大手企業を中心に、最近ではESG経営の必要性が高まっている。その波は世界的に広がっているが、導入方法やコスト面で悩んでいる企業も少なくない。ここでは日本・海外の現状を見ながら、ESG経営の課題や導入時のポイントについて解説する。
そもそもESG経営とは?
ESG経営とは、「環境(Environment)・社会(Society)・ガバナンス(Governance)」を重視した経営に取り組むことである。
2006年にPMI(※)のなかで提唱されて以来、ESGの考え方は世界中に広まっている。SDGsとも深く関連していることから、特に欧米では「ESG先進企業」が急激に増えてきた。
(※)金融業界に向けて提唱された世界的な責任投資原則。2006年に国連事務総長のコフィー・アナン氏が提唱。
ESG経営のメリットや必要性
ESG経営に取り組むと、企業には次のようなメリットが生じる。
○ESG経営に取り組むメリット
・企業やブランドのイメージアップにつながる
・新たなビジネスを創出できる
・優秀な人材が定着しやすくなる
・経営リスクが軽減される
・投資家からの評価がアップする
近年では、長期的な成長を見据えて非財務情報を重視する投資家が増えている。ESG投資の市場は年々拡大しており、環境・社会・ガバナンスに配慮しない企業が投資先から排除される例も見られるようになった。
つまり、ESG経営に消極的な企業は、将来的に投資家や消費者から見放されてしまう恐れがある。中長期的な成長を目指すために、どのような業界でもESG経営を意識する必要があるだろう。
ESGとSDGsの違い
SDGsは、2015年の国連サミットで提唱された国際的な目標である。日本語では「持続可能な開発目標」と訳されており、環境問題・社会問題を解決するための目標(ゴールとターゲット)が設定されている。
簡単に言えば、ESGはSDGsを達成するための手段であり、ESG経営に取り組むことが世界的な環境問題・社会問題の解決につながる。いずれも現代ビジネスにおける重要ワードであるため、それぞれの意味や関係性はしっかりと理解しておきたい。
日本と世界のESG経営の実情
2006年に提唱されて以来、ESGの考え方は世界中に広がりつつある。ここからは日本と世界に分けて、現時点でのESG経営の実情を紹介する。
日本のサステナブル投資資産は世界全体の1割未満
持続可能な投資を促進する組織「GSIA」によると、日本のサステナブル投資資産は全世界のうち8%に留まっている(※2020年のデータ)。国内でもESG経営は徐々に浸透しているものの、2018年頃から社会に大きな変化は生じていない。
その主な要因は、ESGに対する意識の低さと言われている。各種政策(レジ袋の有料化など)によってエコへの意識は強まってきたが、本当の意味でESGを実現するには企業・市民がさらに高い意識を持たなければならない。
つまり、大幅な意識改革が必須となるため、日本がESG先進国を目指すには政府・企業が一体となった取り組みが必要になるだろう。
海外の実情
前述のグラフ(世界のサステナブル投資資産の地域別比率2020)を見ると、欧米はESGへの意識が高いと言える。世界のサステナブル投資資産は欧米だけで82%を占めており、ほかの地域に比べるとESG市場が圧倒的に大きい。
特にアメリカやイギリスにおいては、証券取引所の上場規則にもESGに関する項目が追加された。例えば、2025年以降のアメリカNASDAQでは、取締役に女性や非白人マイノリティを選任することが求められる予定だ。
欧米は全体的に環境問題・社会問題への意識が高く、SDGs達成ランキングでも上位につけている国が多い。
ESG経営の課題や注意点
ESG経営を進める上で、国内企業はどのような課題を抱えているのだろうか。ここからは、経営者が知っておきたい課題や注意点を紹介する。
定義が乱立しており、目標を設定しづらい
ESG経営には評価機関が存在するものの、取り組みに関する明確な定義はない。現状では定義が乱立しているため、企業にとっては目標を設定しづらい状況と言える。
特に注意しておきたいポイントが、従来の財務情報が重視されにくい点だ。仮に経営状態が良好でも、環境・社会への貢献度が低い場合は、ステークホルダーからの評価を落としてしまう恐れがある。
短期的な成果判断が難しい
一般的なESG経営は、数年~数十年のプランをもとに行われる。また、プラン自体も手探りの状態で立てることになるため、度重なるフィードバックや修正を余儀なくされるケースもあるだろう。
つまり、ESG経営は長期で取り組むものなので、短期的な成果判断は難しい。明確なリターンを求める場合は、重点課題に絞って取り組むといった工夫が必要になる。
ガバナンスの評価が難しい
一般的に「企業統治」と呼ばれるガバナンスは、ESGの中でも評価が難しい。定量的かつ明確な指標がないため、多くの企業はプラン策定時に悩まされる。
特に注意しておきたいのは、一般的なガバナンス評価と経営リスクが直結しないケースもある点だ。仮にガバナンス面で高く評価されても、企業によっては情報漏えいなどの不祥事が起きてしまう。
事業承継・M&Aをご検討中の経営者さまへ
THE OWNERでは、経営や事業承継・M&Aの相談も承っております。まずは経営の悩み相談からでも構いません。20万部突破の書籍『鬼速PDCA』のメソッドを持つZUUのコンサルタントが事業承継・M&Aも含めて、経営戦略設計のお手伝いをいたします。
M&Aも視野に入れることで経営戦略の幅も大きく広がります。まずはお気軽にお問い合わせください。
【経営相談にTHE OWNERが選ばれる理由】
・M&A相談だけでなく、資金調達や組織改善など、広く経営の相談だけでも可能!
・年間成約実績783件のギネス記録を持つ日本M&Aセンターの厳選担当者に会える!
・『鬼速PDCA』を用いて創業5年で上場を達成した経営戦略を知れる!
中小企業がESG経営を導入するポイント
上記の課題を踏まえて、ここからは中小企業が意識したいESG経営のポイントを解説する。
サステナビリティへの取り組みを強化する
サステナビリティとは、持続可能な社会を目指す考え方である。分かりやすい例で言えば、漁業における漁獲量の制限や、再生可能エネルギーを使った発電システムなどが挙げられる。
特に天然資源に頼っている事業は、将来的に枯渇するリスクと向き合わなければならない。また、直接的に関わりがない企業も、省エネや温暖化防止などの取り組みを進めることで、外部から評価される可能性がある。
サステナビリティはSDGsのテーマにも含まれるため、これを機に重要ワードとして認識しておこう。
ダイバーシティ推進や労働環境を改善する
日本では2019年4月から、働き方改革関連法が実施されている。つまり、個々人の働きやすさやワークライフバランスへの関心が高いため、「ダイバーシティ推進」や「労働環境の改善」も重要なキーワードと言える。
特に日本は男性優位の社会が形成されてきた影響で、ダイバーシティが進みにくい傾向がある。そのような状況下で積極的に取り組めば、多方面から注目される可能性があるだろう。
ガバナンスの徹底
現代のビジネスにおいて、企業倫理や法令の遵守は当然のことである。多くの企業がルールを守っているため、社会規範や法令に違反しないだけでは理想の経営環境とは言えない。
社内外から広く評価されるには、公平な市場環境や透明性、不正や汚職の防止などあらゆる面のルール整備が必要だ。社内の管理体制をしっかりと見直し、外部から見ても安心できる環境を作り上げていこう。
ESG経営のよくある質問集
ESG経営は比較的新しい考え方であるため、基礎知識を曖昧に理解していることも多い。そのような人に向けて、ここからはESG経営のよくある質問集をまとめた。
Q1.ESGは何の略?誰がつくった?
ESGは、「環境(Environment)・社会(Society)・ガバナンス(Governance)」の頭文字を取った造語である。世界的に有名になったのは2006年であり、コフィー・アナン氏(当時の国連事務総長)が提唱した「PRI(責任投資原則)」の中で登場した。
ESGの観点から投資先を選ぶ手法は「ESG投資」、環境・社会・ガバナンスに配慮した経営を行うことは「ESG経営」とそれぞれ呼ばれている。
Q2.ESG経営のデメリットは?
ESG経営のデメリットとしては、短期間では成果を見込めない点や、方向性の決めづらさが挙げられる。基本的には長期のプロジェクトとなるため、施策中にはフィードバックや軌道修正も行わなくてはならない。
また、経営者の言動が社会から注視される点も意識したいリスクだろう。例えば、差別的な発言や振る舞いをすると、会社自体の評価を大きく下げてしまう恐れがある。
Q3.ESG経営の課題とは?
ESG経営にはさまざまな定義があるため、正しい方向性での目標設定が難しい。そのほか、短期的な成果判断やガバナンスの評価も、企業が悩まれやすいポイントである。
現状では、どのような企業も手探りの状態でプランを立てることになるため、徹底した情報収集や分析を心がけたい。
Q4.ESG経営の具体例を知りたい
ESG経営の例としては、以下のような施策がある。
・女性やシニア、外国人労働者の活躍推進
・安全基準の厳格化
・労働環境や労働条件の透明化
・安全性や人権に関わる製造工程の改善
・地域活性化につながるプロジェクトや支援
企業によって優先度や関連度の高い施策は異なるため、自社の現状を踏まえて計画を立てることが重要だ。
Q5.なぜESG経営に取り組む必要がある?
ESG経営を導入すると、機関投資家や一般投資家からの評価が高まる。つまり、資金調達のハードルが下がるため、将来的には成長や企業価値の向上につながる。
また、取り組みがグローバルな機関から評価されれば、企業イメージやブランドイメージもアップする。
中小企業にもESG経営が求められる時代に
日本のESG経営は、欧米に比べると遅れを取っている。SDGsが採択された影響で、世界的に環境問題・社会問題への意識が高まっているため、中小企業にもグローバルに評価される取り組みが求められるはずだ。
業種や規模に関わらず、これを機に本記事を参考にしながらESG経営のプランを考えてみよう。