2022年9月8日、イギリスのエリザベス女王崩御のニュースが世界を駆け巡った。1952年に25歳の若さで女王に即位後、国民から愛され続けたエリザベス女王は、芸術界においても敬意とともに数々のアーティストの作品に登場した。ポップアートの代表格であるアンディ・ウォーホル(1928-1987)もエリザベス女王を被写体とした肖像画を制作しており、ウォーホルの作品群のなかでも高い人気を誇る。そこで今回は、ウォーホルが描いたエリザベス女王の作品について解説。
「統治する女王」シリーズとは?
「統治する女王(Reigning Queens)」とは、1985年に制作された4人の女王を描いたシルクスクリーン作品のシリーズ。ウォーホルが描いたエリザベス女王もこのシリーズのなかの一つで、他にはオランダのベアトリクス女王、スワジランドのヌトムビ・トワラ女王、デンマークのマルグレーテ女王がウォーホルらしいポップな配色で描かれている。生まれつき王位に就いている女王のみで構成され、公式の肖像画が基になっている。制作時も4人の女王それぞれが自身の国を統治していた。
スタンダートエディション(40枚限定)と別に制作されたロイヤルエディション(30枚限定)には、ダイヤモンドダスト(砕いたガラスの微粒子)が散りばめられていて、光が当たると輝きを放つスペシャルな仕様で仕上げられた。また、このシリーズはウォーホルのシルクスクリーン作品群の中でも最大の肖像画である(約1メートル×80センチ)。
普遍的なイメージに惹かれていたウォーホルは、1963年にマリリン・モンローの作品を制作して以来20年以上にわたって有名人のポートレートをシルクスクリーンで制作し続けた。当時、一点物に価値を見出していた芸術界においてシルクスクリーンで複製するという方法を取り入れたのは画期的であり、シルクスクリーンはウォーホルの代名詞にもなった技法である。「統治する女王」シリーズでも、切手や通貨、メディアで何度も繰り返し描かれる王族を表現するために、大量に生産できるシルクスクリーンを採用した。
肖像権の許可は得ている?
「統治する女王」シリーズのエリザベス女王は、1975年に写真家のピーター・グルジョンがウィンザー城で撮影した写真をもとに制作されているのだが、気になるのはウォーホルが許可を得て作品を制作したのかどうかだ。
長い間エリザベス女王を描きたいと思っていたウォーホルは、1982年、ウォーホルのディーラーだったジョージ・モルダーに女王のプライベート秘書であるウィリアム・ヘセルティン卿に手紙を書かせ、女王の肖像を使う許可を願う手紙を出した。返信には、
「While The Queen would certainly not wish to put any obstacles in Mr. Warhol’s way, she would not dream of offering any comment on this idea.(女王はウォーホル氏の邪魔をすることは望まないでしょうが、このアイデアについて意見を述べるとは夢にも思っていないでしょう)」
と記されており、”許可を得た”というよりは”否定的ではなかった”と言った方が正しいだろう。撮影された写真は、1977年の女王の即位25周年を祝う「シルバー・ジュビリー(Silver Jubilee)」を記念して公開された。
出典:https://www.theguardian.com/
ついにロイヤル・コレクション入り
女王のダイヤモンド・ジュビリー(即位60周年)である2012年、ウォーホルのエリザベス女王を描いたロイヤルエディションの4枚が、イギリス王室が所有する「ロイヤル・コレクション」に収蔵された。購入金額は明かされていないが、女王が購入を承認しているとも報じられ、ウィンザー城で開催された展覧会「The Queen」でその他アーティストの肖像画と一緒に展示された。このウォーホルの作品は、ロイヤル・コレクションの中で唯一女王が立っている肖像画である。
かつて、「I want to be as famous as the Queen of England.(イギリスの女王のように有名になりたい)」と語っていたウォーホル。「統治する女王」シリーズの制作から27年後、ロイヤル・コレクション入りを果たすことになった。制作からわずか2年後に亡くなってしまったウォーホルには、残念ながら届くことのない事実だが、芸術界の歴史に大きく名を残し、人々に愛されたウォーホルの夢は叶ったといえるだろう。
ウォーホルのエリザベス女王たち
最後に、ウォーホルが描いたエリザベス女王をまとめて紹介。貴重なカラーやドローイングなども注目だ。
1:スタンダードエディション40枚、ロイヤルエディション30枚(ダイヤモンドダスト付き)で制作された4色
2:スタンダートエディションの他に制作されたTP(トライアル・プルーフ)30枚の作品
3:TPとは別に制作された非常に貴重なカラーコンビネーションの作品(ユニーク作品)
4:ドローイング
ANDARTでは、アンディ・ウォーホルの代表作「キャンベル・スープ」シリーズやエリザベス・テイラーを描いた作品を扱っています。気になる方は、【取扱い作品一覧】を是非ご覧ください。無料会員登録でオークション速報やアーティストニュースをメルマガとLINEでお届けしています。
文:ANDART編集部