矢野経済研究所
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国連環境計画(UNEP)、世界気象機関(WMO)、米国海洋大気庁(NOAA)などで構成されるオゾン層に関する科学評価パネルは、1月9日、アメリカ気象学会の第103回年次総会で、「現在の規制が維持されるならば、南極上空のオゾン層は2066年頃までに、北極でも2045年頃まで、その他の地域でも2040年頃までにオゾンホールが出現する以前、1980年のレベルまで回復するだろう」との予測を発表した。

太陽からの有害な紫外線を遮ってきたオゾン層が、冷媒として使われるフロンによって消失する可能性があることは早くから指摘されてきた。そして、世界がそれを現実の危機として共有するのは、南極上空ではじめてオゾンホールが確認された1984年である。その5年後、フロンなどオゾン層破壊物質を規制する国際条約 “モントリオール議定書” が発効、以後、規制対象となった特定フロンの生産と利用が段階的に廃止されてゆく。結果、「現在までにほぼ99%の削減を確認、地球を覆う成層圏上部のオゾン層は順調に回復しつつある」(UNEP)という。

特定フロン(CFC、HCFC)の代替として普及した冷媒は “オゾン破壊係数” ゼロのHFCである。ただ、HFCは、CO2と比較して何倍の温室効果があるかを示す “地球温暖化係数(GWP)” の値が高い。当初、家庭用エアコンなどで主流となったHFC(R-410A)のGWP値は2090倍、これに代わりつつあるHFC(R-32)も同675倍である。モントリオール議定書は2016年に改定、HFCを強力な温室効果ガスと位置づけたうえで段階的な削減を義務付けた(キガリ改正)。

日本もキガリ改正の着実な履行に向けてフロン対策を強化する。HFCの低GWP化目標を2030年に450倍、2036年には10倍程度以下に設定するとともに、次世代グリーン冷媒の開発、既存機器からの漏洩対策、廃棄機器からの冷媒回収の徹底、を官民連携のもとで推進する。
今回の成果を受け、WMOのPetteri Taalas事務総長は「オゾン対策の成功は気候変動対策の先行事例である」と声明した。恐らく、新たな分断に直面する世界へのメッセージでもあろう。地球課題への対応は待ったなしである。戦争などしている時ではない。

今週の“ひらめき”視点 1.15 – 1.19
代表取締役社長 水越 孝