新型コロナウイルス感染拡大の長期化や企業物価の高騰などで経営環境が悪化する中、先行きの暗さを見越して「廃業」を検討する中小企業の経営者は少なくない。背景には後継者探しやコスト上昇分の価格転嫁の難しさといった要因が挙げられるが、廃業のメリットとデメリットは何なのだろうか。さまざまなケースを通して考察してみよう。

目次

  1. 「廃業」を検討する企業が少なくない
    1. 年間4万件超で高止まり
    2. 社長の高齢化と後継者不在が要因
    3. 原材料費などの価格転嫁にも苦心
  2. 廃業後の生活:ネガティブな結果となったケース
    1. 生活資金に困窮する可能性
    2. 生きがいが失われる
    3. 雇用がなくなれば地域経済全体にも悪影響
  3. 廃業後の生活:ポジティブな結果となったケース
    1. 後継者を探して自らは相談役などに
    2. 定期収入が続く形となり、いきがいも失いにくい
  4. 廃業を回避するための4つの方法
    1. 1.後継者探しを成功させるための選択肢は?
    2. 2.利益率を高めるための選択肢は?
    3. 3.事業再構築、新規事業模索も効果的
    4. 4.M&Aという選択肢を真剣に考えるのもあり
  5. 中小企業は社会に不可欠なリソース
廃業したら、生活はどうなる? 第二の人生を豊かに送るための方法
(画像=takasu/stock.adobe.com)

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「廃業」を検討する企業が少なくない

コロナ禍を機に廃業を検討する企業が増えているのはなぜなのだろうか。

年間4万件超で高止まり

中小企業庁の2022年版中小企業白書によると、2021年の休廃業・解散件数は4万4,377件で、コロナ禍が深刻化した2020年(4万9,698件)と比べて5,000件余りのマイナスだった。とは言え、2019年と比べると1,029件も増加している。休廃業・解散件数は、2016年から6年連続で4万件台を超えたまま高止まりしている状態だ。

ところが、これらの企業の半数超は、休廃業・解散する直前期決算の当期純利益が黒字だった。それにも関わらず事業の継続を断念するケースが多いのは、70歳以上の経営者の割合が年々高まっていることが大きいだろう。

社長の高齢化と後継者不在が要因

東京商工リサーチの調査では、2021年の全国の社長の平均年齢は調査を開始した2009年以降で最高の62.77歳だ。さらに、休廃業・解散企業の社長の平均年齢は71.0歳に達した。

一般的に高齢の社長は自らの成功体験に捉われやすく、経営改善などに消極的で長期ビジョンを描きにくいと言われている。その結果、事業承継や後継者育成も遅れ、事業発展の芽を失ってしまうパターンに陥りがちというわけだ。

このような状況での中、2014年以降の中小企業の後継者不在率は60%を超えている。しかも、2025年には70歳以上の経営者が245万人に上り、国内企業の3分に1に当たる127万社が休廃業・解散、あるいは倒産に直面するという危機が叫ばれているのだ。

原材料費などの価格転嫁にも苦心

帝国データバンクが2022年9月に実施したアンケートによると、原材料費などの高騰にあえぐ中小企業の価格転嫁率は36.6%にとどまった。コストが100円上昇しても、わずか36.6円しか販売価格に反映できていないことを示している。

社長の高齢化と後継者不足というリスクを抱えたまま事業を継続しても、その先に待ち受けているのは厳しい状況でしかないという現状を踏まえれば、「大きな借金を抱える前に事業をたたんでしまおう」と考える事業主が少なくないのは無理のないことなのかもしれない。

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廃業後の生活:ネガティブな結果となったケース

生活資金に困窮する可能性

では、「廃業」がネガティブな結果となるのは、どのようなケースなのだろうか。

ひとつは、黒字経営だった企業を失った結果、その後の生活資金に窮することになってしまった場合だ。日本政策金融公庫総合研究所が2019年10月、廃業した企業の元経営者に対して実施した調査によると、「廃業時に問題になったこと」で最多(「特に問題になったことはなかった」を除く)の18.8%を占めたのが「生活するための収入がなくなった」だった。

直近1年間の収入が「300万円未満」の元経営者は、66.7%もいる。貯蓄高が「100万円未満」の割合は30.7%で、生活に「余裕がない」とした元経営者は40.2%に上った。公的年金や勤務収入などを十分に得られなければ、たちまち生活苦に陥ってしまいかねないのは明らかだ。

生きがいが失われる

もうひとつのケースは、経営という「やりがい」を失ってしまうことにある。先の調査の回答を見ても、事業を経営していたときの生きがいが低下した割合は39.6%だったのに対し、向上したのは16.4%に過ぎなかった。

これは、経営の苦しさという肩の荷が下りた解放感より、裁量があって充実感を得られる仕事がなくなった喪失感の方が大きいことを表している。

雇用がなくなれば地域経済全体にも悪影響

また、「廃業」によって元従業員の生活が立ちゆかなくなる事態に直面するケースもあるだろう。「2025年問題」では、650万人もの雇用が失われる可能性が指摘されている。総務省によると、2022年11月の完全失業者数は165万人で、実に4倍近くもの失業者があふれ出てしまうことに等しい。

事業を停止した企業の雇用が引き継がれなければ、地域経済全体にも甚大な悪影響を及ぼしてしまうだろう。

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廃業後の生活:ポジティブな結果となったケース

後継者を探して自らは相談役などに

「廃業」は取引先の企業にもダメージを与えかねず、地域に1軒しかない食料品店のような企業が消えてしまえば、集落全体のコミュニティーを維持することさえも困難になる。これらも含めたネガティブな事態を避けるためには、無形の人材や技術を含む貴重な経営資源を次世代の経営者に託すのが一番だ。

苦労はするもののしっかりと後継者を見つけることができ、自分は相談役などとしてその創業企業への貢献を続けることができれば、地域にとっても本人にとっても良い結果になったと言えるだろう。

定期収入が続く形となり、いきがいも失いにくい

相談役などとして経営に関わり続けることができれば、老後の生活資金にもなる定期収入を得られる。将来の生活の心配がなくなれば、心身の両方に良い影響をもたらすに違いない。自らが人生をかけてきた仕事という生きがいも失わずに済む。

経営者の引退は企業につきものだが、あらゆるステークホルダーにとってポジティブな未来を目指すなら、「廃業」はできるだけ回避したいものだ。

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廃業を回避するための4つの方法

ここでは、廃業を回避するための方法として4つ紹介する。

1.後継者探しを成功させるための選択肢は?

経営者としての資質があると思える親族や従業員がいなければ、後継者探しは簡単なことではないだろう。そのような場合は、国が47都道府県に設置している事業承継・引継ぎ支援センターの利用を検討してみるのも一つの方法だ。

同センターは「後継者人材バンク」を運営しており、後継者になりたいと考えている起業家と後継者を探している中小企業の求めに応じて適任者をマッチングしている。

公的機関である同センターへの相談は無料で、地域の行政機関や商工団体、金融機関などが連携して中小企業の事業承継を支援しているのも強みだ。同バンクに登録した後継希望者は累計5,617者を数え、2021年までに187件が成約にこぎつけている。

後継者人材バンクで適任者が見つからない場合も、すぐに諦める必要はない。民間の後継者求人マッチングサイトを利用すれば、専用のサイトで全国から後継者を募集できる。希望する条件をあらかじめ設定し、条件に見合う後継者を選べるサイトも充実している。

2.利益率を高めるための選択肢は?

もちろん、優秀な後継者に出会いたいと希望するなら、自社の事業を「ぜひ引き継ぎたい」と思ってもらえるように魅力を高めておく観点も不可欠だ。自社が直面する課題を洗い出し、将来に向けて必要な施策を実行しなければならない。

とりわけ、地方の中小企業にとって深刻な問題は、歯止めの掛からない人口減少が人手不足とマーケットの縮小に直結するということだろう。

これらの問題への対処を怠れば、大都市との経済格差が顕著な地方でこそ大きな効果を期待できるデジタルトランスフォーメーション(DX)などへの適応が遅れ、事業の収益性がますます低下するという悪循環に陥りかねない。

3.事業再構築、新規事業模索も効果的

中小企業が限られた経営資源を生かして利益率を高めるためには、独自の技術やサービスが持つ優位性を発揮できる事業にフォーカスしなければならない。場合によっては、事業を再構築したり新規事業を模索したりして、既存事業への販路の活用などにも役立てるべきだ。

2022年版中小企業白書によると、コロナ禍の中で事業を再構築した企業の34.9%は「すでに効果が出始めている」と答えた。「効果が出る見込み」を合わせると、96.0%が一定の手応えを実感している。

さらに、事業再構築による売り上げ面以外の効果についても、38.5%が「既存事業とのシナジー効果」を挙げた。「従業員の意欲・能力向上」(26.7%)、「技術力・製品開発力の向上」(22.5%)にも波及していることが分かる。

4.M&Aという選択肢を真剣に考えるのもあり

後継者が身近にいない場合は、M&A(企業買収)を真剣に検討してみるのも良いだろう。M&Aと聞くと大企業のプロジェクトというイメージがあるかもしれないが、近年は中小企業でも盛んに取り入れられている。

中小企業庁によると、国内の中小企業M&Aの実施件数は右肩上がりだ。2021年度の件数は事業承継・引継ぎ支援センターが1,514件、中小M&A仲介大手5社の合計は899件に上った。

中小企業庁「中小M&A推進計画」の主な取組状況~補足資料~
出典:中小企業庁「中小M&A推進計画」の主な取組状況~補足資料~

中小企業庁も補助金や税制優遇などを通し、第三者への円滑な事業承継を支援している。2022年度は、第三者承継を契機とした事業の再編や統合などを助ける事業承継、引継ぎ補助金の対象を年4回にわたり公募した。最大600万円の経費を国が支援する同補助金は、2023年度当初予算にも計上される見通しだ。

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中小企業は社会に不可欠なリソース

いわゆる「2025年問題」が現実のものなると、22兆円もの国内総生産(GDP)が消失すると予測されている。優れた企業が市場から撤退するのは、日本経済にとっても大打撃だ。国内の企業数の99.7%を占め、雇用の7割を創出している中小企業は、社会の維持や発展に欠かせないリソースであると言える。

帝国データバンクの調査では、2022年の倒産件数は6,376件と3年ぶりに増加した。債務超過で身動きが取れなくなる企業も多い中、自らの意思で事業を整理できるのは恵まれていると言えるかもしれない。

しかし、M&Aを通して資金力のある第三者に自社を譲り渡すことができれば、苦労して育ててきた事業を継続できるメリットがある。自社に適した後継者を探す仕組みや円滑な事業承継を支援する補助制度などを活用し、まずは存続の可能性を突き詰めてみてはいかがだろうか。

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文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)

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