1%の超一流が実践している仕事のシン哲学
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(本記事は、寺嶋 高光氏の著書『シン・製造業 製造業が迎える6つのパラダイムシフト』=クロスメディア・パブリッシング、2022年11月28日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

日本で起こり始めた「シン・製造業」の狼煙

本章では、ディスクローズされている情報をもとに、第3章でお話した❶~❹のことを実践しているであろうと思われる日本の製造業を筆者が勝手に選ばせて頂き、紹介します。

1. ファーストリテイリングの企業変革

ユニクロは、現在では国内外で高い競争力とブランド力を手にしていますが、2000 年当初はまだここまでのブランドは獲得できておりませんでした。同時期に、海外ブランドである「Z A R A 」や「H &M 」、「G A P 」などが続々と日本に進出し、着々とユニクロ包囲網を形成しておりました。

ところがこれらの海外ブランドの店舗は2015年をピークに続々と閉店し、現在は半減状態にあります。日本は長期的なデフレ経済により、海外企業から「利益率が低い」、「将来性がない」というレッテルが貼られてしまったこともあるかと思います。

しかし、満足のいく利益率を確保しつつ商品を正価で売ることが本当に難しいのか、あるいは、本当に将来性がないのかということに関しては、ユニクロの成功をみると、一概にこの通りではないと考えています。

ユニクロは、2003年に東レと共同開発をした「ヒートテック」を世に出します。その後2007年に「エアリズム」、2009年に「ウルトラライトダウン」など機能性を追求した商品を展開します。

加えて世界的ファッションブランドであるジル・サンダーとのコラボにより、定番ブランドでありながら、斬新さを感じさせる新商品の展開を行ってきました。

このようにして、製造小売業の地位を固めていき、2017年には、デジタル技術を活用した「情報製造小売業」というビジョンを掲げ、売上は右肩上がりの状態が続きました。ユニクロの成長を見ていると、2015年をピークに日本の店舗を半減させた海外ブランドの衰退は、ユニクロのビジネス、商品品質や価格に敵わなかった可能性があります。

おそらく、より多様な側面を持つ日本市場への適合がうまくできなかったのではないかと推測します。

ここからはユニクロがビジョンとして掲げた「情報製造小売業」に向けて、具体的にどのような施策を実施してきたのかに触れていきたいと思います。

「情報製造小売業」がどのようなものであるかを読み解く際、会長兼C E O の柳井正氏が、デジタル変革は「C E O アジェンダ」だと明確に宣言されたことが重要な点です。

つまり、デジタル変革を会社の未来を決する最重要経営課題と捉えたということを意味します。デジタル変革を実施するためには、社内カルチャーの変革、ビジネスモデルの変革、組織変革、人事変革など多方面の変革をリードせねばならないことが分かっていたからです。

D X の出発点として、トップ自身による、この思い、位置づけは極めて重要なものになります。

その上で、「製造小売業」から「情報製造小売業」への変革を宣言しました。ユニクロが目指す「情報製造小売業」とは、「作ったものを売るのでなく、消費者が求めるものを作る」ことです。

当たり前の様に聞こえるかも知れませんが、従来、消費者が求めているものを作ろうとすると、店頭に並ぶまで2年間を要していました。なぜ2年もかかるのかというと、消費者ニーズを押さえてから、商品企画、デザイン、素材調達、サンプル制作、量産などの工程を経るためです。

この時間軸で製品開発した場合、製品を市場に投入した時点では消費者の指向との間にズレが生じ「作ったものを売る」という形態になってしまいます。

では、消費者が求めているものを作るとは、どのようなことでしょうか。

企画や生産の流れを1日単位へと進化させ、消費者ニーズを押さえてから服が店頭に並ぶまで2週間という時間軸が設定されました。究極的には、この2週間をさらに短縮し、リアルタイムを目指そうということになります。まさに「情報製造小売業」の姿であり、真のD X を目指す企業の在り方です。

では、どのような仕組みで「情報製造小売業」を実現させたのかを、5つの要素で見ていきます。

①お客様とダイレクトに繋がる顧客基盤

ユニクロの顧客基盤の中には3つの柱があります。一つ目は「お客様とダイレクトにつながるE C・アプリ会員基盤」です。これは日本ではG U も合わせて5700万人のお客様がアプリ会員となっており、海外ブランドと比較するとユニクロだけが突出して桁違いの会員数を獲得しています。

二つ目は、お客様・店舗からの声をプラットフォームに収集、蓄積している点です。これは年間約2700万件のデータが集まっており、商品・サービス開発の起点となっています。

三つ目が一人ひとりのお客様に対するダイレクトな情報発信で、これは個々のお客様に寄り添ったものとなっています。

②お客様の声を起点にした情報の商品化、商品の情報化

情報の商品化とは、毎日収集されるお客様の声をリアルタイムに分析し、新しい商品アイデアを創出することを意味します。

そのようにして創出された商品アイデアをすぐに企画する業務プロセスも含まれており、年間50品番以上の商品開発を実現しています。スフレヤーンのセーターやウルトラライトダウンのリラックスコートもお客様の声を起点に開発された商品です。

その一方で、商品の情報化とは、ユニクロの有明本部に日本最大級の撮影スタジオを新設して、リアルタイムに新商品を情報化するための基盤を構築していることを指しています。ここで撮影された商品は、Lifewearマガジン、カタログ、E C サイトなど様々なチャネルを通じて即時展開されていきます。

③求められているものを必要なタイミングで必要な分だけ作り・運び・販売

ユニクロでは3つのサプライチェーン変革を実施しています。

一つ目はA I を活用した生販物連動です。

Googleと共同で開発した需要予測モデルA I で世の中のビッグデータを元に需要予測を精緻化し、同時に生産最適化アルゴリズム、在庫の最適配分アルゴリズムを用いて、必要なタイミングで必要なだけ、作り・運び・販売することを実現しました。

二つ目は、S C M 全体のリードタイム短縮です。

生産進捗のリアルタイム把握、素材の備蓄、空輸の活用により柔軟な生産対応を実現し、R F I D 導入によりリアルタイムに精度の高い在庫可視化も実現しています。

三つ目は、自動倉庫による最適なS K U オペレーションと配送ルート管理により、適時・適品・適量の商品店舗投入を実現しています。

④いつでもどこでも便利で楽しい購買体験

「いつでもどこでも便利で楽しい購買体験」にも3つの要素があります。

一つ目は世界最高レベルのE C です。 E C 事業は、全社売上の18%まで拡大しており、エンジニアの内製化も含め、新システムなど、新規サービス開発のスピードが飛躍的に向上しています。

二つ目はE C で注文して店舗で受け取るなどのオンラインとオフラインが融合した購買体験の進化です。そして、三つ目はセルフレジやユニクロペイを導入した新型店舗の出店です。国内だけでなく、グローバルに出店を加速しています。

⑤一元化された情報をもとに、お客様のために、全社員が連動する働き方

「情報製造小売業」実現のための最後の要素です。

全社の計画、実績などの情報を一元化することで、全社員が同じ情報を見て日々の業務オペレーションを実行しています。

たとえて言うなら、情報が部門や人をバケツリレーの様に流れて行くのではなく、全部門の屋根からシャワーの様にしたたり落ちるイメージで、これこそがお客様のために情報がリアルタイムに連動すると言われている根幹の仕組みなのです。

ユニクロは「製造小売業」から「情報製造小売業」へと変革していますが、2021年にさらにこれを深化、拡大させるビジョンを掲げました。

それは、「サステナブルな情報製造小売業」への変革です。このビジョンにおいて3つの要素が追加されました。

一つ目は、C O 2削減・廃棄物Z E R O を徹底的に目指した事業の実現、二つ目は、安心・安全に配慮した事業の実現ということで、ユニクロのビジネスに関わる全ての人にとって、働く環境・人権を尊重し、全てが透明性ある形で可視化されることを目指します。

三つ目は、循環型経済の実現で、お客様の求める商品を作って売るだけでなく、少しでも長く着て頂き、着終わった服を回収し循環させるとしています。これは大変時流に合った宣言だといえるでしょう。

ユニクロは、経営陣がリーダーシップを取り、事業環境を睨みながらパーパスやビジョンの見直しを絶えず行っています。

パーパスやビジョンというのは、顧客を起点としたコーポレート戦略、バリューチェーン戦略の立案と実践、そして様々な企業と共同での新たなる技術革新といった内容です。この様な企業活動を実行する日本の製造業が増えることを期待しています。

シン・製造業 製造業が迎える6つのパラダイムシフト
寺嶋 高光(てらしま・たかみつ)
株式会社ISIDビジネスコンサルティング代表取締役社長
国内大手SIer、外資コンサルティングファームを経て、2002年に電通国際情報サービスに転職。2013年にISIDビジネスコンサルティング創業メンバーとなり、同社経営戦略コンサルティング本部長、取締役を歴任し、2021年に代表取締役社長に就任。自動車メーカーを中心に、製造業へのコンサルティング業務を行う。特にIoTやデジタルテクノロジーを用いた、製造業の事業戦略及びコーポレート戦略立案、バリューチェーン革新等によって業績を改善させた数々の実績を持つ。

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