アレックス・カッツは、1927年ニューヨーク・ブルックリン生まれの戦後アメリカを代表する具象画家。1940年代から50年代にかけて登場したカッツは、抽象表現主義が主流だった時代に具象を貫き、肖像画を再活性化させた。
出典:https://ropac.net/artists/50-alex-katz/
シンプルかつ大胆な構図で描かれるスタイリッシュな作風で支持を集め、世界各国の主要美術館にも収蔵されるなど、アカデミックな高い評価を受けている。また、ここ近年においてのマーケットでの人気も非常に上がっており、オークション価格も更新を続けている。そこで今回は、カッツの歴代オークション落札価格TOP10の作品を紹介。落札価格は1ドル=130円で計算(イギリスで開催されたオークションの作品もドル変換)。
目次
10位:《Maxine》(1974)
落札価格:約1億4,000万円($1,077,500)
本作に描かれているアンニュイな表情で佇む女性・マキシンは、カッツが描く典型的な人物像。背後の大きな窓の奥にはニューヨークの景色が広がっている。1960年代にテレビに強く影響を受けたカッツは、ビルボード広告や映画にも触発されて大胆に顔を切り取った大規模な絵画を制作し始めた。121.9 x 182.9 cmの大きなリネンに油絵具で描かれた本作も、ビルボードや映画館のスクリーンを彷彿とさせるスケールである。
オークション:2019年11月14日、クリスティーズ
「Post-War and Contemporary Art Afternoon Session」
9位:《White Visor》(2003)
落札価格:約1億4,875万円($1,144,192)
大胆かつシンプルな色彩と削ぎ落とされたフラットな表現で、一目見ればカッツの作品であることが分かる象徴的な作品。大きな画面に(本作のサイズは183 x 366 cm)、遠近法を弱めたアップの横顔と淡いブルーの背景でコンパクトな構図を作りだし、人物にあたる光と影をアクセントにしている。日常生活の何気ないワンシーンもカッツの手にかかると、静謐でもありクリーンでもある、ミステリアスな印象の絵画に生まれ変わる。
オークション:2022年3月2日、サザビーズ
「Modern & Contemporary Evening Auction」
8位:《Dark Glasses》(1989)
落札価格:約1億5,860万円($ 1,220,000)
大きな黒のサングラスをかけた女性の横顔をシックな雰囲気で描いた作品。女性の背後の流れるような筆跡は急速な動きを表現しており、高速で移動する車の中に座っている人物を連想させる。少し物憂げな雰囲気もある本作は、「デカダンス」(虚無的、退廃的であること。19世紀末フランスを中心とした文芸上の一傾向)の影響も感じさせる。これは、カッツが描いた1980年代アメリカの作品に見られる特徴である。
オークション:2019年5月17日、サザビーズ「Contemporary Art」
7位:《Ada and Louise》(1987)
落札価格:約1億6,180万円($ 1,244,584 )
1950年代、アメリカのメイン州のスタジオで制作していた時に描かれた作品。場所はカッツ夫妻の自宅からすぐ近くにあるリンカンヴィルビーチで、左側に座るカッツの妻のエイダ(Ada)が向き合っているのは、エイダの母親のルイーズ(Louise)である。海や空のベタ塗りされた青を背景に、雲や洋服のさわやかな白が映えるカッツ特有の色彩の美学が表れた作品。
オークション:2019年3月7日、クリスティーズ
「Post-War and Contemporary Art Day Auction」
6位:《Orange Hat 2》(1973)
落札価格:約2億475万円($ 1,575,000)
本作に描かれているのもカッツの妻・エイダ。1958年の結婚以来、カッツは200点以上のエイダの肖像画を制作しており、エイダはカッツのキャリアにおいて最重要な被写体である。伝統的な肖像画へ敬意を払いながらもカラフルでグラフィカルに仕上がった作品で、このグラフィック性の高さは、カッツが伝統と現代を行き来する具象画家の代表として、独自のジャンルと唯一無二の作風を築き上げたことを象徴している。
オークション:2019年11月14日、クリスティーズ
「Post-War and Contemporary Art Afternoon Session」
5位:《January 2》(1992)
落札価格:約2億2,100万円($ 1,700,000)
1980年代後半に入ると、カッツは純粋な肖像画から離れ、風景画の可能性を探求するように。本作は、肖像画とキャリア後期の大規模な風景画の橋渡しとなる作品で、カッツはこの二つのテーマを融合した一連の絵画制作を続けた。228.6cmの正方形の支持体を非対称に分割し、左側には妻のエイダ、右側にはグレーを基調にしたマンハッタンの冬の風景を描いている。2枚組の効果を生み出すこの形は、カッツの最高傑作の典型であり、映画のようなストーリー性を持っている。
オークション:2019年11月15日、サザビーズ「Contemporary Art Day Auction」
4位:《Rackstraw and Pamela》(1976)
落札価格:約3億2,100万円($ 2,470,000)
イギリス生まれのリアリスト画家ラックストロー・ダウンズとその当時の妻パメラ・バークレーが描かれた作品。7位の《Ada and Louise》と同様に、カッツが住んでいたメイン州の沿岸が舞台となっている。海や空、緑など自然の要素が盛り込まれたカッツの肖像画には、快活さと同時に牧歌的な柔らかい雰囲気を感じられるのが魅力の一つ。本作は、世界的コレクターであり「サーチ・ギャラリー」のオーナー、チャールズ・サーチのコレクションに収められていた作品。
オークション:2022年5月19日、サザビーズ「Contemporary Evening Auction」
3位:《East Interior》(1979)
落札価格:約3億2,900万円($ 2,530,500)
1970年代後半、カッツは東洋と西洋のインテリアを絵画的に探求しており、本作はカッツが長年過ごしていたメイン州の自宅を示唆している。夜空が室内の光を引き立てるこの作品の時間帯は、カッツの肖像画ではあまり描かれない時間帯である。同年に制作された姉妹作《West Interior》はフィラデルフィア美術館に所蔵され、この作品の高い重要性を証明した。
オークション:2022年5月19日、サザビーズ「Contemporary Evening Auction」
2位:《The red band》(1978)
落札価格:約4億1,160万円($ 3,166,000)
ベタ塗りの黄色を背景に、妻のエイダを描いた作品。二つ並んだエイダの横顔は複製ではなく、反射した横顔。無駄を削ぎ落としたシンプルさの中でこそ際立つ構図が、カッツらしさに溢れている。本作は、1979年に出版された代表的な作品集『The Red Band』の表紙も飾っており、カッツのキャリアのなかでも重要な作品の一つである。
オークション:2020年10月28日、サザビーズ「Contemporary Art Evening Auction」
1位:《Blue Umbrella I》(1972)
落札価格:約4億4800万円($ 4,151,368)
本作は2点組のシリーズの最初の一つで、2点目の《Blue Umbrella Ⅱ》は、本作をほぼ忠実に再現した作品。妻・エイダの掴みどころのない表情や近接した構図など、カッツの絵画的美学が強調された一作。1986年にニューヨークのホイットニー美術館で開催された個展のカタログの表紙として使用されたことも、この作品が重要な位置にあることを示している。当時のフィリップスオークションで、本作は落札価格トップの作品となった。
オークション:2019年10月2日、フィリップス
「20th Century & Contemporary Art Evening Sale」
ANDARTでは、アレックス・カッツの版画作品「ブラックドレス」シリーズより、《Black Dress 6 (Yvonne)》を取り扱っています。
他にもデイヴィッド・ホックニーや草間彌生などの世界的アーティストの作品を扱っていますので、是非【取り扱い作品一覧】からご覧ください。無料会員登録で最新のオークション情報やアートニュースをお届けしています。
文:ANDART編集部