フードテックは本メディアでも度々取り上げる注目度の高い分野だ。この度、技術情報と産業コーディネーターのマッチングプラットフォームであるLinkersと、イスラエルと日本とをつなぐコンサルティング会社ミリオンステップスがオンラインセミナーを開催、最新の情報に基づいて業界の全体像と個別事例を紹介した。大変情報量の多いセミナーだったため、主催者の許可を得てその一部を紹介したい。
注目を集める「代替タンパク」フードテック
はじめに、Start-Up Nation Centralの情報をもとに、イスラエルにおけるアグリ・フードテック分野の全体像が紹介された。
一口にアグリ・フードテックと言っても、
- Water(水)
- Pathogen and Pests (病原体と害虫)
- Yield and Harvest (収量と収穫)
- Preservation and Supply Chain (保存とサプライチェーン)
- Alternative Food (代替タンパク)
- Inputs Production (生産)
と、大変幅広い領域をカバーしている。
各セクターで多くのスタートアップ企業が活躍しているが、実は2021年に集まった投資の約3/4が、Alternative Food(代替タンパク)のセクターだったそうだ。
世界の人口増加と経済成長に伴う、食用肉タンパクへの需要予測データも示された。
これほど高まる需要を動物由来のもので賄えるのか? CO2や温室効果ガス削減の面からも難しい課題と認識されており、代替タンパクに対する需要と期待が高まっていることが理解できる。
代替タンパクの開発手法は3つ|植物由来、発酵、培養
代替タンパクの開発手法は、
- Plant-based (植物由来)
- Fermentation (発酵)
- Cultivated (培養)
の3つに分類される。
それぞれ世界で投資をどれくらい集めているか(どれくらいのニーズがあるか)というサマリーも紹介された。
植物由来タンパクの分野は先行して開発が進んでおり、2020年の投資額も大きかったために2021年の投資額はほぼ平行線だが、他の2分野は2020年から2021年にかけて投資が大きく伸びていることが見て取れる。そして、それぞれの手法ごとに分類されたイスラエルのスタートアップ企業も紹介された。
2021年設立のスタートアップには○印がついており、この分野がいかに活発に動いているか一目で見て取れる。
2021年に立ち上がったスタートアップ事例
ここからは、個別の注目事例を紹介する。
1. Plantish 植物由来の代替シーフードを開発する企業。味だけではなく、見た目を重視してフィレ形状のサケを3Dプリンタで作っている。
2021年に創業し、すでに14.5Mドルの資金調達を行った。まだ試作をしている段階だが、実際に試作品を食べている映像が見られる。2024年からレストランで提供することを目指している。
2. Mermade Seafood 細胞培養でホタテを開発している。Webサイトに掲載されている写真から、明らかに和食をターゲットとしていることがわかる。
細胞培養の場合は培地(細胞や微生物が成長しやすいように作られた人工的な環境)にコストがかかるそうだが、使用済みの培地を再利用して藻類を育てることでコストダウンする手法を開発した。
ホタテは形が作りやすいために開発されているが、今後は他の魚や肉にも展開していくという。
3. Sea2Cell まだWEBサイトもない起業したての会社。魚の生体組織から細胞を分離して飼育するという、ヘブライ大学由来の技術を用いている。培養条件が肉とはまったく異なる魚に挑戦し、マグロの生産を目指すという。
4. Forsea テルアビブ大学とヘブライ大学の共同研究から始まった培養技術をもつ起業したての会社。様々なシーフードを検討した結果、価格が高いために日本市場にむけた培養うなぎを狙っている。
5. ProFuse Technology イスラエル・レホヴォトのワイツマン研究所で再生医療を研究していた研究者の技術を応用して、培養肉の成長プロセスを促進する技術を開発。培養肉の開発を進める食品会社などに技術を提供する、B2Bビジネスを想定している。
6. Meatafora テクニオン(イスラエル工科大学)由来の技術を利用。一般的な培養肉は、コラーゲンやコラーゲン代替物を「キャリア」としてその上で肉を培養するが、この会社はキャリア自体を植物性のものにしている。脂肪成分も植物から開発。
2021年以降に急成長したスタートアップ事例
ここからは2021年以降に急成長したスタートアップ事例を紹介する。
7. Future Meat Techonlogies バイオリアクターを独自設計して培養肉の生産スピードを向上させた企業。2021年ネスレとのコラボを発表、12月には347Mドルという巨額の資金調達を実現した。
培養肉企業への投資としては過去最大。アメリカに製造設備をもち、FDAの認可を受けた上で今年中には製品販売を開始する予定。
8. SuperMeat 培養鶏肉(ミンチ)を生産する。すでにFDAに認可申請書を提出し、現在審査中である。
2022年3月、味の素が業務提携に向けて出資を行った。ラボに隣接して製品を提供するレストランを持ち、訪問者は自己責任の同意の上で食べることができるようだ。培養鶏肉と本物の鶏肉を著名人に食べ比べてもらうという動画も公開。
9. Remilk 牛に依存しない牛乳による乳製品を開発。酵母に遺伝子を導入し、発酵プロセスを経て乳タンパクを生成する。牛乳そのものの味の再現は難しいので、アイスクリーム、チーズ、ヨーグルトなどの乳製品製造に応用。プロセスの最初に遺伝子導入による形質転換をおこなうが、最終製品には形質転換微生物は含まれないため、米国では非遺伝子組み換えの製品に分類される。今年、120Mドルの資金調達を行い、デンマークに工場を作るという。
FDAのGRAS(GRASは、アメリカ食品医薬品局より食品添加物に与えられる安全基準合格証、Generally Recognized As Safeの頭字語)承認済み。
10. Redefine Meat 大豆、えんどう豆、ココナッツなどを原料として、3Dプリンターにより見た目も食感も再現した植物性人工肉を生産する。肉の種類や部位まで再現できるように開発中。
2021年1月に135Mドルの資金調達を行い、イスラエルだけではなく、イギリス、ドイツ、オランダの250以上のレストランで提供している。自社ブランドを持ち、PRにも積極的。
11. Chunk Foods 植物由来原料から、食感や味、栄養価を再現するステーキ肉を開発する。
マサチューセッツ工科大学発の技術を用いて2020年9月に設立、2021年4月に2Mドルの資金を調達した。すでに一日あたり1〜10Kgの生産能力をもち、1年以内に1トンの生産を目指すという。
12. Yo-Egg 昨年もISRAERUで紹介したYo-Eggは、植物由来原料で作られた代替卵。白身と黄身を別々に提供しているので、目玉焼きやゆで卵などが作れる。Zero Egg(https://zeroegg.com/ )という企業もあり、液卵を製造しているので、卵を材料とする料理に応用できる。2022年5月に5Mドルを調達。
13. InnovoPro 通常20%程度のタンパク質を含有するひよこ豆から、70%という高いタンパク質含有量の濃縮物を抽出する。これを利用することにより、マヨネース、アイスクリーム、デザートなどの添加物を減らすことが可能になる。食品メーカー向けのB2Bビジネス。
14. Yemoja 微細藻類から、ヘモグロビンで知られるヘムの代替となる赤い色の物質を抽出。植物由来の肉や培養肉に、植物性の”血液”として利用することで、合成色素や動物の血液を使うことなく、実際の肉に近い見た目や味を実現することが可能になる。
8月にはイスラエル・フードテック食べ歩きツアーを開催予定
本記事で紹介した以外にもイスラエルには多くのフードテックスタートアップが存在するようだが、今回は特に興味深い企業がピックアップされたと考える。それぞれの技術、製品にとても可能性を感じるのではないだろうか。
8月にはこれらの企業を訪問し、製品の試食をする、「イスラエルフードテック食べ歩きツアー」も企画されているそうだ。興味のある方は、ミリオンステップスに問い合わせ(info@millionsteps.jp)してはいかがだろうか。