競業避止義務とは? 仕組みや判断基準を実例を踏まえて徹底解説!
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風間 啓哉
風間 啓哉(かざま・けいや)
監査法人にて監査業務を経験後、上場会社オーナー及び富裕層向けのサービスを得意とする会計事務所にて、各種税務会計コンサル業務及びM&Aアドバイザリー業務等に従事。その後、事業会社㈱デジタルハーツ(現 ㈱デジタルハーツホールディングス:東証一部)へ参画。主に管理部門のマネジメント及び子会社マネジメントを中心に、ホールディングス化、M&Aなど幅広くグループ規模拡大に関与。同社取締役CFOを経て、会計事務所の本格的立ち上げに至る。公認会計士協会東京会中小企業支援対応委員、東京税理士会世田谷支部幹事、㈱デジタルハーツホールディングス監査役(非常勤)。

会社には、事業活動に伴ってさまざまな情報や経験が蓄積されていく。会社の財産であるノウハウなどの社外流出による損失を防ぐために、企業がとり得る防衛策のひとつとして「競業避止義務」がある。この記事では、競業避止義務の仕組みや判断基準、競業避止義務契約のポイントについて解説する。

目次

  1. 競業避止義務の全体像を把握しよう
    1. なぜ競業避止義務が必要となったのか
    2. 競業避止義務が認められるケース
    3. 競業避止義務の判断基準6つ
  2. 競業避止義務契約
    1. 競業避止義務契約の記載内容
    2. 競業避止義務契約の締結タイミング
    3. 競業避止義務契約を締結する上での留意点3つ
  3. 競業避止義務違反とその有効性
  4. 競業避止義務で会社の重要な情報やノウハウという財布を守ろう
  5. 事業承継・M&Aをご検討中の経営者さまへ

競業避止義務の全体像を把握しよう

「競業避止義務」とは、会社の役員や従業員が、競合企業に転職したり競合する企業を自ら設立したりするなど、営業上で競業となる性質の取引行為をしてはならないという義務のことだ。

なぜ競業避止義務が必要となったのか

そもそも「競業避止義務」は、不当な競争行為による会社の機密情報やノウハウの外部流出によって、会社利益が不当に侵害されることを未然に防ぐことを目的としている。言い換えると、これらのリスクを低減していくことが、いかに会社にとって重要な課題であることが分かる。

一般的に、特定の会社に在職しているときも、労働契約における付随義務として「競業避止義務」を負うと考えられている。また、退職後については、憲法で定める「職業選択の自由」の観点から「競業避止義務」は生じないとも考えられる。

では、「競業避止義務」とはどのようなケースで認められるのだろうか。

競業避止義務が認められるケース

「競業避止義務」は、在職中と退職後のそれぞれで一般的に次のようなケースで認められる。

1.在職中の競業

在職中については、誓約書や契約書などで「競業避止義務」に関して本人の同意を取っていれば、労働契約に基づき「競業避止義務」が認められる。

そのため、在職中の従業員は、使用者の利益に著しく反する競業行為を差し控える義務がある。また、誓約書等があればそれに従うことは当然であり、仮に誓約書等がなかったとしても、従業員は信義則上の義務として「競業避止義務」を負うとされている。

なお、取締役などの役員の場合は、会社の利益を害する競業取引などは会社法によりそもそも制限されており、取締役会や株主総会でその取引を行う前に承認を受ける必要がある。

2.退職後の競業

【独立起業の場合】
「競業避止義務」を負うことに同意した従業員が、退職した後に別の会社等を立ち上げた場合、以下のようなケースに該当すれば損害賠償請求などの訴訟の対象となることがある。

・勤務していた企業の営業活動に損害を与えた
・退職後から起業するまでの間に競業行為等の「競業避止義務」に違反した

【競業他社への転職の場合】
競業他社へ転職した幹部が、競業避止義務違反を問われた判例を紹介する。同じ業界内で転職を行う場合に気を付けたいケースではないだろうか。

・判例
家電量販店の店長を歴任し、「店舗における販売方法」などを熟知した従業員が、退職翌日から競業するライバル会社に就職したことで、その従業員の前勤務先企業が「競業避止に基づく損害賠償」を求めて訴えを起こした。

裁判所は、転職先が直接の競争相手である家電量販店チェーンを展開するライバル企業であり、知識やノウハウ等を有する幹部がその会社に就職することで、従業員の前勤務先企業が相対的に不利益を受けることは容易に予想できるため、事前に従業員に対して競業避止義務を課すことは不合理でないと判断し、退職金の半額相当分と賃金1ヵ月相当分を限度とする損害賠償請求を認めている。

競業避止義務の判断基準6つ

競業避止義務違反となるかどうかは、経済産業省の「競業避止義務契約の有効性について」によると次の6つの判断基準によるとされている。

  1. 企業の利益
  2. 従業員の地位
  3. 地域的限定
  4. 期間
  5. 禁止行為の範囲
  6. 代償措置

1.企業の利益

企業の利益とは、企業にとって保護すべき情報やノウハウなどの利益があるか否かということである。また、情報流出などによって企業の利益を損なうものの有無などもその対象になると考えられる。

2.従業員の地位

従業員の地位とは、企業にとって守るべき利益を保護するために、競業避止義務を課すことが必要な従業員であったか否かを意味する。組織内で高いポジションの従業員でも、会社が守るべき情報に触れていなければ該当しないことになる。形式的な特定の組織上の地位を指すのではなく、実質的な面が問われることに留意が必要である。

3.地域的限定

地域的限定とは、業務の性質などに照らして、制限される地域が合理的に限定されているか否かである。事業の内容や展開する地域などを踏まえて総合的に判断されることになる。

4.期間

期間とは、競業避止義務の存続期間として適切か否かということである。事業の特性や、企業にとって守るべき利益を保護する手段として合理的か否かで判断される。あまり長期間に及ぶと、認められにくい傾向がある。

5.禁止行為の範囲

禁止行為の範囲とは、企業にとって守るべき利益と、競業が禁止されている範囲が合理的であるか否かである。業務内容や職種等の限定があれば肯定的に判断されることがある一方で、競合企業への転職をただ禁止するだけでは、合理性が認められないケースがある。

6.代償措置

代償措置とは、競業避止義務を課すことの対価として、退職後の独立支援制度や厚遇措置など明確に定義されたもののことである。代償措置となるものがある場合は、肯定的に判断される傾向がある一方で、代償措置と呼べるものが何もなければ、有効性を否定されることが多くなる傾向にある。

競業避止義務契約

競業避止義務契約の記載内容

競業避止義務契約書には、一般的に次のような記載がされることが多い。

・秘密保持の誓約
・秘密情報の帰属
・競業避止義務
・引き抜き行為の禁止
・誹謗・中傷行為の禁止
・設備の私的利用の禁止
・資料等の返還
・損害賠償
・署名・押印

競業避止義務契約の締結タイミング

従業員と競業避止義務契約を結ぶタイミングは、入社時と退社時となるのが一般的である。その際には、競業避止義務を理解した上で誓約してもらえるよう、丁寧に説明することが後々争いが起こることを避けるためにも重要である。

1.入社時に誓約するケース

入社時に誓約するケースでは、採用時に締結する雇用契約や就業規則に競業避止義務を明記しておくことになる。

先にも触れたが、就業期間中は労働法により競業避止義務を負っていると考えられるため、競業避止義務が問題となるのは主に退職後である。しかし、入社時に誓約を結ぶことにより、退職時にもめた場合など、誓約書が後々受領できないという事態を回避することができる。

2.退職時に誓約するケース

入社時に誓約をした場合でも、退職後の競業避止義務について再認識をしてもらうために、退職時でも誓約を結ぶことが望ましいだろう。具体的には、退職時の退職合意書等に競業避止義務に関する規定を明記しておくことになる。

ただし、誓約を結ぶことを拒否されてしまうリスクがあるため、入社時等での競業避止義務に関する誓約を取り付けておくことも重要である。

競業避止義務契約を締結する上での留意点3つ

後々のトラブルを避けるためにも、競業避止義務契約を締結する上で気を付けたい点を挙げておきたい。

1.過去の裁判例を参考にする

有効な競業避止義務契約を結ぶためには、過去の裁判例の傾向を参考にした上で、契約書を作成することが重要である。

2.就業規則等に規定し周知する

競業避止義務違反があった時はもちろん違反がない状況においても、競業避止義務を雇用契約や就業規則に規定して周知することで、防止効果が得られるであろう。

3.誓約書には秘密保持契約の規定も含める

競業避止義務に違反していなくとも、機密情報を持ち出すことで企業利益を損ねることが考えられる。そのため、競業避止義務に関する規定と併せて、秘密保持義務に関する規定も含めた契約を行うことが重要である。これにより、さらに抑止効果を高められるだろう。

競業避止義務違反とその有効性

「競業避止義務」の有効性を巡っては、経済産業省の「競業避止義務契約の有効性について」の中に次のような裁判例があるので紹介したい。

競業避止義務とは? 仕組みや判断基準を実例を踏まえて徹底解説!

競業避止義務で会社の重要な情報やノウハウという財布を守ろう

「競業避止義務」は、会社の財産である情報やノウハウなどの社外流出による損失を防ぐために、会社が取り得る防衛策のひとつである。

海外ではテーブルに置いた財布が盗まれた時には、盗んだ人を悪く言わずに「誰でも取れるような場所に財布を置いた人が悪い」と言われることがある。企業の財産においても同じことが言える。

会社の重要な情報やノウハウを簡単に社外へ流出しないよう、あらかじめ十分な対策を打っておきたいところだ。

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文・風間啓哉(公認会計士・税理士)

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