DGsスコアが高い欧米に比べると、日本のダイバーシティ経営は進んでいない状況にある。そこには多くの要因があり、一つひとつを解決しない限り本格的な推進は難しい。ここでは日本が抱えるダイバーシティの課題やその要因、成功のポイントを解説する。

目次

  1. 日本のダイバーシティの現状
  2. 日本でダイバーシティが進まない要因
    1. 1.男性優位のアンコンシャス・バイアスが根付いている
    2. 2.企業の意識改革が追いついていない
    3. 3.慣例主義の企業が多い
    4. 4.経営戦略との連携が取れていない
  3. ダイバーシティ推進の成功例
    1. 【事例1】4つの軸を基本としたダイバーシティ/ベネッセホールディングス
    2. 【事例2】女性従業員の声をもとにした制度の新設/キリンホールディングス
  4. ダイバーシティ推進を成功させるポイント
    1. 従業員への周知を徹底する
    2. 重点的に取り組むべきテーマを絞る
    3. 経営トップ層の意識改革にも取り組む
  5. ダイバーシティのよくある質問集
    1. Q1.ダイバーシティはなぜ必要?推進のメリットは?
    2. Q2.ダイバーシティ経営のデメリットとは?
    3. Q3.日本のダイバーシティ経営の現状は?
    4. Q4.ダイバーシティ推進の課題や注意点は?
    5. Q5.ダイバーシティ&インクルージョンとは?
  6. まずは自社の現状を見直すところから始めよう
  7. 事業承継・M&Aをご検討中の経営者さまへ
日本のダイバーシティ経営はなぜ進まない? 4つの課題や成功につながるポイント
(画像=polkadot/stock.adobe.com)

日本のダイバーシティの現状

働き方改革の一環として、日本政府はダイバーシティに関する取り組みを進めてきた。例えば、経済産業省は「新・ダイバーシティ経営企業100選」や「なでしこ銘柄」を選定し、その中でも先進的な事例を広く発信している。

しかし、欧米諸国に比べると、日本のダイバーシティ推進は進んでいるとは言えない。国際労働機関(ILO)のレポート「A QUANTUM LEAP FOR GENDER EQUALITY」によれば、2018年における世界の女性管理職比率は27.1%であるのに対し、日本は主要7ヵ国で最下位となる12.0%だった。

上のグラフは、フルタイム勤務をした人材のうち、低賃金にあたる男女の割合を示したものである。日本では男性の7.1%、女性は22.1%が低賃金労働者にあたり、管理職以外でも男女格差がはっきりと表れた形になった。

日本でダイバーシティが進まない要因

では、なぜ日本のダイバーシティは進まないのだろうか。ここからは、経営者が押さえておきたい5つの要因を紹介しよう。

1.男性優位のアンコンシャス・バイアスが根付いている

アンコンシャス・バイアスとは、無意識のうちに偏見をもつことである。日本は古くから男性優位の社会であったため、「昇進は男性がするもの」や「男性のほうが長く働いてくれる」といったバイアスがかかりやすい。

アンコンシャス・バイアスの難しいところは、本人にその自覚がない点だ。被害者しか気づけないケースも多いため、他人や外部からの指摘が困難な場合がある。

アンコンシャス・バイアスを防ぐには、社内の意識改革を徹底する必要があるだろう。

2.企業の意識改革が追いついていない

ハラスメント問題が取り沙汰されたり、SDGsが世界的に有名になったりした影響で、ジェンダー平等の重要性は多くの人が理解している。しかし、企業側が行う意識改革については、十分に追いついているとは言えない。

従来の国内企業では、チームワークを高めるために統一性が重視されてきた。しかし、ダイバーシティ経営では多様性を受け入れる必要があるので、個々のアイデンティティを押さえつけるべきではない。

上層部はその点をしっかりと理解した上で、意識改革に取り組む必要がある。

3.慣例主義の企業が多い

慣例主義とは、これまで培ってきた文化や風習を優先し、変化を好まない考え方である。国内には慣例主義の企業が多いと言われており、特にトップダウン型では「命令を出すのは上司」のように凝り固まった思考に陥りやすい。

慣例主義の企業は、変化を徹底的に排除しようとするため、時間の経過だけでは新しい価値観が生まれない。つまり、個々のアイデンティティを排除してしまうため、ダイバーシティを進めるには慣例主義からの脱却が前提となる。

4.経営戦略との連携が取れていない

ダイバーシティはあくまで手段であり、企業にとってのゴール(目的)ではない。海外展開やイノベーションなど、ダイバーシティの実現後には取り組みたい施策があるはずだ。

この点を誤解すると、経営戦略との関連性がないプランになってしまう。経営面にメリットがなければ、ダイバーシティはただコストがかかるだけの施策になるため、どうしても推進が難しくなってしまう。

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ダイバーシティ推進の成功例

ダイバーシティの推進では、個々の企業に合わせたプランが必要になる。ここからは国内の成功例をまとめたので、自社の現状と比較しながら参考にしていこう。

【事例1】4つの軸を基本としたダイバーシティ/ベネッセホールディングス

通信教育や出版に携わる『ベネッセホールディングス』は、以下の4つを軸としたダイバーシティ推進に取り組んでいる。

・女性活躍の推進
・障がい者の雇用を促進
・シニアの活躍推進
・様々な地域での人財雇用

それぞれの軸に目標やビジョンが設定されており、外部から見ても明確な方向性のプランが掲載されている。また、これまでの活動実績をデータ化・グラフ化している点も、中小企業が参考にしたいポイントだ。

ダイバーシティ推進は自社のために行うものだが、実績を公開すると外部へのアピールにもつながる。

【事例2】女性従業員の声をもとにした制度の新設/キリンホールディングス

ビールメーカーとして有名な『キリンホールディングス』は、女性従業員の声をもとに以下の制度を新設している。

○キリンホールディングスの制度
・在宅勤務制度(2013年から)
・別居結婚への支援(2013年から)
・一定期間の転勤禁止(2013年から)
・希望地復帰支援制度(2020年から)

ほかにも、独自の「働きがい改革」や「ワークライフバランスサポート休業制度」など、同社には従業員の生活を意識した施策が多い。企業の独りよがりではなく、従業員満足度につながる施策を打ち出している点はぜひ参考にしたいポイントだろう。

ダイバーシティ推進を成功させるポイント

ここまでの内容を踏まえて、以下ではダイバーシティ推進を成功させる3つのポイントを紹介しよう。

従業員への周知を徹底する

従業員同士の細かいコミュニケーションまで含めると、性差別につながる出来事はいつ起こるのか分からない。本人にその気がなくても、前述のアンコンシャス・バイアスによって女性や外国人などを傷つけてしまう場合もある。

そのため、ダイバーシティ推進を決めた段階で、従業員への周知は徹底することを意識したい。取り組み内容はもちろん、その成果まで細かく共有しておけば、自然と従業員の意識改革を図れるようになる。

重点的に取り組むべきテーマを絞る

本当の意味でダイバーシティを実現するには、さまざまな施策に取り組む必要がある。女性はもちろん、障がい者やシニア人材、外国人労働者なども平等に受け入れなければならない。

しかし、コストが限られた中小企業では難しいため、まずは重点的に取り組むべきテーマを決めることがポイントだ。フレームワークなどを活用しながら自社の強み・弱みを分析し、今後の事業活動に役立つ施策を考えていこう。

経営トップ層の意識改革にも取り組む

ダイバーシティ推進では従業員だけではなく、経営者や採用担当者の意識改革も必要になる。いくら効果的な施策を打ち出しても、経営トップ層の言動が見合わなければ新しい文化・価値観は浸透しない。

そのため、前述のキリンホールディングスのように、従業員の声に耳を傾けながら施策を考える必要があるだろう。ダイバーシティの推進が、かえって従業員のストレスにつながる恐れもあるため、経営トップ層は十分に情報収集をすることが重要だ。

ダイバーシティのよくある質問集

ダイバーシティ推進には失敗のリスクもあるため、まずは十分な基礎知識をつけておく必要がある。ここからは経営者が気になるポイントを中心に、ダイバーシティのよくある質問と回答を紹介する。

Q1.ダイバーシティはなぜ必要?推進のメリットは?

ダイバーシティ経営によって人材が多様化すると、アイデアの偏りや人材不足を防げる可能性がある。また、ステークホルダー(消費者や投資家)からの評価が高まったり、市場ニーズに対応しやすくなったりする点もメリットである。

また、近年ではイノベーション創出を目的として、ダイバーシティを推進するケースも多い。

Q2.ダイバーシティ経営のデメリットとは?

ダイバーシティを推進すると、社内に多様な価値観や意見、考え方が生まれるため、コミュニケーション障害が起こるケースもある。

例えば、複数の言語が混在するような現場では、会話だけで情報を正しく伝えることが難しい。場合によっては認識の齟齬が要因となり、深刻なトラブルに発展するリスクも考えられる。

Q3.日本のダイバーシティ経営の現状は?

世界経済フォーラムによると、日本のジェンダー・ギャップ指数は156ヵ国中120位とされている(※2021年)。特に女性の管理職が少なく、2021年版の男女共同参画白書では企業・官公庁における女性管理職が全体の13.3%であった。

数値目標を掲げて推進している企業もあるが、世界的に見ると日本のダイバーシティはそれほど進んでいない。

Q4.ダイバーシティ推進の課題や注意点は?

多様な人材を無暗に雇用すると、言語・文化・慣習などの違いによってトラブルが起こるケースもある。例えば、従業員同士のコミュニケーションが阻害されると、生産性やパフォーマンスの低下を引き起こしてしまう。

採用・教育にもコストはかかるため、デメリットやリスクだけが顕在化しないように、企業側は慎重に計画を立てることが重要だ。

Q5.ダイバーシティ&インクルージョンとは?

ダイバーシティ&インクルージョンとは、企業が人材の多様性を受け入れて、ひとり一人が活躍できる環境を整えることである。ダイバーシティは「多様性」や「相違性」、インクルージョンは「包括性」や「一体性」をそれぞれ表している。

ダイバーシティだけではコミュニケーション障害やコスト増などのリスクが高まるため、近年ではインクルージョンも含めた計画が必要と言われている。

まずは自社の現状を見直すところから始めよう

男性優位の社会が形成されてきた日本では、ダイバーシティの推進が難しいケースもある。特に長く経営している企業は、従業員の意識改革から取り組むことになるため、数年以上の長期プランが必要になるだろう。

また、業界・業種によっても成功のポイントは変わるため、まずは自社の企業文化や慣習、従業員の傾向などを見直すところから始めよう。

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文・片山雄平(フリーライター・株式会社YOSCA編集者)

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