日本一働きやすい治療院を目指したら、人が辞めない会社になりました
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(本記事は、平川 憲秀氏の著書『日本一働きやすい治療院を目指したら、人が辞めない会社になりました』=あさ出版、2022年5月6日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

「結果を出せる治療家」になるための社員教育

●自己流では患者さまから〇はいただけない

われわれが社員教育を実施する目的の1つは、新しく入ってきた社員が、できるだけ早く「結果を出せる」ようにすることです。

そのためには、どういう研修を行っていくのがいいのか。

研修の仕組みを整え始めたとき、当社の幹部たちとそのことについてさまざまな意見を出し合って、検討しました。

そこで至った答えが、エンパワーメントの治療家として施術をするための「形」を徹底的に教えていく、でした。

若い治療家たちを見ていると、技術が未熟なうちに「自己流の施術」が定着してしまうケースがしばしばあります。

よくあるのが、若さゆえの自信過剰さから、そうした施術になってしまうケース。若いうちは、まだ社会の荒波に十分揉まれていないこともあり、自分を過剰に評価してしまいがちです。その結果、自分の思い込みで突き進んでしまい、施術においても自分がやりたいように行うことが、しばしば起こります。

それとは逆で、治療家としての経験が浅いゆえに自信がなく、どう治療を進めたらいいのかわからず、結局、「自分がやりやすい」方法で施術を行ってしまうケースもあります。まわりの先輩たちが十分に指導しない職場でよく起こりがちなパターンです。

芸事の世界では一人前になるプロセスを「守破離」という言葉で表現しますが、これは治療家においても当てはまります。

治療家としての技術も、まずベースとなる基本的な技術を身につけた上で(守)、だんだんと自分なりのやり方を確立していく(破→離)。こうしたプロセスを経ないと、やはり一人前の治療家になるのは厳しいと思います。

そして、基礎ができていないうちから自己流の施術をしてしまえば、当然のことながら、患者さまから〇をいただけません。つまり、次の予約もいただけないし、回数券も購入いただけない。

日々の施術でそんな状態がずっと続けば、誰だって施術をするのが嫌になります。その結果、辞めてしまう。こうした事態に陥らないためには、私たちは、新しく入ってきた社員たちに対して、結果を出せる「形」を、最初の段階で徹底的に教え込むことにしたのです。

こうした「形」を身につける重要性を語る際によく使われるのが、「型破り」と「形無し」という言葉です。

「型破り」とは、常識的な形や方法にはまらない「事」や「人」を称賛する言葉ですが、それができるのは、過去に徹底的に身につけた「型(形)」があるからです。「ない袖は振れぬ」ではないですが、「形」がなければ、そもそも破れません。それは「形無し」の状態。

形無しとは、「面目を失う」とか「さんざんなありさま」という意味です。つまり、形を身につけることを怠ってしまえば、いくら経験を積んでも治療家としては「いまいち」なまま……となってしまうのです。

そこで結果を出せる「形」を身につけさせるためのツールとして、われわれが用意したのが、「マニュアル」でした。具体的には、施術の技術・知識についてまとめた「セラピストバイブル」と、接遇・接客のための「ホスピタリティマニュアル」の2冊です。

これら2冊には、私たちが現場でのさまざまな経験から導き出した「結果の出るやり方」がまとめられています。

そこに書かれている方法を現場で忠実に実施していけば、理想を100とすれば、60のレベルにまでは到達できる、という内容です。

そのため、新人が最短で60の結果を出すためにこれらのマニュアルは打ってつけ、というわけです。

私が若い治療家や学生によく話すのは、マニュアルに書かれているのは「最低限の仕事」ではなく「仕事の集大成」であること。そこに書かれたことをやっておけばいいというものではなく、創業時から積み重ねてきた「今いちばん成果が出るやり方」。それがマニュアルなのです。

なお、エンパワーメントでは全施術者にiPad を支給しています。施術している姿を動画で撮影し合い、マニュアルどおりに施術できているかを確認。技術向上のための教育に活用しています。

『日本一働きやすい治療院を目指したら、人が辞めない会社になりました』より
(画像=『日本一働きやすい治療院を目指したら、人が辞めない会社になりました』より)

●マニュアルを使って徹底的に形を身につける

このように当社の社員教育では「まずは『形』を覚えてもらう」ことを重視しています。

一方、治療家を目指す人は、「人のために何かしたい」という思いが強く、「心」の部分を大切にするタイプの人が少なくありません。

そのような人の場合、私たちのこうしたやり方に、最初は抵抗を覚えるようです。たとえば、新卒学生を対象とした採用活動で「当社の社員教育で、こういうマニュアルを使って、徹底的に『形』を指導していくので、必ず技術が身につきます」という話をすると、微妙な空気が流れます。

実際、新卒で入った社員たちに聞くと、会社説明会でのこうした話に対して最初は、「マニュアル通りの施術って、治療家としてどうよ?」とか、「覚えることたくさんあって、しんどそうな会社だな」とか、「型にはめられるようで、ちょっと嫌かも……」といった感想を持ったそうです。

それでも、その後の会社見学会等で「働きやすそうな会社」との好印象に変わり、彼らは入社してくれたわけですが、実際に働き始めるとさらに、「『形』を徹底的に教えてもらえる」ことのありがたみを実感するといいます。

社員アンケートをとってみても、当社の「働きやすさ」として、「マニュアルによって形が決まっていること」を挙げる社員が少なくありません。

  • 「マニュアルがあることで、戸惑うことがなく仕事が進められる」
  • 「些細なことでもマニュアル等で形になっているので、安心して仕事ができる」
  • 「マニュアルがあることで、メンバーの考え方が揃って働きやすい」

実際、新人の頃は仕事に関して、右も左もわかりません。若い人というのは、「自分の好きなようにやりたい」という思いも強いですが、実際、「好きなようにやっていいよ」と言われると途方に暮れてしまいがちです。

逆に、「何」をすればいいのかが明確になっていると、それを忠実に実行すればいいのですから、気持ち的にも非常に楽です。

また、われわれ治療家は、人の体に触れる仕事です。安心や安全といったことが非常に求められます。万が一、自己流の施術で患者さまの体に支障をきたすようなことになれば、大問題です。場合によって損害賠償といった話にもなりかねません。

現場で実際に施術にあたるようになると、若い治療家たちは自分たちの仕事のそうした責任の重さを実感します。

そこで、安心・安全の施術を行うために、いかに「マニュアルに従って『形』を徹底的に覚える」ことが重要なのかに気づくようです。

『日本一働きやすい治療院を目指したら、人が辞めない会社になりました』より
(画像=『日本一働きやすい治療院を目指したら、人が辞めない会社になりました』より)
日本一働きやすい治療院を目指したら、人が辞めない会社になりました
平川 憲秀
京都市出身。EMPOWERMENT株式会社代表取締役。両親が1976年に京都市南区に開業した鍼灸整骨院を引継ぎ、平川接骨院/針灸治療院グループとして京都・大阪・滋賀に16店舗を展開。企業成長率年120%、圧倒的な働きやすさで注目を浴びる。現在は、全国50社以上が集まる「エンパワーメント経営アカデミー」で治療院成長のための「仕組みと組織づくり」のサポートも行っている。

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