スペイン生まれの20世紀最大の画家、パブロ・ピカソ(1881-1973)。世界一多作な画家としてギネスブックにも登録されており、その生涯を絵画や彫刻、陶芸など幅広い芸術活動に費やした。
ピカソは一つの作風に固執せずに新たな表現を追求していき、新しい美術表現「キュビスム」の創始者として、美術史上でも最重要人物をして名を連ねている。また、ピカソは豊富な女性遍歴があったことでも有名で、その時々にピカソと共にいたミューズたちは作品に多大なる影響を与えた。
ピカソの人気はアートマーケットで長年安定しており、2021年のオークション市場全体ではピカソの作品が最高価格で落札、そしてアーティスト毎のオークション売上高でも1位に輝いた。そこで本記事は、これまでにオークションで落札されたピカソの落札価格TOP10の作品を紹介する(落札価格は1USD=130円で計算、ランキングは手数料込みの落札価格で作成)。
目次
- 10位《Buste de femme (Femme à la résille)》(1938)
- 9位《La Gommeuse》(1901)
- 8位《Femme nue couchée》(1932)
- 7位《Femme au béret et à la robe quadrillée (Marie-Thérese Walter)》(1937)
- 6位《Dora Maar au chat》(1941)
- 5位《Femme assise près d’une fenêtre (Marie-Thérèse)》(1932)
- 4位《Garçon à la pipe》(1905)
- 3位《Nude, Green Leaves and Bust》(1932)
- 2位《Fillette à la corbeille fleurie》(1905)
- 1位《Les femmes d’Alger (Version ‘O’)》(1955)
10位《Buste de femme (Femme à la résille)》(1938)
落札価格:約87億5,745万円($67,365,000)
ピカソの代表作《泣く女》のモデルになった写真家ドラ・マールの肖像画。ピカソは1935年末から1936年初め(諸説あり)にドラ・マールに出会い、本作はドラ・マールを描いた一連の作品のなかでも有名な一点。ピカソと交友があったアメリカの報道写真家デイヴィッド・ダグラス・ダンカンが出版した作品集『Picasso’s Picassos』など多くの出版物にも取り上げられた。本作はピカソが手放せなかった作品のひとつで、没後は孫娘・マリナのコレクションとなり、スイスの画商ヤン・クルーギエが譲り受けた。
オークション:2015年5月11日クリスティーズ「Looking Forward to the Past」
9位《La Gommeuse》(1901)
落札価格:約87億6,850万円($67,450,000)
ピカソのキャリア初期の「青の時代」(1901-1904)に描かれた作品のなかでも、特に希少価値の高いのが本作である。これはピカソが当時19歳だった1901年後半に制作したもの。同年初めに、友人であるカサヘマスを自殺で亡くしたばかりで悲しみに暮れながら描かれ、友人の死を紛らわせようとしたピカソは、別の友人と放蕩に没頭していた。「青の時代」は娼婦や貧困に苦しむ母親たちなどが多く描かれたシリーズでもあり、本作の女性はキャバレー嬢のラ・ゴムーズである。
オークション:2015年11月5日サザビーズ「Impressionist & Modern Art – Evening Sale」
8位《Femme nue couchée》(1932)
落札価格:約87億8,033万円($67,541,000)
本作は、サザビーズのオークションで3番目に高い総額4億850万ドルを売り上げた「Modern Evening Auction」にて落札された。ピカソの恋人であったマリー・テレーズ・ウォルターが横たわる裸婦像を描いたキャンバス作品。ピカソがマリー・テレーズを描いた最初の本格的な連作は、1932年6月の大展覧会を前に、1931年12月末から1932年1月にかけて制作された。本作(日本語で《横たわる裸婦》)は、ピカソが1932年に制作した作品の中で最も力強い作品とされている。
オークション:2022年5月17日サザビーズ「Modern Evening Auction」
7位《Femme au béret et à la robe quadrillée (Marie-Thérese Walter)》(1937)
落札価格:約89億3,130万円($68,702,213)
本作(日本語で《ベレー帽と四つ葉の女(マリー・テレーズ・ウォルター)》は、マリー・テレーズの横顔を正面から表現した作品。この原色のパレットを使った力強い色彩は、1930年代前半の描写とは変化しており、サザビーズによると、この頃既に出会っていた愛人のドラ・マールとマリー・テレーズの二人の女性に対する感情を探る手段として用いたと思われる一連の作品に含まれている。1937年はスペインで内戦が勃発し、ピカソが不朽の名作《ゲルニカ》と《泣く女》を制作した年というスペインの歴史的、美術史的にも重要な年である。
オークション:2018年2月28日 サザビーズ「Impressionist & Modern Art Evening Sale」
6位《Dora Maar au chat》(1941)
落札価格:約123億7,800万円($ 95,216,000)
本作(日本語で《ドラ・マールと猫》)」は、第二次世界大戦が始まった1941年にフランスで描かれた作品。シュルレアリスムの写真家であったドラ・マールは、ピカソの知的、政治的関心を共有できる愛人であり、二人の恋愛は10年近く続き、この頃の関係は絶頂期を迎えていた。ピカソのキャリアの中でもドラ・マールの肖像画は最も重要な作品群として位置付けられている。
当時、匿名の参加者が落札したため、ロシアの超富裕層コレクターが落札したのではないかと憶測が飛び交ったが、グルジアの鉱山王ビジナ・イヴァニシヴィリの代理人が作品を購入したことが明らかになった。
オークション:2006年5月3日 サザビーズ「IMPRESSIONIST & MODERN ART EVENING」
5位《Femme assise près d’une fenêtre (Marie-Thérèse)》(1932)
落札価格:約134億4,330万円($103,410,000)
1932年に入ると、ピカソはマリー・テレーズを色彩豊かに大規模な作品(本作は146 x 114 cm)で大量に発表するようになる。本作(日本語で《窓辺に座る女性(マリー・テレーズ)》)は、その1932年に制作された一連の作品の頂点に立つ傑作の一つである。マリー・テレーズがピカソの芸術の中で最高の位置を占めるようになった経緯としてよく語られているのが、二人の出会いである。
1927年、46歳だったピカソと妻オルガ・コクローヴァの仲は冷めていた。ある日、パリで出会った彫りの深くてブロンドの青い目の女性が当時まだ10代だったマリー・テレーズだった。ピカソはすぐ「あなたは面白い顔をしていますね。君の肖像画を描きたいのだが……。きっと一緒に素晴らしいことをやっていけると思う。私はピカソだ」と声をかけた。マリー・テレーズもすぐにピカソに惹かれて次に会う約束を交わし、交際がスタートした。
オークション:2021年5月13日クリスティーズ「20th Century Evening Sale」
4位《Garçon à la pipe》(1905)
落札価格:約135億4,200万円($ 104,168,000)
本作(日本語で《パイプを持つ少年》)は、ピカソのキャリア初期「青の時代」の次にあたる「ばら色の時代」と呼ばれる時期(1904〜1906年頃)に描かれた代表作の一つである。青系の色を基調とした陰鬱な作風だった青の時代に対し、この頃から赤やオレンジ、ピンクなどの明るい色調を取り入れた作品が増えていき、インスピレーションの源はピカソの身近にあるものだった。
この作品のモデルは、ピカソが当時住んでいたモンマルトルにあったアトリエ兼住宅の「洗濯船」に出入りしていたプティルイと呼ばれる青年であったと推測されている。本作のための下絵には、モデルを立たせたり座らせたり、パイプに火をつけたりと様々なポーズが考えられていて、ピカソが時間をかけてこの作品を描き上げた記録が残っている。
オークション:2004年5月4日サザビーズ
「PROPERTY FROM THE GREENTREE FONDATION FROM THE COLLECTION OF MR. & MRS. JOHN HAY WHITNEY IMPRESSIONIST & MODERN ART」
3位《Nude, Green Leaves and Bust》(1932)
落札価格:約138億4,300万円($ 106,482,500)
出典:https://www.pablopicasso.org/
本作(日本語で《裸婦、緑の葉と胸像》)も1932年のマリー・テレーズを描いた肖像画である。ピカソは1929年に開催されたアンリ・マティスの展覧会をきっかけに、マティスへの対抗意識を燃やし、大衆に自分の実力を証明する必要性を感じていたそう。さらには、1931年に50歳を迎えたピカソは自身の老いを恐れているような発言をしていたことが残されている。結果的に1931年から1932年にかけては、ピカソのライフワークの中でも絶頂期とされ、美術史に大きな価値を残す年となった。
本作は、1951年1月にアメリカの慈善家フランシス・ラスカー・ブロディが2万ドル以下(約260万円)で購入し、50年以上個人に所有されていたもので、8人の入札者が争って売却された。
オークション:2010年5月4日クリスティーズ「THE COLLECTION OF MRS. SYDNEY F. BRODY」
2位《Fillette à la corbeille fleurie》(1905)
落札価格:約149億5,000万円($ 115,000,000)
アメリカの著名コレクター、ペギー&デイヴィッド・ロックフェラーのコレクションが紹介されたクリスティーズオークションに出品された作品。2018年のシングルオーナーによるセールでは最高額を記録し、「ばら色の時代」に制作された本作(日本語で《花のバスケットを持つ少女》)がその中でも最高落札価格で売却された。専門家の間では、この少女はリンダという未成年の風俗嬢であるとされている。傑作とされながらも、ピカソの女性に対する扱いをめぐった批判があり、スペイン・バルセロナのピカソ美術館の前でデモが行われたこともある。
オークション:2018年5月8日クリスティーズ
「The Collection of David and Peggy Rockefeller: 19th & 20th Century Art, Evening Sale」
1位《Les femmes d’Alger (Version ‘O’)》(1955)
落札価格:約233億1,745万円($ 179,365,000)
出典:https://www.pablopicasso.org/
《アルジェの女たち(バージョンO)》で知られる本作は、1954年から55年かけて制作された15点の絵画と素描からなるシリーズのうちの一点で「ヴァージョンO」はシリーズ最後の作品。フランスのロマン主義の画家ウジェーヌ・ドラクロワの《アルジェの女たち》から着想を得ている。
1956年、ピカソコレクターとして有名なアメリカのヴィクター・ガンツは、パリのディーラーからこのシリーズ15点一式を21万2500万ドルで購入。そして10点を売却し、「バージョンO」は残った5作品の一つだった。その後1997年にロンドンのディーラーが3190万ドルで落札。それから20年近く経った2015年に再び市場に戻り、当時のアートオークション史上で最も高価な作品となった。これは、2017年にレオナルド・ダ・ヴィンチの《サルバトール・ムンディ》に抜かれるまで記録を保持した。また、2022年5月のクリスティーズでアンディ・ウォーホルの《Shot Sage Blue Marilyn》が1億9,500万ドルで落札されるまで、20世紀の絵画史上最高落札価格の作品だった。
オークション:2015年5月11日クリスティーズ「Looking Forward to the Past」
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現在ANDARTでは、パブロ・ピカソの作品は最後の妻ジャクリーヌの肖像画の版画作品《Portrait de Jacqueline de Face Etat Ⅲ 21-21-1961(Bloch 1064)》を取り扱い中です。気になる方は是非ご覧ください。
無料会員登録 文:ANDART編集部