2015年にSDGsが採択された影響で、世界では社会持続性への関心が高まっている。そんな中、SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)が注目されていることをご存じだろうか。ここではSXの必要性や課題、DXとの違いについて解説する。
SXとは?
SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)とは、企業が中長期的な価値創造を目指す上で、「稼ぐ力」と「持続可能性」を両立させることである。世界中でSDGs(※)の重要性が叫ばれる中、SXは企業が実現すべき目標・テーマといった意味合いがある。
(※)2015年の国連サミットで採択された、持続可能な開発目標のこと。
持続可能性については、投資家などから注目される「ESG」をイメージすると分かりやすい。世界中でさまざまな環境問題・社会問題が懸念される現代では、企業にも非財務情報にあたる「環境・社会・ガバナンス」の観点が求められつつある。
DX(デジタルトランスフォーメーション)との違い
SXという用語を見たときに、デジタル・トランスフォーメーションを指す「DX」をイメージした人も多いだろう。これはIT技術の進歩や変革を通して、便利に生活できる世界や競争優位性を作り出すことである。
いずれも現代企業にとっては重要な用語であり、経済産業省もSXとDXの両方を推進している。将来的には両立が求められる可能性もあるため、これを機にDXについても情報収集を進めたい。
SXが注目される背景
そもそも、現代の企業にとってSXはなぜ必要なのだろうか。ここからは国内と海外に分けて、注目される背景や現状を紹介する。
持続可能性の概念は1980年代に誕生
世界でSXが注目され始めたきっかけは、1980年代の「世界自然資源保全戦略」と言われている。国際的な3機関(WWF・IUCN・UNEP)が策定したこのレポートの中で、SDGsのルーツとなる「持続可能な開発」の考え方が初めて登場した。
その後、1997年の京都議定書や2000年のMDGs、そして2015年に採択されたSDGsを経て、持続可能性の概念が世界中に浸透していく。すでに海外にはSXの事例が多く存在しており、最新テクノロジーやイノベーションを活用しながら環境負荷を抑える動きが顕著になっていった。
日本では経済産業省のレポートをきっかけに注目
日本では2019年11月から、経済産業省による「サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会」が実施された。同検討会はこれまでに8回開催されており(※2022年9月現在)、国内企業の抱える課題や目指すべき姿などがレポートとしてまとめられている。
また、国内でSXが注目された要因としては、社会情勢の急激な変化も大きいとされている。例えば、2019年からは新型コロナウイルスの影響で、多くの企業や店舗が苦境に立たされた。
現代は消費者ニーズの変化も早いため、企業が生き残る上でSXは重要なキーワードになりつつある。
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SX実現に向けた課題
現代企業にとってSXの必要性は高いが、実現に向けては課題も存在している。ここからは国内企業に絞って、中小経営者が押さえたい2つの課題を解説する。
投資家との相互理解
SXは中長期的に取り組むものであり、短期的な利益・業績には結びつかないケースも多い。そのため、企業からすると投資家の理解を得ることが難しく、積極的な施策を打ち出しにくい側面がある。
経済産業省も前述のレポート内で、「投資家からの理解を得にくいテーマ」として次の3点を挙げている。
○投資家からの理解を得にくいテーマ
・多角化経営や、複数事業におけるポートフォリオマネジメントの在り方
・「種植え」に関する取り組み(新規事業やイノベーションに関わるもの)
・経済的価値と社会的価値の両立に向けた取り組み
上記の点を理解してもらわない限り、企業が本格的なSXを進めることは難しい。そのため、企業側は対話の機会を積極的に設けて、投資家のメリットや方針を説明することがポイントになる。
SXではこのようなコストも含めて、全体のプランを組み立てる必要があるだろう。
人的または時間的なコスト
SXは全社的に取り組むものであり、実現に向けては以下のようなプロセスが必要になる。
○SX実現に必要なプロセス
・企業の方向性や存在意義の明確化
・長期経営計画などの戦略プラン策定
・マテリアリティ(重要課題)の設定
・ガバナンスの整備
上記の通り、SX実現には多くの人的または時間的なコストがかかる。特に人材が限られた中小企業では、SX実現と本業の両立が難しいケースもあるだろう。
そのため、SXでは具体的な施策・取り組みだけではなく、全プロセスの進め方を考えることも重要だ。
SXの事例
SXの計画を立てる前には、すでに成功した事例から明確なイメージをつかんでおきたい。ここからは有名な事例のうち、中小企業が参考にしたいものを3つ紹介する。
【事例1】環境再生型食料システムの推進/ネスレ日本
大手食品メーカーのネスレ日本は、環境再生型の食料システムの推進に力を入れている。
2019年には主力商品のキットカットにおいて、プラスチック製の外装を紙製に切り替える方針を示した。菓子メーカーの主力商品としては国内初の試みであり、この施策によって年間380万トンのプラスチック削減が実現される見込みだ。
同社はパーパス(存在意義)として「食の持つ力で、現在そしてこれからの世代のすべての人々の生活の質を高めていきます」と掲げており、ほかにもさまざまな角度から環境問題にアプローチしている。
【事例2】社会問題に取り組むためのブランドを新設/富士通
総合エレクトロニクスメーカーである富士通は、企業パーパスとして「イノベーションによって社会に信頼をもたらし世界をより持続可能にしていくこと」を掲げている。その一環として、同社は2021年に自社ブランド「Fujitsu Uvance」を始動させ、社会問題の解決にフォーカスした事業を進めてきた。
同社のSXは、公式サイト上で背景や目的が細かくまとめられているため、外部から見ても内容が分かりやすい。また、行動規範や価値観を見ると、全社的な取り組みであることもうかがえる。
【事例3】6つのマテリアリティを設定/住友商事
大手総合商社の住友商事は、社会とともに持続的成長をするためのマテリアリティ(重要課題)として次の6つを設定している。
○住友商事のマテリアリティ
・地域環境との共生
・地域と産業の発展への貢献
・快適で心躍る暮らしの基盤づくり
・多様なアクセスの構築
・人材育成とダイバーシティの推進
・ガバナンスの充実
例えば「地球環境との共生」では、再生可能エネルギー事業やリユース蓄電池プロジェクトに取り組んでいる。本業とうまく組み合わせた事業・プロジェクトも多いため、同社の取り組み事例を見るだけでもプラン策定の参考になる。
SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)に関する質問集
最後に、ここまでの内容も含めてSXの質問集をまとめた。いずれもプラン策定や実施に必要な知識となるため、経営者や担当者は最後までチェックしていこう。
Q1.トランスフォーメーションとは?
トランスフォーメーションとは、直訳すると「変化」や「変革」を意味する。ビジネスの世界では、「サステナビリティ・トランスフォーメーション」や「デジタル・トランスフォーメーション」のように、分野を表す専門用語と一緒に用いられることが多い。
総務省や経済産業省も、公的な文書や資料において「トランスフォーメーション」を用いている。
Q2.SXは何をする?
SXとは、「サステナビリティ・トランスフォーメーション」の略語である。成長を目指す企業が「稼ぐ力」と「持続可能性」を両立させることであり、現代企業に欠かせない成長戦略として注目されている。
具体例としては、本業における再生可能エネルギーの活用や、サーキュラー・エコノミー(循環経済)の導入などが挙げられる。
Q3.DXとは?どういう意味?
DXとは、「デジタル・トランスフォーメーション」の略である。日本語では「デジタル変革」と訳されており、デジタル技術によって企業風土を変革させることを意味する。
現代では、さまざまな企業がIoT化やデジタル化によって生産効率を高めているため、あらゆる業種の中小企業にもDX化が求められつつある。
Q4.サステナビリティ経営はなぜ必要?
サステナビリティ経営は、これまで「社会貢献活動」としてプラスアルファの活動として認識されてきた。しかし、2015年にSDGsが採択されたことをきっかけに、企業の中長期成長には欠かせない要素となりつつある。
実際に、「環境・社会・ガバナンス」の観点から行われるESG投資の市場は伸びており、非財務情報を重視する投資家が増えてきている。
Q5.ダイナミック・ケイパビリティとは?
ダイナミック・ケイパビリティとは、国が公表した「ものづくり白書」の中で登場した経営戦略論である。もともとはカルフォルニア大学の教授が提唱したものであり、SXとは切り離せないフレームワークとして知られている。
DXとも関わりが深いため、トランスフォーメーションに関するプランの策定時には概要を確認しておきたい。
SXは企業が生き残るためのキーワードに
企業が長く生き残る上で、SXは重要なキーワードになりつつある。SDGsやESG投資とも関連しているため、状況に合わせていつでも動き出せる準備をしておきたい。
今後新たに登場する事例や制度にも目を向けながら、継続的な情報収集を心がけていこう。