車載用LiB向けは中国において外資系自動車メーカーの車両電動化の需要が本格始動、LiB主要4部材世界市場は引き続き成長
~2018年のLiB主要4部材世界市場は前年比134.2%の約200億ドル~
株式会社矢野経済研究所(代表取締役社長:水越孝)は、リチウムイオン電池主要4部材の世界市場を調査し、民生小型機器用や車載用などのLiBセル用途や主要4部材の出荷動向、国別の設備投資や部材価格の動向などを明らかにした。
図表1. リチウムイオン電池(LiB)主要4部材 世界市場規模推移と予測
図表2. リチウムイオン電池(LiB)主要四部材 世界市場規模 国別出荷数量シェア推移
1.市場概況
2018年のリチウムイオン電池(以下、LiB)主要4部材世界市場規模(メーカー出荷金額ベース)は、前年比134.2%の196億6,742万4,000ドルと推計した(図表1参照)。LiB世界市場は2016年以降、車載用LiB市場を牽引役に成長が続いている。車載用LiB市場ではこれまで補助金政策で成長を続けた中国市場において、2019年からは環境規制が施行され、いよいよ外資系自動車メーカーの電動車ラインナップ分(M-HEV、HEV、PHEV、EV等)の需要が動き始めた。また、欧州では乗用車のCO2排出量について2021年の目標値を平均95g/kmとする規制を実施予定であり、2020年代前半までは欧州においても自動車メーカーの電動車(M-HEV、HEV、PHEV、EV等)の拡大が続くと見られ、車載用LiB向け主要4部材需要も引き続き拡大を予測する。
民生小型LiB市場はこれまで牽引役であったスマートフォン向けが前年割れに転じる一方で、電動工具や電動バイク用セルといった動力系セル、BluetoothイヤフォンやBluetoothスピーカーといったオーディオ機器関連等の新規需要の伸びが新たな牽引役となっており、2019年以降も成長が続くと予測する。以上を背景として、2019年のリチウムイオン電池主要4部材世界市場規模は前年比115.2%の226億6,166万2,000ドルを見込む。
2.注目トピック
引き続き中国勢が優位維持、2021年以降は構成比に変化の可能性
2018年のLiB主要4部材世界市場(メーカー出荷数量ベース)においても、引き続き中国メーカーは存在感を維持している。出荷数量における国別構成比では、正極材63.6%、負極材74.0%、電解液69.7%、セパレーター56.7%と、6割以上となっている正極、負極、電解液に続き、セパレーターも2018年で6割に迫る勢いを見せている(図表2参照)。
補助金政策が予定されている2020年までは中国部材メーカーの存在感が維持されるとみるが、2021年以降は成長が停滞する可能性もある。中国の電動車(M-HEV、HEV、PHEV、EV等)市場は2019年からの環境規制を経て、これまでの補助金主導からマーケット主導へと切り替わる流れとなっており、これまで中国自動車メーカー主体であった同市場は今後、外資系自動車メーカーと競合することから、市場環境が厳しくなると考える。外資系自動車メーカーのセルの調達先はCATLをメインに上位セルメーカーに限定されていると見られ、セルメーカー間における再編や淘汰も今後想定されるなか、自国の上位セルメーカーへの供給獲得、並びに海外セルメーカーへの販路拡大を進められない中国部材メーカーにとっては今後厳しい状況になると考える。
日本はセパレーターが引き続き30%台を維持しており、他の部材は10数%~20数%台となっている。今後は欧州自動車メーカー、日系自動車メーカーの車両電動化における車載用セル向け需要増が日系部材メーカーの伸びを牽引すると予測する。
韓国は引き続き韓国セルメーカー向けが主流である。これまでは民生小型セル向けでの供給比率が高いケースが多く見られたが、徐々に車載用セル向け供給比率が上昇する傾向が見られる。加えてPOSCO CHEMICAL(正極材、負極材)、Enchem(電解液)といった新規参入企業が出荷を伸ばしており、欧州自動車メーカーによる電動車ラインナップ(M-HEV、HEV、PHEV、EV等)を追い風に、今後徐々に存在感を高めていく可能性があると考える。
3.将来展望
2019年からの中国の環境規制や、2021年に予定されている欧州における乗用車のCO2排出量の厳しい目標値設定のなか、世界市場においては、2020年代前半までは自動車メーカーの電動車ラインナップ(M-HEV、HEV、PHEV、EV等)生産が促進され、これを受けた車載用LiBの生産拡大が続くことで主要4部材需要の拡大は今後も続くと予測する。
ただし、今まで電動車市場を牽引してきた中国において補助金無き後、容量よりもコスト重視の観点からLFP正極材や乾式セパレーターが見直される可能性、また世界的にはHEVが中長期的に成長する可能性も考えられ、この場合、これまでの高容量一辺倒の開発とは違う方向性での取り組みが求められることが予想される。さらに、これまでの容量価値に加え、今後の電池開発ではリユース等の観点から寿命価値という新たな開発の方向性が加わる可能性があり、LiB主要4部材に対する需要も変化する可能性があると考える。