M&Aコラム
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小森: 買収の参観日チャンネル、今回は大阪支社からゲストに登場してもらいます。

岡部: 西日本事業法人部の岡部と申します。主にIT関連のお客様のM&Aをお手伝いしております。

小森: 岡部さんと一緒に、西日本のIT業界のM&A事情を色々掘り下げていきたいと思います。

IT業界と建設業は似ている?

小森: 岡部さん自身がITに興味を持ったのは、どういうきっかけでしょうか。

岡部: IT企業というと、勢いのあるベンチャー企業、なんだか難しそう、というイメージを持たれる方も少なくないと思うのですが、当社の事例として多い建設業と根本的にはすごく似ているように感じています。

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小森: どういう点で、そう思われるのでしょうか。

岡部: IT企業は労働集約型の会社がほとんどで、建設業で例えると、ゼネコンにあたるところが大手Sier、いわゆるNTTさん、日立さんのような企業があって、そのほかの中堅・中小企業はこの商流のいずれかに位置しています。その中で、「どうやって単価をあげるか」「人を増やすか」というところで経営者の方々は日々成長を模索していらっしゃいます。そういう点において、根本的には他の業界と変わらないと思っています。

小森: ITと建設業が似ている、っていうのは面白い発想だなと思いますね。IT業界というと、東京にある会社をイメージされる方も多いと思うんですが、西日本のIT企業っていうのは、どのぐらいあるんでしょうか。

岡部: 経済産業省が出している統計データによると、(全業種における)東京の事業所数と、名古屋より西側にある、2府27県の事業所数がちょうど同じぐらいの数のようです。当然、名古屋以西の「西日本のIT企業」という点で見ると、数自体は東京に比べると少ないのではないでしょうか。

小森: 岡部さんは、名古屋以西のIT企業を主に担当されていますが、どこの地域でM&Aが多く行われているんでしょうか。

岡部: 個人的には名古屋のお客様が多いと感じています。

小森: 大阪は少ないんでしょうか。

岡部: M&Aの数自体は、名古屋より大阪の方が多くて、さらにこの西日本というくくりで見た時に先ほど申し上げた2府27県あります。この中でもう少し細かく分析していくと、名古屋・大阪・福岡とその他で分かれるのかなと思ってます

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名古屋・大阪・福岡は、先ほど申し上げたSIerや広告代理店が多く、その労働集約型の商流の中のどこかに属している会社が多いです。

なぜかというと、現場やお客様が3地域のいずれかに位置しているので、必然的にそれに比例してIT関連の企業の数はこの3地域に集中しています。

逆にその他の地域でいうと、自社でサービスを持っている会社になります。サービスを持っているIT関連の企業は、自分のところで製品を使って、そのサービスを売るというビジネスですので、会社がどこに所在してるかは、そこまで重要にはなりません。
西日本全体で見ると、各社がそのように位置していると思います。

小森: 海外も含め、人件費の事情も所在地に関係があるように思いますが、会社の数自体は多くないっていうことですかね。

岡部: おっしゃる通り、今IT業界全体の流れとしては10年前というと、オフショアというのが主流で、当時だと「アジアの〇〇にオフショアの拠点があります」っていう会社って、すごく多かったんですよね。

※オフショア開発:海外など自国から離れた地域に開発拠点を置くこと。

ただオフショアも、なかなか難しい点があります。例えばブリッジSE、つまり言葉がわかる、技術のこともわかるという人を常駐させなきゃいけない、そのコストがかかる。あとは、海外といっても人件費が上がっているため、なかなかコストメリットが取れなくなってきていることも挙げられます。

そのため地方に開発拠点を持って、そこで比較的安価な人件費で開発する、という流れ自体は結構ポピュラーにはなっています。

ただし会社の絶対数で行くと、やっぱり地方の労働集約型の会社っていうのは、まだまだ少ないというイメージはありますね。

名古屋・大阪・福岡のIT企業の特徴

小森:少し話が戻りますが、名古屋・大阪・福岡に分けられるというところですけど、地域ごとに特徴はあるんでしょうか。

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岡部: 名古屋の特徴で申し上げると、大手自動車メーカー系の会社をエンドユーザーに持っているシステム開発の会社、いわゆるSIと呼ばれる会社さんが多くあります。

これはもう色々種類があって、組み込み系をやっているところもあれば、例えばメーカー系列会社の社内の業務システムを作っている会社などが多くあります。

あと名古屋は、デザイン会社、印刷会社が昔から多かったのかなと感じています。そうした会社はだいたい時代の流れにともなって、ウェブの方に行くんですよね。

もともとはデザイン会社や印刷会社だった会社がウェブ制作会社、デジタルマーケティングの領域に展開している会社も、もうひとつ大きなくくりとして結構な数があるように感じています。

大阪の会社だと、圧倒的に製造業が多い地域なので、組み込み系ソフトウェアを開発する会社が多いですね。
あとは会社の絶対数も多いので、上場しているIT企業も相応にありますし、東京に次ぐIT市場のイメージを持っています

福岡で言うと、結構ニアショア的な考えで、本社が東京にあるけれど、博多に開発拠点を持っている、みたいなそんなパターンも多く耳にします。

若手の優秀なエンジニアが、九州全域から集まってきて開発を行っている会社が多いのかなと思っています。
福岡に関して業種という観点でいうと、強いて言えば金融系の会社が多い印象がありますが、名古屋や大阪ほどには業種の特色はないイメージですね。

小森: どちらかというと、福岡は支店として機能しているところが多いイメージですかね。

西日本でなぜIT企業のM&Aが増えたのか

小森: それぞれ地域の特徴があるというのがわかりましたが、その中で、今西日本でのIT企業のM&A動向、どんな感じなんでしょうか

岡部: 逆に小森さんにお伺いしたいんですけど、7~8年前の西日本のITのM&A市況はどういう感じだったんでしょうか。

小森: そうですね、、「たまにある」って感じでしたね。当時のイメージだと名古屋というよりは大阪、特に新大阪あたりに結構会社が集中しているなっていうイメージはありました。

岡部: ありがとうございます。昨今の西日本のITのM&Aというところでいくと、件数自体は関東に比べるとまだまだ少ないんですけれども、おそらく当時と比べるとじわじわ増えてきているのかな

例えば直近で今年の全国で成約した件数をみると、そのうちだいたい370組程度のIT企業が関わるM&A事例がありました。 そのうち譲渡企業、あるいは譲り受け企業、いずれかに西日本の会社が入っているというパターンは、93組ありました。

小森: 結構な数がありますね。

岡部: 約25%が西日本の会社だったという。7~8年ぐらい前だと大体15~6%だったんですね。

小森: なるほど、だから「たまにあった」という印象になってるんですね。

岡部: 当社でお手伝いさせていただいた直近のM&Aの数でいうと、今年は10月末までで19組のIT企業のご成約がありました。 そのうち7組は西日本の企業が関わっているM&Aです。

割合で言うと、4割弱になりますので、関東と西日本の企業の絶対数からいくと、増加傾向にあるといえます。

小森: 増えた要因って、どんなところが挙げられますか。

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岡部: 一言で申し上げれば、西日本のITの経営者の方々のM&Aに対する理解、リテラシーが急速に向上しているということでしょうか。

私は年間150名ほど、IT企業の経営者の方とお話しさせていただく機会があるのですが、戦略自体を安全に選択肢だから排除してる経営者の方っていうの、はほぼいません。

小森: 会社を売るも、買うもどっちも考えていないという人がゼロっていうことですよね。IT企業の社長さんはM&Aを戦略の一環として捉えてらっしゃると言えますね。

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IT業界の事業承継

IT業界の社長さん、年齢がお若いイメージがあるんですけど、岡部さんが普段お会いしている方々はどのぐらいの方が多いんですかね。

岡部: 私がお手伝いさせていただいた譲渡側の経営者さんですと、40代から50代半ばの方がボリュームゾーンになっています。他の業界の経営者の方々と比べるとお若い印象です。

小森: 30代、40代、50代で、譲渡する決断をされていると。その決断の背景ってどういったところがあるんでしょうか。

岡部: IT業界に関してもおそらく、7~8年前は他の業界と同じように「後継者はいらっしゃらないけど、会社は黒字で、廃業を防ぐために事業承継をしましょう」という事業承継型M&Aが主流だったと思います。

小森: そうですね。

岡部: いまや事業承継は一口に語れなくなってきています。事業承継というと「株の承継」と「経営の承継」がありますよね。

経営の承継として、例えば社内にいる第三者で、社長を任せられるような方がいたとします。この方が個人で借り入れをして株を買い取れるのかというと、良い会社であればあるほど株価が高くなるので、なかなか現実的には難しいです。

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最近よく耳にするのは、創業オーナーが、譲渡後も代表取締役社長としてそのまま残り、経営をしていく。親会社の役員に入る、というパターンが増えています。

つまり、自社の株を「自分の会社を成長させるためのツール」として、ある意味フラットに捉えている経営者の方がすごく多くいらっしゃいます。

自社のエクイティを何に変えられるのか。当然譲渡対価に変えて、創業者として利潤獲得というのは大前提としてあるのですが、そのプラスアルファとして事業的なシナジーがあるとか、この会社と組んだらこういうサービス作れる、とか、そういったところを描いている経営者の方がすごく増えています。ですので、若くても、「一旦株は整理しよう」という流れになっているのかなと考えています。

「株の承継の問題」って、経営者の方は全員いつか直面する問題です。この解決手法は基本的には2通りで、1つはIPOですね。パブリックな会社になって、市場に株を流通させる、もう1つはM&Aで第三者に適正なバリエーションで譲渡する。

この2つのどちらかを出口戦略としている経営者の方が多く、ここを目指す上で、今何をするべきなのか、株をどうするべきなのかというのを冷静に判断されている方が多いと思います。

小森: 昔だと「息子がいたら息子が会社を継ぐ」みたいな話でしたけど、そのトレンドが変わりつつあります。その最先端をいくIT業界では、その傾向が顕著である、そんなイメージでしょうか。

IT企業の経営者が事業譲渡を行う理由

小森: その他M&Aに関することで、特徴的なことはありますか

岡部: これまで基本的に株式譲渡のお話をしてきたんですけれど、事業譲渡とかカードアウトとかって言われるものも、広義のM&A中の一部かなというふうに思っています。

直近で、ITの経営者の方が集まるような会合の中で、自社の事業を上場会社に事業譲渡されたという経営者の方のお話を伺いました。

その方に「なぜ譲渡されたんですか」と尋ねた時に、真っ先に帰ってきた回答が「資金調達です」って言われたんですよね。これがちょっと、個人的にすごく面白く感じて。

これまでは事業譲渡っていうと、例えば不採算事業を切り離すとか、あるいはIPOを目指している会社が「この事業は本業と毛色が違うよね」と切り離す、といったパターンが多かったのかなと思います。

その社長さんはITのサービスの会社を経営されていて、譲渡した対象事業は、その会社で稼ぎ頭になっている事業なんですよね。

今回ある程度つくられた事業を現金化して、この対価を会社に入れると。この対価を使って他の事業を伸ばしていく。
そして最終的にはそれらを通じてIPOとか、それが難しければ会社ごと譲渡するのか、もちろんその戦略を取っていく中で、もう1回資金調達のために別に立ち上がった事業を譲渡するという可能性も多いにある。
ということをおっしゃっていました。

これがすごく新鮮で、先進的かつアグレッシブな戦略だなと思いました。

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小森: M&Aを資金調達に使うっていうまた面白い話ですね

岡部: 自分のところの資本をどう生かしていくか。譲渡と言えば資本戦略ですし、買収となると投資戦略ですよね。そのことを、IT企業の経営者の方々はフラットに捉えていらっしゃるなという印象があります。

小森: 今回は西日本駅のIT業界のM&A事情についてお送りいたしました。今後も各地域、各業界の動向についてお送りしていきます。岡部さんありがとうございました。

岡部: ありがとうございました。

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プロフィール

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小森 健太郎(こもり・けんたろう)
日本M&Aセンター 西日本事業法人部 部長
メーカー、ベンチャーキャピタルを経て、2009年、日本M&Aセンターに入社。一貫して西日本でのM&A支援に携わり、累計100件を超える買収支援実績を持つ。現在、西日本事業法人部長として、日本M&Aセンターの西日本地域のバイサイドのヘッドを務める。
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壷井 直貴(つぼい・なおき)
日本M&Aセンター 西日本事業法人部 チーフ
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