教養としての日本酒
(画像=kai/stock.adobe.com)

(本記事は、友田 晶子氏の著書『ビジネスエリートが知っている 教養としての日本酒』=あさ出版、2020年10月22日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

酒器が違えば味わいも違う

日本酒は酒器との組み合わせを楽しむことができるのも特徴です。

徳利、お猪口、グラス、升など、酒器の素材や形は実に多種多様です。日本酒好きの方の中には、自分好みの酒器、マイ猪口、マイぐい呑みを持ち歩いている方もいます。

私も、時折持ち歩くマイ盃があります。陶芸家、淺田尚道先生の作品で、やや大ぶりの平皿タイプです。

このマイ盃は、料理旅館「甲羅戯(こうらぎ)」(北兵庫、香住)のオーナーご夫妻から譲り受けたものです。「甲羅戯」のずわい蟹や但馬牛をはじめとした迫力のある料理とともに生酛仕込みの純米酒を、この盃で楽しみます。旅館のある香住を代表する生酛(きもと)・山廃(やまはい)蔵「香住鶴(かすみつる)」の純米酒にぴったりです。

しかし、このマイ盃、不思議と冷酒や熱燗には向きません。

ワインにも品種や産地によってそれぞれに合うグラスの形があるように、日本酒にも、お酒のタイプによって、季節によって、シーンによって、温度によって、もっともフィットする酒器があるのです。

4タイプ別に、向いている酒器、向かない酒器を紹介します。

1 香りの高いタイプ

このタイプの魅力は香りにあるわけですから、ここを逃してはいけません。

香りを十分に楽しめるワイングラスが適しています。脚のないタイプでも大丈夫です。

口のすぼまったチューリップ型やバルーン型がいいでしょう。グラスの中に香りが十分に籠り、香りをより深く楽しめます。

アルコール度が高めの場合は、香りを籠らせすぎると揮発(きはつ)成分が強すぎてツンツン刺激ばかりを感じてしまうこともあるので、ユリの花のようにやや開いた形状がいいでしょう。

素材は、透明度の高いガラスやクリスタルがおすすめです。繊細な香り、味わいのものも多いので、クリスタル特有のエレガントな感触が似合います。

薄手の磁器も素敵です。同じく繊細な味わいを楽しめます。九谷焼や有田焼、伊万里焼などが知られるところです。

常温で楽しむときには漆器もいいですね。格調高い雰囲気になります。輪島塗、越前漆器、会津塗などが有名です。

スパークリング清酒には、細長い形状のスパークリンググラスが合いますが、お米の風味を楽しみたい場合は、少しふくらみのあるグラスをおすすめします。

一方で、向かない酒器は、一般的なコップのようにまっすぐな形や小さすぎるお猪口です。これではせっかくの香りを楽しむことができません。また、厚手のぐい呑みなどの焼きものは武骨なところにその魅力があるのですが、繊細な「香りの高いタイプ」にはあまり向きません。

2 軽快でなめらかタイプ

軽快さを楽しめる細長い形状が向いています。さらりとのどの奥に滑り込むため、さっぱりとさわやかに楽しむことができるからです。スパークリンググラスや小ぶりのビアグラスなどです。

清涼感を楽しむには、ガラス、クリスタル、切子(きりこ)といった涼しげな印象の素材がおすすめです。東京を代表する江戸切子の粋さは軽快なタイプをより引き立たせてくれます。

青竹の器も素敵です。お客さまをお迎えするときに喜ばれます。外側に霧吹きでさっと水をかけてお出しすると、涼しげな演出が引き立ちます。

冷たさをキープする錫(すず)、チタン、ステンレスなど金属系もおすすめです。キーンと冷たい味わいを長く楽しめます。

お燗のときは、磁器や陶器等の焼きものがぴったりでしょう。辛口で引き締まった味わいのお燗になるので、厚手のものより薄手の繊細な小ぶりのものがより向いています。大きい酒器だとせっかくの熱が冷めてしまいます。

熱燗の場合は、繊細なガラスは割れる危険もあるので注意です。

3 コクのあるタイプ

お米のうま味を感じる、ある意味もっとも日本酒らしい日本酒といえるタイプです。おすすめの飲み方はぬる燗です。そのため、焼きもの、とくに手のぬくもり、土の温かみが伝わる陶器がいいでしょう。笠間焼、益子(ましこ)焼、京・清水焼、萩(はぎ)焼、唐津焼、薩摩焼など。なかでも、日本六古窯(にほんろっこよう)である、越前焼、瀬戸焼、常滑(とこなめ)焼、信楽(しがらき)焼、丹波(たんば)焼、備前(びぜん)焼の酒器の魅力は格別です。

全国の地域指定伝統的工芸品を楽しめるのも、日本酒ならではでしょう。

最近は、ワイングラスを使うことも増えてきました。

1756年創業の老舗グラスメーカーであるリーデル(RIEDEL)社は、2000年に日本酒用のグラスとして「大吟醸グラス」を発売しました。日本酒の蔵元12社との共同開発で、何度ものテイスティングとワークショップを重ね開発されたものです。

続いて「純米グラス」の開発に乗り出すにあたり行われた最初の意見交換の場に酒類販売者の代表とともに私も呼ばれました。

驚くことに10代目当主のゲオルグ・ヨーゼフ・リーデル氏が来日した折でもあり、氏とともにテイスティングができたことはラッキーでした。

当日は、リーデル・ジャパン本社内の試飲ルームで、形やサイズがまったく違う数十種類ものグラスに同じ純米酒を注ぎ香味を確認。そして、純米酒ならではのうま味、ふくよかさ、クリーミーさ、余韻の長さを十分に体感できるのは、やや口が開いた細長すぎない形状であることを確信しました。一緒に参加した酒類販売者とも同意見でした。

その後も、試飲会、全国の蔵元とのワークショップや、数回にわたるプロの検証などが行われた結果、2018年に発売となった「純米グラス」は、やはり、私がよいと感じたやや口が開いた細長すぎない形状でした。

4 熟成タイプ

美しい黄金色や琥珀色を楽しめるように透明のグラスがおすすめです。ブランデーグラス、シェリーグラス、リキュールグラス、ウイスキーグラスなどはどれも素敵です。透明度の高いクリスタルやカットが入っているものは、輝きが増してより魅惑的です。

ロックグラスでオンザロックもいいでしょう。できれば、透明度の高い溶けにくい氷を使っていただくのがよりおすすめです。お酒の色と氷の色、さらにはグラスの透明度が何重にも重なり、芸術品となります。

また、白が際立つ白磁は熟成色を美しく見せてくれ、厳かな雰囲気になります。

チューリップ型やバルーン型で口がすぼまっているものは熟成した芳醇さを楽しむことができますが、香りが強すぎると感じるときは、口径がやや広がったタイプにしていただくと適度な熟成香で無理なく楽しめます。

一方で、向かない酒器は、茶色や黒色などの酒器。せっかくの美しい色合いが映えません。また厚手の焼きものも熟成酒の複雑かつエレガントな熟成香味を感じにくくしてしまいます。

熟成タイプは、日本酒というより洋酒という感覚でとらえていただくほうが、より楽しめるかもしれません。

ワインは、形状はいろいろあるものの、基本的には透明のグラスで楽しみますが、日本酒は形状だけでなく、ガラス、クリスタル、陶器、磁器、木、竹、金属、塗りものなど、器の素材のバリエーションを替えて楽しむこともできます。

同じお酒でも、器が違うと味わいも変わります。日本酒の奥深さを感じられます。

ビジネスエリートが知っている 教養としての日本酒
友田 晶子
ソムリエトータル飲料コンサルタント。日本酒サービス研究会・酒匠研究会連合会(SSI)理事。SSI INTERNATIONAL国際唎酒師副会長兼広報委員。一般社団法人日本のSAKEとWINEを愛する女性の会代表理事。1200年続く家系で、友田彌五右衛門八代目当主の長女として米どころ酒どころ福井県に生まれる。ファミリーが経営する食品貿易会社に勤務。ワイン輸入販売に携わり、フランス留学を決意。現在、業界30年以上のキャリアと女性らしい感性を活かし、酒と食に関するセミナー・イベントの企画・開催、ホテル旅館・料飲店・酒販店・輸入業者などプロ向けにコンサルティングと研修を行っている。これまでにお酒にまつわる書籍を20冊以上執筆、テレビ、雑誌等メディアでも活躍するほか、スクールで教えてきた生徒数・資格を取得させた人数は延べ12万人にも上る。現在はお酒を通じて女性の教育・活用・社会進出支援に力を入れる一般社団法人日本のSAKEとWINEを愛する女性の会(通称:SAKE女の会)代表理事として活動。会員は2000名にもおよび、業界初のお酒による総合的な“おもてなし力”を問う検定“飲料おもてなし~SAKE女検定”を実施。現役都知事をはじめ、有名人・著名人を引き寄せる“SAKE女の会の求心力”に注目が集まっている(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

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