地方自治体.インバウンド誘致.2019
(写真=Wright Studio/Shutterstock.com)

地方自治体のインバウンド誘致においては「人」「カネ」「知識・スキル」が課題

組織規模と予算規模だけでなく豊富な知識・スキルが求められ、専門特化した高度な施策が必須のフェーズに突入している

株式会社矢野経済研究所(代表取締役社長:水越孝)は、全国47都道府県および全国20政令指定都市のインバウンド誘致に関するアンケート調査を実施し、各種施策の実施状況、取組みの進捗状況、人員面・予算面を含めた課題を明らかにした。ここでは、主に組織的な課題に関する分析結果を公表する。

インバウンド誘致関連での組織的な課題

インバウンド誘致関連での組織的な課題

海外富裕層の定義の有無

海外富裕層の定義の有無

1.調査結果概要

政府は観光立国の実現を目指し、2012年以降、各種施策を強力に推し進めている。インバウンド(訪日外国人客)誘致に関してはビザ緩和や各種法制の改正、補助事業の整備など政府施策に依るところが大きいが、その一方で観光の目的地である各地方・地域の魅力や受入れ体制がいかに高められ、整っているかが重要であり、つまるところ、インバウンド誘致に向けた取組みの主役は地方自治体であることは間違いない。

そこで、インバウンド誘致に関して各地方自治体が現状抱えている組織的な課題について(複数回答)調査したところ、「人員規模(69.0%)」「専門的な知識・スキル(64.3%)」「予算規模(61.9%)」「地域内の観光関連の連携(59.5%)」への回答が概ね6割を超えた。特に「人員規模」への回答は69%と高く、今後のインバウンド誘致においては人員増強が一番の課題であることが分かる。

二番手には「専門的な知識・スキル」が挙がっており、人員・予算と言った基本的な資源に並ぶ課題として質的な課題を抱えていることが分かる。ひと昔前とは異なり、海外旅行代理店との連携、旅行博への出展、ファムトリップ(Familialization Trip)、SNSを駆使した能動的な発信、インフルエンサーマーケティングなど、現在の観光施策が専門的な知見・経験・ネットワークを必須とする水準になっていることが背景にあると見られる。つまり、「人(人材)」と「カネ(財源)」だけでは不十分であることを示している。

2.注目トピック

海外富裕層の定義の有無

各地方自治体での海外富裕層の定義(富裕層の前提条件)の有無(単数回答)を確認すると、「どちらかと言えば、ない(34.1%)」「ない(56.8%)」の合計で90.9%に達し、殆どの自治体で海外富裕層の定義が存在しないことが分かる。アンケートの別設問での結果では海外富裕層に特化した計画・施策を有する自治体が一定数存在したが、一方で海外富裕層の定義は持っていないと言うことになる。また、同じく別設問では彼ら富裕層のニーズや特性を把握できていないことも明らかになっている。

インバウンドでの消費金額を増大させる一つのキーワードとして海外富裕層が取り沙汰されるが、何かを売込む上で "ターゲットがどの様な条件なのか" が決まっていないと言うのはいささか問題であろう。現状では"海外富裕層"と言うキーワードだけが存在し、相手がどの様な条件・性質で、どのように行動し、何を求めているか、と言ったB2Cマーケットでは基本的と言える分析が完了しきっていないものと推測できる。海外富裕層は千差万別と言えばそこまでであるが、発信するメッセージ、磨き上げる商材・サービスを迷走させないためにも、海外富裕層の"像"を掴む必要があるのではないだろうか。

なお、多くの調査レポート・文献等では金融資産100万ドル以上を富裕層と定義しているが、はたしてこの定義がターゲットとする富裕層として妥当か否かは判断し難い。国内富裕層向けのサービスを提供しているメガバンクのプライベートバンキング部門では預かり資産の背景に10億円以上の取引が期待できる層を富裕層と定義し、また、旅行代理店のインバウンド専門部署によれば、日額の旅行消費額が下限で10万円/人を準富裕層と設定し、1回の旅行消費額が数百万と言った層を富裕層としている。