アインシュタイン
ロバート・フロマス
医学博士、理学修士、アメリカ内科学会フェロー。テキサス大学サンアントニオ健康科学センターのロング医科大学院長として、一三〇〇人以上の教員、三〇〇〇人の職員、八〇〇人の研修医を率い、約一億五〇〇〇万ドルの研究費を管理している。前職は、フロリダ大学医科大学院の内科学部長で、医師の臨床研修プログラム副責任者も兼務。がんの新薬を設計するラボの責任者を個人的に務めるほか、これまで一六〇以上の学術論文を発表している。アメリカ国立衛生研究所の研究助成費を二〇年間受給。過去の役職に、アメリカ血液学会の学術委員会議長、アメリカ国立衛生研究所の各種議長、アメリカがん協会の研究評価パネル議長、複数の製薬会社の科学顧問、フロリダ大学健康科学センターと従業員一万人以上の大手健康サービス会社を含む複数の医療団体の理事などがある。インディアナ大学医療教育ヒューマニズム賞、インディアナ大学評議会優秀教師賞、ピープル・リビング・スルー・キャンサー・ケアリング賞など、教育および患者ケアにかかわる賞も多数受賞。アメリカ臨床研究学会、医学教授協会、アメリカ臨床・気候学協会、アメリカ内科学会の会員。
クリストファー・フロマス
学術博士。フロリダ大学ヘルスのプロジェクトマネージャー。フォーダム大学で博士号取得後、同大で倫理学と人間論を教える。過去の役職に、フォーダム大学大学院協議会役員、フォーダム大学哲学会会長など。天才と能力の関係、真理の探究、コミュニティに特別な興味を持つ。

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「天才部下」を率いて、最強チームをつくる一〇のルールの全貌

私のルールのいくつかは、人によってはただの常識に見えるかもしれない。だが、あとで論じるように、組織を滅ぼすのはごく単純なミスだったりする。

また、このルールは、天才だけを対象にしているわけでもない。いつなんどきも非凡で世界を変えられる天才というのは、ごくまれにしかいないから。あなたよりちょっと頭がよかったり専門分野に詳しかったりする人々を率いるときにも、これらの戦略は使える。

すでに天才であるとわかっている人々はもちろん、偉大な進歩につながることを生涯で一度だけ思いつく人や、場所やタイミングの運が重なって天才的なひらめきを得る人にも一〇のルールは適用できる。そうした人々がたぐいまれな洞察を得るときを見極め、その輝きの瞬間を捉えてほしい。

このガイドラインを天才を率いるリーダーが習慣にすべきなのは、それがチームの個性を作ってくれるからだ。一〇のルールが習慣になれば、天才のチームは長期にわたって生産性と集中力を維持できるようになり、危機のときにも崩れにくくなる

危機的な状況でルールに従うのは難しいが、そんなときにこそ一〇のルールは必要だ。

複雑でストレスの多い状況では、冷静な判断がしにくくなる。かつて私もルールに従えなかったことがあり、そのとき、それぞれのルールはお互いに支え合うことで成り立っているのだと気づいた。ひとつのルールの綻びは、ルール全体の破綻を引き起こす。

私がルールを破ったときは、それまで築いてきたチームの調和が崩れ、目標に向かって進めなくなった。だが幸い、ルールは私の起こした危機を収めてくれた。ミスをしたときも、このガイドラインに立ち戻れば、またスムーズにものごとを進められる。

次に紹介するのは、本書の中核テーマである、天才と生産的に働くためのルールのあらましだ。続く各章では、それぞれのルールを詳しく見ていく。ルールの実践の仕方や、現実に応用するときの障害、その解決方法なども論じる。

「一〇のルール」のあらまし

ルール1 鏡と向き合う

天才を率いるための最初のルールは、自分が天才ではないこと、部下である天才がそれを知っていることを認めることだ。

これはときとしてつらい作業になる。自分に嘘をつき、本当の自分を見ないほうが楽かもしれない。私も含めてほとんどの人は、なんとしても自尊心を守ろうとするはずだ。

とはいえ、鏡も見ないで自分を正しく評価するのは難しい。信頼できるアドバイザーに鏡の役目をしてもらい、自分のありのままを映し出してもらおう。

天才をうまく率いるには、リーダーが徹底した自己評価(セルフアセスメント)をしなければならない。自分を欺けば、リーダーの成長はそこで止まってしまう。自分のリーダーシップを正しく評価し、必要に応じて修正しよう。それができないリーダーは役に立たず、チームを自分の失敗の道連れにしかねない。

よいリーダーは、自分のしていることを客観的に評価できる。すぐれたリーダーは、その評価にもとづいて行動を修正できる。

ルール2 邪魔をしない

天才の成功を阻む最大の原因は、リーダーであるあなただ。天才の思考という列車の行く手を阻めば、列車はあなたにぶつかって脱線する。だから天才の邪魔をしないようにしよう。

ほとんどのリーダーは、自分がプロジェクトの中心で采配を振るうべきだと考える。だが、干渉のしすぎは天才の創造性を抑え込み、問題解決のスピードを遅らせる。

徹底した自己評価を通じて、創造のプロセスのどこに自分がいるべきかを理解すれば、リーダーは天才のために道を空けられる。

ルール3 黙って耳を傾ける

天才を率いるリーダーは、自分の話ばかりして相手の話をあまり聞かない傾向がある。天才のように賢くのみ込みの早い聞き手がいると、ついつい舌が滑らかになるのだろうが、自分の話をしすぎるほどリーダーとしての能力は下がる。

天才の邪魔をしたくなければ、もっと効果的に話を聞く方法を身につけよう。リーダーが黙って聞き役に徹すれば、天才がチームの創造的なエンジンとなって生産性を高めてくれる。

詳しくは第五章に譲るが、天才とのコミュニケーションを深めてプロジェクトの権限を委ねるには、創造的に話を聞くことがいちばんの方法だ。相手の話に耳を傾け、天才の知性を認めて、チームとの絆をもっと深めよう。

ルール4 石をひっくり返す

人はだれでも、自分だけの考えを胸に秘めている。それはたとえて言えば、石の下でうごめく薄気味悪い虫のようなものだ。こうした口に出さない考えは、チームよりも自分にとって都合のいいものが多い。

だが、本物のリーダーになりたければ、石を裏返して、その下にいる虫をチームにさらけ出そう。これは自分の考えと行動を(たとえ気恥ずかしくても)一致させる、ということである。ただし一般の部下にはそれでよくても、天才はさらにレベルの高い透明性を求める。ひとつでもあいまいにしていれば、リーダーにその気がなくても天才は即座に見抜く。するとリーダーは信用を失い、話を聞いてもらえなくなる。

天才を率いるよいリーダーは、すべての意思決定の根拠を明らかにする。すぐれたリーダーは、意思決定する前にそれを明らかにし、チームの意見を取り入れて軌道修正する。

意思決定の裏にあるデータや解釈は、問われる前にすべて差し出そう。天才が尋ねてきたときには、もう手遅れなのだ。

ルール5 化学よりも錬金術を使う

科学とテクノロジーはいまやチームスポーツと言える。そのあり方は、ゴルフよりもアメリカンフットボールに近い。問題の規模が大きすぎて、多数の天才がチームを組まなければ太刀打ちできないのだ。したがって多くの組織では、天才をそれぞれチームの要となるポジションに配置し、協力して問題の核心に取り組ませる。だが、天才ひとりひとりの補完的な専門知識からなるチームは、結果の予測がつく化学と同じだ。つまり、インプットしたぶんのアウトプットしか出てこない。この手法では、十分に生産性の高いチームは作れない。

天才が力を最大限に発揮する最高のチームは、ノンリニア(非線形的)な特徴を持つ。上下関係がなく、予測のつかない相互作用をどんどん起こす。

メンバーの個性も、専門知識や知性と同じくらい重要だ。錬金術のように個性を混ぜ合わせてノンリニアなチームを作るには、天才の心理と個々のメンバーの能力を理解する作業が欠かせない。そうすることで、アウトプットがインプット以上になるような、鉛を金に変えるような反応をチーム内に起こせるのだ。

化学の得意なリーダーは、チームに欠けている専門知識を見出し、その欠けた穴に天才をはめ込む。錬金術をおこなうリーダーは、専門知識の先を見越し、ランダムな衝突から桁外れの創造性を生み出すノンリニアなチームを作る。

ルール6 過去を未来の事実にしない

多くの人は何かを判断するとき、データよりも直感や経験に頼っている。これは自分に嘘をつく方法のひとつである。

人は気づかないうちに、過去のいい経験や悪い経験の影響を受けている。感情がある種の記憶を重視するからだが、大事なチームメンバーやリソースを失ったりすると、とりわけこうした感情主導の判断がおこなわれやすい。人の脳は、損失回避[訳注:利益を追求するよりも損をすることを避けようとする人間の性向]をするようにできているのだ。

意図して判断しないかぎり、人はリスクと感じるものを先入観から避けるが、それでは創造的な進歩は生まれない

よいリーダーは、データにもとづいて意思決定する。すぐれたリーダーは、先入観なく分析された正しいデータを使い、意思決定のプロセスに応用する。

リーダーの判断が無意識の偏見や過去の経験にもとづいていれば、天才はすぐに見抜いて、真摯に受けとめなくなるだろう。

ルール7 リスを無視する

天才は、大型犬のラブラドール・レトリバーに似ている。おやつの骨に夢中になっていても、リスが目の前を横切ると、骨を放り出して追いかけずにいられない。

一方、大半のリーダーは組織の中核ミッションに忠実であろうとするので、そんな天才に苛立たせられる。

つまり、天才はリスを、自分の仕事以外で興味を引く、小さいが面白そうなアイデアをつねに追いかけているのだ。

天才はそうやって斬新なアイデアを大量に思いつく。ほとんどのひらめきは無価値で実を結ばないが、そのなかに巨万の富を生むアイデアがひそんでいることもある。天才はすべてを追えないから、すぐれたリーダーがどのリスを追うべきかを賢く選ぶこととなる。有益な逸脱を見極める賢さを持つことで、リーダーは天才のチームに価値を加えられる。

ルール8 心と頭を調和させる

天才はよく、冷たく感情のないコンピュータにたとえられる。データを与えればこちらの望むものをなんでも作り出すかのように思われる。しかし本当のところ、ほとんどの天才は心が命じることしかできない。

天才もわれわれと同じ感情にとらわれ、同じ感情に動かされる。天才であっても、心(感情)が頭(知性)を支配しているのは、ふつうの人と変わらない

天才の心と頭はときどき歩調を乱す。ずば抜けた知性という才能に恵まれた彼らだが、感情の不調がその才能を妨げることがある。そうなると、職場に来ても仕事がおろそかになる。だが、常人を超えるレベルまで生産的になるには、天才の心が働いていなければならない。

問題を深く感情で捉える必要があるし、温かく協力的な環境で支えと安心を得られなければ、天才は十分に才能を発揮できない。天才は自分があなたやチームに必要とされていると、仕事だけでなく自分自身も認められていると実感したいのだ。

天才は心と頭が同期しているときにこそ、複雑な問題に没入できる。ストレスを感じると自由に考えられず、イノベーションから遠ざかる。心が頭を解放しなければ、天才は創造的になれない。

ルール9 問題で気を引く

天才に違うことをさせようとしても、めったにうまくいかない。問題に取り組んでいるときの彼らの集中力はすさまじく、リーダーの思いどおりには動いてくれない。別のことを強いられているとわかれば、天才はかたくなに抵抗する。彼らに方向転換を強いてもまず無理だ。なにしろ相手はリーダーよりよほど長く抵抗できるのだから。

よいリーダーは、天才を刺激して重要な目標に向かわせる。すぐれたリーダーは、天才に自分で目標を決めさせる。真に有能なリーダーは、天才の気を引くような問題を設定し、彼らの心をつかんで目標に取り組まずにはいられなくする。問題に魅了された天才は、解決への意欲をますます高めるだろう。

ルール10 危機とうまくやる

天才を率いていると、危機が新たな日常になる。天才とはそもそも破壊的な存在なのだ。危機が絶えないなら、それに慣れてしまおう。天才を率いるリーダーは、自分の人生が危機の連続となることを理解し、受け入れなければならない

天才のチームを率いるには、リーダーがまず自分自身を率いる必要がある。危機のたびに慌てふためいては、天才を混乱させるだけだ。プロジェクトに集中できなければ、天才の創造性は低下する。リーダーはどっしりと構えて、自分の内なる価値が外の荒れ狂う嵐よりも強いところを見せよう。天才を率いるよいリーダーは、危機のときに平常心を保てる。すぐれたリーダーは、その危機の原因を見つけて制圧できる。