新型コロナ、原油高騰、円安、インフレによって、多くの業種で仕入価格の高騰が起きている。経営資源に限りのある中小企業の経営者は、自社の利益を回復させるため、値上げとコスト削減のどちらを優先させるべきか悩ましいところだろう。
100円の値上げと100円のコスト削減、一体何を基準に判断すればよいのだろうか。そもそも、その2つは、比べられるものなのだろうか。この記事では、値上げとコスト削減の違い、値上げとコスト削減の優先順位、値下げや値上げ交渉のコツと注意点について解説する。
目次
値上げとコスト削減の違い
会計上の利益は「収益-費用」で計算されるため、100円の値上げをした場合と100円のコスト削減をした場合の会計上の利益は変わらない。
たとえば製造業において、1個あたりの販売価格1,000円、製造原価600円の製品を、200個販売した場合、利益(粗利)は8万円(1個あたりの利益400円×200個)となる。
この製品について、(1)販売価格を1,100円(+100円)にした場合と、(2)製造原価を500円(▲100円)に削減した場合、(1)と(2)のどちらも1個あたりの利益は500円に増え、利益(粗利)は10万円に増える。
それなら値上げとコスト削減はどちらを選んでも同じなのかというと、そうではない。会計上の利益が同じであっても、現実では、顧客に与える影響が異なるからだ。
優先すべきはコスト削減
販売価格の値上げは、顧客の負担をダイレクトに増やすものであるため、顧客満足度の低下に直結しやすい。そのため、値上げによって一時的に利益が上がったとしても、客離れによって販売数が減少し、売上高の減少が止まらなくなるおそれがある。
せっかく販売価格を1,000円から1,100円に値上げしても、販売数が200個から160個に減少すれば、値上げ前と利益は変わらない。経営環境の悪化が収まった後、失った顧客を取り戻そうとすれば、別のコストがかかる。
また、販売数が減少する間は在庫を多く抱える傾向があり、運転資金も不足しやすくなる。そうなると、何か対策を講じようにも身動きが取れず不利な状況が続く。値上げは、このような負担が生じる点も考慮しなければならない。
もちろん、インフレが加速しつつある現状では、仕入れ値の高騰などによって値上げを決断せざるを得ないタイミングも来ると考えられるが、まずはコスト削減を優先するべきである。
コスト削減にも優先順位がある
会計上の最終利益(当期純利益)のみを考えれば、どのコストを削減対象にしても、結果は同じといえる。事務用品費でも人件費でも、いずれかを100円減らせば、会計上の利益は100円増える。
それでは何を減らしても同じかというと、そうではない。
たとえば、販売業や製造業で商品や材料の品質を落として顧客に販売したり、サービス業で人件費や設備費を減らしてサービスの質を低下させたりすると、顧客が支払った対価に見合う価値を感じなくなる。これでは、値上げをした場合の反応と変わらず、販売数の減少につながる。
企業を存続させる利益の源泉は、言うまでもなく顧客から支払われる金銭だ。そのため、コスト削減において大切なことは、売上高や顧客を減らさないものから見直すことである。顧客に提供する商品やサービスの品質に直結しないものを優先的に削減しなければならない。
もちろん、経営資源が潤沢な企業であれば、不採算事業は切り捨てて、新しい市場に飛び込むこともできるだろう。しかし、そのような大きな方針転換が難しい多くの中小企業においてはまず、今の顧客が自社の商品やサービスの“何にもっとも価値を感じているか”を見つめ直し、その価値を損ねない範囲でコスト削減に取り組むことが大切だ。
中小企業における値上げやコスト削減の具体的な手順
前項の内容を踏まえると、中小企業における値上げやコスト削減を行う具体的な手順と各手順のポイントは、次のとおりである。