均等割が課せられます。

均等割は資本金や地域などによっても変わりますが、「東京都に事務所がある、資本金1000万円以下、従業員数50人以下」の場合、年7万円となっています。

その他、たとえ代表者1名だけであっても、社会保険の加入義務が発生するなど、運営上のコストがかかってくることにも注意してください。

改訂2版 図解 オーナー社長のための 相続の基本と節税
【監修者】税理士法人レガシィ
「人々の財産を世代を超えて守り、生活と心を豊かにする」をミッションとして掲げる相続専門の税理士法人。
累計約19,000件、年間約2,000件の相続税申告数は日本最大級。
グループ会社を通じて、相続税申告だけでなく、相続手続き(遺産整理)や、相続対策コンサルティング、不動産売買・活用に関するコンサルティング、事業承継コンサルティングをはじめとする相続前後のさまざまなお客様のニーズをワンストップで対応している。
税理士・司法書士・行政書士・弁護士を中心とした士業との連携に注力しており、さまざまなサービス提供を行っている。
コーポレートサイト:https://legacy.ne.jp/
税理士のための相続サポート制度:https://www.legacy-cloud.net/legacy
士業から士業へ仕事をつなぐプラットフォーム「Mochi-ya」:https://www.mochi-ya.ne.jp/
実務マニュアル・動画の閲覧サービスの運営:https://www.legacy-cloud.net/

■天野 隆(代表社員パートナー 公認会計士・税理士)
アーサーアンダーセン会計事務所を経て、1988年公認会計士・税理士天野隆事務所の所長に。
2008年に現在の社名に変更。
独自の専門ノウハウで業界をリードし、顧客対応の良さで群を抜く専門家集団として、公認会計士・税理士・宅地建物取引主任者など契約税理士事務所メンバー含め1,600名を超えるスタッフを擁する。
士業のための実務動画閲覧サービス「レガシィ@クラウド」を企画し、自ら講師として情報提供している。
Youtube、Twitterでも情報発信を積極的に行っている。
2021年11月、天野大輔に事業承継を行った。

■天野大輔(代表社員パートナー 公認会計士・税理士)
情報システム会社でシステムエンジニアとして勤務。
監査法人兼コンサルティング会社に入り、会計監査、事業再生、M&A支援等を担当。
税理士法人レガシィに入社後、相続・事業承継の実務とともに、士業連携・支援のためのプラットフォーム「Mochi-ya」の企画・開発や、相続顧客との非接触Webサービス「相続のせんせい」の企画・開発を行う。
2021年11月、天野隆より事業を承継。
主な著書に『改訂版 はじめての相続・遺言100問100答>』(2017年、明日香出版、共著)がある。

■陽田賢一(代表社員パートナー 税理士/相続)
某一部上場電気メーカー経理部にて約14年間勤務。
個人会計事務所を経て、税理士法人レガシィに入社。
企業経理で培った対人折衝力及び数字に対する嗅覚を武器に、相続税申告や相続対策、税務調査における課税当局との折衝等を中心に活躍の場を広げている。
士業からの相続に関する専門的な相談に対してもわかりやすく丁寧な対応を行っている。

■富永 拓(マネージャー 税理士/事業承継)
前職の税理士法人では代表社員(共同)として法人部門を統括し、主に顧問先の事業承継や再生支援を担当。
税理士法人レガシィに入社後、事業承継部門の責任者として、年間数十件の事業承継関連のコンサルティングを行っている。
士業からの事業承継に関する専門的な相談に対してもわかりやすく丁寧な対応を行っている。
【編集協力者】円満相続を応援する士業の会
遺産相続は、場合によっては親族間での遺産争いになることがあり、「争続(争族)」などと揶揄されることがあるほどトラブルの生じやすい問題でもあります。
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【著者】エッサム
昭和38年(1963年)の創業以来、一貫して会計事務所及び企業の合理化の手段を提供する事業展開を続けております。
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