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都心に30万円でお墓が~お寺の中にはカフェ

東京・中央区の築地本願寺で合同墓の説明会が行われていた。合同墓とは家族単位のお墓ではなく、血縁のない人の遺骨を一緒に納めるお墓のこと。お墓が遠い、墓守をしてくれる人がいないなど、納骨後のことに不安を感じる人のために作られた。

合同墓の中には礼拝堂があり、正面には阿弥陀如来像が。遺骨は細かくし、一人分ずつ二重の袋に入れてくれるので、他と混ざることはない。それを礼拝堂の地下に保管し、毎朝、お経を唱えてくれる。

築地本願寺は400年の歴史を持つ浄土真宗の寺だ。建物は日本では珍しい古代インド仏教様式で、見る者を圧倒するたたずまい。本堂は2014年に国の重要文化財に指定された。

そんな日本を代表する寺が2年前から始めたのが合同墓だ。過去の宗教や宗派は問われず、誰でも入ることができる。礼拝堂の回廊には一人一人の名前を刻んでくれる。場所は東京メトロ・築地駅の目の前だからアクセスも便利。さらに管理費などは一切かからず、30万円からと格安だ。開設以来、予約が殺到し、すでに7000人を超えているという。

築地本願寺の正面階段で出迎えてくれるのは翼を持つ獅子の像。中に進むと、インドで神聖な動物とされる牛の像も。他にもいたるところに仏教にまつわる動物がまつられ、本堂の入り口には蓮の花のステンドグラスが。

この日、本堂ではお寺とは思えないイベントが始まろうとしていた。毎月開かれている、ドイツ製で大小2000本のパイプを持つパイプオルガンによるランチタイムコンサート。入場無料で誰でも鑑賞できる。

そもそもお寺とは、仏教の活動をする宗教法人。仏像をまつり、僧侶が修行をする場所のことだ。収入の多くは檀家による寄付や、葬儀や法事などのお布施で賄われており、直接宗教にかかわる収入は非課税となっている。広大な敷地を生かして不動産などを運営するところも多いが、こちらの収益は課税対象となる。

そんな寺社会で、築地本願寺はこれまでにはない、新たな寺づくりに挑んでいる。その最たるものが、2年前に建てられたインフォメーションセンターだ。

毎朝その前に長い行列ができる。中にあるのは「築地本願寺カフェTsumugi」。ほとんどの客が頼むのが朝限定の18品が楽しめる「18品の朝ごはん」(1980円)。インスタ映えすると若い女性の間で話題になり、「揚げ茄子大豆そぼろ」など精進料理をイメージしたものや、「つきぢ松露の卵焼き」など名店の味も楽しめる。銀座のショッピング帰りに立ち寄れるようにと、「かわりばんこ ほうじ茶パフェ」(1067円)や「堂島あずきロール」(792円)などスイーツメニューも豊富だ。

「オフィシャルショップ」の一番人気は仏壇に置く「おりん」。ちょっと変わった形で、インテリアとしても評判だとか。色鮮やかな「米ぬかろうそく まめ」(1210円)は煤が出にくいのが特徴だという。仏具だけでなく、食器や雑貨など、お寺とは思えない品が900アイテム。国産100%の蜂蜜や無農薬野菜のピクルスまである。

さらに「ブックセンター」も。仏教の入門書はもちろん、子供向けの絵本からアートまでおよそ3000冊。「イタリアン精進レシピ」なんてものもある。

築地本願寺では、寺に足を運べない人のために、法要をネットで生配信する試みも始めた。さらに和洋宗派を問わず、結婚式を挙げることもできる。

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築地本願寺の大改革~寺社会に顧客主義を

こうした取り組みで、今年の来訪者は、去年の倍の250万人を見込んでいる。

その影には一人の仕掛け人の存在があった。キーボードを操り、「最低のビジネスマン程度のことはやっています」と笑うのは築地本願寺のトップ、宗務長の安永雄玄(65)だ。

実は安永は元銀行マン。ビジネスマンとして培った目線で、これまでにない寺改革を実行してきた。その裏にはこんな危機感がある。

「お葬式もお墓もいずれはなくなります。いらないと思う人が増えるから。それによりかかって生き残っていこうとすると、お寺はまずいことになります」(安永)

今、日本にはおよそ7万7000の寺があるが、核家族化や少子高齢化などによって寺離れが進み、20年後には3割の寺が消滅する可能性があるという。衰退する寺社会に安永が取り入れたのが、一般企業では当たり前の顧客主義だ。

「ドラッカーが言っているビジネスそのものです。顧客創造とイノベーションがビジネスの本質。お寺に帰属意識を持っていない人々を対象に、寺にご縁を持っていただいて、門信徒になっていただく。ステップアップログラムの入り口をやっているわけです」(安永)

寺も企業と同じ。顧客がいなければ生き残っていけない……そんな考えを、安永は僧侶たちに植えつけた。会議はペーパーレス。すべての僧侶にパソコンが支給されている。

安永は、従来の慣例に習おうとする僧侶たちに目的意識を持たせた。また、トップダウンではなく、僧侶たちにどんどん意見を出させるようにした。さらにイベントの企画も積極的に進める。来る人のための寺にする。それが安永の掲げるイノベーションだ。

その改革は寺の外にまで広がる。東京・銀座の「築地本願寺GINZA SALON」でやっていたのは太極拳だ。ここは築地本願寺が3年前に作ったいわばカルチャーセンター。「心と体を豊かに」をテーマに、暮らしに役立つ様々な講座が開かれている。費用は無料のものから、高くても1000円まで。

ここではお坊さんがさまざまな悩みや相談を、無料で聞いてくれる。まさに現代版・駆け込み寺だ。

「お墓や葬式についての相談もありますが、それ以上に多いのが人間関係。パワハラなどもある世の中なので、生きにくいストレスの中で、人には相談できないことをお話になったりします」(築地本願寺・石川勝徳)

寺も今、生き残りをかけて戦っている。

「築地本願寺はでかいから潰れないということはないですよ。会社を見たってそうじゃないですか。でかいと言っても中は火の車という会社はたくさんある。顧客が何を望んでいるのかをちゃんと見極めて、それに対応できなければ、寺は寺たり得ないだろうと思います」(安永)

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変貌する築地本願寺~銀行マンがなぜお坊さんに?

築地本願寺の本山は京都の西本願寺。今からおよそ400年前、江戸幕府との連絡所として作った「浅草御堂」がその始まりだ。当時の寺は、戸籍を管理する役所的な役割や、学校や病院の機能も果たす、地域コミュニティーの中心だった。

その後、寺は築地に移されるも、1923年の関東大震災で焼失。再建にあたった建築界の第一人者、伊東忠太(東京帝国大学名誉教授)が、「これまでにない寺を」という本山の意向を酌み、11年をかけて完成させたのが今の築地本願寺だ。

寺の運営をつかさどるのが寺務所。その中はIT企業のオフィスのようだ。ある部屋は今年改装し、フリーアドレスに。安永は働く環境も改革した。

見渡すと意外と女性の職員が多い。僧侶81人のうち15人が女性。1日8時間労働で週休2日制。一般企業と同じく、昇給もあれば昇進試験もあるという。

王仁興はシンガポール出身のお坊さん。今年10月、インドのラーム・ナート・コビンド大統領が寺を訪れたとき、通訳を務めたのが王さん。彼を採用したのは、今後のインバウンド効果を見据えてのことだと言う。

「グローバルな観点で仏教を広めていかなければいけないと思っています」(安永)

僧侶たちの仕事は仏事のほかにもある。たとえば雅楽の演奏。「雅楽の演奏も立派な職務。より賑やかな法要をする時には雅楽を用いる」そうだ。

この日、行われていた「報恩講」は浄土真宗を開いた親鸞聖人の命日の法要。お経を先導するのは宗務長の安永だ。「手が汗でびっしょりになります。法要ができなかったらお坊さんとして認められないですから」と言う。元銀行マンの安永が僧侶になったのは50歳。他の僧侶と比べると圧倒的に遅い。

安永は慶應大学経済学部を卒業後、三和銀行(当時)に入行。銀行マンを経て、コンサルタント会社の経営者に。順風満帆のビジネス人生を送っていた。だが、47歳のときにふと目にした新聞広告がその運命を大きく変える。

それはお坊さんを養成する通信教育の広告。「面白そうだな」と、西本願寺が運営する仏教学校の通信教育で僧籍を取得する。

やがて、ビジネスマン僧侶として注目を集め、2012年には築地本願寺の社外取締役にあたる評議メンバーに抜擢された。

「言葉が通じない」~元銀行マン僧侶の挑戦

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当時の築地本願寺は、門信徒の数も増えず、収入は右肩下がり。現状を変えようと、安永は声をあげた。

だが、「寺も一般企業も同じです。現状を分析してマーケティングをしていかないと潰れてしまいます。寺は変わらなくてはダメなんです」と言う安永に、古参の僧侶たちは「寺は金儲けをする場所ではない」「教えを極めればお金は後から付いてくる」と、反発した。

「極めてアウェーでした。経営の言葉が全く通じない。長期の投融資計画も長期の修繕計画もなければ、長期的にどうありたいか、がないんです」(安永)

安永は自らプロジェクトチームを結成。築地本願寺の改革を唱え続けた。そんな安永に注目したのが、宗派の浄土真宗本願寺派の事務方のトップ、石上智康総長だ。

「我々はどうしても伝統とか基本に縛られる。世の中や一般の人とのギャップができてしまう。それはまずいことなので、そういう点で安永さんは世の中の事、受け手目線の大事さを身に付けていらっしゃった」(石上総長)

「自分の会社をやっていたので最初はお断りしましたが、最終的には決断しました」(安永)

こうして安永は2015年、築地本願寺のトップである宗務長に就任。カフェや合同墓など、寺に人を呼び込む試みを進めていく。さらに取り組んだのが内部の意識改革。僧侶たちに現状分析やマーケティングなどの必要性を植え付けていった。

寺の外にも働きかけを始めた。築地本願寺のナンバー2、副宗務長・東森尚人は、企業で言えば営業部長。その東森が地域との連携作りのため、やってきたのは築地場外市場だ。各店に配っていたのは、寺と築地場外の情報を載せた観光パンフレットだった。

「お参りと合わせて築地本願寺へ寄って、おいしいものを食べていただくということです」(「築地 山長」松江國雄さん)

地域との共存なしに寺は存在し得ないのだ。

「お寺はいろいろな方が来られる場所ですし、もともと地域社会の中に根付いてきた部分が大きい。都会のど真ん中にありますけど、地域に愛される築地本願寺にならないといけない」(東森)

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僧侶の半数が年収300万円以下~お寺はどうなる?

千葉県で350年続く瑞岩寺の住職・伊藤仁志さんの悩みは「私の住んでいるところは過疎地域なので仕事がない。檀家さんだけじゃ生活できない」ということ。

寺は長年、檀家制度によって地域住民と深く結びつき、お布施や寄付金で安定した運営を続けていた。しかし今、過疎化や都市部への人口流出で檀家制度が崩壊。およそ1万ある浄土真宗本願寺派の寺でも、半数近くは年間の収入が300万円にとどかず、兼業で何とかしのいでいる僧侶も多いという。

そんな状況の今、あるサービスが登場し、仏教界で議論となっている。伊藤さんもそのサービスを使っているという「お坊さん便」だ。

それは大手葬儀会社の「よりそう」が展開する僧侶派遣サービスだ。料金は定額制と画期的。法要の種類や宗派を選び、ウェブで申し込むと、指定の時間・場所に僧侶を派遣してくれるというもの。檀家離れが進む今、このサービスに頼らざるを得ない僧侶も増えているのだ。

「地方の小さい寺の住職にとっては、依頼者と知り合える、いいきっかけになると思います」(伊藤さん)

これについて安永はスタジオで次のように語っている。

「ニーズに沿ったサービスを『お坊さん便』は提供している。我々、伝統仏教の寺院にとっては反省すべきことだと思います。そういう方の要望に応えられていなかったんじゃないかと。築地本願寺でもそういうニーズや思いを重く受け止めて、ちゃんとしたお経を唱えられて法話ができ、ご遺族、ご家族に寄り添って話の聞き手になれるように研修して、本格的に僧侶を派遣する制度を検討しています」

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~村上龍の編集後記~

安永さんは異色ずくめだ。金融マンを経て、ヘッドハント会社を経営、その後、通信教育で僧侶となる。僧籍取得後、約10年で、築地本願寺のトップに抜擢。

だが、異色という形容は、変化と危機の時代にはふさわしくないのではないか。それまでの常識を破る形で改革を進めるのは、まさに正統だと思う。

地方の寺院が消滅していくのは国家の死生観を揺るがす重大な問題だ。人知を超えた存在・概念へのリスペクトが、消えた社会は危険だ。死者への想いが途絶え、人の連続性が失われる。宗教が果たしてきた役割は、代替が効かない。

<出演者略歴>
安永雄玄(やすなが・ゆうげん)1954年、東京都生まれ。1979年、慶應義塾大学経済学部卒業後、三和銀行入社。その後、ラッセル・レイノルズ、島本パートナーズを経て僧侶に。2015年、築地本願寺宗務長に就任。

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