矢野経済研究所
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12月20日、政府はこの5月に成立した経済安全保障推進法にもとづく「特定重要物資」を閣議決定した。対象は半導体、蓄電池、工作機械、天然ガス、重要鉱物、永久磁石、抗菌薬、肥料、船舶部品など11分野、国民生活や経済活動を維持するために必須な資源、部品、材料が指定された。政府は、今後それぞれの品目について供給網の多様化、国内生産体制の整備、代替物資の開発、備蓄能力の強化に向けた具体化策を策定、有事における安定供給体制の実現を目指す。

言うまでもなく最大のリスクは中国である。民間にあっても「チャイナプラスワン」はここ十数年来のテーマだった。しかしながら、生産拠点として、また、巨大な成長市場として投資を続けてきた企業にとって中国からの完全撤退は容易ではない。販路や調達先のもう一段の多様化と事業の質的転換をどう進めるかが課題だ。一方、同盟国である米国の経済安全保障政策もまた日本企業にとって一定の制約となりつつある。「再輸出に関する域外適用ルール」の問題に加えて、今、とりわけ取り沙汰されているのは8月に成立した通称 “インフレ抑制法” だ。

同法の狙いは、物価の上昇を押さえるとともに気候変動対策やエネルギー安全保障を進めることにある。しかしながら、例えばEVについては生産国や部材の調達先によって補助金や税控除が決まるなど、産業政策的には極めて保護主義的な内容となっている。法律の細部については修正の余地が残されているというが、北米市場で競争力を維持するには米国内に生産拠点を持つ必要が生じる可能性もある。EUはこれに反発、日本企業にも懸念が広がる。

国際情勢の急変を受け、世界が自国の経済安全保障の強化に向かう。ただ、各国がこれを徹底すればするほど分断は細分化され、結果、成長機会は制限される。国際機関の調整力や国レベルの外交力が問われるところである。一方、個々の企業にあっても公平、公正なルール、共通の価値観という視点から事業全体を点検し、市場戦略やサプライチェーンの再構築に先手を打っておくべきであろう。特定重要物資11分野はもちろん、すべての企業がこれまで以上に地政学リスクへの感度を高めておく必要がある。いずれにせよ、変化は最大のチャンスだ。まずはリスクを現実のものとして受け入れ、そのうえで新たな成長機会を見出してゆきたい。2023年、新たな年が待ち遠しい。どうぞ良いお年をお迎えください。

今週の“ひらめき”視点 12.11 – 12.22
代表取締役社長 水越 孝