ヌレ子取引価格(全国平均)の推移
(画像=ヌレ子取引価格(全国平均)の推移)

世界的な穀物価格高騰、生乳需給緩和、家畜疾病発生に伴うヌレ子(生後間もない子牛)大口需要者の民事再生手続き開始など、2022年8月頃からヌレ子需給が大きく緩和しヌレ子価格が急落した。

子牛価格も下落したが、黒毛和種は各種施策により、枝肉価格が堅調に推移したことで、11月から反転し下落前水準まで回復しつつある。ヌレ子価格下落は酪農家から見れば副収入減少につながるが、肉用牛農家から見れば、導入コスト低減に寄与している。

農水省は酪農の副産物であるヌレ子への直接的な支援は考えておらず、育成農家への支援などがヌレ子価格の下支えにつながるとし、今後も各種補給金制度などを適切に運用していく考えだ。

8~10カ月齢の子牛価格は、黒毛・交雑・乳用のいずれも5月頃から下落を見せたが、黒毛和種や交雑種では11月から反転し、下落前水準に回復しつつある。しかし、乳用種は下落傾向が続く。若干の反転傾向は見られるものの、下落前水準までには回復しておらず、肉用子牛生産者補給金が第3四半期に発動した。ヌレ子相場も子牛同様、8月頃から大幅下落し、低水準で推移している。

ただし、長期視点で見ると、2016年から2021年の期間は10万円前後の高水準で推移していたが、昨夏急落。2015年以前は約2~6万円の価格帯で推移している。下落要因としては、大口需要者が民事再生手続きに入ったことによるヌレ子市場の需要緩和のほか、飼料価格高騰などコスト上昇を受け、ヌレ子を導入する育成農家、育成・肥育一貫農家が積極的な素牛導入を控えたことが、需給の緩みと価格下落につながった。

2009年の生乳需給緩和時には、乳用牛とう汰の支援などにより、乳用牛頭数が減少しヌレ子生産数も減少した。2015年頃からは性判別精液が広く活用され、効率的な乳用雌牛生産が進んだ。雄牛頭数が減少し、需給が締まり、ヌレ子価格は10万円前後の高水準推移となった。価格下落に伴い、酪農家の副収入は減少を見せるが、一方でヌレ子を導入する育成農家、育成・肥育一貫農家では、素牛価格が下落し、導入経費が下がっており、飼料高などの影響はある中で、コスト削減に寄与している。

実需者の食肉事業者では、ヌレ子価格と枝肉価格に直接的な相関関係は薄く、ヌレ子価格変動による影響は見られない。ただし、下落当初は一部で、ヌレ子が引き取られないなどの事案も確認されている。今後、ヌレ子頭数が減少となれば、影響が考えられる。ただ足元では引き取られない事例は減少しているという。

子牛と異なり、ヌレ子は生後1週間~1カ月程度で市場出荷・相対取引される。ヌレ子はあくまでも酪農家が乳用牛・生乳を生産する際の副産物となる。生産構造・購買者が子牛とは異なる。今後は導入意欲が高まることによる価格回復に期待したいが、飼料価格が高止まりし、枝肉価格に転嫁されていない現状では導入意欲の増大、規模拡大にはつながりにくい。加えて民事再生手続きを進める大口需要者の今後の事業展開動向に左右されそうだ。

生産面では、酪農家は生乳需給緩和の状況下、北海道でも生産抑制に取り組んでおり、種付は黒毛和種精液や、受精卵移植を増やすことで副収入確保に取り組んでいる。後継牛が生産されず、乳用雄牛頭数も減少することで、需給がバランスすれば今後のヌレ子価格上昇も想定される。

農水省畜産局食肉鶏卵課では、ヌレ子はあくまでも酪農家の副産物と位置付けているため、直接的な支援は行わない見込みだ。酪農家の副産物収入は減少しているが、補給金算定に当たっては副産物収入も考慮されており、子牛取引段階では、肉用子牛生産者補給金制度により育成農家を支援している。

育成農家を支援することが、ヌレ子再生産を支えている。そのため、間接的にヌレ子価格を下支えしており、食肉鶏卵課は今後も適切に各種補給金制度を適切に運用していく考えだ。

〈畜産日報2023年2月3日付〉