国内屈指の高年収企業として有名なキーエンス。2022年3月期の有価証券報告書によると、同社従業員の平均年収は2,182万円で、過去最高となった。好調な業績に伴って給与も増えたと見られる。製造業に関わりながら自社工場を持たず、高収益・高還元を実現する特異なビジネスモデルを持つキーエンスの実像に迫る。
2022年3月期における平均年収は2,182万円
キーエンスが公表している2022年3月期の有価証券報告書によると、同年3月20日時点の従業員数は2,599人、平均年齢は36.1歳で、平均年間給与は2,182万7,204円となっている。1年前と比べると、430万9,255円の上昇だ。
直近10年間の有価証券報告書から、同社の平均年間給与のデータを抽出して推移を表にすると、以下のようになる。
平均給与が2,000万円を超えるのは2019年以来3年ぶりで、2022年3月期は過去最高となった。
東洋経済オンラインが2022年2月に公表した「平均年収『全国トップ500社』最新ランキング」で、キーエンスは2位に入った。ただし、この時に参照されたのは2021年3月期の1,751万円。最新の平均給与はさらに430万円超を上積みしており、全国指折りの高年収を維持している。
過去最高の業績となったキーエンス
キーエンスの高年収のよりどころとなっているのが好調な業績で、同社の2022年3月期の連結売上高は7,551億円、営業利益は4,180億円、純利益は3,033億円で、いずれも過去最高となった。業績の向上に伴い、従業員にも利益をしっかり還元している形だ。
ちなみに新型コロナウイルスが全国的に拡大する前の2020年3月期は、連結売上高が5,518億円、営業利益が2,776億円、純利益が1,981億円。いずれも2021年3月期にはわずかに落ちこんだものの、2022年3月期には見事に回復・上昇させている。
製造業では、コロナ禍からの景気回復が見込まれる一方で半導体不足が足かせとなっており、思うように業績が上向かない企業も多い。そんな中、ものづくりに関わる企業がコロナ前を大きく上回る業績を叩き出しているのは、まさに出色と言える。
「ファブレス」に特化
そんなキーエンスの業績を見て真っ先に目に入るのは、利益率の高さである。2022年3月期の売上高営業利益率は55.3%。これは、すべての上場企業の中でも10本の指に入るほどの高さとなっている。
その要因のひとつは、同社が「ファブレス」と呼ばれる生産体制を確立していることにある。ファブレスとは、自社工場を持たない状況で製品設計などを進め、生産業務は他社に外注(アウトソーシング)する形態のことだ。
こうすることで、自社で工場を持つよりもコストが少なく済むほか、自社の保有設備に制約を受けずに営業活動ができるメリットもある。また、固定資産が少ないので、市場環境の変化に対しても身動きがとりやすい。コロナ禍でもダメージが小さく、業績が急回復したのも、こうしたファブレスの強みが活きた結果と言えそうだ。
同社は公式サイトにおいて、「世界情勢や市場の変化に左右されず、付加価値の高い商品を大量生産するには、このファブレスという発想が不可欠」とうたっている。
「世界初」「業界初」が新商品の7割占める
キーエンスの公式サイトによると、同社が世に送りだす新商品のうち、7割が「世界初」「業界初」にあたるという。これは同社が「物」を売るための営業ではなく、取引先の課題を発見し、それを解決するためのソリューション営業を心がけているからである。
さらに、専門知識を持った営業担当者が客先に出向いて説明し、取引先から得た評価やニーズをさらに企画や開発に活かすことで、オリジナルかつ汎用性の高い標準品を開発している。つまり、「世界初」「業界初」の商品や技術を標準品に落としこみ、幅広い業界で同社の商品が利用される仕組みを構築しているのだ。
キーエンスという会社は、メーカーでありながら「メーカー」という言葉とセットで思い浮かぶ工場を持っていない。それ故、柔軟でしなやかな生産形態、ビジネスモデルが確立できている。そうした独自の仕組みが高収益・高還元の企業の礎となっているのだ。
文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)