新型コロナウイルスの影響で、近年では建設コストが増加傾向にある。ほかにもエネルギー価格の高騰やサプライチェーンの停滞など、建設業者を悩ませる問題は多い。そのような企業に向けて、本記事では建設業のコスト削減法や外注化の有効性について解説する。

目次

  1. 建設業のコストはどれくらい? 中小企業は営業利益率1~4%が目安
  2. 建設業で「基本予算・実行予算・工事原価」の見直しが欠かせないワケ
    1. 経営戦略の策定に役立つ「基本予算」
    2. 利益やリスクをコントロールするための「実行予算」
    3. 削減すべきコストが明確になる「工事原価」
  3. 建設業はどこをカットできる? 業態別のコスト削減法
    1. 土木工事・公共工事──下請けからの脱却で営業利益率10%超を目指す
    2. 住宅建設業──品質を維持しながら材料費を徹底して見直す
    3. 不動産開発業──積極的なDX化・IT化で業務のムダをなくす
  4. 実は外注化もコスト削減に! 外注したい項目と税金の仕組み
    1. 個人事業主への外注ではインボイス制度に注意!
  5. 建設業で削減できる固定費・変動費は?優先してカットしたいコストの一覧
  6. 労力対効果が高いものを中心にコストの削減プランを考えよう
建設業のコスト削減はどうすればいい? 業態別のポイントを解説
(画像=siro46/stock.adobe.com)

建設業のコストはどれくらい? 中小企業は営業利益率1~4%が目安

そもそも、建設業ではどれくらいの経営コストがかかるのだろうか。まずは国土交通省のデータから、中小企業における営業利益率を見てみよう。

建設業のコストはどれくらい?
(引用:国土交通省「建設業を取り巻く主な情勢」)

年度によって異なるが、小企業の営業利益率は1~3%前後、中企業は2~4%前後で推移している。仮に売上高を年間10億円とした場合は、1年間の営業利益が1,000~4,000万円ほど、原価や販管費などのコストが9割以上を占める計算だ。

さらに近年では、新型コロナウイルスやロシアによるウクライナ侵攻の影響で、鋼材や木材などの建設コストが高騰している。もともとコストの割合が高い業界なだけに、資材やエネルギー価格の高騰は大きなダメージにつながるだろう。

建設業で「基本予算・実行予算・工事原価」の見直しが欠かせないワケ

建設業のコスト削減では、「基本予算・実行予算・工事原価」の見直しが欠かせない。分かりやすい計画を立てるためにも、まずはこれらの概要から押さえていこう。

経営戦略の策定に役立つ「基本予算」

基本予算とは、会計期間で区切った予算のことである。営業活動や施工活動など、活動別に計画を立てることで大まかな支出が分かるため、基本予算を見直すと全体的な経営戦略を立てやすくなる。

○基本予算の主な項目
・営業活動:営業費や完成工事高などの営業予算。
・施工活動:材料費や労務費などの工事費予算。
・政策活動:研究開発費や広告費などの活動予算。
・管理活動:減価償却費などの一般管理予算。

基本予算はあくまで大綱的なものであるため、活動を細分化して細かく予算を設定する必要はない。

利益やリスクをコントロールするための「実行予算」

建設業における実行予算とは、一つひとつの工事に分けた予算である。各工事の目標原価を見極めることが目的であり、細かく策定すると利益やリスクをコントロールしやすくなる。

○実行予算の主な項目
・材料費
・労務費
・外注費
・その他経費

実行予算は具体的なコストを把握するものであるため、「養生費」や「下地処理」のように細分化することが望ましい。

削減すべきコストが明確になる「工事原価」

工事原価とは、実際の工事でかかった支出をまとめたものである。建設業のプロジェクトは数年にわたって進められるケースも多いため、工事原価は以下の2つに分けて計算する必要がある。

・完成工事原価:その年度中の会計に計上する原価。
・未成工事支出金:翌年度に繰り越して計上する原価。

主な項目は実行予算と同じだが、工事原価ではすでに発生したコストをまとめる。各項目を前年度の金額や業界の相場と比べれば、削減すべきコストを見極めやすくなるだろう。

建設業はどこをカットできる? 業態別のコスト削減法

建設業でカットできるコストは、事業内容や業態によって異なる。以下では3つの業態に分けて、優先的に削減したいコストを解説しよう。

土木工事・公共工事──下請けからの脱却で営業利益率10%超を目指す

土木工事や公共工事を中心に引き受けている企業は、下請け体質からの脱却を目指したい。エンドクライアントとの間に大手ゼネコンなどが存在していると、営業利益率10%を超えるハードルが非常に高くなるためだ。

具体的な施策としては、ホームページやSNSを活用したローカル的な集客が挙げられる。建設業では、「東京 建設会社」のように地名で検索されるケースが多いため、その点を意識しながら情報発信をしていきたい。

また、土木工事・公共工事では、賠償責任保険の見直しもコスト削減につながる。物損事故や第三者にケガを負わせるリスクがあるため、保険の見直しには不安を感じるかもしれないが、ほぼ同じ保障内容でコストが安くなるケースは意外とある。

技術基準や設計方法など基本的な部分も改善しながら、上記の2つを中心にビジネスモデルを見直していこう。

住宅建設業──品質を維持しながら材料費を徹底して見直す

住宅建設業では、製品や部材の見直しが効果的になる。分かりやすい例としては、フローリング材やサッシ、ユニットバスの原価低減が挙げられるだろう。

住宅建設ではさまざまな製品・部材を使うため、これらを見直すだけで大きなコスト削減につながる。品番やメーカーを指定されていたとしても、交渉をすれば自由に仕入先を選べるかもしれない。

また、材料費を抑える方法としては、中間業者を省くことも有効だ。製造元から直接仕入れることができれば、余計な流通コストを抑えられるだけではなく、適切な発注ロットを設定しやすくなる。

ただし、材料費の削減に力を入れ過ぎると、品質低下を招くケースも見受けられる。顧客が減る対策は本末転倒であるため、品質維持やサービス向上を前提とした計画を考えよう。

不動産開発業──積極的なDX化・IT化で業務のムダをなくす

不動産開発のような大規模な事業では、デジタル技術の導入による省人化・業務効率化に取り組みたい。多くの労働力が必要だからこそ、身近な業務をDX化・IT化するだけで大きなコストカットを実現できる。

費用面に不安を感じるかもしれないが、工夫次第では少ないコストで大きな効果を得ることも可能だ。

○不動産業界のDX化やIT化の例
・SNSで有益な情報発信やお得なキャンペーンを行い、効率的に宣伝をする
・契約手続きの電子化ツールを導入し、形式的な業務コストを削減する
・情報やスケジュールの共有ツールを導入し、人材の再配置で業務のムダを削る

DX化やIT化を進める上では、リースまたはレンタルも選択肢になる。最終的な導入コストは増えるが、他社から設備・システムを借りる形であれば、中小企業がつまずきやすい初期費用を大きく抑えられる。

実は外注化もコスト削減に! 外注したい項目と税金の仕組み

さまざまなコストを削減するために、自社だけでこなす業務を増やしている企業も多いだろう。余計な支出を減らす努力は重要だが、建設業では外注がコスト削減に役立つことをご存じだろうか。

<建設業で外注できるもの>
・経理や会計などのデスクワーク
・設備やシステム、部品などの製造
・仮設工事(足場の組立や解体など)
・本設工事
・現場の警備

例えば、デスクワークや警備など付随的な作業を外注すると、コア事業に注力しやすくなる。つまり、人件費の削減と売上アップを同時に達成できる可能性があるため、外注はうまく活用することが重要だ。

また、建設業には「一人親方」と呼ばれる個人事業主が多いため、工事にあたる人材の外注化も考えたい。従業員に支払う給与を外注費に置き換えると、以下のコストを削減できる。

○人材の外注化によって削減できるコスト
社会保険料:従業員との折半分。通常は給与の約15%が会社負担分となる。
消費税:課税事業者への外注で、10%の仕入税額控除が適用される。

ただし、外注費はキャッシュフローを圧迫することもあるので、外注化するものは財務のバランスを見ながら都度判断しよう。

個人事業主への外注ではインボイス制度に注意!

2023年10月1日から、日本では「インボイス制度」が新たに施行される。この制度が始まると、免税事業者は仕入税額控除に必要なインボイス(適格請求書)を発行できなくなるため、外注が多い建設業者は大きなダメージを受ける恐れがある。

例えば、仮設工事を依頼した一人親方が免税事業者にあたる場合は、インボイスを請求しても発行してもらえないため、仕入税額控除の適用は受けられない。つまり、外注する度に「外注費×10%」のコストが積み重なってしまう。

長期で見ると大きな負担となるため、個人事業主に外注する場合は「課税事業者であること」を必ず確認したい。

建設業で削減できる固定費・変動費は?優先してカットしたいコストの一覧

事業内容や業態に関わらず、建設業では優先してカットすべきコストが多く存在する。以下では、固定費と変動費に分けて一覧を作成したため、一つずつチェックしながら削減すべきコストを見極めていこう。

固定費・変動費

優先的に削減努力をしたいのは、修繕維持費や通信費などの固定費だ。固定費は売上に関係なく発生するコストなので、一度削減をすればその効果が継続する。

変動費の中では、電気代の削減に取り組みたい。特にモデルルームを運営している場合は、電力会社や契約プランを見直すだけで大きなコストカットを実現できる。

コスト削減には多くの方法があるため、小さな労力で効果が大きいものを選ぶことが重要だ。各コストを削減した場合の「労力対効果」を比較し、高いものから優先的に取り組むようにしよう。

労力対効果が高いものを中心にコストの削減プランを考えよう

建設業で削減できるコストは、事業内容や業態によって異なる。効率的なプランを立てるには、まず発生しているコストをすべて洗い出し、労力対効果を細かく比較しなければならない。

大雑把にコスト削減を進めると、品質や生産性の低下につながるリスクもあるので、情報収集や財務状態の分析から始めていこう。

著:片山 雄平
1988年生まれのフリーライター兼編集者。2012年からフリーライターとして活動し、2015年には編集者として株式会社YOSCAに参画。金融やビジネス、資産運用系のジャンルを中心に、5,000本以上の執筆・編集経験を持つ。他にも中小企業への取材や他ライターのディレクション等、様々な形でコンテンツ制作に携わっている。
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