イギリスを代表する現代アーティストのジュリアン・オピー。ピクトグラムを連想させる最小限の描画と線、色彩で表現する人物像や風景画で人気を確立。また、イギリスのバンド「Blur(ブラー)」のアルバムジャケット、イギリスのロイヤル・バレエ団やアイルランドのバンド「U2」のステージデザインを手掛けるなど、アートの文脈のみならず、カルチャーシーン全体から支持を集めている。日本では、ユニクロの「UT」とコラボレーションしたことでも有名だ。

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(画像=julianopie)

出典:https://pantelegrafo.files.wordpress.com/

オークションに初めて登場した2001年から2021年の間に売上高は約244倍まで成長。母国であるイギリスをはじめ、アメリカ、アジア、さらにはトルコなどで需要の高さを見せている。今回は、そんなオピーのオークション落札価格トップ10の作品を紹介。(※ランキングは手数料込みの落札価格順で作成し、1USD=134.15円(2022年6月平均)で計算)

目次

  1. 10)《Ryoichi and Mara. 1.》(2010)
  2. 9)《This is Sara.1.》(2004)
  3. 8)《Julian, artist 2》(2005)
  4. 7)《People. 21》(2017)
  5. 6)《Red Socks and Chanel Bag》(2015)
  6. 5)《New York Couples》(2019)
  7. 4)《Walking in London in the rain》(2013)
  8. 3)《Paisley dress and red gown》(2015)
  9. 2)《Woman posing in underwear.1》(2003)
  10. 1)《Walking in Sadang-dong in the Rain》(2014)

10)《Ryoichi and Mara. 1.》(2010)

落札価格:約1811万円($134,999)

出典:https://julianopie.com/ ©︎Julian Opie 2010

オピーはこれまでに「歩く人」や「走る人」など、日常生活における必然的な動きを芸術作品に落とし込んできたが、よりダイナミックなポーズを表現するために、ポールダンサーやバレエダンサーなどに目を向けて制作されたのがこの作品群。本作のバレエダンサーは「リョウイチ&マーラ」で、オピーの持ち味である最小限の要素でバレエの複雑な動きを表現している。他にも「エド&マリアネラ」「リカルド&ローレン」を描いた作品も発表されており、それぞれ実在するバレエダンサー達である。

2018年6月20日 ソウルオークション
予想落札価格:約1575万〜3028万円($117,390 – 225,750)
ユニーク作品(ビニール、木枠)

9)《This is Sara.1.》(2004)

落札価格:約1931万円($143,974)

出典:https://www.artprice.com/ ©︎Julian Opie 2004

「サラ」シリーズは、マスメディアを通じて消費される理想的な女性の身体を持った無名の人物像が投影されている。顔だけでなく、首や足までもが省略されており、個人としての個性や特徴を削ぎ落として記号化することによって、サラの身体の曲線美をより際立たせている。つまり、オピーが描いているのは個人ではなく抽象化のプロセスそのもので、鑑賞者になぜこのイメージが魅力的なのかを問いかけているのだ。本作はガラスを使って制作された高さ289cmの彫刻作品。

2011年10月15日 クリスティーズ(ロンドン)
予想落札価格:約380万〜529万円($ 28,400 – 39,445)
ユニーク作品(エナメル、ガラスなど)

8)《Julian, artist 2》(2005)

落札価格:約1950万円($145,318)

出典:https://julianopie.com/ ©︎Julian Opie 2005

オピーは、自分の芸術的創造のインスピレーションはベルギーの漫画『タンタンの冒険』にあると公言しており、その影響は特に人物画に表れているといえる。目は黒い点描のみで、髪の毛や眉毛、鼻、口元を微細に描き分けて人物を表現するオピーのポートレートはキャリア初期から人気を集めている。オピーが一躍有名になったのも、イギリスのバンド「Blur(ブラー)」のベスト盤のジャケットを手掛けてからだった。本作はオピー自身を描いたセルフポートレート群の一枚。

「Blur」の『Blur: The Best Of』のアルバムジャケット
出典:https://en.wikipedia.org/wiki/Blur:_The_Best_Of

2011年10月22日 Artam Antik AS(トルコ)
予想落札価格:約798万円($59,521)
ユニーク作品(木枠、アクリル絵の具)

7)《People. 21》(2017)

落札価格:約1960万円($146,156)

出典:https://www.artprice.com/ ©︎Julian Opie 2017

オピーは絵画や彫刻だけでなく映像作品も多く手掛けており、本作は一貫して制作に取り組んでいる「歩く人」を映像にした壁掛け式のLED作品(実際の映像はこちらから)。動きのない平面で見る歩く人たちが実際に映像として歩き始めると、それぞれの歩き方や歩くスピード、姿勢などその個性の細かさに驚く。直近ではVRの作品も発表したばかりで、オピーの作品の幅は今後さらに広がっていくことだろう。

2021年10月31日SBIアートオークション(東京)
予想落札価格:約1175万〜2116万円($ 87,650 – 157,769)
ユニーク作品(壁掛けLED)

6)《Red Socks and Chanel Bag》(2015)

落札価格:約1970万円($146,869)

出典:https://julianopie.com/ ©︎Julian Opie 2015

ロンドンやニューヨーク、メルボルン、ソウルなど各地で歩行者や走る人を撮影し、街中を行き交う人々を描いた作品は、オピーの代名詞の一つである。自ら撮影するよりも写真家やアシスタントに委託することが多く、自分では予測のできない偶然の出会いに魅力を感じているそうだ。本作は、オピーがサザビーズに寄贈し、収益はイギリスのバーミンガムにある「アイコン・ギャラリー」のために使われた。

2015年7月2日 サザビーズ(ロンドン)
予想落札価格:420万〜630万円($ 31,332 – 46,998)
ユニーク作品(木枠、ビニール)

5)《New York Couples》(2019)

落札価格:約2370万円($176,612)

出典:https://www.myartbroker.com/ ©︎Julian Opie 2019

オピーは日本美術に造詣が深く、歌川広重や喜多川歌麿などの浮世絵の収集家でもあり、作風にも影響していることで有名。黒く、太いアウトラインは日本の木版画、象形文字や交通標識のような普遍的なシンボルからきているもの。

本作は、ニューヨークを行き交うペアの人物が描かれた8枚組のシルクスクリーン。それぞれの人物は群衆に溶け込んでいながらも、服装や姿勢、歩き方などの特徴から個人として独立している。見る人がその他の要素、例えば何時くらいなのか、一緒に描かれている人は友人か、恋人かなどのストーリーを付け足して完成される没入型ともいえる作品。今回のランキングでは唯一のシルクスクリーンの作品。

2022年3月12日 SBIアートオークション(東京)
予想落札価格:約1373万〜2060万円($ 102,384 – $ 153,576)
エディション作品(シルクスクリーン)

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4)《Walking in London in the rain》(2013)

落札価格:約2530万円($188,651)

出典:https://www.sothebys.com/ ©︎Julian Opie 2013

雨の降るロンドンを行き交う人々を描いた、228.8 × 344.7 cmの巨大な作品。(5)の《New York Couples》とは違い、光沢感があるところが特徴的で、衣服や傘が雨に濡れる様子を感じ取ることができる。左側にはイギリスのスーパー「TESCO」のビニール袋を持って歩く女性、スーツを着たビジネスマン、大きな傘をさしている人もいればも折りたたみ傘をさす人、一方で傘をささずにフードを被ってうつむきながら歩く人など、生き生きとしながらも冷たいロンドンの街のリアルな様子が目に浮かぶ。

2022年6月7日〜6月14日 サザビーズ(スイス)
予想落札価格:約2008万〜2678万円($ 149,723 – 199,631)
ユニーク作品(木枠、ビニール)

3)《Paisley dress and red gown》(2015)

落札価格:約2786万円($207,700)

出典:https://julianopie.com/ ©︎Julian Opie 2015

ペイズリー柄のドレスを着た女性と赤いガウンを着た女性がすれ違う様子を描いた作品。しかし、二人とも手元の携帯電話を見ているためお互いの存在に気づいていない。この無自覚さが、オピーにとって歩く人をモデルにすることの魅力だと考えている。見られるためにとられたポーズではなく、自然な動作をモチーフに捉えたオピーの作品は、ありふれた日常の一瞬を新鮮なものへと変換している。本作は東京で落札されたオピーの作品で最高落札価格を記録した。

2021年4月24日 SBIアートオークション(東京)
予想落札価格:約745万〜1118万円($ 55,572 – 83,358)
ユニーク作品(木枠、ビニール)

2)《Woman posing in underwear.1》(2003)

落札価格:約2935万円($ 218,750)

出典:https://julianopie.com/ ©︎Julian Opie 2003

(9)の「サラ」シリーズのように、オピーの作品のなかでもヌードや女性の脱衣シーンは最も多いテーマの一つであり、コレクターの間でも人気のある作品群。本作の「下着でポーズをとる女性」のほか、「サマードレスを脱ぐ女性」や「スカートを脱ぐ女性」「ジーンズを脱ぐ女性」など、同じ縦長の構図とビビッドな色使いで描かれた作品も制作されている。本作がニューヨークで落札された2018年、オピーの作品がイギリス以外で出品されたのは当時ではまだ珍しく、予想落札価格も大きく超えたことから、オピーの国際的な需要の拡大を示す一例となった作品。

2018年3月1日 クリスティーズ(NY)
予想落札価格:約402万〜670万円($ 30,000 – $ 50,000)
ユニーク作品(木枠、ビニール)

1)《Walking in Sadang-dong in the Rain》(2014)

落札価格:約3410万円($254,150)

出典:https://julianopie.com/ ©︎Julian Opie 2014

雨の降る韓国のサダン洞を歩く人々を描いた作品。撮影した写真を基本的な要素に単純化し直すという制作手法と構図は、(4)の《Walking in London in the rain》と同じものの、行き交う人たちの服装で季節が違うことと、全体的に小柄な身体つき、傘をさしている人数などでまるで違う文化圏であることが分かる。最高落札価格を記録した韓国は、これまでのオピーの地域別オークション売上高(2000年以降)において、イギリス、アメリカ、日本に次いで4番目に大きな市場である。

2021年3月23日 ソウルオークション
予想落札価格:約2965万〜5336万円($ 221,000 – $ 397,800)
ユニーク作品(木枠、ビニール)

【ジュリアン・オピーの個展が開催中】
2022年11月26日(土)まで、東京のMAHO KUBOTA GALLERYでオピーの5点の映像作品と8点のペインティングの新作が展示中。

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文:ANDART編集部